ゲルマニア鎮守府、総統執務室。
ヒトラーが発した第一声はこれだった。
「・・・みんな、生きているか?」
執務室ではゲッベルスをはじめとする鎮守府の幹部たちが集まっていたがその顔は痩せこけており、目にひどいクマができている。中には机に突っ伏している者も。いずれにせよ共通していることは、この場にいるもののほとんどが覇気がなく生気があまり感じられないということだ。
最初に答えたのはヨードルだった。
「・・・あのなぁ、誰のせいでこんなことになっていると思ってんだ?」
ドン!と机をたたく。
「おめぇが武蔵姫級大改造計画なんてやるからこんなことなってんだよ、禿!!」
そう、今このゲルマニア鎮守府では武蔵に姫級、鬼級と同じくらいの戦力を持たせるための大改造計画を行っているのだが当然、莫大な資源と資金を消費し、艦娘達やドイツ軍人たちの食糧を減らしたり、装備を売却・解体したり、龍田の槍と頭の輪っかを解体したり、キーボードクラッシャーのパソコンを解体したり、ゲッベルスのロリコンコレクションを売却するなど彼らの生活を圧迫することになっていた。
「いや、まず鏡見てからいえよ!!それからな、お前らはこの改装計画を無意味だと思っているようだがな、そんなことはない!!この鎮守府を無敵にするためには必要なことだし、新技術の開発、それに武蔵が、当の本人が喜んでいるんだからいいんじゃないか!!」
そういってヒトラーは隣に立っている武蔵と明石を見た。
武蔵が頷く。
「ああ!さっきもいろんな新装備を見てきたが凄いじゃないか!!艦搭載型三連装80㎝列車砲に、フッリツX に・・・これで思いっきり暴れられるぜ!!もっと何かないか?」
傍らに立っている明石が答えた。その瞳はギラギラ光っておりもはやマッドサイエンティストの顔だ。
「ええ、まだほかにもありますよ、冷凍光線とか殺人光線とか・・・」
「もうやめください!」
ヒトラーの秘書艦である正規空母、加賀がヒトラーに詰め寄った。
「鎮守府の資源量、戦力はもう限界です。これ以上やったら鎮守府が崩壊してしまいます!赤城さんも・・・」
加賀の視線の先には首輪と鎖で檻に閉じ込められさるぐつわをつけられ「がるるるる!!」とうなり声をあげている最早獣と化した赤城の姿があった。
食料の不足は大飯ぐらいである彼女を人から猛獣へと変化させるほど深刻なものであった。
ヒトラーが言った。
「とにかく、君たちが言いたいのは計画を止めるか資源の不足をどうにかしろということだろう?それなら安心したまえ。今リッベントロップに上層部と掛け合わせている。資源をもっとよこすようにと」
ゲルマニア鎮守府無線室
元ドイツ第三帝国外務大臣ヨアヒム・フォン・リッベントロップはヒトラーに命じられ黒電話片手に上層部と資源調達の要請を行っていた。
彼もまた数週間前にこの世界に復活し、行くとこもないし説得されゲルマニア鎮守府の職員として働いているのだが・・・
「リッベントロップ、交渉の様子はどうだ?」
クレープスや、大淀とともに無線室にやってきたヒトラーに交渉の経過について問われた。
「いや、一応上と連絡はついたのですが、なんか・・・」
「なんか?」
「ちょっと変なことが起きていて・・・」
「はぁ?そりゃどういうことだ?私に変われ」
そういってヒトラーはリッベントロップから黒電話を受け取り話し始めた。
「おい、コラ。資源をこっちによこしてくよ、資源が足りなくて改造とか戦闘とかできないし赤城がなんか猛獣になっちゃてるんだ、どうにかしてくれよコラァ」
「何?何言ってんのかよく聞こえないわよコラァ」
返ってきた返事の声の主は聞き覚えのあるものだった。
ドイツ空軍大将、カール・コラー。電話の相手は彼だった。
「ちょっ!?お前もしかしてコラーか!?なんでお前が自衛隊の上層部にいるんだ!?ていうかなんでお前が総統である私の上官なんだ!?」
しかしコラーは全く落ち着いた様子で、ヒトラーの質問に答えてくれなかった。
「え?だから何言っているのか分からないわよ。これ壊れているんじゃないかしら?あ、あといま私この後足柄と合コン行ったり、ヘアサロン行ったりと忙しいからまた後にしてね。ていうかあんた誰よ?」
もともと短気な彼である。中々まともに取り合ってくれないコラーにヒトラーは切れた。
「てめぇ、ちゃんと人の質問に答えろよ!!私は総統だぞ!!ヒトラーだぞ!!お前の上司なんだぞ!!お前が私の上官だなんて絶対認めないからな!!FU○K、あほかいね!!」
ガチャン!!と今にも受話器を叩き潰さんばかりの勢いでヒトラーは電話を切った。
立ち上がってクレープス達に言う。
「コラーのやつ、勝手に復活してどんな魔法使ったかは分からんが自衛隊の上層部に居座りやがった。だが私は絶対認めんぞ、あいつが上司だなんてな」
クレープスは立ち去ろうとするヒトラーに言った。
「総統、やっぱりこの改造計画あきらめたほうがいいじゃないんすか?あとお怒りのようでしたら後で皆でストライクウィッチーズ見ましょうや」
「あほくさい。あとアニメ視聴には賛成だ」
この後、リッベントロップやボルマン、大淀らの努力によってゲルマニア鎮守府にはわずかではあるが、資源の配給の量が多くなった。
ゲルマニア鎮守府、軽空母隼鷹の部屋
クレープス、隼鷹、ブルクドルフ、那智は隼鷹が隠し持っていた大量の酒とつまみで飲み会をやっていた。
「全く、驚いたよ。資源も食料もほとんど枯渇している状況でまさかこんなにたくさん酒を隠し持っていたなんてなぁ・・・」
クレープスが呆れたように首を振ると一升瓶に入った酒をコップに次ぎながらにひひ、と隼鷹が笑った。
「こんなこともあろうかとさ、こつこつためてたんだよ」
「お主も悪よのう。ほら那智、お前も飲め総統命令だぞ」
ブルクドルフが酒で顔を赤くしながら笑った。
「ありがとう」
那智がブルクドルフから酒を受け取る。
真面目な彼女は当初隼鷹たちが大量の酒とつまみを隠匿していた事実を知ると、すぐさまこれをヒトラーに報告しようとしたが彼女はかなりの酒好きだった。しかも彼女を含めて、全員がかなり腹を空かせているこの状況である。
クレープスが目の前でうまそうに酒をぐい飲みし、ブルクドルフがつまみの芋けんぴをポリポリしている姿を見て「貴様・・・皆が腹を空かせているこの状況で呑気に飲み会とは・・・私も一杯ぐらいならーーっ!!」という感じで彼女も堕ちてこうして4人で仲良く飲み会をしていた。
「まったく、総統にも困ったものだな。まだ計画を続けると言っているらしいぞ。デカけりゃ無敵、デカけりゃ強いと思い込んでやがる。中二病だよ」
ブルクドルフがヒトラーの愚痴を言った。
クレープスが頷く。
「本当なら今頃、硫黄島に攻撃を仕掛けているんだろうけどさ・・・なんでも総統はついでに加賀さんにも改造を加えるらしいぞ」
「ちょっと待て、彼女は改造計画に反対していたんじゃないか?」
「総統の赤城の身の安全保障と甲板を装甲化することと新鋭戦闘機とミサイルをあげることを条件にしたら折れたらしい」
隼鷹が笑いながら言った。
「おお、加賀さんも凄いことになりそうだね~~あたしも改造してほしいなぁ~~彗星とか流星とかほしいよね~~」
「馬鹿言え、余計に大変なことになるぞ」
「たべものにおいがする・・・」
突然、何かを突き破る音と不気味な声が彼らの後ろから聞こえた。
「え?」
そこには隼鷹の自室のドアを突き破って目をぎらつかせながらこちらによって来る赤城の姿があった。その様子はもはや人間ではなく腹を空かせた猛獣だ。 鎖につながれたいたはずなのにどうやってここにやってきたのだろう?
「たべもの・・・たくさん・・・よこせ・・・」
今にも彼らにとびかかって食い殺さんという勢いだ。
彼らの本能が告げた。やばい。殺される、と。
「ま、待て!!まずは落ち着こう、な!?」
「誇りの一航戦が食い物のために暴れるとか!!ダサいし!!」
「パン食う!?パン食う!?」
「ま、待て、落ち着け・・・ぎゃああああああああ!?!?!!?」
ゲルマニア鎮守府に四人の男女の悲鳴と一人の女のわめき声が響いた。
数日後、改造計画はようやく完了した。