メイトリクス「駄目だ」
シンディ「駄目ぇ?そんなぁ!もうやだ!!」
ゲルマニア鎮守府。
天龍たちからの硫黄島偵察の報告を受けて総統執務室は重い雰囲気に包まれていた。
敵の圧倒的な戦力。
突然現れた紫電改。
なぞのスツーカ。
ヒトラーを含めてドイツ軍人はすぐにこう思った。
やべぇ、ルーデル参上しやがった、と。
とりあえず、大淀らにスツーカと紫電改の行方を追うように命令を下した後、ヒトラーは島の攻略について考え出した。
クレープスが資料を見ながら言う。
「敵空母も、戦艦も、これまで異常に多い。皆エリートです。ですが一番の脅威は・・・」
「分かっている。泊地棲鬼と装甲空母鬼だろう?あれを突破できれば勝てるかも知れんが・・・」
深海棲艦にはさまざまなクラスのものがあるが中でも鬼級や姫級となると攻略は難しくなる。従来の深海棲艦より攻撃力、防御力がはるかに桁違いで、これまで幾度となく海域の奪還を妨げ大きな損害を出してきた。
そしてこの泊地棲鬼と装甲空母棲鬼は現在ゲルマニア鎮守府が有する航空戦力の数倍の航空戦力を保有し、その上空母と名がついているのに大口径の砲や魚雷を装備しており、平気な顔して夜戦を仕掛けてくる。昼は圧倒的な航空戦力で、夜は魚雷と大口径の砲弾で完膚無きにまで粉砕される。
少なくとも、現状ではこの二つの深海棲艦の打破は不可能に近い。
ブルクドルフが重い空気を変えようと何か言おうと重い口を開こうとしてーー
「あ」
ヒトラーが何かを思いついたようだった。
「総統閣下、いかがなさいましたか?」
「ゲッベルス君、何も、今あるものだけで敵を倒していけないというわけではないんだ・・・」
「と言いますと・・・?」
ヒトラーはにやりと笑った。
「鬼級の打破の方法だよ」
ヒトラーは叫んだ。
「我々も鬼級のような艦娘を建造するか、改造すればいいのだ!!」
総統執務室に沈黙が流れた。
クレープスが言った。
「総統閣下・・・あの、ご自分が何を言っておられるか分かっているんですか」
「だから、鬼級みたいなのを造れと」
ブルクドルフがクレープスをちらりと見た。
「ちょびひ・・・総統閣下、アンタ・・・」
クレープスにヨードルが続けた。
「そんなことできるわけねぇだろ、ハゲ。この鎮守府を滅ぼす気か?」
しばらくの間、執務室の間に沈黙が流れた。
ヒトラーが、地図を見るためにつけていた眼鏡をゆっくりとはずす。震える手で。
静かに言った。
「・・・私の言うことが理解できないもの、馬鹿だと思うものここに残れアンポンタン」
何人もの部下や艦娘が部屋から出てくる。
しかし、それは彼女たちがヒトラーの言うことが理解できるからではない。これから何が起こるか、お約束が起こることを理解しているからだ。
部屋に残ったのはゲッベルス、ボルマン、カイテル、ヨードル、クレープス、ブルクドルフの6人。
しばしの沈黙の後、執務室にヒトラーの怒号が響き渡った。
「・・・どう考えても名案だろ!!何で分からないんだ!?我々の手で超無敵のムチムチボディのセクシー艦娘建造しようと思わんのか!?」
ヒトラーの怒号は執務室の外にも響き渡った。
「人のアイデア聞いてからさ、それは無理だの馬鹿げているだの否定するから前進できないんだよ!と言うより軍はいつもそうやって完璧な私の作戦を邪魔してきた!!人の夢と作戦を邪魔するやつなんて大嫌いだ!!」
ブルクドルフがすかさず反論した。
「総統閣下、自分の言ってることが無謀だとお分かりなんですか!?」
「うるせぇ、大嫌いだ!!無敵の超巨大戦艦や巨大空母は男のロマンだろバーカ!!」
「もしやお前、単に俺仕様のエロい艦娘造りたいだけなんじゃないか!?」
「くそっ、どうしてどいつもこいつも分からないんだ、このロマンが!!」
ヒトラーは持っていた鉛筆を机にたたきつけて思いっきり叫んだ。
「畜生めぇ!!!」
ヒトラーの激論はまだまだ続く。
「いつもいつも出撃をさせて思ったことなんだが、いちいち何人も送り出すのは面倒くさい、なんか『ぼくのかんがえた』的な無敵の艦娘がたった一人で大勢の敵を一度におっぱいを揺らして服をぬらして下着を透かしながら粉砕できないかと、いつも思っていた!!艦娘たちの演習を見ながらいつも思ったよ、迫力とセクシーさと胸とボーキサイトが足らんかった~~と!!もし私と同じ立場だったら、同じこと考えたかもしれん、そうスターリンだ!!」
ヒトラーは、はぁはぁ、と叫んで息切れしたのどを鳴らせながらいすに座った。
「そりゃ、お前の言うことは理解できる。そんな無敵な艦造れるのか?と。そりゃぁ、物事がそううまくいくとは思わん。だが挑戦する価値はあるだろう!!始めて大型建造で手に入れた武蔵を見て思ったよ!!こいつを、この世界に唯一無二のスーパーレディにすると誓ったんだ!!あの目に刺さるような!!おっぱいぷるーんぷるんに!!!」
その場にいた全員がうわぁ・・・と言う顔をした。
「いいか、誰が言おうと決心は変わらん、今すぐ柴田さんに頼んで計画を始める!!」
廊下にいた大淀がえぐえぐと泣いている潮を慰めた。
「柴田さん、断ってもいいのよ」
「私柴田じゃないです・・・」
加賀はただ呆然とした顔で聞いていた。
ヒトラーはうなだれたまま、続けた。
「まぁ、わしも一応常識的な人間だから分かるよ・・・これが下手したら資源全部なくすと言うことを・・・だが、わしのモットーは有言実行だ」
ヒトラーは部下たちの顔を見つめた。
「軍需大臣のアルベルト・シュペーアと工作艦の明石に伝えてくれ。武蔵を大改造して、姫級、鬼級の強さにしろと命令したと。手始めにドーラ(ドイツ軍が使用した口径80cmの世界最大の列車砲)を46cm三連装砲の代わりに搭載するとかはどうだ?」
こうして、ヒトラーのごり押しによって、『武蔵姫級大改造計画』が決定された。