総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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19話 ここはどこだ~おじさんだれ?~

 二個二個童画島。

 島の東側に位置する今は使われていない寂れた基地の建物に彼らは集まっていた。

 「さて・・・みんな集まったか」

 大日本帝国海軍少将、山口多聞はそう言って部屋に集まっていた人々に行った。

 「今回みんなに集まってもらったのは言うまでもない、『新入り』がやってきたからだ。まず自己紹介から」

 山口に促されて、ルーデル、ガーデルマン、菅野の三人が順番に挨拶をする。

 「ドイツ空軍大佐、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルです」

 「同じくドイツ空軍少佐のエルンスト・ガーデルマン」

 「俺は菅野直だ、よろしくなコノヤロウ」

 三人の後に山口たちも続く。

 「知っている者もいるだろうが、私は大日本帝国海軍所属の山口多聞だ。階級は少将。で、こちらの御嬢さんが・・・」

 「正規空母の飛龍です、よろしくお願いします」

 そういって、オレンジ色の弓道着にショートカットの少女がぺこりと頭を下げた。

 続いて菅野にぼこぼこにされて文字通り包帯ぐるぐる巻きのミイラと化しているベニート・ムッソリーニが続く。

 「・・・イタリア王国首相のベニート・ムッソリーニだ」

 「・・・ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦4番艦、ローマよ」

 そう言うとローマはルーデルをキッと睨み付けた。彼女はかつてドイツ軍に無線誘導爆弾フリッツXによって撃沈された。彼女がドイツに対して少なくともよい感情を抱かないのは当然のことだろうが、何も知らないルーデルは俺なんかしたっけ?という気持ちで放っていた。

 隣に立っていたドイツ海軍の制服を着た男と青い目に白いロングの髪をした少女が言った

 「ドイツ帝国海軍元帥、カール・デーニッツ。そしてこちらが」

 「ドイツ海軍のUボート、潜水艦U-511・・・です。よろしくお願いします・・・あと辻さん、あきつ丸さん何やってるんですか?」

 U-511と名乗った少女は頭を下げながらちらりと傍らでそれぞれ三八式歩兵銃と八九式5.56㎜小銃を構えて窓を覗き込んでいる禿げ頭に丸メガネの日本陸軍の将校の制服を着た男と黒い学生服の少女に話しかけた。

 「いやあ、見ての通りのことを」

 「上空を警戒していざとなったらこの八九式で敵機を撃墜するのであります」

 「彼らは?」

 ルーデルは山口に聞いた。彼が答える前に当の本人がその質問に答えた。

 「大日本帝国陸軍大佐、辻政信」

 「自分は、陸軍の特種船丙型のあきつ丸であります」

 「私はムスカ大佐だ!」

 「これで全員の自己紹介は終わったな」

 一瞬、変な声が聞こえたような気がしたが気にせずに山口は部屋を見渡した。

 「ちょっとよろしいですか」

 ルーデルが山口に言った。

 「聞いたところ、あなた方は日本軍やドイツ軍を名乗っているがそれは信用していいことなのですか?第一、ここはどこで今はいつなのかさっぱりわからない・・・」

 山口は笑いながら言う。

 「まぁ、そう慌てずに。君の疑問は分かる、もっともなことだ。まず、我々の身分が本物なのか、ここはいったいどこでいつなのか。まず、君が我々が偽物ではないかと疑うのは自由だ。私が本物の日本軍人で山口多聞であるということを証明するものはないからね。しかし私からすれば君が本物なのかわからないということと君が見ているもの、私が見ているものは現実であるということは覚えておいてほしい」

 「そういや、さっきの女の子自分が空母の飛龍だのあきつ丸だの言っていたがありゃどういうことなんだ?自分を戦闘艦だなんて名乗るなんてわけが分からねぇよコノヤロウ」

 菅野が飛龍を見ながら言った。

 山口が肩をすくめる。

 「それは私にもよく分からない。彼女がそう名乗るだけでなぜなのかはわからない。が・・・」

 「どうやら彼女たちには不思議な能力があるようでね。模型ほどの大きさのしかし本物と同じ性能の戦闘機を発着艦させたり魚雷を発射したり・・・ね」

 ルーデルたちは彼が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 「まぁ、そこら辺の説明はかなり長くなるから後に回すとして・・・ここがいつのどこなのかという疑問だが・・・ルーデルさん、一つ質問するがあなたは今が何年だとお思いですか?」

 ルーデルは少し考えた。

 「1945年・・・ではないな。気づけばスツーカに乗っていて・・・」

 山口はゆっくりと、部屋の机の上に置いてある新聞紙の束を指差した。

 「読んでみなさい」

 ルーデルたちは「産経新聞」と青い字で書かれた新聞紙を手に取った。紙面はちょうど、衆院選挙で「自民党」という党が圧勝政権奪還を果たし「安倍首相」が就任したということを伝えていた。

 どういうことだ?菅野は思った。今は鈴木貫太郎が首相のはずだし安倍なんて言うやつは聞いたことがない。それに自民党だって?今は大政翼賛会しか政党がないはず・・・

 そう思い彼は新聞の日付を見て驚愕した。

 

 2012年。

 

 目をこすり、もう一度見てみる。

 

 2012年。2012年。

 

 ルーデルは山口たちを見た。

 「ここは・・・未来?」

 山口はうなずいた。

 「新聞にはそう書いてあるし、ここに残されていたラジオもまるでそんな感じだ。ほかにもそうとしか考えられん物はたくさんあるのだが・・・いずれに背今考えられることはこうだ」

 山口は部屋にいるルーデルや辻らを見ていった。

 「・・・もしかすると我々はいわゆるタイムスリップというやつをして未来の世界にやってきて、この島にたどり着いたのかもしれん」

 ルーデルたちはしばらくの間固まっているしかなかった。

 

 

  日本のどこかの街

 白露型駆逐艦の時雨と夕立は雨の中を必死に走っていた。

 いや、正確には逃げていたといったほうが正しいだろう。

 なぜ逃げているのか、理由は簡単だ。

 彼女たちのいた鎮守府はいわゆる『ブラック鎮守府』というやつだった。

 食事も補給も入渠もろくにさせてもらえず場合によっては提督に暴力を受け監禁される日々。あるときには自分の貞操や命の危険を感じるときさえあった。

 提督の監視やあまりの恐怖に多くの艦娘や時雨たちは逃げ出すことも知らせることもできずにいたが、あるとき提督が酒に酔っ払い深く眠り込んでいるすきをついて時雨と夕立は勇気を振り絞り逃げ出してきたのだ。

 しかし・・・

 息を切らせながら時雨は思った。

 これからどうすればいい?どこに行けばいいのだ?

 人間でもあり同時に貴重な兵器でもある艦娘が逃げ出したとすれば自衛隊の上層部は躍起になって探し出すだろう。どこに行ってもまともには受け入れてもらえずすぐに見つかるだろう。そしてまたあの提督の元に戻って、そして・・・

 恐怖に身震いし立ち止まった。どうしようもなさに涙が出た。

 「時雨・・・」

 夕立が心配そうに声をかける。

 「夕立・・・僕・・・もう・・・」

 そう言って時雨が視線を挙げてみるとーー

 

 眉の太い外国人のおっさんが捨て犬と戯れていた。

 

 「よし、次はお手だ・・・おお!なんて物わかりのいい!!なんてかわいいんだ!!なぜ私は気付かなかったのだろう・・・犬の素晴らしさに!!よし、今度からお前の名前はグレートナチズム号だ!!」

 雨に濡れながら笑顔で犬と全力で戯れる姿に時雨と夕立はぽかんとなった。

 ふと、男と目線が合う。

 時雨は一瞬逃げ出そうとしたが彼が向けたのはやさしい目線だった。

 「君、ずぶぬれじゃないか。こっちに来なさい」

 「いや、おじさんも十分にずぶぬれだけど・・・」

 「うーん、二人ともなんだかよく見ると犬似ている気がするなぁ・・・なんだか頬ずりしたくなった・・・寒いだろう、こっち来なさい」

 と言って男は突然、二人をぎゅっと抱きしめた。

 ぬくもりが伝わり、冷えていた二人を温めた。

 「あの、お、おじさん・・・」

 「おじさんって誰っぽい?」

 「うん?私はね」

 彼は特徴的な太い眉を動かし笑いながら言った。

 「おじさんは、ルドルフ・ヘスというんだ。」

 

 それが逃げ出した艦娘時雨と夕立と、ドイツ第三帝国の政治家にして国家社会主義ドイツ労働者党の副総統ルドルフ・ヘスの出会いであり旅の始まりだった。 

 

 

 




 小銃でP40撃墜したMAD参謀と眉毛が本体の副総統登場。
  
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