クラウゼヴィッツ作戦が成功に終わり数日後、ゲルマニア鎮守府はいつもより騒がしくなっていた。
鎮守府の中庭や屋上では巨大なテーブルと、それに乗せられた何種類ものごちそうが置かれ、周りには酒盛りをしている艦娘達や軍人が群がっている。
鎮守府の外装には少々派手な飾りが確認でき、門には『祝クラウゼヴィッツ作戦成功』と看板があった。
今日は作戦が成功したことの祝おうとパーティーが開かれたのだ。
鎮守府の中庭でご機嫌な声が響いた。
「く~~!!うまい!!やっぱり勝った後の祝い酒はうまいよね~!」
隼鷹が一升瓶を片手にカップになみなみと入った日本酒を飲みほした。
「いや、日本酒も結構いけるな~」
隼鷹の隣でクレープスとブルクドルフが顔を赤くしながらともに酒を飲んでいる。
「ほら、このキルシュワッサ(ドイツのサクランボのお酒)も飲んでみろ、美味いぜ」
ブルクドルフがそう言って隼鷹に酒瓶を渡した。
「お、気が利くね~」
隼鷹はにやりと笑い、ブルクドルフも笑った。
「その酒・・・うまそうだな、私にも一杯いいか?」
三人の下にこれまた酒で顔を赤くした那智がやってきた。今度はクレープスが対応する。
「いいともいいとも、今日は祝いの日だ飲めるうちに飲んでかないと損だぞ」
「そうだな、今日は盛大に飲ませてもらうぞ」
ドイツ軍人と艦娘がお酒の付き合いでいい感じになっているところへさらに二人ほど男が寄ってきた。ヒトラーとゲッベルスだ。
「クレープス、ブルクドルフ、それにお嬢さん方あまり飲みすぎるな。いくら祝いの席だからと言って体に悪い」
普段から健康に気を使っているヒトラーらしい言葉だった。
隼鷹は笑いながら、「いいじゃないの、美味いんだからさ~総統も飲みなよ、お酒が飲めないと人生半分損だよ~」
「確かに私は飲酒はあまりしないが、しかし私の半生は酒がなくとも満たされることは何度もあった」と言いつつもヒトラーは渡されたグラスを手に取り入っていたシャンパンを少し飲んだ。やはり、最前線に出る兵士となれば酒なしにはやっていられないのだろう、と考えながら隣にいたゲッベルスに声をかける。
「どうだね、ゲッベルス君・・・久しぶりの勝利の味は」
「やはり気持ちがいいものですな。艦娘達もみな満足そうな笑顔だ。」
ヒトラーは頷いた。
「そうだ。この勝利は必然で、これからも我々の勝利は我々にとって必然なのだ」
ヒトラーは目の前の艦娘達を見ながら言った。
「そして本来なら、総統はここで油断せず次の勝利にむけて計画を練るべきだと思うのだが」
ゲッベルスは笑った。
「総統閣下、あなたは本当に素晴らしいお方だ・・・ですが久しぶりの勝利です。じっくりと味わったほうが得というものでしょう」
「そうだな・・・こういう席も悪くはない。せっかくだ、駆逐艦娘と加賀さんのところへ行って・・・」
ヒトラーがそう言いかけた時、ゲッベルスの目が光った。
「駆逐艦・・・そうです、駆逐艦娘!!」
突然大声を張り上げたゲッベルスにパーティー会場にいた全員が彼を見る。
「よく聞け諸君!今回の勝利は駆逐艦娘によるところが大きい!!敵にとどめを刺したのは空母と戦艦とあることは事実!しかし彼女たちがそこにたどり着けたのはなぜか、それは最大の障害であり脅威である潜水艦や巡洋艦を打ちのめした駆逐艦娘の存在があったからだ!!」
ゲッベルスがドンとテーブルをたたいて演説を始める。
「強さ、美しさ、可愛さ、萌え要素、ロリ要素、スケベェ要素、すべてを兼ね備えた駆逐艦こそ艦娘の頂点にして至高!異論は許さない!!私は今ここに駆逐艦娘ロリコン万歳教を立ち上げることを宣言する!愚民ども今日から駆逐艦娘を崇めよ!!駆逐艦あの一瞬の美しさ、スケベェさがわからぬものは一生後悔することになるであろう!!」
その場にいた軍人、ヒトラー、艦娘達、犬のブロンディと妖精たち全員がずっこけた。
ブーイングの嵐が吹き荒れた。
「ロリコンもたいがいにしろ、自重という言葉を知らんのか!!」
「怨怨!戦艦を崇拝せよ!山城のムチムチボディは素晴らしい!!」
「クレープスお前もか!!」
「空母のダイナマイトボディを見てもまだそんなことが言えるか、ええ?」
「何言ってんだコノヤロー重巡がいいに決まってるだろバカヤロー」
「潮ちゃんはロリ要素も、巨乳要素は備えた万能感だぞ」
「きっもー」
「駆逐艦?ウザい」
「ここは譲れません」
ヒトラーが大声を張り上げる。
「おめえらなに変態趣味的なこと言ってんだよ!!艦娘達はエロや変態の対象じゃない!!一番大切なことはな、目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」
フェーゲラインがあきれたように言った。
「総統も十分変態じゃねぇか・・・」
青葉が素早くメモをする。
「総統一味、艦娘達の目の前で変態発言と・・・」
「二人ともKO☆RO☆SU」
「はい死んだ!」
「なんで青葉もおおおおおおおお!?」
ヒトラーの掛け声により妖精親衛隊が構えていたMP40サブマシンガンをフェーゲラインと青葉に向けて連射した。
二人の悲鳴が響いて、二人が倒れると同時にピロリーンという音がどこからかした。
「すげえ!一気におっぱいぷるーんぷるん!!とフェーゲ処刑のデイリー任務達成しやがった!」
カイテルが感心する。
ヨードルがツッコんだ。
「いやなに感心してんだよ!!」
と、その時何者かがゲッベルスの背中をたたいた。振り返るとそこには電がいた。
が、酒を飲んで少し酔っているのであろう、頬が赤く足取りがおぼつかない。
しかし様子がおかしい。
「どうしたゲッベルス君?」
「いえ、総統閣下、電が・・・」
ヒトラーが彼女を顔を覗き込んで一瞬恐怖を感じた。
いつものかわいらしい瞳が真っ黒に染まり口はにやりと両端が吊り上がっている。全体的に邪悪なオーラを放っていた。
次の瞬間、電はゲッベルスの手をつかんでものすごい速さで背負い投げをした。
「ぎゃん!!」
「おい、どうした!?気でも狂ったか!?」
「・・・なのDEATH」
周りがざわめく。
「お、おいなんか語尾おかしくね?」
「酒飲んでおかしくなっちまったんじゃ」
ゆっくりと電が顔を上げる。
その顔には影がかかっており、とても邪悪なオーラを放っていた。
「ねぇ、ゲッベルスさん」
「は、はい?」
「アンタのロリコン病でどんだけ私たちが苦しんでいると思っているのDEATHか?」
ゲッベルスが後ずさりしながら言った。
「い、いや・・・」
クレープスがつぶやく。
「あ・・・ありゃ電じゃない、ぷらずまだ・・・」
電、いやぷらずまと化した彼女がゲッベルスの胸ぐらをつかんだ。
「お風呂の覗きに、中破姿をじっくりと見られて・・・挙句の果てにあの演説、もう我慢できないのDEATH」
「す、すんませんでしたーー!!」
「じゃあ、謝罪の代わりにちゃんとした演説をするのDEATH」
ゲッベルスがヒトラーをちらりと見る。
ヒトラーがゲッベルスを見ながら「そういえば勝利の祝う演説がまだだったな」とつぶやいた。
ゲッベルスは咳ばらいをしてヒトラー達の前に立ち演説を始めた。
「我々は一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ! 地球連邦に比べ、我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か? 諸君!我がジオン公国の戦争目的が正義だか「いや、それギレンの演説まんまじゃねぇか!」
ヒトラーがツッコんだ。
「なに某機動戦士のアニメパクってんだ!宣伝相なのにパクリとか!ダサいし!!」
「怨怨!」
またしてもブーイングの嵐。
ヨードルが言った。
「ぷらずまちゃん、ゲッベルスと一緒に遊んで来たら?」
次の瞬間ぷらずまはゲッベルスにもう一度背負い投げをくらわせると首根っこをひっつかんでどこかへと引きずっていった。
「さあ、くるのDEATH」
「いやだああああああ!明日まで、明日までお待ちください!!明日になればまともな演説ができるはずです!!」
加賀がヒトラーに言った。
「総統、あなたが演説で締めてください。あなたが最高司令官ですし真面目に終わりたいので」
ヒトラーは頷いた。やはり演説はヒトラーの独壇場だ。
ヒトラーは艦娘達の前に立った。
全員がこちらを見る。
「諸君!我らはいまここにこうして勝利を得た!これはなぜか?諸君ら艦娘達は敵の排撃、撃滅に、全滅にわが身をいとわず全身全霊を尽くし奮闘した。妖精たちは整備、物資の補給に奮闘し、将軍たちは私とともに知恵を集め戦略を練り勝利に貢献した。これはすなわち、諸君の英雄的な行動によるものである!!私は諸君の指導者だ。そして私は諸君なしには成り立たず諸君らも責任と変革をとるものなしには成り立たない!」
「ニャ、ニャメロン!!」
「しょせん屑は屑なのDEATH!!」
「おおう!?」
とおくでゲッベルスがぷらずまになぜかあった岩盤に押し付けられる様子が見えたが気にしない。
「諸君と私は一心同体、私が導き、責任を取り、勝利を勝ち取るのは諸君である!!私は宣言する!これは始まりである!完全なる勝利と栄光を手に入れるための戦いであると!」
「ゲッベルスさん・・・今楽にしてやるのDEATH」
「駆逐艦娘に殺されるとは・・・これもゲッベルスの定めか・・・」
遠くでゲッベルスが何故かあった丸いポッドに放り込まれぷらずまに遠くに投げられる様子が見えたが気にしない。
「諸君が戦場を進むとき知ることになる!これは総統が決断したことなのだと!そして我々が最後に勝利するのだということを約束されているのだということを!!私は諸君に約束する、私が諸君を確実に導き諸君に勝利をもたらすと!諸君に英雄的な心がある限り、我らの勝利は確実である!今回の作戦の勝利はその第一歩である!!ジーク(勝利)!!」
ヒトラーがそう言って右手を上げると側近や艦娘達も右手を上げ「ハイル(万歳)!!」と言った。
まるでかつての第三帝国の日々のようにーー
「ジーク!!」
「ハイル!!」
「ジーク!!」
「ハイル!!」
ヒトラーの横にはぷらずまと尻に魚雷を突っ込まれたゲッベルスが倒れていたが気にしなかった。
そのころ、太平洋のどこかの深海
その海底で二人の美しくしかし邪悪にも見える深海棲艦が目の前の一人の男に報告をしていた。
「ほう・・・小笠原がとられたか」
「テキノセンジュツトセンリョクガワレワレヨリウエダッタ・・・」
「何そうあわてることはない。もともと小笠原はとられてもおかしくない状況だったからな」
そういって男は薄く笑った。
その様子を見あがらもうひとりの深海棲艦が男に問う。
「ナゼダ?ナゼオマエハニンゲンナノニワレワレノミカタヲスル?」
「なに、特に理由はない」
そういって男は傍らにあったグラスにウォッカを注いだ。
「強いて言うなら・・・人間は信用できんしそれにそちらのほうがおもしろいと思ったからだろうな。地獄から世界を見るほうが」
そういってその男ーーヨシフ・スターリンは笑った。
「世界は面白く、騒がしく、狂っていたほうがいい・・・そう思わんかねアドルフ?」
もう一人独裁者が復活したことを世界はまだ知らずにいた。