魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第九話

― 斎藤亜夜 ―

 

 今日は楽しい一日で終わるはずだった。なのちゃんにはやてちゃん、アリサにすずちゃんと遊んで、桃子さんのケーキも食べた。初めて食べたリニスの表情はとても良い笑顔だった。アリサにすずちゃんも食べた時はビックリしていた位だ。

 食べた後もゲームして、最近気になった事とか話して、もの凄く楽しくてあっという間に時間が過ぎて行った。

 それでアリサとすずちゃんが帰る時間になったから迎えを呼んで玄関で話しているとお兄ちゃんが起きて、相変わらずの言動でアリサをからかうもんだから、お灸を据えてやった。少しは反省しろ!

 で、迎えの車、……リムジンなんか初めて見たわ。

 リムジンに乗り込んで手を振ってきている二人に私達は手を振り続けた。

 そして見てしまった。二人の乗ったリムジンに衝突する車、車から降りてくる黒服の人、リムジンに近づきアリサとすずちゃんを引きずり出し連れていこうとしている。

 私は何が起こっているのか理解できなかった、理解したくなかったのかもしれない。

 目の前で起きている事を現実と認めたくなかったのかもしれない。私が呆然としていると横から声が聞こえた。

 

「アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 とっさだったんだと思う、でも何もできない私より全然良いのかもしれない。でも後から考えるとこの時声を出すべきでは無かったのかも知れない、その声で一人が此方に気付いてしまったから。

 その一人は、腕をまっすぐにしてこっちに何かを突き出して、手には黒い何かを持っている。銃だ。そう直感した。それでも私の身体は動いてくれない。構えている人がゆっくり引き金を引くのが分かる。

 普段なら絶対にそんな事分かる訳がないのに、なぜか分かってしまう。それはまるで走馬灯の様だった。

「ああ、私死んじゃうのかな?」そんな事を考えていた。

 すると横から押された。私となのちゃんとはやてちゃんその三人がリニスのいる家の玄関前に転がった。その直後

 

パン!

 

 と乾いた音が響き、「ドサッ」と何かが倒れる音がした。ちょっとぶつけたお尻の痛みを我慢しつつ音の方を見る。

 そこにはお兄ちゃんが倒れてた。そのあと人が怒鳴りあう声が聞こえ、車の急発進の音が聞こえた。

 私は倒れて動かないお兄ちゃんを見て小さく呟いた。

 

「お兄ちゃん?」

 

 呼ぶが返事がない。どんどん不安になっていく、近づいて身体を揺すろうとして身体に触った時、

 

ベチャ

 

 そんな音がした。恐る恐る手を見ると手は真っ赤に濡れていた。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」

 

 私は悲鳴の様にお兄ちゃんを呼んだ。何度も、何度も、何度も!

 そこにリニスとなのちゃんが駆け寄る。私は思わす二人に抱きついてしまった。

 

「リニス、なのちゃん! お兄ちゃんが!」

 

 なのちゃんは顔が真っ青だ、リニスは私をなだめようと必死になっている。

 

「落ち着いてください、亜夜。まず一樹さんの手当てが先です!」

 

 そう言って私を引き離そうとするが私がなかなか離れない。頭では分かっているのだ。お兄ちゃんは直ぐに手当てが必要だ、今直ぐに。

 でも身体が言う事を聞かない。離れようとしてるのに離れられない。まるで自分の身体じゃないみたいだ。

 するとなのちゃんが、

 

「亜夜ちゃん、ごめんなさい!」

 

パチン!

 

 乾いた音と共に、頬に痛みが走る。何が起こったのか分からずなのちゃんを見て呆然としている。

 

「落ち着いた?」

 

 そう聞いてきた。私はようやく落ち着いた。

 よく見るとなのちゃんは顔は真っ青で、肩は震えて、眼には涙を浮かべている。そうだ私だけじゃ無いんだ。

 

「うん、なのちゃんゴメン」

 

 私は謝り、お兄ちゃんを見る。既にリニスが横にいて手当てをしていた。するとお兄ちゃんが起き上がった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 いってぇぇぇぇーー!

 痛みと受けた衝撃とでしばらく動けなかったが、何とか上手くいったみたいだった。

 俺の身体には胸の辺りに弾の当たった痕があり、そこから左周りに何かがすべるようにえぐられていた。血も出ていて着ている服が赤く染まり始めていた。

 

「弾丸すべり」

 

 それが今の技、覚えてはいたけど使う機会がまったく無かった(当たりまえ)ので出来るかどうか分からなかったけど上手くいったようだ。

 撃たれる直前に全身を気功と魔力で強化、弾丸が当たった瞬間、身体を回転させ弾丸を滑らせる。覚えておいてほんとに良かった。

 痛みも引いてきたので起き上がるが、引いたと思った痛みが身体に走り上手くいかない。

 

『大丈夫ですか! ≪クソ野郎≫』

 

 心配したのか声をかけてきた。どこか焦っているようにも感じるが、

 

「お前、こんなときでもその呼び方かよ、まあ良いや。連中をとらえてるか?」

 

『無論です。初めの車はその場に放置、もう一台の車で逃走しています』

 

「よし、お前はそのままその車両を追跡してくれ」

 

『了解しました』

 

 と会話をしているとリニスが隣に来た。

 

「一樹さん! 大丈夫ですか!」

 

「うん、なんとか大丈夫」

 

 痛みを我慢しながら答える。

 

「今手当てをします!」

 

 そう言って魔力を使おうとするが俺はそれを止める。

 

「駄目だ、魔力は使わないで。消毒液と包帯で応急処置して」

 

「ですが!」

 

「これから確実に戦闘になる。魔力を使うから供給できるかどうか分からなくなる。そうなったらリニスが消えちまう」

 

 リニスがそれを聞き、唇を噛み、拳を強く握る。

 

「あと、三人をお願い。結構ショック受けてると思うから」

 

『一樹兄ちゃん(一樹お兄ちゃん)(お兄ちゃん)!!!』

 

 リニスに言っているとその三人が声を上げてきた。はやてはどうやら車椅子から落ちてしまった様で、匍匐前進でこっちに近付いてくる。

 俺は痛みをこらえ立ち上がり三人の方に行く。まずははやてを車椅子に乗せる。

 

「一樹兄ちゃん! 大丈夫なん! はよ医者に見せんと!」

 

「そ、そうなの! 病院に行くの!」

 

「おに~ちゃ~ん!!!」

 

 はやてになのちゃんは病院だと言い、亜夜は泣きながら抱きついてきた。亜夜、抱きついたら血で汚れちまう。

 

「大丈夫だよ。痛いけど何とか防げたから、それよりもなのちゃん、携帯で家に連絡して俺に代わって」

 

「わ、分かったなの」

 

 そう言うとなのちゃんは携帯で自宅にかけ俺に渡してきた。

 

プルルルル、プルルルル、プルルr、ガチャ

 

『はい高町です。』

 

 ちょうど良い、出たのは士郎さんだった。

 

「士郎さん、一樹です」

 

『お、どうしたんだ一樹君?』

 

「単刀直入に言います。緊急事態です。なのちゃんの友達のアリサちゃんと、すずかちゃんが誘拐されました」

 

『……それで?』

 

 士郎さんの声のトーンが変わる。

 

「相手は銃で武装しています。人数は確認できただけで3人、恐らくもっといると思います」

 

『分かった、こっちも準備しておく。今どこにいるんだい?』

 

「今は自宅前です。なのちゃんと亜夜、はやては無事です。こっちにも念のため美由希さんを連れてきて下さい」

 

『分かった、一樹君も待っていてくれ』

 

「いえ、俺はこれから追跡に向かいます。じゃあ」

 

『何だって? おい一樹k』

 

ピッ!

 

 そう言って電話を切ってなのちゃんに渡す。その際に士郎さんの携帯番号を自分の携帯に入れておく。

 

「ありがとうなのちゃん」

 

「う、うん」

 

「それと、亜夜お兄ちゃんそろそろ行かないといけないから離れてくれるか?」

 

 そう亜夜に言うが首を振って離れてくれない。参ったな。するとリニスが

 

「亜夜ちゃん、そのままだと一樹さんの手当てができません。ちょっとの間離れてもらえますか?」

 

 そう優しく諭すように語りかける。すると亜夜もしぶしぶ離れてくれた。

 その内にリニスも手当てを始める。手当て自体は五分程度で終わる。終わると同時に亜夜がまたくっついてきた。ぬあ、どうしよう?

 

「あー、亜夜、お兄ちゃんそろそろ行かないといけないんだけど?」

 

 ふるふると首を振る。

 

「でも、アリサとすずかちゃんを助けないと」

 

 そう言うとピクリと反応する。

 

「直ぐに行かないと間に合わなくなっちゃうかもしれない。亜夜はそれで良いの? アリサとすずかちゃんにあえなくなっても良いの?」

 

「やだ」

 

 短くそう答える。

 

「じゃあ、離れてくれるか?」

 

「ちゃんと帰ってくる?」

 

「当たり前だ」

 

「怪我しない?」

 

「……善処します」

 

「一樹兄ちゃんそこはしないって言わへんと……」

 

 はぁ、とため息をつき亜夜が答える。

 

「ん、良いのはやてちゃん。これがうちのお兄ちゃんだから」

 

 そう言うと離れてくれた、亜夜はまだ震えている。よく見るとなのちゃんとはやても震えていた。

 怖い思いさせちまったな~。そいじゃさっさと助けてきますかね。

 

「じゃ、行ってくるよ。なのちゃん、たぶん美由希さんがこっちに来るからそしたら説明よろしく」

 

「え? そうなの?」

 

「そう士郎さんに言っといたからたぶん来るよ」

 

「分かったの」

 

「一樹兄ちゃん! アリサちゃんとすずかちゃん絶対助けてきてな!」

 

「そうだよ! もし二人に何かあったらしばらく翠屋のケーキ抜きだからね!」

 

………なん………だと! じゃあ、何があっても助けなきゃじゃん!

 

「了解! 何があっても二人を守ってやるよ」

 

 そう言うと俺は車の走り去った方向をスサノオに聞き、そっちに全力で向かう。

 亜夜達の前でスサノオは起動できないから、死角になった場所で起動し一気に飛び出した。バリアジャケットになり空を飛び、スサノオの案内で誘拐犯の隠れ家に向かう。

 

「スサノオ、方角はこっちであってるんだな?」

 

『肯定。このまままっすぐ行った町はずれに廃ビルがあります。逃走した車両はそこに停車しています』

 

「分かった。このまま飛んでくぞ」

 

『了解です。≪クソ野郎≫』

 

「……見えた!」

 

 目的地が見えたので、徐々に高度を落とし手前で着地する。さてこの格好じゃ目立ち過ぎるな。

 

「スサノオ、バリアジャケットのカラーリングを変更、夜間迷彩で頼む」

 

『了解、夜間迷彩変更完了しました』

 

 そうスサノオが答えると白から全身黒色に変更された。

 

「よし、それとビル全体をスキャン出来るか? 敵の配置と装備が分かればなんとかなるかもしれない」

 

『了解。一分もらいます』

 

「頼んだ」

 

 そう言ってスサノオは作業を開始した。

 俺は再びビルを見上げビルを観察する。五階建てのビルで廃墟になって大分経つようだ、ちょっとした心霊スポットの様になっていて、周囲を確認すると本来あるはずの非常階段等はボロボロになっており使用するにはちょっと難がありそうだ。窓ガラスは所々割れていて外から丸見えになっている。

 うーん、突入は配置が分かってからだけどどうするか?

 

『スキャン完了しました。敵の配置と装備です』

 

「分かった、報告頼む」

 

『了解、まず正面ロビーに二名、武装はハンドガンの様です。次に、二階はクリアです。そして三階に二名、此方も武装は同じです。四階には六人います。内二名がアリサとすずかです。武装はハンドガンが二名、マシンガンを持っているのが二名です。』

 

「分かった、無線とか使って連絡はしているか?」

 

『否定、定時連絡等はしていません』

 

 ふむ、それなら何とかなるか?

 しかし少しでも音を立てればばれちまうし、やはりここは同時に突入すべきかな?

 とりあえず士郎さんに報告しなきゃ。そう思って携帯電話を取り出し士朗さんの携帯にかける。

 

プルルルル、プルルルル、プルルr、ピ

 

『はい、士郎です』

 

「もしもし、士郎さん? 一樹です」

 

『一樹! 今いったい何処にいるんだ!』

 

「町はずれの廃ビルです。ここにアリサとすずかちゃんが捕まってます。敵は全部で八人、二人がマシンガン、六人がハンドガンで武装しています。一人だとちょっと不測の事態に対応できないかもしれないのでなるべく急いできてください。今はまだ動きは無いですがどうなるか分かりません。こっちは突入準備をしておきます」

 

『……まったく! 無茶すんじゃないぞ! 直ぐにそっちに行く!』

 

 士郎さんはそう言うと電話を切った。ここからなのちゃんの家まで直線距離で約3km前後、どんなに急いでも10分はかかる。

 それまで何もなければ良いんだけど……、とりあえず突入準備だな。

俺は屋上に行きそこから五階、ちょうどアリサ達の真上に来た。

 気配を消し、耳を澄ます。気功と魔力で身体強化しているので、聴力も上がっていてしっかりと下の階の会話の内容も聞こえる。

 どうやらアリサがかみついているようだ。はぁ~、あんまり犯人刺激してほしく無いんだけどな~。出来るだけ時間を稼ぎたいのに!

 

― アリサ・バニングス ―

 

「ちょっと、あんた達! こんな事して唯で済むと思ってんの!」

 

「いや~、お嬢ちゃんには用は無かったんだけどな。俺達の用があるのはそっちの紫髪のお嬢ちゃんなんだよ」

 

「すずかに何の用なのよ!」

 

「ん~? 知りたか? 後悔するぜ?」

 

 リーダーらしき男は嫌な笑みを受けべながら言ってきた。

 

「どうせ碌でもない事なんでしょ! もったいぶらずに言いなさいよ!」

 

「ん~、そこまで言うなら仕方がない。教えてやるよ。おじさん達はある人から依頼を受けてな、月村家の当主「月村忍」を捕えてほしいと言われてるんだ」

 

「お、お姉ちゃんを?」

 

「そう、その人は研究が好きでな。生き物の研究をしてる奴なんだよ。今まで色んな生き物を調べて来たんだけどある時「夜の一族」という生き物の噂を聞いたんだとよ」

 

 ビクッ! とすずかの身体がこわばる。男は薄気味悪くクックックと笑っている。

 

「なんなのよその「夜の一族」ってのは!」

 

 私はすずかの様子に気付かずに男に聞いてしまった。

 

「「夜の一族」って言うのはだな、人間より高い身体機能に再生能力。明晰な頭脳。後は人間を操ったりする能力を持っている生き物の事なんだとよ」

 

 すずかが震え、顔も真っ青になっている。

 

「そして極めつけは人の生き血をすする吸血鬼ってことだな」

 

 男はわざとらしく大げさに言ってくる。

 

「馬鹿じゃないの? そんなのいる訳ないじゃない!」

 

「それが実在するんだな~、現にお嬢ちゃんの隣にいるじゃないか」

 

 私はすずかを見るけど直ぐにそんな馬鹿げたことあるはずないと思い、男に言い放った。

 

「そんな訳ないじゃない! すずかが吸血鬼のはずがないわ!」

 

「まあ、普通の反応はそうだよな~。だからおじさんがサービスして証拠を見せてやろう」

 

 そう言って男は懐からナイフを取り出しまず自分の腕を少し切る。切れた場所からは血が出て腕を伝い地面に落ちる。

 

「まあ、普通怪我をするとこうなる訳だ」

 

そう言いながら私に腕を見せる。

 

「でも、それが吸血鬼の場合は……」

 

男はそう言うとすずかの腕をとりその腕にナイフを近づけていく。

 

「な、何してんのよ!? やめなさいよ!」

 

「い、嫌! やめて!」

 

 すずかは抵抗するが縛られているため身動きが取れない。

 そうしている内にすずかの腕にナイフがあたり、小さな傷をつくる。

 が、それは数秒で何事もなかったかのように無くなってしまった。

 

「う、うそ」

 

「だから言っただろ。このお嬢ちゃんは吸血鬼っていう化物なんだって」

 

 そう言うと男はゲラゲラ笑いだした。

 

「いや~、おじさん優しいからつい教えちゃったよ! お嬢ちゃんも災難だな! この化物のせいで誘拐に巻き込まれちまったんだからな!」

 

 そう言って再び笑い始める。周りにいる全員が笑っている。私は目の前で起こった事が信じられなかった。

 ぐるぐると、今目の前で起きた事が頭の中で渦巻く。

 

「ごめんね、アリサちゃん。私のせいで巻き込まれて。私ね、化物なんだ」

 

 そう、震えながら恐怖に顔を滲ませ、言ってくるすずかにどう答えれば良いか分からなかった。

 

「さてと、それじゃそっちの金髪のお嬢ちゃんには用は無いからね~、いてもじゃまだから死んでもらおうか」

 

「良いんですか? その娘、確かバニングス家の一人娘みたいですよ? 利用価値はあるんじゃないですか?」

 

「いや、今回の事に関しては邪魔なだけだ。それに変な色気を出すとボロが出るからな、計画通り進めるのが一番だ」

 

 そう言うと男は持っていたハンドガンをアリサに向ける。

 

「だ、駄目!」

 

 そうすずかが叫んだ瞬間、

 

ドガァーン!

 

 突如轟音が響き天井が崩れてきた。

 ちょうどその天井の真下にいた一人が巻きこまれて、更に土煙の中から何かが三つ飛び出した。

 それは吸い込まれる様にして離れていた二人にあたる。

 

「ぐあ!」

 

「ぎゃ!」

 

 そう声を上げ崩れ落ちる。そして最後の一つが私に銃をつきつけていた男に向かうけど、男は横に跳びそれを避けた。

 直ぐに銃を構え土煙の中に三発撃つ。

 

バン! バン! バン!

 

「「きゃあ!!」」

 

 私とすずかが短く悲鳴を上げる。

 乾いた音が壁に反響してその音が鳴り止む。

 

―静寂―

 

 男は油断なく銃を構え警戒していて、その視線の先には天井が崩れた位置に固定されてる。徐々に煙が晴れるが、そこには男の部下が瓦礫の下敷きになっている以外は何も無かった。

 じりじりと男が近付いて行く。

 

ガコ

 

 男の横から何かが崩れる音がする。

 反射的に男がそっちに銃を向ける、けどそこには何もいない。

 その瞬間瓦礫の中から飛び出す影、男もそれに気付き銃を向けるけど、飛び出してきた影はその一瞬の内にあっさりと男を叩きのめしてしまった。

 私は何が起こっているのか全く分からなかった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 ふう、とりあえず四階は制圧っと。派手に音立てちまったから直ぐに下から増援が来るだろう。その前にアリサとすずかちゃんを連れ出さないとな。そう思って二人に近付く。落ちている武器の回収も忘れない。

 

「大丈夫か二人とも?」

 

「か、一樹さん?」

 

「ちょ、あんた何でここに!? それに撃たれたんじゃ!」

 

「ん? まあその話は後。まだ犯人はいるからまずはここを離れよう」

 

 そう言って、部屋から出ようとするが、

 

「おい、どうした!」

 

「何があった!」

 

 下の階からこっちに向けて声が聞こえてくる。

はぁ~、やっぱりもう来るよな、あれだけ派手に音出して気付かれないなんて、そんな都合のいい事ないか。

 俺はそう思いつつ、回収した銃を手早くチェックする。銃はベレッタM92F、M9とも呼ばれアメリカ軍で正式採用されている銃だ。装弾数は15発+1発。使用弾薬は9㎜パラベラム弾。俺自身何度か過去に撃ったこのとある種類だ。久しぶりの感触だが手になじむ。マガジンを出し装弾数を確認、マガジンに12発残っていた。マガジンを戻しスライドを軽く引き薬室内を確認。一発装填されているようだ。弾は合計で13発。他にも武器は転がっているが今はこれだけで良い。

 確認が終わったのでアリサとすずかに声をかける。

 

「アリサ、すずかちゃん、ちょっと危ないからそこの柱の陰に隠れてて」

 

「そ、そんな!」

 

「だめよ! 一人で勝てる訳ないじゃない!」

 

 そう二人が言ってくる。

 

「大丈夫だって。泥船に乗ったつもりでいなさい!」

 

「ますます駄目じゃない!」

 

 律儀に突っ込んでくれた。

 

「まあまあ、さっきだって大丈夫だったでしょ? だから大丈夫だよ」

 

 そう言うと二人はしぶしぶと柱の陰に隠れてくれた。二人が隠れたのを確認してからドアに向き直る。階段を上ってくる気配が四つ、そろそろ到着かな?と思っていると大事な事に気がついた。

 顔が丸見えなのだ。さっきは土煙の中だったから大丈夫だったが、今はそうでもない。今夜は月が非常に綺麗で月明かりが強いので微妙に分かってしまう。

 どうするか悩んでいると、床にお面が落ちているのに気が付いた。そのお面は某有名なキャラクターのものだった。

 

 

 

 

 


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