魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第八話

― プレシア・テスタロッサ ―

 

「お母さん!」

 

 私を呼ぶ声が聞こえる。それはとても優しく、とても懐かしく、私が一番聞きたかった声。

 私の最愛の娘アリシア。長く伸びた金髪を左右に揺らし元気よく私に向かって走ってくる。その光景は私が夢見る光景。今では見る事が叶わない光景。

 しかしアリシアは私の元に着くと同時に抱きついてきた。その腕にしっかりと収まる温もり、しっかりと感じる重さ。それは間違いなく私のアリシアだ。

 アリシアは私に抱かれながら「えへへ」と微笑んでいる。しばらくそうしているとアリシアが私に言ってきた。

 

「お母さん! 今日ね、リニスとお部屋で遊んでたの!」

 

 そう無邪気に言ってくる。

 私が家に帰るとアリシアはその日一日何があったかを教えてくれる。拾ってきたリニスと遊んだ、部屋でお絵かきをした、庭で遊んだ、そういう事を全部話してくれる。

 その時の笑顔が私は一番好きだった。その笑顔を見るだけで私は幸せだった。その日もアリシアを家に残し仕事に出て行った。そしてそれは起こった。

 大型魔力駆動炉「ヒュードラ」の暴走。当時勤めていたアレクトロ社でそのプロジェクトの設計主任をしていたが、それは一からの設計ではなく他者からの引き継ぎだった。そして引き継がれた内容を見て私は愕然とした。

 絶対的に足りない開発時間、何度も複数の人間により変更されたシステム、前任者の杜撰(ずさん)な資料管理、そして徹底して省略された安全管理。

 その中でも私達のチームは悪戦苦闘しつつも頑張ってきた。空気中の酸素を消費し魔力を生み出すという駆動炉に疑問を覚えつつ。

 しかしそれは本部から来た人間により全てを無駄にされた。そしてその無茶な状況での実験により駆動炉は暴走。

 

ビィー! ビィー! ビィー!

 

 鳴りやまない警報、奔走するスタッフ、何をしても止まらない駆動炉、もはやどうしようもないところまで来てしまった。そしてそれはあっけなく起こった。

 駆動炉は私たちの予想をはるかに上回る破壊力を持って全てをのみこんだ。

 そして私は最愛の娘を失った。家に帰った私が見たのは、眠るように倒れているアリシアだった。外傷はなく静かに、本当に静かに寝ているようだった。

 そこで私は目が覚めた。

 もう何度目になるだろうか? この夢を見るのは? ベットから起き上がると急に胸が苦しくなった。

 

「ゴホッ、ゴホッ!」

 

 手で口を押さえたが抑えた隙間からポタ、ポタ、と赤い液体が零れ落ちる。血だ。時間がない。私の命の残りはわずかだ。それまでに何としても娘を、アリシアを生き返らせて見せる。

 それが私の生きる意味なのだから。

 

― リニス ―

 

 私は、行くあてもなく道を歩いていた。その姿は猫になっており、残りの魔力ももう残り少ない。一歩一歩、歩くごとにどんどん身体が重くなっていくように感じる。

 辛い、このまま歩みを止めて静かに眠ってしまいたい。ではなぜ私は歩いているのだろう?

 今までフェイトに魔法を教え、新しい力デバイスを造り、その使い方も教え終わった。

 主であるプレシアの契約を果たし、その足でどことも知らない世界へ移動した。全てを知り、私ではどうやってもプレシアを止められないと分かった時、悩み、悔み、絶望した。

 プレシアを、フェイトを助けられない事が一番つらかった。事故によりアリシアを失い、アリシアを生き返らせる為の狂気じみた実験、自分の身体を蝕む病魔、限られた残り時間。

 もうプレシアは止まれない、止まらない、それこそ奇跡が起きない限りは。

 

『だれか……』

 

 私は呟く、だれにも聞こえないだろう「念話」で、

 

『だれでも良い、誰か……』

 

 そして願う。それは誰よりも、大事な、大切な主人を、大切な教え子を思い、

 

『誰か二人を、あの二人を助けてあげて!』

 

 力の限り叫びをあげる、どうせだれにも聞こえないと分かっていてもそうせずにはいられなかった。

 案の定誰かが私の前に現れる様なそんな都合の良い事が起こる訳もなく、私の魔力は限界だった。

 もう良い疲れた、そう思うともう駄目だった。横たわった身体はもう動く事も出来ず、浅い呼吸を繰り返すだけだった。

 

(ああ、もう疲れた……)

 

 そう思い、瞼を閉じ、自分が消えるその時を静かに待った。とそんな時話し声が聞こえた。

 

「あ、一樹兄ちゃん! ぬこ! ぬこがゴロ寝しとる!」

 

「お、ホントだ。しかし俺としては御免寝が見たかったのだが」

 

「流石にそれは無理やろ」

 

「ですよね~」

 

 と、明らかに勘違いしている会話をしていた。

 しかしだんだんとその二人、車椅子の女の子とそれを押す男の子は近づいて来て、

 

「ん? 一樹兄ちゃん、なんやこのぬこ弱ってへんか?」

 

「あ、ホントだ。では、回復してやろう!」

 

「ルビカンテ乙」

 

 そんな事を言ってきた、そんな事できるはず無いのに。

 するとその直後身体に暖かいものが流れ始めた、それは魔力だった。

 枯渇していた魔力がある程度回復し、起き上がる事が出来そうだ。

 

「お、起き上がったやん! 一樹兄ちゃんホンマに回復出来るんやな!」

 

「はやて、結構前だけど、士朗さん治したの知ってるはずじゃんか!」

 

「いや~、あんときは治った後やったから、いまいち信じられへんかったんよ」

 

「ガッデム、なんて世の中だ!」

 

 そんな会話を聞いていると、

 

『大丈夫?』

 

 と念話が聞こえてきた。吃驚して男の子を見ると、

 

『さっき助けてと聞こえたもので。このイベントはなのちゃんだけかと思ったんだけど』

 

 そんな変な事を言ってきた。

 

『あ、ゴメン、後半は忘れて。まずは自己紹介しましょう。斎藤一樹です。魔法は使えるけど一般人です。決して、決して今は管理局の人間ではありませんので!』

 

『今はって……回復していただいてありがとうございます。私はリニスといいます』

 

 そう自己紹介すると今度はカズキと名乗った男の子が驚いた顔をした。

 どうしたんだろうと思っていると女の子、確かはやてと呼ばれた子が、

 

「なあ、なあ、一樹兄ちゃん! この子家で飼えへんやろか?」

 

「良いのかホイホイそんなこと言っちまって。俺は野良だろうが飼い猫だろうが飼っちまう男なんだぜ?」

 

「いや、飼い猫はあかんやろ」

 

「ですよね~」

 

「まあ、それは置いといて、どうやろか? せめて元気になるまで家に置きたいんやけど?」

 

「う~ん、俺としては後日恩返しに来るという方が良い気がするのだが?」

 

「それはそれで面白そうやけど」

 

「ちなみに机の引き出しの中からだぞ?」

 

「青狸の方やったんかい!」

 

「はやて、あれでも一応猫型ですから。まあそれは良いとして、確かに元気になるまで家に置くのはまあ、良いんじゃないか?」

 

「ホンマか! よっしゃ! じゃあ名前! 名前決めんと! どんなんがええかな?」

 

「ん~、リニスなんてどうだ?」

 

「う~ん、リニスか~、うん! ええ名前や!」

 

「そうか、気に入ってもらって何よりだ」

 

「一樹兄ちゃんたまにはええ仕事するんやな!」

 

「おう、たまにしか仕事しないからな」

 

「いや、そこは否定するとこやろ」

 

 なんだろう。なぜか私そっちのけでどんどん話が進んでいってしまった。

 

『いや~、ごめんごめん。勝手に決めちまって。まあ、こっちとしてはそれでも良いんだけどそっちはどうする? 俺としても少し聞きたい事があるから来てもらえると助かるんだけど』

 

 私は少し考え、

 

『分かりました。あなた方についていきます』

 

 そう答えた。すると一樹がニカッと笑い、

 

『こちらこそよろしくなリニス』

 

 そう言ってきてくれた。この後私は知る事になる、この出会いが奇跡の始まりだった事を。

 

― 八神はやて ―

 

 新しい家族が出来たんや!

 この間、一樹兄ちゃんと散歩しとったら、弱ったぬこがおって、それを一樹兄ちゃんが治して、家に連れて帰ったんやけど、そしたらぬこが人型に変身したんよ!

 そんとき一樹兄ちゃんが頭抑えてたんやけど、こうなる事を知っとったみたいや、後できかなぁあかんな。

 いや~、あれを見たときはホンマびっくりや。案外連れて帰らんでも恩返しに来たんやないか? まあ、机の引き出や無かったみたいやけど。

 でな、一樹兄ちゃんと一緒に話を聞いとるとリニス、拾ってきたぬこの名前なんやけど、リニスは、使い魔さんで、御主人がおって、訳あってその主人と離れる事になってもうて、弱っている所を一樹兄ちゃんに助けられたと言う事らしいんや。

 使い魔とかついさっきまでは小説や、映画、フィクションの世界やと思っとったけど、それが目の前でノンフィクションやと分かってめっちゃテンションあがったわ!

 そんで、魔法もあるんか聞いてみたら在るんやって! 見せてもらおうと頼んだんやけど、今魔力を使うとリニスが消えてしまうみたいなんよ、せやから一樹兄ちゃんが後で見せてやるって約束してくれたんよ。

 今から楽しみや! ついでに私も魔法が使えるか聞いてみたんやけど、リンカーコアっていうんがないから無理みたいなんよ、憧れやったからそれを聞いて残念やったわ。

 そんでな、リニスなんやけど何時かは御主人の元に戻りたいらしいんよ。

 せやから、一樹兄ちゃんが「仮契約」して、通常生活する分には問題無くなって、その恩返しをしたいってリニスが言ってきたんや。

 そしたら一樹兄ちゃんが、「はやての家で家政婦、まあお手伝いさんだな。それを頼む」って言ってくれたんよ!

 リニスは一樹兄ちゃんのお手伝いで無くて良いのか聞いてたんやけど、家が隣同士やから問題ないって言ったら納得してくれたんよ。

 そんな事があってリニスは今家族になったんや! 今まで一人で寂しかったんやけど、一樹兄ちゃんと知り合ってからガラリと生活が変わったんや、一人でいる事は無くなって、友達も出来て、ご飯もみんなで食べて、亜夜ちゃんと一緒に寝たりして、ホンマ楽しい事ばかりや。

 あの時一樹兄ちゃんと会えた事に感謝や、そして今日はまた友達が増える予定や! リニスを紹介したいって、なのはちゃんと、亜夜ちゃんに言うたら、「じゃあ、私も友達連れてきても良い?」て言うてくれんたんよ。

 勿論二つ返事でOKや。ホンマ今から楽しみや。そろそろ来るはずなんやけど…………。

 

ピンポーン

 

 お、来たみたいやな。チャイムがなったからリニスと一緒に玄関に向かうと、そのにはなのはちゃんと亜夜ちゃんの他に、金髪を腰の辺まで伸ばした気の強そうな女の子と、紫髪でこっちも腰まで伸ばしてヘアバンドをして、おっとりとしてる感じの女の子がおった。

 

『お邪魔しま~す』

 

「待っとたで! なのはちゃん、亜夜ちゃん。え~とそっちの二人が友達やな?」

 

「ええ、そうよ。私はアリサ・バニングス。アリサで良いわ」

 

「はじめまして。月村すずかです」

 

「うん、はじめまして。私は八神はやて、こっちにいるのがリニスや。よろしゅうな、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「二人から色々聞いてるわ。こちらこそよろしくね」

 

「何をどう聞いてるのか非常に気になるところやけど今はええわ」

 

『にゃははは(汗)』

 

 二人して乾いた笑いをしとる。これはホンマに後で聞いとかなぁあかんな。

 

「みなさん、お茶の準備が出来てますよ。立ち話もなんですから此方に」

 

 そう言うてリニスが案内する。ホンマ出来る子や~、と感心する。

 今日も一日良い日になりそうや。そんな事を思いながらみんなで過ごせる時間をめいいっぱい楽しむことにした。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 昼時、高町家の道場から帰ってくる。

 士朗さんを助けて以来、週に2~3のペースで道場に通っている。初めこそ恭也さんに首を掴まれ引きずられる様に通っていたが、最近では自分から進んで行くようになってきた。

 道場に通い始めてからというもの身体能力や戦闘経験値が鰻の滝登り状態なんですよ。

 技はどんどん身体になじむし、新しい技も覚えるしで俺としては得るモノが多いのですよ。

 でも未だに士朗さんはおろか、恭也さんにも勝てない。

 魔力を使えば分かんないけど、身体能力プラス気功でも勝てないって、思わず「高町家の連中は化物か!?」って言いそうになったよ。

 まあ、士朗さん曰く「身体能力はかなりの物だ、だけど戦い方がなってない」とのことだった、圧倒的に経験値がたらんのですよ。

 そんなこともあり、「高町道場」には通っている。最近やっと恭也さんに一撃入たんだけど、その怪我を治すために「龍掌」使ったんだけどそれが不味かった。

 いや、まあ結果的には良かったのかな?まあ分かるとは思うんだけど、

 

 恭也さんの古傷までしっかり完治!=動きが格段に良くなる=俺フルボッコ状態

 

 恭也さんも流石にやり過ぎたと言って謝ってきたし。どうやら怪我が治ってテンションが上がってしまったようだった。

 ちなみに「剣術」も教わったりする。リリカルな世界にくる前は「剣道」もしていたので「ラーニング」の効果もあったからだ、しかし格闘より習得は遅く、まだまだ三流で、剣道の段で言うと初段~二段ぐらいかな?まだまだ精進が必要と痛感する日々だけど充実している。

 そんな感じで無印開始までもう間もなくだ、それまでに出来るだけ強くなっておきたい。そうすればテスタロッサ一家を助ける事も出来るかもしれないし、此方にはリニスという協力者がいるのだ、助けた時はマジで驚いたけどこれで何とかなると思う。

 今リニスははやての面倒を見てもらっている。魔法の事はいきなりばれたがそれ以外の人には秘密と言う事でと言ってあるので大丈夫だろう。

 そんで決戦前にプレシアさんと話して説得できれば良いなと思う。それまではなのちゃんとフェイトちゃんの戦闘をどう面白可笑しくするかが当面の目標である。

 クロノにも連絡は何時でも出来るから問題ないし。そんな事を考えていると、

 

『どうしましたか≪クソ野郎≫何か悩み事ですか?』

 

 と何時も道理のスサノオが聞いてくる。そんな問いかけにも慣れた(諦めたとも言う)もので最初の時ほどイラつかない。

 

「ん? いや、特に何も。強いて言うなら桃子さんに弟子入りする件をどうするかだな?」

 

 そうなのだ、士朗さんの快気祝いをした際食べたケーキがめちゃくちゃ美味かったのだ。こっちに来る前に趣味でお菓子作りをしていたので作り方が非常に気になるのだった。

 ちなみに他の料理は出来るが味は普通、どっかの弓兵見たいに何でも完璧に出来たら良いのにと思ってしまう。

 もし管理局員になるのと弟子入りするの、どちらか一方を選べと言われたら相当悩むと思う。下手すると弟子入りしてしまうかもしれん、その位美味しかったのだ。

 今も片手には翠屋のケーキが入っている箱を持っている、桃子さんがなのはちゃんに渡しそびれたらしく、はやての家にいるので持って言ってくれと頼まれてしまった。

 今頃はやての家で遊んでいることだろう。まあ、そこで俺も茶でも入れつついただこうと考えていた。そしたらスサノオが

 

『管理局員にならないのですか?』

 

 と不思議そうに聞いてきた。

 

「いや、たぶんなると思うぞ。たぶん。流石に店を持つまで腕を上げたい理由は無いし。まあ極論だよ」

 

『そうですか』

 

「流石にお前を造って貰ったんだ。何も返さずにいるのは不味いだろ」

 

『それもそうですね』

 

 そんな会話をしているうちにはやての家に着いた。チャイムを鳴らすとリニスが出てきた。

 

「あ、一樹さん。どうしました?」

 

「桃子さんからの頼まれもの。なのちゃんに渡しそびれたんだって」

 

そう言ってケーキの箱を見せる。

 

「そうですか、では上がって一緒に食べませんか? ちょうどなのはちゃんと亜夜ちゃんが友達を連れてきてみんなで遊んでるんですよ」

 

 む? 友達とな? まさか原作キャラか? まあそれは置いといて、

 

「良いの? みんなで遊んでんなら邪魔じゃないか?」

 

「いえ、そんな事はありませんよ。はやてちゃんも喜びます」

 

 嬉しい事言ってくれるじゃないの。それならお言葉に甘えるとしますか。

 

「ん、分かった一緒に頂くとしますか」

 

 そう言ってはやての家に上がっていく。

 居間に行くと亜夜達がみんなでゲームをしていた。しているゲームはみんなで出来るパーティーゲームの様だ。

 時折「イヤッフゥ」とか「マンマミーヤ」とか聞こえてくる、某配管工が頑張っているようだ。

 そんな中、亜夜が俺に気づき声をかける。

 

「あ、お兄ちゃんどしたの?」

 

「よ、桃子さんからの差し入れ持ってきた」

 

『ホンマ!(ホント!)』

 

 声が重なる。声をあげたのははやてに亜夜。

 この二人も桃子さんのケーキにはめっぽう弱い。それを見ていたなのちゃんが、

 

「にゃははは///」

 

 と嬉しそうに照れている。まあ、母親が作ったものが評判なので嬉しいのだろう。

 それはさて置き、俺は知っているけど自己紹介しないとな。

 

「はじめまして、斎藤一樹だ。そこの亜夜の兄をやってるよ」

 

 そう言ってアリサちゃんとすずかちゃんに向かって自己紹介する。

 

「あ、はじめましてアリサ・バニングスよ。それとアリサで良いわ」

 

「はじめまして。月村すずかです」

 

 二人とも自己紹介を返してくれた。

 

「ん? 月村? 恭也さんの恋人の忍さんも確かそんな名字だったけど、もしかして妹さん?」

 

「お姉ちゃんを知ってるんですか?」

 

「うん、俺、恭也さんと士朗さんに師事してもらってるから、恭也さんに紹介された」

 

「あ、そうですか」

 

「うん、妹に友達が出来たって嬉しそうに言ってたよ。」

 

「そうですか///」

 

 おお、顔が真っ赤になっとる。嬉し恥ずかしといったところか。

 

「じゃあ、自己紹介も終わったしケーキでも食べるか!」

 

『さんせー』

 

 そう言うと、持っていた箱をテーブルに置き開ける。1、2、3…………

 

「なん……だと……」

 

 箱の中には綺麗に並んだ美味しそうなケーキが6個。

 今いるのは、俺、亜夜、はやて、なのちゃん、アリサ、すずか、リニスの七人。ひとつ足らんだと!!!

 固まってしまった俺を見て亜夜が何事かと思って箱の中を見ると納得したようだ。

 

「お兄ちゃん、まさかお兄ちゃんが食べるなんてことは無いよね?」

 

 おふぅ、先手を打たれた。しかし俺だってそんな事をするほど大人げない訳ではない。

 

「大丈夫だ。俺もそこまではしないよ」

 

「その割には、滝の様に涙を流しておるんは何でや?」

 

 …………どうも頭で分かっていても、身体は無理だったらしい。

 

「あの、それでしたら私は結構ですよ?」

 

 リニスが気を使ってかそんな事を言ってくれた。リニスが天使に見えた気がした。が、現実は非常である。

 

「駄目だよ! 桃子さんのケーキを食べないなんて! お兄ちゃんの事はほっといて良いから!」

 

 …………妹よ、お兄ちゃんはすっごく悲しいぞ!

 そんな事をしているうちに、なのちゃんがお皿を準備し終えており、ケーキを移し替えていた。

 何やら俺が食べない方向で着実に準備が整いつつある。まあ仕方ないけどね!!

 

「リニス、俺は良いからみんなで食べて。そもそも今日は始めから俺はいない予定なんだから」

 

「ですけど、」

 

「いいの、いいのリニスはまだ食べた事無いんだから食べとけって」

 

 そう言って、ケーキの乗ったお皿を差し出す。その皿をリニスが受け取るが、

 

「て、手が離れんだと!」

 

 俺の手は皿をがっちりつかんだまま離れない。

 

「どんだけ食べたいのよ! お兄ちゃんは!」

 

「ぶべら!」

 

 亜夜からの容赦のない一撃が頬を打ち抜く。

 その反動で手が離れゴロゴロと転がり壁にぶつかり止まる。

 

「G・J!」

 

 俺は親指をグッと立て力尽きる。そのまま身体を休めるように眠りについた。

 次に眼を覚ましたのは畳の部屋に敷かれている布団の上だった、どうやらリニスが運んでくれたらしい。

 起き上がり廊下に出ると外の景色が眼に入った、どうやら既に日は落ちているようだ。

 ずいぶんと寝てしまったようで、自分で思っているよりも疲れていた見たいだ。

 そう思っていると玄関から声が聞こえる。

 

「またね、はやてちゃん今度一緒に図書館に行こうね」

 

「うん、今度一緒にいこうな!」

 

「亜夜、また遊びましょ! 今度は負けないわよ!」

 

「にゃはは、アリサちゃんは負けず嫌いなの」

 

「ほほほ、返り討ちにしてあげるわ!」

 

 亜夜よ、なんか悪役みたいだぞ。さて俺も挨拶しておきますか。

 

「おう、帰るのか。気をつけてな」

 

「あ、お兄ちゃん起きたんだ」

 

「ああ、ついさっき」

 

「あ、一樹さんお邪魔しました」

 

「おう、まあ俺の家じゃないけどな。忍さんにあんまりイチャイチャすんなって言っといて」

 

「ぜ、善処します///」

 

「ちょっとあんた! すずかを困らせんじゃないわよ!」

 

「はっはー、元気が良いねアリサちゃん、何か良い事でもあったのかい?」

 

「そんな訳あるか!」

 

「まあまあ」

 

 見かねたなのちゃんが仲裁に入る。そんな事をしていると、車の止まる音がした。どうやら迎えが来たみたいだ。

 

「あ、アリサちゃん来たみたいだよ」

 

「うー、覚えてなさい!」

 

「え、何を?」

 

「キー!」

 

そんな事してアリサで遊んでいると、

 

「やめんか!」

 

「ふぉぐ!」

 

 亜夜の見事なボディーブローが決まり、その場にうずくまる。

 

「ごめんねアリサ。後で言い聞かせておくから」

 

「ありがと、亜夜。少し気がすんだわ。じゃあね亜夜、はやて、なのは。また今度遊びましょ」

 

「またね」

 

 そう言うと二人は外に出て車に乗り込んでいく、リムジンを間近で見るのは初めてだ。車の窓から手を振ってきたのでみんなで手を振って見送っていた。車が遠ざかり交差点にさしかかったその時、

 

ギャギャギャギャ! ドガン!

 

 猛スピードで横から黒い乗用車がリムジンに突っ込み、リムジンが走行できなくなる。すると乗用車から数人が降りてきてリムジンから暴れるアリサと動かないすずかを連れ出した。

 

「アリサちゃん!すずかちゃん!」

 

 なのちゃんが大声で叫ぶ。ちっ! しまった。何を呆けていた。腑抜けにも程がある。

 すると降りてきた内の一人が此方に何かを向けてきた。ヤバ! 慌てて亜夜達三人を家に向かって突き飛ばす。

 

パン!

 

 乾いた音が響き身体に衝撃を感じ、俺は地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 


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