魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第四十七話

― ヴィータ ―

 

 その映像が流れ終わった後しばらく呆然として、隣にいたシグナムに話しかけた。

 

「なあ、シグナム」

 

「……何だ?」

 

 シグナムも呆然としていたみたいだった。

 

「あたし達にとって、ものすっごい重要な話があった気がしたんだけど……」

 

「……気のせいだ、と言いたいところだが私も同じ意見だ」

 

「だよな」

 

 流石にシグナムも気付いていた。更にその横のシャマルとザフィーラも同じ感じだ。

 

「早急にあいつに問い詰めなければならないな」

 

ジャキ!

 

 とシグナムがレヴァンティンを軽く持ち上げる、まるで手段は問わないと言っているみたいだ。

 まあ、あたしもそのつもりではあるけどな。

 そう話をしているとドアのスライドする音が聞こえた。どうやら一樹が来たみたいだ。

 

「おい、一樹どう言う事か……説明…………誰だ?」

 

 あたしはてっきり一樹が入ってきたものだと思って声をかけたけど、ドアから入ってきたのはこの船に来たとき、一樹に話しかけてきた奴だ。

 

「ヴィータさん、だったかしら? 私はこの艦の艦長のリンディ・ハラオウンです。今から詳しく説明するから座ってもらえるかしら」

 

「あ、ああ……」

 

 あたしはその笑顔に圧倒された。

 何故かって? 両手の白かったはずの手袋が真っ赤に染まって、尚且つその手を頬に当てたら頬が赤くなってれば誰だって圧倒されるっての!!

 

(あれぜってえ一樹の返り血だろ)ヒソヒソ

 

(ああ、間違いないだろう)ヒソヒソ

 

(ちょ、ちょっと待ってください! 一樹さんが殺られたんですか!?)ヒソヒソ

 

(シャマル、字が違……くないのか?)ヒソヒソ

 

 四人で固まって話し始める。

 

(しかし、あのポーズは何と言ったか?……どこかで見たことがあるのだが……)ヒソヒソ

 

 シグナムが悩む。リンディがしているポーズのことだろう。アレは確か……、

 

(ああ、アレだろ? 恍惚のヤンデレポーズ)ヒソヒソ

 

(((それだ!!)))

 

 全員の意見が一致する。

 そんな話をしていると、リンディの後ろからもう一人、一樹と一緒に説明してたうさぎなのはが、一樹だったものを引きずりながら部屋に入ってきた。

 

「ってなのちゃん、着替えてこなかったの?」

 

「う、うん。着替える暇が無くて……」

 

「あ~、誰の所為かは言わなくても分かったわ」

 

「あ、あははははは」

 

 うさぎなのはが乾いた笑いをする。

 

「ところでお兄ちゃんは大丈夫なの?」

 

「う~ん、どうだろう? 普通ならもう復活してもいい頃なんだ……け…………ど!?」

 

 そう言いながらうさぎなのはが後ろの一樹と思われる物体を見ると、そこには一樹と思われる物体から薄く光っている一樹(半透明)が出ていて、その一樹の正面には光る階段があって、それは天井より上に伸びていた。

 天井があるはずなのに何故かその先が見えて、階段の先は光り輝いていた。

 その光景を見れば、階段を上りきったら明らかにあの世行きである事は容易に想像が付く。

 

『………………』

 

 あたしを含めてその場にいた全員が余りに事に息をのむ。全員唖然としてポカンと口を開けている。

 一樹はその階段の先を真剣に見て、少しすると意を決したようグッと握り拳をつくり声を上げる。

 

「逝ける!!」

 

『逝くなぁぁぁーー!!!!!』

 

 その場にいた全員が驚き、焦りまくってとっさに声を上げ突っ込む。

 すると一樹(半透明)がビクッ! となってシュウシュウと自分の体に戻っていく。

 完全に戻りきると一樹がヨロヨロと起き上がり、

 

「俺の朝はケロッグコーンフレーク」

 

 一樹はグッとサムズアップしてくる。

 

「いや朝はチョコクリスピーだろ!」

 

「でもでも、ブラウンシュガーも美味しいですよ!」

 

「ストロベリー味も中々だ」

 

「お兄ちゃん、毎朝きっちり白米食べてるじゃない」

 

「……思いっきり脱線しているぞ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 ザフィーラに言われはっとする。

 結局何時も通りのあたし達だった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 いや~危なかった! 危うく昇天するところだった。

 どっかの世紀末覇王さんみたいに一片の悔い無しって訳じゃないからな。

 

「あ、おい一樹! さっきのは一体どういう事なんだよ?!」

 

「ん? コーンフレークの事か?」

 

「それもあるけど今は闇の書の事だよ!!」

 

 それもあるんかい!

 と突っ込みたい衝動を抑え、冷静に答える。

 

「どうもこうもさっき言った通りだよ。ほれ、これがその証拠だ」

 

 そう言って俺はヴィータに書類を渡す。今までユーノが無限書庫で必死になって集めた闇の書の資料だ。

 ヴィータに渡すと直ぐに資料を読み始める。ヴィータの肩越しにシグナム、シャマル、ザッフィーが資料を覗く。

 

「「「「………………」」」」

 

 ぺらぺらと読み進めていく。

 

「それは、管理局本局にある「無限書庫」と言うところから集めた情報だ。信憑性はかなり高い」

 

「ここに書かれている事は本当なのか?」

 

 シグナムが聞いてくる。

 

「まず間違いないと思って構わない。思い当たる節もあるんだろ?」

 

「確かに、私達は歴代の主が闇の書を完成させた後の記憶がない。その理由が何なのか分かっていなかったからな」

 

「ならそれが理由だ。闇の書は完成と同時に主を飲み込み、暴走後次の主を求めて転生する。全く、性質の悪い機能を付けてくれたもんだ」

 

 ほんと性質悪いよな。人の本能というか欲望を的確についてくる所とかも。

 

「う~ん、どうせ転生するんなら二次小説みたいに主人公最強物になればええのに。そうすれば私は最強に!」

 

「おまけに厨二病も付いてくるわけですね、分かります」

 

「……やっぱ最強にならんでもええわ。一樹兄ちゃんみたいになりとうないわ」

 

 げんなりした表情をして俺を見てそう言ってくる。

 

「俺厨二病じゃ無いからね!?」

 

 はやての言葉に異を唱える。

 まあ、転生者?ではあるんだけどな。

 

「まあこの際、一樹兄ちゃんが中二病かどうかは置いといて」

 

「だから違うっての」

 

「この後はどないするん? 詳しい話はまだなんやけど」

 

「ああじゃあその説明を始めるか」

 

 そう言って俺は前に行き、スサノオを操作してレジアスのおっさんを大画面にする。

 その瞬間、数人が若干引く。

 

「……自分でやっといて何だけど、大画面なんかにしなきゃ良かった」

 

 何が悲しくてこんな厳ついおっさんを大画面で見なきゃならんのだ。

 

『斎藤貴様(怒)』

 

「あ~、ほらおっさん! 説明説明!」

 

『うぉっほん。先も説明があった通り管理局地上本部中将、レジアス・ゲイズだ。とりあえずこの後の予定だ。組み合わせは先ほど一樹が説明した通りのメンバーで行動してもらう事になるが、とりあえず蒐集組みは今日から一週間完全休養になる』

 

「何を悠長に!」

 

 机を叩き、声を荒げるシグナム。

 

『まあ、聞け。時間が限られているというのは百も承知だ。だが焦ってはいかん。休養にもしっかりと意味がある』

 

 レジアスのおっさんの声は貫禄と重みがあった。

 

『まず手始めにここにいるリンカーコアを持つ者全員からの蒐集をする』

 

「なっ!?」

 

 これにはシグナムも驚きを隠せない。

 

『それと同時に、全員のデバイスをフルメンテナンス及び改修を行い、戦力の強化を図るとともに、今回の実戦での怪我及び疲労、蒐集された魔力を完全に回復してもらう』

 

 そうおっさんが説明するが、

 

「この程度の戦闘の怪我で休養が必要なほどヴォルケンリッターは柔じゃねーよ!」

 

 そう噛み付いてきたのはヴィータだった。

 

『ほう……では目の前にある駄菓子を食べてみろ』

 

 おっさんは不適に笑いヴィータに言う。

 

「はあ? それとこれとどういう関係が……」

 

『いいから、食べてみろ』

 

「まあ、いいけどよ」

 

 そう言ってヴィータは目の前に置かれている駄菓子を食べる。すると……

 

「……うっ」

 

 口を押さえ顔を青くする。

 俺はすかさず容易していたバケツをヴィータに持っていく。

 

「あ~あ、ほれ言わんこっちゃない」

 

「うえぇぇぇぇ~~~」

 

 ヴィータは食べていた駄菓子を吐き出す。

 俺はヴィータが落ち着くまで背中をさすってやった。

 

「貴様! ヴィータに何をした!」

 

「落ち着けシグナム。おっさんは何もしちゃいねーよ」

 

 再び激昂するシグナムに言う。

 

「何だと?」

 

『それが今回の戦闘のダメージという事だ。報告書を読んだ限りだと一樹と戦闘したのはそこのヴィータとザフィーラだったな? その二人に関しては一週間で完治できるかも怪しいのだぞ?』

 

「どういうことですか?」

 

 シャマル先生が聞いてくる。回復担当としては切実な問題だしな。

 

「あ~、俺の技は非殺傷設定が出来ない上に、体の内部にダメージを与える技が結構あってな? 今回その技を二人に使ったって訳でして……」

 

「つまり?」

 

「ダメージが非常に高いうえに、通常の治癒魔法だと効果が薄いんだよ。しかも今回二人は腹部に攻撃を受けてるから胃が一時的に食べ物を受け付けなくなってるんだろうな」

 

「そ、そこまで酷いのか?」

 

「あ~、まあしばらくは病人食だな。お粥とか胃にやさしいもんじゃないと無理だと思うぞ?」

 

「「な、何……だと?!」」

 

 驚愕する二人。

 

「そ、それじゃあはやてのギガ美味い飯も、食後のアイスも……」

 

「若鶏ネックローストもミートローフもササミも……」

 

「当分はお預けだな」

 

 そのとき二人に電流走る。

 

「「燃え尽きたぜ……真っ白によ……」」

 

 次の瞬間にはヴィータとザフィーラは真っ白になった。

 て言うかヴィータは兎も角、ザッフィーのは極稀に買う高級ドッグフードじゃねーか。そんなに好きだったのかよ。

 

『と、言うわけだ。以上の事を踏まえたうえでその期間を設けたのだ。此処でしっかりと休養し、今後の蒐集活動を円滑にするため今貴様達に必要な事なのだ』

 

「それにシグナムだって無傷じゃねーだろ?」

 

 シグナムだって自分の最大級の攻撃をカウンター気味にくらってんだ、下手すりゃ二人以上のダメージかもしれないんだ。

 

「……了解した」

 

 シグナムも観念したように呟く。

 

『さて、次に蒐集予定地だが、第六管理世界が今の所ベストだな。無人世界ではないがこの世界の生物の生態調査の任務がちょうどあり、簡易調査をしたところリンカーコア持ちの生物が大量にいて、中々凶暴なのがそろっておる』

 

「ん?」

 

 それを聞いて俺は首をかしげる。

 

『どうした斎藤?』

 

「あ、いや何でもないっす」

 

『そうか次に……』

 

 ん~~? 第六管理世界? どっかで何かあったような……? あー、思い出せん。流石に細かい設定まで覚えてないしな~。それを延々と考えているといつの間にかおっさんの説明が終わっていた。

 

『……ここにいるメンバーならば闇の書を修復できると信じている。以上だ』

 

 そう言っておっさんは締めくくる。でも……

 

「照れるくらいなら言わなきゃいいのに」

 

「言ってやるな大目に見てやれ」

 

『うるさい!』

 

 ヒソヒソとゼストさんと言っていたのに聞かれたようだった。

 とりあえずひと段落したので全員に聞く。

 

「さて、説明は以上だ。じゃ、始めるとしますかね」

 

 そう言って俺は全員に向かって頭を下げる。

 

「なのちゃん、フェイト、亜夜、プレシアさん、リニス、アルフ、リンディ提督、クロノ、ユーノ、ゼストさん、クイントさん、メガーヌさん、どうかはやてを助けるために蒐集をさせてください」

 

 深々と頭を下げる。なのちゃん達は一瞬何の事だか分からなかったのか、気付くと一斉に慌てだした。

 

「ちょ、一樹お兄ちゃんやめてよ!」

 

「そ、そうだよ! そんな事しなくても協力するよ」

 

「そ、そや一樹兄ちゃん! それは私が言わなあかん事や!」

 

「そうだよお兄ちゃん!」

 

 なのちゃん達がそう言ってくれる。それだけでありがたい。

 

「……全く、コソコソ何をしているのかと思ったら。一樹、もし管理局の協力が得られなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

 クロノがそう聞いてくる。

 

「ん~、そん時は俺が管理局の敵になって、それをヴォルケンリッターが成敗するって言うシナリオを考えていたんだよな~。八神戦隊ヴォルケンジャー! みたいな感じで。覆面をしたヴォルケンリッターがミッドチルダの平和を守る! 犯罪者から蒐集もできて一石二鳥、市民に人気が出てきた所でイベントを敢行! 地上本部でヴォルケンリッターと握手! ……あれ? こっちのほうが面白そうじゃね?」

 

 適当に言いつつも面白そうなアイディアがポンと出てきてしまった。

 

「しかしお兄ちゃんは指名手配犯の仲間入りに……!」

 

「いや、そこはばれない様にするから!」

 

「でも、ラスボスって結局正体ばれちゃうんじゃ……」

 

「いや、なのちゃん。俺は始めのボスだから。倒すと仲間になるタイプの」

 

 どっかの大冒険で言えば獣王さんや不死騎団長さん、最後のファンタジーで言えばゴル○ーザだ。あ、あれは中ボスか。

 

「ウォンテッドでデット・オア・ライブ(生死は問わず)なんやね、分かります。」

 

「問うてください!? 管理局はそんな事してませんよ?!」

 

 管理局は基本逮捕だ。そんなどこぞの賞金首のような事はしていない。

 

「あくまでも一般的な犯罪者の話だ。一部の超凶悪犯はこの限りではないぞ?」

 

「何それ?! 初めて聞くんですけど!?」

 

 クロノの説明にぎょっとする。流石にそれは知らんかった。

 

「ふむ、……介錯は必要か?」

 

「いらないよ?!」

 

 さりげなくシグナムが殺そうとしてくる。

 

「だ、大丈夫だよ! みんな優しいからそんな事しないよ?」

 

 唯一の良心であるフェイトだが、完全に否定できないのか最後が疑問系だ。

 というかそれ以前にこれは正規のプランではないのだが……。

 

「はいはい、漫才はその辺りにしておきましょう。とりあえず私からの蒐集は問題ないわよ。これで闇の書の不幸が止められるなら喜んで協力するわ」

 

「母さん……」

 

 見かねたリンディさんが笑顔でそう言ってくれた。

 

「「「私達も大丈夫です!」」」

 

 なのちゃん、フェイト、亜夜が声をそろえて言う。

 

「僕も協力するよ」

 

「もちろん私達も問題ないわ」

 

「ええ」

 

「もちろんさ!」

 

 ユーノにプレシアさん、リニスにアルフが言ってくる。

 

「私達も問題ない」

 

「ちゃんと休暇もとってきたし」

 

「久しぶりにゲンヤさんと一緒にすごせるしね!」

 

ゼストさん、メガーヌさん、クイントさんも協力してくれる。

 

「みんな……ありがとう御座います!」

 

そう言って俺は再び頭を下げるのだった。

 

― シグナム ―

 

「……まさかこんなプランを用意しているとはな」

 

「すごいわね一樹君は、はやてちゃんや私達の為にここまでしてくれて」

 

 協力者と笑いあう一樹を見てそう思う。

 今思えば確かに私達は主はやての事しか考えていなかった。主さえ助かれば私達はどうなってもいいとも思っていた部分もあったのだから。

 しかし一樹は違った。主の事だけでなく本当に私達のことまで考えていたのだから。

 

「此処までされたら期待に応えなくっちゃね!」

 

「ああ、そうだな」

 

 シャマルがやる気を出し、蒐集をするための準備を開始する。

 それを見て私は、

 

「おい二人とも。いつまで白くなっているつもりだ」

 

 今だ白くなったままのヴィータとザフィーラを起こしにかかるのだった。

 

 

 

 


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