― 斎藤亜夜 ―
ギャン! ギン! ガッ!
槍の人から一方的に攻撃を受ける。
手はすでに言うことを聞かない、アマテラスはもう限界だ。後二~三発耐えられるかどうかだと思う。
「でも、手加減されてるってのが分かると腹が立つわね」
そう思うと自然とアマテラスを握るてに力が入る。
《落ち着け小娘、気持ちは熱く、頭は冷静に、じゃ。そんなカッカしとったら中るもんも中らんわ》
「じゃあ、どうしろって言うのよ! あんな化物クラスに!」
イライラしていてつい言葉が荒くなる。
《わしらの目的は何じゃ? 奴を倒すことか? 違うであろう? はやてを守りきることじゃ。向こうが本気でないならそれに越したことはない。それを利用して十分に時間を稼いで見せろ》
アマテラスに言われるまでも無く分かってる。
クライドさんは二人相手に上手く立ち回っている。正面からは決して相手にせず、クライドさんの距離で戦っている。
しっかりと勝つための戦い方をしている。今の所互角に見える。でも、私はそれを見てもこう思ってしまう。
「でも、負けたくない」
《カッカッカ、負けず嫌いじゃのう》
そうアマテラスに笑われる。
「仕方ないじゃない、私はもっと強くなりたいんだから」
頬を膨らませて訴える。私は早くお兄ちゃんみたいに強くなりたいんだから。
《しかし、今のお主では残念な事に勝てんよ。じゃが一泡ふかすことはできるかも知れんぞ?》
「ほんとに?」
アマテラスの言葉に反応する。
《当然じゃ、わしらを甘く見た付けぐらい払って貰わんとな。手加減されてはらわた煮えくり返ってるのは小娘だけじゃないんじゃよ》
「それは良かった」
《良くないわい! もっとお主が強ければこんな気持ちにならずにすんだものを! よりにもよって死なない程度に手加減されるとは! 嘆かわしい!》
「あ~、うん。ごめんなさい」
《御免ですんだら管理局なんぞいらんわい!》
「そ、そんなことより! ちょっと試したいことがあるんだけど」
アマテラスの話を強引にそらす。
《何じゃ?》
「後どのくらい耐えられる?」
《そうじゃな……このような状態だと、もって二発が限界じゃな。それ以降はいつ壊れるか分からん》
「上等、後二発。絶対持たせてね」
《ふん、任せるがいい。小娘こそへまをするなよ?》
「頑張るよ」
アマテラスとそう話して私はアマテラスを鞘に収めた。チン、と澄んだ音を聞き居合いの構えをとる。
「……何か策があるようだな」
「ご親切に待ってもらってど~も」
私とアマテラスが話している最中律儀に待っていた槍の人にそういう。
「何、気にするな」
「その余裕が命取りだって思い知らせてあげる!」
「楽しみにしよう」
そう言って構えたまま間合いをじりじりと詰めていく。
距離がどんどん詰まっていき、槍の人の間合いに入る直前で止まる。しばらくそのまま対峙する。
「どうした? 来ないのか?」
「………………」
そう言ってくる槍の人に沈黙で答える。というか喋る余裕が無い。
改めて対峙してみるととんでもないプレッシャーだ。お兄ちゃんの比じゃない。
途中から気が付いたけど、一歩一歩進むごとに身体に鉛をつけたような重さがまとわり付いて、直前まで来るとそれは顕著に現れる。
自然と、体がこわばり、手に、肩に力が入り、息が上がってしまう。その様子を見られて、
「どうした? 一樹はこの程度の殺気はものともせんぞ?」
槍の人からそんなことを言われてしまう。
「……お兄ちゃんを知ってるんですか?」
「知っている。お前の兄は有名人だからな」
「……あまり聞きたくないけどどう有名なんですか?」
「良い意味でも悪い意味でもだ」
想像してたのとちょっと違ったので少し安心した。
「……どうした?」
「悪い意味で有名人ってだけじゃなかったから安心しただけです」
「ふ、そうか」
「はい、困った兄ですので」
「違いない」
二人で苦笑いする。そう話したら不思議と体が軽くなった。
肩にかかった重さがなくなって、いつもどおり動けそうだ。
「大丈夫のようだな」
「はい!」
「では見せてみろ!」
「行きます!」
そう言って私は槍の人の射程圏内へ飛び込む。その瞬間一瞬の内に三つの突きが私に襲い掛かる。
胸、喉、眉間。急所を狙う三連突きだ。恐ろしいことにほぼ同時に急所三箇所を襲ってくる。最初はまったくといって良いほど見えなかった攻撃、だけど、
(見える!)
目を見開いて集中する。始めの突きを体捌きでかわし、喉の攻撃を篭手でいなし、眉間への攻撃を額当てに当てて軌道をそらす。右手の篭手が弾けとび、額当てが切れて滑り落ちる。
そして入った私の間合い。右手で柄を握って抜刀。狙うのは最初と同じ相手の右脇腹。でも最初と同じように防がれてしまう。
「これで終わりか!」
槍の人がそう言ってくる。でも、最初と違うのは居合いを止められたのではないということだった。
私はアマテラスをそのまま滑らせ、勢いを殺さずくるっと回り背中を見せる。
「隙だらけだぞ!」
槍の人が再び攻撃を仕掛けてくるけど、
(掛かった!)
私は嬉しさのあまりニヤッと笑ってしまう。そこで私はマイケルのトリガーを引く。
バシュ!
と、圧縮空気の漏れる音がして、鞘がそのまま私の腰から槍の人の顔に向かって飛んでいく。
「なっ!?」
そう声が後ろから聞こえたけどその一撃は避けられてしまった。
でも、完全体勢は崩れた。私は回った勢いそのままにアマテラスを相手の首筋に叩き込んだ。
ズガン!
と、音がして手には確かな感触が伝わってくる。が、
「良い攻撃だ。だがあと少しパワーが足りなかったな」
槍の人がそう言ってきた。確かに首筋に一撃を入れることはできた。
遠心力をそのまま攻撃力に変える事ができたはずで、本来であれば気絶したっておかしくないほどの一撃のはずだった。けど、
「右手が無事なら俺もただではすまなかっただろう」
そうなのだ、喉の突きを右手でいなしたとき右手首の骨が折られた。
そのため力を上手く伝えることができず、しとめ損ねたということだった。
「常識はずれの攻撃過ぎませんか? いなしただけで骨が折れるとか」
「お前の兄と同じだ」
「……変態な兄もいたもんですね。……でも」
「でも?」
「私達の勝ちです!」
私はそう言ってその場で防御の姿勢をとる。その瞬間槍の人を桜色のビームが飲み込んだ。
ドゴォォォォォォン!!
至近距離で爆発してそのまま吹き飛ばされる。止まらないと地面に激突してしまうけど力が入らない。
そのまま落ちていく私は衝撃に備えたけど、
ドサ
思っていたほどの衝撃じゃなかった。何でだろうと思い顔を上げると、
「ごめん亜夜、遅くなった」
綺麗な金髪をなびかせてそう言ってきたのはフェイトちゃんだった。
「そんな事無いよ、ベストタイミングだよ」
「亜夜ちゃん! 大丈夫!!」
「うん、大丈夫だよなのちゃん」
私はフェイトちゃんに肩を貸してもらって何とか浮いている。
「動かないで、今治療するから」
そう言ったのはユーノ君だった。
「居たんだユーノ君」
「ちょ! 僕の扱い酷くないか?!」
「うそうそ、ありがとうユーノ君。暖かいよ」
ユーノ君に掛けられている治癒魔法が暖かく感じる。私達はゆっくりとビルの屋上に降り立った。
「全く、手ひどくやられたもんだね」
「ははは、ほんとだよ」
そう言ってきたのはアルフだ。
「ありがとう、なのちゃん、フェイトちゃん、アルフ、ユーノ君」
「それで、あの人達は何で攻撃してくるの?」
「多分、はやてちゃんが狙いだと思う。ヴォルケンリッターが今お兄ちゃんと戦闘中だから。その主のはやてちゃんに事情を聞くみたい」
「え? だったら管理局に一緒に行けば……」
「駄目なの。それはできないの。大雑把に言うとはやてちゃんは管理局に命を狙われてるから」
「「「え?!」」」
三人が驚く。無理も無い。どちらかというとなのちゃんたちは管理局側なのだから。
「私も詳しくは分からないけど、お兄ちゃんは何か知ってるみたい。今夜あたり襲撃があるかもって予測してたし、だからはやてちゃんの護衛に私とシュバルツさんをつけたんだ」
「で、でも管理局がそんなことをするはず……」
「うん、私もそう思う。現にあの人達はまだ自分から管理局だって名乗ってない。管理局じゃないのか、名乗れない理由があるのか……」
「結局の所、一樹から話を聞かないと分からないんだね?」
「うん」
今の所分かっているのはそのくらいだった。私もお兄ちゃんから詳しく聞いてないから、この位しか分からない。
まったく、厄介ごとにいつも顔を出すお兄ちゃんだ。そんな風に話していると、ユーノ君の治癒魔法が効いてきて立てるほどには回復してきた。フェイトちゃんの肩から離れ自分で立つ。
「大丈夫か? 亜夜」
そうしていると、クライドさんが傍に降りてきた。
ガチャ! ガチャ!
それに反応して、なのちゃんとフェイトちゃんがデバイスを構える。
「なんだいあんたは?」
アルフがクライドさんに話しかける。
「あ、三人とも大丈夫だよ。この人はシュバルツさん。はやてちゃんの味方だから」
そういえば三人にはまだ紹介してないんだっけ。
「自己紹介は後にするぞ。まだ向こうは戦う気だ」
「え?」
その言葉に反応したのはなのちゃんだった。
見上げた先は爆発の煙が晴れていて、そこにはどところどころ欠けたバリアジャケット姿の槍の人がいた。ダメージはあまりなさそうだ。
「うそ! 全力で撃ったのにダメージなしなの?!」
「タイミングも良かったはずなのに。防がれた?」
なのちゃんとフェイトちゃんが驚いている。
私は半分予想はしていたけど実際に目のあたりにすると正直愕然とする。
「嘘でしょ? どんだけ差があるのよ」
「亜夜、あの人どんな相手なの?」
フェイトちゃんが聞いてくる。
「強さはお兄ちゃん級、とんでもない相手って事は分かった。アマテラスもこんなんにされちゃった」
そう言って私はアマテラスを持ち上げる。そうすると四人が息をのんだ。
アマテラスは既にぼろぼろ、ヒビが入り、刃と峰の部分は既に攻撃を防御した際にはつられてしまっている。
正直ここまで良く耐えてくれたと思う。
「「ッ!」」
なのちゃんとフェイトちゃんが息を呑む。自分の相棒であるデバイスがここまでぼろぼろされ、しかもそれでも勝てない相手。
「なのちゃん、アレ撃てる?」
このまえ、カリウムをしとめた必殺技、
「え? 時間が掛かるけどそれさえクリアすれば……」
「じゃあ、みんなで時間を稼ぐからお願い。こうなると、結界を壊して無効化させて向こうを引かせるしかないかも……」
私の作戦を言う。
「随分と力技だな」
「他に方法が思いつきません」
「相手はどうする?」
「私とユーノ君は後衛の人を、フェイトちゃんはアルフと槍の人、シュバルツさんはローラーブレードの人をお願いします」
「妥当な所か……しかし亜夜、それで戦えるのか?」
クライドさんがぼろぼろのアマテラスを見ていってくる。
「アマテラスじゃあ、もう無理です。仕方が無いのでこっちを使います」
そう言ってアマテラスの格納領域から一本の日本刀を取り出す。
「それは?」
「居合いの練習用に使ってる居合い刀です。刃の部分はつぶれているので大丈夫です」
流石に人なんか殺したくない。
「亜夜、大丈夫?」
フェイトちゃんが心配して聞いてくる。
「大丈夫とはいえないかな、でもここでやんなきゃはやてちゃんを守れないもん」
「亜夜ちゃん! 私、集中して早くチャージして撃つから無理はしないで」
「うん、じゃあお願い」
そう言って私達は上にいる三人を睨みつける。これで終わりにできれば良いんだけど…………。
そう思いながら居合い刀を握り締めた。
― 斎藤一樹 ―
「開門!!!」
《了解、龍門(チャクラ)の開門を確認、全魔力を身体強化に移行》
そう叫んで七つある内の龍門(チャクラ)四つを無理やりこじ開ける。
次の瞬間身体から恐ろしいほどの「氣」が溢れ出る。それを制御し、外に出さずに身体の内側で巡廻させる。心臓の鼓動が早くなり、体が熱くなって、筋肉が膨張する。
そして目前に迫ったギガントシュラークを迎撃するため拳を握り「氣」を込め思いっきり殴りつける。その際、俺を拘束していたチェーンがブチブチと音をたてていとも簡単に切れていく。
ガギャン!!
爆発音にも似た音をたててギガントシュラークが押し返され、その衝撃でアイゼンに罅が入る。
「んなっ!!」
あまりに予想外の事態にヴィータは呆然とする。
それはそうだ、よもや自分の全力攻撃がはじき返されるとは思わなかっただろう。
しかしヴォルケンリッターの攻撃はこれで終わりではない。第二撃としてシグナムの攻撃が来る。狙いを定めたシグナムが目を見開く。
「翔けよ隼! シュツルムファルケン!!」
そうして放たれた一撃は、大気を引き裂き、すさまじい速度で俺に向かってくる。
俺は矢を冷静に見つつ、中る直前で両手で矢を白刃取りしそのままシグナムに投げ返す。
「?!」
放たれた速度と同じ速さでシグナムに返っていく。
ズドォォォォォン!!!
シグナムは防御の姿勢をとることすら出来ずに、矢に当たり地面へ落ちていく。
弓矢返し
本来であれば速度を更に上乗せして相手に返す技だが、今の段階ではそこまで出来ない。
返すだけで精一杯である。その証拠に白刃取りした手は焼け焦げてしまっている。
が、今はそれを気にしているときではない。痛みを我慢し、ザッフィーの懐へ入る。
「なっ! 消え」
ボゴォ!
ザッフィーの言葉を最後ま続かなかった。密着した状態から俺の左拳がザッフィーの腹にめり込んでいる。
虎砲
拳を相手に密着させた状態から、全身の力を一気に叩き込む技だ。
中った箇所が陥没するほどの威力で、命中したザッフィーの腹部には拳程の大きさに陥没している。
そしてそこでザッフィーが意識を手放し、俺にもたれかかってくる。
「このヤロウーーー!」
ザッフィーの背中側からヴィータが突っ込んでくる。
それを迎撃するべく、ザッフィーの胸に右掌を添え、左手を自分の右肩に当て、両足で渾身の踏み込みをする。
足から螺旋状に身体を這い上がってくる衝撃を右手に流し、その衝撃は右手を伝い、ザッフィーを素通りし、ヴィータを捕らえる。
ズドン!
自分から突っ込んで行ったところにカウンターで命中し、意識を飛ばされ地面に落ちていくヴィータ。
通背拳
掌を当てたものでなくその先にあるものを攻撃することが出来る。
掌に集めた氣を震脚の衝撃と共に全身の捻りで打ち出す技で、打点を自由に動かすことが出来る。
今回はヴィータに当てたが、ザッフィーに当てることも出来る。今回みたいに死角になっている位置から打つことの出来る便利な技だ。
「ヴィータちゃん!」
「シャマル先生」
「なっ!!」
俺はすでにシャマル先生の目の前にいて、顔の前で拳を止めている。
シャマル先生にはそれが見えなかったようだ。シャマル先生は驚いた顔のまま固まっている。
「ヴォルケンリッターの負けです」
「……そうみたいね。私達の負けよ」
そう言ってシャマル先生は両手を挙げて降参のポーズをする。よし、言質とった!
「……ふう」
それを確認して俺は拳を下ろす。と同時に龍門(チャクラ)を閉じる。すると同時に目の前が暗くなってくる。
「あ……やべ」
「一樹君?」
シャマル先生が俺の様子を見て声をかける。
しかし俺はそれに反応できずに、ふらついて地面に倒れる。
《騎士シャマル! 一樹に治癒魔法を!! 早く!!》
スサノオが何か言った気がしたけど、俺は意識を繋ぎ留める事ができなかった。
― 高町なのは ―
私はマンションの屋上で、あたり一面に散らばっている魔力を収束し始めた。
急いで、でも丁寧に集めていく。構えたレイジングハートの先に魔力が集まって、形作っていく。
(もっと、もっと集めないと)
でもこれじゃあ、まだ足りない。魔力自体はカリウムさんのときと同じくらいにはなっているけど、それじゃあこの結界は破れない。
戦闘が始まってそんなに立っていないのに状況は悪くなるばかりだ。
フェイトちゃんはスピードで相手に攻撃を絞らせないようにしてるけど、だんだん被弾するのが多くなってきている。アルフさんの防御が間に合ってるからまだ酷いのは貰ってない。
亜夜ちゃんとユーノ君は、後衛の人に向かっていったけど、途中何処からとも無く現れたすごく大きなカブトムシみたいな虫に邪魔されていた。一匹自体はそんなに強くないみたいだけど数が多い。それこそ無制限と思うくらいに出てきている。
シュバルツさんも、段々近づかれてきている。
(みんな御免、もう少しだから!)
もう少しでチャージが完了する。そんな時、
ゾク!
背中に悪寒が走る。慌てて、振り返ってレイジングハートを頭の上に持っていっていく。
ガン!
振り下ろされた何かがレイジングハートに当たって火花がちる。
「な、何?!」
それは黒い人だった。全身黒くって装甲みたいなものに覆われていて、目の部分が四つ光っている。
そしてその人の腕が変形して刃になる。そこから連続で攻撃してくる。
ガン! ギャン! ガキン!
それをレイジングハートで何とか防ぐ。でも、一回受けるごとにレイジングハートから嫌な音が響く。
「なのちゃん! ユーノ君お願い!」
「分かった!」
こっちに気づいた亜夜ちゃんがユーノ君にお願いする。
「なのは! 下がって!」
「うん!」
そういわれてその人から離れる。そしたらユーノ君が間に入って防御シールドを張ってくれた。
「なのは! 大丈夫!?」
「うん! でもレイジングハートが……」
《ザッ……大丈夫です。マスター……ザ……いけます》
たった数回、攻撃を受けただけでレイジングハートがかなりダメージを受けちゃった。そんなに差があるなんて!?
「無理しないでレイジングハート。でも、お願いこれだけは耐えて」
そう言ってまた魔力を収束していく。でもそうしている内に、
「キャーーー!」
そうしていると今度はフェイトちゃんが攻撃を受けて、マンションに飛ばされてしまった。
すごい音をたててビルに衝突する。
「フェイトちゃん!」
飛ばされたほうを見ると、フェイトちゃんが身体を起こそうとしていた。
「キャーーー!」
今度は亜夜ちゃんが落された。亜夜ちゃんはそのまま地面にぶつかって動かない。
少し立つとバリアジャケットが解除されてしまった。どうやら気絶してしまったみたいだ。
「私が、私が遅かったから……」
もっと早く完成させることができたら! 自然とレイジングハートを持つ手に力が入る。
《マスター、まもなく撃てます》
「分かったよレイジングハート!」
《カウント開始します。10……9……8……》
レイジングハートのカウントが進んでいく。
《7……6……5……4……3……3……3……》
レイジングハートが弱々しく点滅して、カウントが進まない。かなり無理しているみたいだった。
「レイジングハート! お願い! 頑張って!!」
《オーライ、マスター。カウント3……2……1……》
カウント3で目の前に魔方陣が出てくる。
《0!! 撃てます》
「スターライト、ブレイカーーーーーー!!!」
収束した魔力が魔方陣から撃ちだされる。
撃ちだされた収束砲はそのまま上空に吸い込まれて、結界を貫いて夜の空に消えていった。