魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第三十六話

― 斎藤一樹 ―

 

 はやての叫びを聞く前に強い魔力を感知した。それと同時にスサノオが報告してくる。

 

『クソ野郎、はやての位置から強い魔力反応有り』

 

「知ってる!」

 

『な、なんなんや! 一体!?』

 

 聞こえてきたのははやての叫び声。と言うかこの状況で考えられる事は一つ「闇の書の起動」だ。

 襲撃の可能性も無くはないが、はやてに会う前に丁重にお帰り願ったのでその可能性は低い。

 しかし、はやての誕生日まで一カ月以上あるというのにもう起動するのか? ちょっと早すぎないだろうか?

 そう思いつつ気配を探ると、はやての部屋から感じた気配は五つ。

 

「ッ!?」

 

 全身に緊張が走る。おかしい。ヴォルケンリッターならシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人のはずだ、それが五つあるという事は襲撃者か!?

 不味い! ほんとにそうならこの遅れは致命的だ。俺は急いではやての部屋に向かう。リビングから飛び出し、廊下を駆け抜け、はやての部屋のドアを勢いよくあける。

 

「どうしたはやて!」

 

「か、一樹兄ちゃん!」

 

 俺が部屋に飛び込むと、ドアの近くにへたり込んでいたはやてが飛びついてきた。俺ははやてを受け止めて前を見ると、そこにはヴォルケンリッターがいた。ヴォルケンリッターだった事にほっとしながら急いで確認する。が、

 

「五人……だと!?」

 

 驚いて声に出す。

 そこにはシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラそして……? 誰だ?

 顔はうつ伏せになっていて見えないが、髪の色は黒、短く切りそろえてあり、体格は普通より鍛えられている感じだ。

 って言うか、何で一番後ろで傷だらけでボロボロになってぶっ倒れているんだ?! そんな事を考えていると四人が話しだす。

 

「闇の書の起動確認しました」

 

 桃色髪をポニーテールにしたけしからん胸を持つシグナムが応える。

 

「我ら闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士でございます」

 

 金髪でショートボブのほんわかした雰囲気のリツk訂正、シャマルが応える。

 

「夜天の主の元に集いし雲」

 

 犬の耳と尻尾を付けたメイン盾のザッフィーが応える。

 

「ヴォルケンリッター、何なりと命令を」

 

 最後に赤い髪を三つ編みで二つにわけたエターナルロリータのヴィータが応える。

 

「…………」

 

 もちろんヴォルケンリッターの後ろに倒れてる人からの応答はなかった。大丈夫か?

 他の四人は後ろの人の事気付いているのだろうか? そろそろ本気で倒れている人の事を心配し始めた時、

 

「キュウ~~~」

 

 と言ってはやてが可愛い声を出して目を回し意識を失う。

 脳が考える事を放棄して機能を一時停止したか、闇の書の起動の反動かは分からないが、このタイミングはっきり言って最悪である。ヴォルケンリッターの皆様が俺をぬっ殺すフラグが立ってしまった。

 

「おい! はやて!?」

 

 俺はそれを回避するためはやてに声をかけるが、

 

ジャキ! ヒュン!

 

 と音がしたと思ったら、首のあった位置を何かが通り過ぎ空気が流れ、頬をなでる。

 それはいち早く動いたシグナムのデバイスであるレヴァンティンの通った音だった。

 俺は寸でのところで体を後ろに引き斬撃をかわす。どうやらフラグは折れなかったらしい。

 

「……今のをかわすか。貴様我が主に何をした」

 

 言いがかりです。どちらかと言うと俺がしたのではないのですが……。

 徐々に殺気を強めていくシグナムに声をかける。

 

「落ち着けピンク」

 

「誰がピンクか! 私はヴォルケンリッター、烈火の将シグナムだ」

 

「同じく、鉄槌の騎士ヴィータ」

 

「湖の騎士、シャマル」

 

「盾の守護獣、ザフィーラ」

 

「…………」

 

 もう、後ろの人はとりあえずほっとこう。気配を感じるってことはとりあえず生きてるみたいだし。

 

「え~っと、マグナムにPSPにランスロットにザッフィーか? ずいぶん個性的な名前だな?」

 

「ちげーよ! ほとんどあってねーじゃねーか! テメー、馬鹿にしてんのか!?」

 

「うん。厨二チックな二つ名を名乗る人にはその位がちょうどいい」

 

「決めた。テメーはアイゼンの頑固な汚れにしてやる!」

 

「自分の武器を好んで汚すとか、馬鹿なの? 死ぬの?」

 

「ぶっ潰す!!」

 

 ヴィータが顔を真っ赤にしてデバイスを起動し、振りかぶって襲いかかろうとするが、それをシグナムが止める。

 

「落ち着けヴィータ。まだ我が主がやつのそばにいる。そのまま攻撃するのは不味い」

 

「フゥーハハハハハ! 貴様らの主は我が手中! おっと動くなよ? 動いたら主の首が胴体とお別れする事になるぞ?」

 

 俺ははやての首筋に手を置く。

 

「クッ! 貴様! 卑怯だぞ!」

 

「ありがとう」

 

「誉めてないですよ?!」

 

「貴様! それでも男か!」

 

「テメー!」

 

 ヴォルケンリッターの皆様が悔しそうに歯ぎしりする。やべぇ、何か楽しい。そう思ってさらにからかおうとすると、

 

スッ

 

 と首筋に刀が添えられた。そして底冷えする程冷たい声で聞かれた。

 

「何してるの? お兄ちゃん?」

 

 その声の主は亜夜だった。

 

「あ、亜夜? どうしてここに? っていうか何時からそこに?」

 

 震える声で亜夜に聞く。この妹、放つ殺気が半端じゃねー!

 

「お兄ちゃんの高笑いが聞こえた時ぐらいから。ここにいる理由は、ちょうど学校から帰って来たときに、はやてちゃんの部屋から魔力を感じたからアマテラスに頼んで索敵したら何かもめてるみたいだったから助太刀しに来たんだけど……敵はお兄ちゃんだったんだね?」

 

 ペチ、ペチと俺の首筋を起動して抜刀した状態のアマテラスの平地で叩く。亜夜? これ非殺傷設定だよね?

 

「まてまて! あっちに訳の分からん連中がいるぞ!? 俺よりそっちを疑うべきじゃないのか?!」

 

 そう言うと亜夜は視線をヴォルケンリッターに向けるがすぐに俺の方を見る。

 

「さっきの会話を考えると、はやてちゃんを守ろうとしている人達(ヴォルケンリッター)に、はやてちゃんを人質にとる悪役(お兄ちゃん)だよね?」

 

ジャキ!

 

 と音がして、今まで刀の平地の部分がぺチぺチ当たってたがそれが返り、刃先が首の方に向く。

 

「ちょ! 危ない! 非殺傷設定でも刃先を向けちゃ駄目だろ!」

 

「殺傷設定だよ?」

 

「もっと駄目だよ?!」

 

 亜夜のとんでもない一言に驚愕する。そして俺の意識が完全に亜夜に向く。するとシグナムが鋭く声をあげる。

 

「シャマル! 今だ!」

 

「ええ!」

 

 そう言うとシャマルが持っていた闇の書が開き、目の前に円形の空間が出てきてその空間に手を入れる。

 

「やばっ!」

 

 それを見た瞬間やばいと感じるが時すでに時間切れ。

 俺の胸から手が生えてきて、その手にはリンカーコアが握られていた。

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

 俺の胸から生えてきた手にビビる亜夜。対する俺は、

 

「お~、これが俺のリンカーコアか……」

 

 シャマルの手の平の上に浮かんでいるリンカーコアを見て感嘆の声を上げる。

 

ツンツン

 

 さらにつついてみると何か胸のあたりがくすぐったかった。

 

「リンカーコア捕獲! 蒐集開始!」

 

 シャマルが声を上げ蒐集を開始する。

 リンカーコアから魔力が抜かれていき、闇の書のページが埋まっていく。

 

「ンンンンギモヂイイイイイイイィィィィーーーーーーー!!」

 

「ぶーーーー!!」

 

 あまりのくすぐったさに変な声を上げる俺に、それを聞いて噴き出す亜夜。

 蒐集は一瞬で終わった。それと同時にその場にうつ伏せに倒れ、

 

「く、悔しいでも感じちゃう」

 

 ビクンビクンと痙攣する。

 

「ちょ、お兄ちゃんやめてよ。はたから見るとかなりキモイよ?」

 

「……それもそうだな」

 

 そう言って俺は体を起して立ち上がる。

 その際はやてを抱え(例によって小脇に抱えいる)ベッドの横に移動し寝かせる。その様子を見てヴォルケンリッターの皆様がかなり驚いていた。

 

「な、何で動けるんですか?!」

 

 シャマルが代表して俺に聞いてくる。

 

「む? 失礼な。怪我もしてなけりゃ意識もある。動けるのは当たり前だろう?」

 

「……そうではない。リンカーコアから魔力を残らず吸い取ったのだ。普通なら三、四日は動けんはずだが?」

 

 それを聞いたシグナムが答えてくる。

 

「魔力が空になったくらいで動けなくなる訳ないだろ?」

 

「今まで蒐集してきた連中は例外なく動けなかったぞ?」

 

 俺の答えに突っ込むヴィータ。

 

「鍛え方がたんねーんじゃね?」

 

「ほんとに貴様は何者だ?」

 

 ザフィーラが人外でも見ている様な表情になる。ザッフィーにその目で見られるとは思わなかった。

 

「あ~、そうだった。自己紹介がまだだったな。俺は斎藤一樹14歳、管理局地上本部、首都防衛隊所属三等陸士だ。はやてとは家が隣同士でここにいる亜夜の友達だ。まあ、俺ともそうだが。あ、ジャミル「闇の書」何ページ埋まった?」

 

「シャマルです! え、え~と九頁半ですね……じゃなくて管理局?!」

 

 そう言うとヴォルケンズは一斉に戦闘態勢に入る。が、

 

「あ~、待った待った。戦う気はさらさらないよ? しかし、九頁半とか……しょぼ。オリ主ならどーんと三ケタ位埋まるのが常識だというのにorz」

 

 地味に落ち込む俺にシグナムが追撃する。

 

「ふん、存外大したことはなかったのだな」

 

「おふぅ」

 

 俺のハートがブロウクンファンタズム。それは兎も角気を取り直して答える。

 

「本当に戦う気はないので安心してください」

 

「信用ならんな」

 

「えぇ~! じゃあどうすれば信用してくれる?」

 

「先ほどまで我が主を人質にしていた輩の言う事を信用出来ると思っているのか?」

 

 …………すごく正当な意見です。

 

「え~っと、じゃあはやてからの説明なら納得するって事?」

 

「そうだな。我が主からの説明ならば問題無い」

 

「じゃあ、はやてが起きるのを待つか。亜夜すまん母さんにご飯は遅れると言っといてくれ。トラブルがあって立て込んでるって」

 

「うん、分かった。あ、すいません兄が迷惑かけました」

 

 亜夜はそう言うとペコリと頭を下げて謝る。

 

「いや、少々驚きはしたが被害はない。頭を下げないでくれ。それに下げるべき者はそいつだ」

 

 そう言って俺の方を指さす。

 

「それもそうですね。お兄ちゃん! この人達にちゃんと謝ってよね!」

 

「フヒヒ、サーセnすいません。マジごめんなさい。すいませんでした」

 

 亜夜がまたアマテラスを首に突き付けてきたので慌てて姿勢を正して土下座する。

 

「よろしい。じゃ、私は戻るから。あ、お母さんに言ったらまた来て良い?」

 

「良いけど、ご飯はどうすんだ? 食ってくれば良いじゃねーか?」

 

「……あのね、はやてちゃんが倒れたんだよ? 心配するのは当たり前でしょ! ご飯は後でも食べられるから良いの!」

 

「ああ、それもそうか。まあ、大丈夫だと思うけど来たいんならどうぞ?」

 

「うん、分かった」

 

「じゃ、よろしくな」

 

「は~い」

 

 亜夜はそう言って部屋から出ていく。

 

「よく出来た妹だな。ほんとに貴様の妹か?」

 

「正真正銘、俺の妹です。親が再婚してその時の連れ子とか、俺が捨て子で実は本当の兄妹じゃないとか、その逆で亜夜が捨て子とかじゃないので安心してください」

 

「何の安心だ」

 

「実は義理の妹でしたっていうフラグ。大きくなったら告白されて大いに困るフラグです」

 

「……貴様は妄想癖でもあるのか?」

 

「んな訳ない」

 

 基礎知識のない人にこう言った話をすると、こう言う答えが返って来るという事を思い知らされました。

 

「所で、後ろで倒れてる人はどちらさま? 一緒に出てきたみたいだけど?」

 

 俺はいまだに倒れている人物を指さしてヴォルケンリッターの皆様に聞く。

 流石にこのままではあまりにも不憫でござる。

 

「「「「え?」」」」

 

 そう言われて初めて気が付いたのか倒れている男を全員が見る。

 

「シグナム、おめーの知り合いか?」

 

「いや、知らん。シャマル心当たりはないか?」

 

「ないわね。誰かしら? ザフィーラは?」

 

「知らん」

 

 どうやら全員知らんらしい。

 

「知らないなら知らないで良いんだけど、怪我してるみたいだから手当位してあげたいんだけど? それともそっちで手当してくれる?」

 

「む、そうだな。もし仮に我々と一緒に出てきたのなら我等の仲間の可能性がある。シャマル、頼めるか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「問題ない」

 

「何でテメーが答えんだよ?」

 

「勢いでつい」

 

 ヴィータの突っ込みに平然と答える。そんな俺はほっといてシャマルが治療を開始する。

 

「クラールヴィントお願い」

 

 そう言うと男を緑色の光が包み込み怪我がみるみる治っていく。

 

「お~、傷があっという間に治っていくな。相変わらず回復魔法って便利だよね」

 

 俺は龍掌で人の怪我は直せるが自分の傷は治せない。何とも不便なものである。

 なので回復魔法を習得しようとしたのだが才能がないのか適正がないのかほとんど使えなかった。

 一応かすり傷程度なら直せるのだが、自分の体の回復とほぼ同じなのであまり意味がない。

それは兎も角、男を回復したは良いが目を覚ます気配はない。

 

「完治した?」

 

「ええ、傷は全部ふさいだわ。でもダメージがまだ残ってるのみたいね。バイタルは安定しているけど、目を覚ますにはもうちょっとかかりそうよ」

 

「ふ~ん。つかぬ事を聞くけど今まで五人じゃなかったの?」

 

「ああ、守護騎士と言う意味では我等は五人では無く元々四人だ。前回起動したときもそうだった」

 

「増える可能性はあるの?」

 

「なくはないだろうが、初めての事なのでな何ともいえん」

 

 まあ、そうだろな。しかし起動が一カ月近く早まるとは予想GAIです。

 まあ、早まった分早く蒐集出来るのは良いけどはやての病状の進行が早まるとか勘弁願いたい。

 

「おい、一樹とかいったな? 管理局の目的は何だ?」

 

「目的?」

 

「惚けんじゃねー! 管理局が「闇の書」を狙う理由だ!」

 

「あ~はいはい、その事ね」

 

「やっぱり管理局はまだ「闇の書」を追っているんですか?」

 

「う~ん、どう説明したもんか」

 

 ここで話して良いもんか? いきなり「闇の書」を「夜天の書」に修復するぜ! って言っても信じてくれそうにないし、しかもはやてはまだ起きないし。今のヴォルケンリッターの方々警戒心マックスだしな~。

 

「……答えられん理由でもあるのか?」

 

「ん? そうじゃないんだが、話して信じてもらえるかどうか分かんねーし」

 

「それを決めるのは我々だ」

 

「……さっき俺の事信用できないって言ったばっかじゃなかったけ?」

 

「信用は出来ん。が、聞いた情報の正誤を決めるのは我々だ」

 

「ま、その通りか。じゃあ話すけど心の準備は万全か?」

 

「良いからさっさと話せ」

 

 俺は一度深く呼吸をして話す。

 

「管理局の目的は「闇の書」を修復して「夜天の書」に戻す事だ」

 

「ふん、出鱈目を」

 

「ほれみろ、信じねーじゃねーか!」

 

「そのような事信じられるか。管理局とは長い間敵対していた。それこそ貴様が生まれる前からだ。それがいきなり修復だと? 「闇の書」は壊れてなどいない」

 

 聞く耳もたんといった感じのシグナム。

 

「そっちがどう言おうが管理局の目的は変わらない。これは地上本部と海との合同プロジェクトだ。過去の管理局員が「夜天の書」を改編し「闇の書」にしてしまった事の清算を俺達がする事になったんだ」

 

「ふん、勝手にしろ。そっちが本当の事を話さん限りこっちが貴様らを信用する事はない」

 

「ほんとだってのに」

 

 ふう、とため息をつく。ファーストコンタクトがどうであれ、この話が通じるとは思っていない。誰だって「あなたは壊れています。修理するから手伝って」て言っても信じられるもんじゃない。

 やっぱりここははやてと一緒に少し過ごしてもらうしかないだろうな。それまでに拠点作らないとだな。

 そんな事を考えているとシャマルが話しかけてきた。

 

「え~っと一樹君? ちょっと聞きたいんだけど、私達の主、はやてちゃんって言ったわよね?」

 

「ん? そうだけど?」

 

「はやてちゃんどこか悪いの?」

 

 そう聞いてきたシャマルの視線の先には車椅子があった。

 

「ああ、こっちの医者だと原因不明の下半身の麻痺だけど、シャマルなら原因分かるだろ?」

 

「ええ、どうも「闇の書」が負担をかけてるみたいね」

 

「……ほんとか?」

 

 シグナムが聞いてくる。

 

「ええ、どうも過剰に魔力を吸い取ってしまっているみたいね。それをどうにかしないと麻痺は治らないわね」

 

「書を完成させれば治るのか?」

 

「そうね。多分そうだと思うわ」

 

「そうか、ならば「あ~、ちょいと待ち。蒐集に関してはまだするな」……貴様には関係ない」

 

「先ずは主に許可をとってからするのが筋ってもんだろ?」

 

「む、確かにそうだな」

 

 蒐集する気満々のヴォルケンリッターの皆様。

 

「まだはやてと話もしてないんだから起きるまで待っとけ」

 

「言われるまでもない」

 

 はあ、早くはやて起きてくんねーかなー。亜夜も妙に遅いし。だんだんと無言の時間が増えていった。

 

― 八神はやて ―

 

 うーん、ちょっとしたぬくもりを感じながら寝返りをする。何や変な夢を見た気がする。

 自分の部屋で泊るための準備をしとったら、本棚の本が勝手に動き出して、しかも床に出てきた魔法陣から人が出てきよった。でも今こうしてベッドの上にいるちゅうことはきっと夢やったんやな。

 そらそうや、本が勝手に動いたり、いきなり魔法陣が浮かび上がってそこから人が出てきたりするはずがあらへん。

 漫画やアニメや小説やないんやから。そんな事を考えながらふと思う。

 

(はて? うちは何時の間にベッドに入ったんやろか?)

 

 確かに今日は朝にしっかりと起きたはずや。そのあと朝ごはんを食べて、勉強もして、そのあとに図書館に行ったはずや。その帰り道に一樹兄ちゃんにあって…………

 

「!?」

 

 まさかと思いながらベッドから身を起こす。足は動かないので手で体を支えている。

 

ガバ!

 

 体にかかっていたタオルケットが床にずり落ちる。

 そして起きた私が見たんは、一樹兄ちゃんと、黒いピッチリとしたインナーをきた四人と、違う服装で横になっている一人やった。

 

「お、やっと起きたか」

 

「か、一樹兄ちゃん? そっちにおるんはどちらさん?」

 

「ん? 覚えてねーのか?」

 

「うっすらとしか」

 

「そうか、じゃあ改めてもう一度聞くと良い」

 

 ほれ、そう言って一樹兄ちゃんが促してくる。

 私はそれを見て、四人の方を見ると、四人とも片膝着いて下を向いとった。なんやかしこまった感じや。

 

「そ、そやね。ゴホンッ。それじゃ改めて、あんさん達は誰で何でここにおるん?」

 

「ハッ、我等はヴォルケンリッター。主と闇の書を守る守護騎士に御座います。闇の書が起動したため参上いたしました」

 

「闇の書?」

 

「これにございます」

 

 そう言って金髪の人に本を渡された。それは部屋の本棚に置いておいた鎖で開かんようになっとった本やった。

 今は鎖はなくなって、自由に開くようになっとる。ちょっと気になったんでペラペラとめくると、始めの数頁まではなんや知らない文字で書かれとったけどそのあとは全部真っ白やった。

 

「始め以外真っ白なんやけど?」

 

「それは「蒐集」をしていないからです」

 

「蒐集?」

 

「はい、魔力のあるものから魔力を奪い、「闇の書」の力にするのです。「闇の書」が完成すれば主の足も治り、巨大な力が手に入ります」

 

「と、言う事はもう誰かから蒐集した言う事やな?」

 

「はい。それはs「アホーーーー!!」あ、主?」

 

「あかんやんか! その人は大丈夫なん? 奪うなんて人様に迷惑をかけるようなことしたら絶対にあかん! それやったらうちはこのままの方がましや! それで誰からとったんや!? 謝らんと……」

 

「あ、はやてそれ俺から」

 

「は?」

 

「だから俺が蒐集されたんだよ。だから俺に謝れ」

 

「……ハッ。一樹兄ちゃんやったんか。どうせまたしょうも無い事して困らせたんやろ? それやったら自業自得や。うちが謝る必要は何処にもあらへんし、この人達が謝る必要もあらへん。むしろ一樹兄ちゃんが謝れ」

 

「鼻で笑うとか信じらんねー。しかし、事実なので言い返せません」

 

「まあ、蒐集やったけ? それをされたんが一樹兄ちゃんで良かったわ」

 

「俺の心配とか一切無しな事に視界がぼやけそうです」

 

「……で大丈夫だったん?」

 

「くすぐったかった」

 

「死ねばええんとちゃうか? まあ、それは兎も角、今後は蒐集は禁止や。うちはそんな力要らんし、みんなと楽しく暮らせればそれでええよ。だから、みんなの名前おしえてな」

 

「ですが主。よろしいのですか?」

 

「ええんよ。人様を不幸にしてまで幸せになりたいと思わんよ。そんな事より名前教えて」

 

「分かりました。私は烈火の将、シグナム」

 

「鉄槌の騎士、ヴィータ」

 

「湖の騎士、シャマル」

 

「盾の守護獣、ザフィーラ」

 

「拳の騎士、一樹」

 

 みんなが順番に答えていくなか、ついでに俺も答えてみた。

 

「一樹兄ちゃんは騎士というより道化師やな。うちは八神はやて。よろしゅうな。新しい家族が出来て嬉しいわ」

 

 そう言ってみんなと握手をする。

 

「うちの家族はお払い箱ですね分かります」

 

「んな訳あるかアホ―! 昔っから家族やろ!?」

 

「俺とはやてがいつの間にか結婚してた。とんでもない飛躍に俺も驚きを隠せない」

 

「……ハッ! そう言う事は鏡を見てから言いや」

 

「……はやての突っ込みが何時になく容赦がない気がする」

 

 若干へこんどる一樹兄ちゃんは置いといてっと。どうするか考えていると玄関が開く音が聞こえた。誰やろ?

 

「はやてちゃん起きた?」

 

 部屋にきたんは亜夜ちゃんやった。

 

「お、亜夜遅かったな」

 

「うん、ご飯の手伝い頼まれちゃって。とりあえず作り終わったから来たんだけど、どうする? ご飯出来たけど?」

 

「ん、じゃあみんなで食べっか。はやてもそれでいいか?」

 

「ええよ、その前にみんな何か着いへんとあかんな」

 

「俺はこのままでも良いけど?」

 

「「おまわりさんこっちです!!」」

 

 そう言って私と亜夜ちゃんは一樹兄ちゃんのお母さんを呼ぼうとする。

 

「嘘です。ごめんなさい」

 

 そんな事を言いながら準備を始めるうちらやった。

 

 

 


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