― 斎藤一樹 ―
単刀直入に言おう。仕事が増えた。
「どうしてこうなった?」
「事前の調整も無しに人一人生き返らせるからだ!」
「サプライズって大事だと思うんだ」
「ああ、ビックリしたよ! ついでに言えば母さんの鬼の様な形相をみて更にビックリだよ!!」
「ああうん、ゴメン。あれには俺もビビったわ~」
俺の呟きに対しクロノが突っ込む。そしてその時の状況を思い出して反省する。
だが後悔は……今回は少ししたかも。事前の打ち合わせは大事だよね。
アリシアを蘇生させた後リンディさんに連絡を入れ、医務室まで来てもらい事情説明。そしてその結果、アリシアの蘇生方法をどうするかでもめた。
「あ~、馬鹿正直に「龍の涙」で蘇生って書いたら拙いっすよね?」
「当たり前です! 唯でさえ近年ウォータードラゴンの個体数が減少傾向で準絶滅危惧種に指定されているのに、こんな情報が出たらあっという間に絶滅するわよ!?」
そりゃそうだろう。なんせ万病を治し人を生き返らせる程のものだ。
それこそ全財産をなげうってでもほしい人間は腐るほどいるだろうし、そんなものを作り出せるウォータードラゴンが密漁者どもから乱獲されないはずがない。
仮に造り出せるのがヴァリトラだけであろうとも、それを欲しがる連中が「ハイそうですか」といってそれを信じる訳がないし、ヴァリトラが密漁者の卑怯で下劣で陰湿な攻撃から身を守れる保証はどこにもない。
因みにウォータードラゴンは比較的温和な性格で、好奇心が強く人懐っこい性格なのだ。
なので生息域に行くと船に近寄ってくるため比較的高い確率で見る事が出来る。まあ、船が小さいとすり寄られて沈没する時があるのだが。
しかしその性格が仇となり、密漁者に乱獲され個体数が激減してしまった。やはり高価なのだドラゴンの素材は。骨や肉、皮等余す事無く加工する事がでる。高級ブランド等にも龍革の製品があり、初めてみた時は店の前で大爆笑し、本物だと知った時の衝撃は今でも忘れる事が出来ない良い思い出でもある。
「ですよね~……マジでどうしよう」
流石に恩をあだで返すのは信条に反するのでそれは絶対にしたくない。
「ハッ! 虚数空間の不思議パワーで生き返ったとか!」
「いや、虚数空間はどちらかと言うと命を吸い取りそうだけど?」
「……却下だな」
代案を出すもユーノの意見であっさり撃墜。
「元々、意識不明って事には出来ないの?」
これは美由希さんだ。
「それも無理だろうな。意識不明でも生きていれば成長はする。髪も伸びれば背も伸びる。確か26年だったか? その間意識不明で子供の姿じゃ厳しいだろう」
「更に言えばアリシアの死亡診断書も出てるんだよね……ほら」
士郎さんが欠点を挙げ、エイミィが止めをさす。
エイミィが出した画面にはヒュードラの暴走事故の際の関係書類が出され、そのうちの一つにアリシアの死亡診断書があった。
よって元々生きていましたと言うのは却下。
「俺の「氣」の不思議パワーで生き返ったとか?」
「その場合高確率で一樹がどっかの研究所で実験体(モルモット)になるんじゃないか?」
「良いんじゃないかそれで」
「ク、クロノ君!?」
「……ド却下で」
恭也さんの物騒な発言で却下。
しかしクロノ、真顔で肯定するな。地味になのちゃんが驚いとる。その様子を見てリンディさんが動く。
「ふう……クロノ、最後に暴走していたジュエルシードの数は幾つだったかしら?」
「三つですね」
「仕方ないわね、その三つのジュエルシードでアリシアさんが偶然蘇生した事にしましょう。ジュエルシードはその時に砕け散ったが妥当かしら?」
リンディさんが新たに提案してくる。
「そうするとそのジュエルシードはどうするんですか?」
「今の所それが問題ね。下手に捨てようものならどこかで必ず発動するでしょうし、預けるにしてもこれほどのものを預けるとなるとちょっとね……」
流石のリンディさんでもロストロギアを管理保管出来る人の心当たりはないようだ。
となると父さんも無理ってことか。そしたら駄目もとで言ってみるか。今後使う可能性があるし。
「艦長、それ俺が預かっちゃ駄目ですか?」
「一樹?」
何時もと違う様子の俺を不思議そうに見るクロノ。
「元はと言えば俺の責任です。俺が責任を持って預かります」
リンディさんがじっと見てくる。俺もじっと艦長を見る。
こういう場合目をそらしたらいかんと某大正桜に浪漫(ろまん)の嵐なゲームに出てきた。
しばらくにらみ合い? が続くとリンディさんが目線を外す。
「良いでしょう。このジュエルシード三つに関しては一樹臨時三等陸士に一任します」
「母s、艦長! 良いんですか!?」
「ええ、構わないわ。珍しく真剣な目をしてたから。碌でもない事には使わないでしょう」
「艦長……」
「ありがとうございます」
まあ、碌でもない事には使わないよ……たぶん、恐らく、きっと。そんな事を考えていると、
「話は変わるけど一樹臨時三等陸士、書類は仕上がったのかしら?」
にっこりほほ笑むリンディさん。
「はい、あらかた提出しましたが?」
「そうでしょうね、一連の書類は提出し終わって今私のところまで来ています」
「?」
それが分かっていて何故その事を聞いてくる?
「私もだいたい確認が終わって、後は本局の方に送るだけだったから、失った脳の糖分を補給するために、楽しみにしていた「翠屋」のシュークリームを食べようとした所で貴方に呼び出されたのよ」
それを聞いてサーと青ざめる。隣のクロノを見ると同じように青ざめている。
(さ、最悪だ! 最悪のタイミングで連絡しちまった!!)
「そしたらこの状態、これは書類を差し戻して訂正して、そしてまたあの膨大な量の書類を確認しなきゃいけない訳よね? あらあら、一樹臨時三等陸士は私の一時の楽しみを奪ったうえに、あまつさえ同じ事をもう一度やらせようとしている訳よね?」
凄まじくイイ笑顔で俺に迫ってくるリンディさん。そのプレッシャーに耐えきれずクロノに助けを求めるが、
「く、クロノ! お前からmっていねえ!? つうか誰ひとりいねえ!!」
さっきまであんなにゴチャゴチャしていた医務室はいつの間にか俺とリンディさんの二人だけになっていた。
状況が状況ならドキドキものかもしれないが、今のリンディさんからはそんな感じは一切感じれず、むしろ怒気怒気である。
「覚悟はいいかしら一樹臨時三等陸士?」
「……\(^o^)/」
その後、正座でみっちり説教をされ、例の訓練プログラムをやらされた後、亜夜、なのちゃん、フェイト、対俺の3対1の模擬戦でボッコボコにされた。
最後に翠屋ケーキ食べ放題(代金俺持ち)を約束させられた。その時何故かリンディさんだけでなく、あの場にいた全員(高町家を除く)にも奢る羽目になった。
逃げたくせに、逃げたくせに、逃げたくせに! まあ、それはそれで構わないんだけどね。しばらく書類整理をしていてふと思い出した事があった。
「そう言えばプレシアさんはどうなる?」
気になったのでクロノに聞いてみる。
「ああ、今回の件では特に犯罪行為もしていないし立場的には被害者だ。ただ、やはり違法研究の件に関してはどうにもできない」
「やっぱり?」
「ああ、流石にこればっかりはな」
「何とかならないか?」
「まあ、例によって司法取引でかなり軽減されるだろうけどな。プレシアの能力なら問題ないだろう」
「条件付きSSだっけか?」
「ああ、管理局(こっち)としてはのどから手が出る程欲しい人材だ」
「まあ、そんな人材を放っておくほど管理局に余裕もないか」
「情けない話だけどな」
「人材で思い出したがあの三人、亜夜となのちゃんとフェイトはどうすんだ?」
「管理局(うち)が放っておくとでも?」
「そうなるよな。つうか俺が昔言った事覚えてっか?」
「ああ、覚えてるよ。僕だってそんな危険な所に送るつもりはさらさらない。もし三人が入隊する事になってもしばらくはアースラで預かるように進言する。幸い母さんも人事部に伝手があるからな」
「それは良いけど、さりげなく強力な戦力を三人も確保しようとすんな別にアースラじゃなくて俺と同じでも良いだろうが」
「一樹、それ本気で言ってるのか? お前この事件の前何してた?」
クロノが呆れた顔して聞いてきた。
「確か偶然居合わせた不正取引の現場でドンパチしてた」
「その前は?」
「最近新しく出来た密売ルートを探るのに、組織のアジトに潜入した」
「その前は?」
「確か、人質救出の緊急出動だったと思う」
「因みにその任務全般がランクA以上じゃないと担当出来ないし、解決できないと判断されてる危険なものだぞ?」
「……なん……だと!?」
その時俺に電流走る。
「ちょっと待て! 俺まだ魔導師ランク無いぞ!?」
「……なんだって?!」
その時クロノにも電流走る。
「まだ受けてねーぞ? 魔導師ランクの試験」
「年二回あるだろ!?」
「学校優先じゃボケ!」
「じゃあ今までどうしてたんだ!」
そう言われて考える。ちょろちょろと思い当たる事がある。
「多分ゼストさんとレジアスのおっさんあたりが調整してたんだと思う。俺がいるときって必ず部隊の一人が後方待機になるから。突発で緊急出動した場合はゼストさんと合流してサクッと片付けるけど……そういや最近やたら偶然に犯罪現場に居合わせるような気がする」
「……身代りか、若しくは……一樹お前自分のランク確認できるか?」
「……端末からアクセスすれば見れるけど」
クロノの言わんとしている事が分かってしまった。恐る恐る自分の履歴を確認する。俺の魔導師ランクの欄には、
魔導師ランク A(仮)
と入力されていた。
「何時の間に……つうか「カッコ仮」って何だ!?」
「現場昇進だな。恐らく、現場での対応を審査してランクを取得させたんだろう。正式な昇進じゃないから「仮」なんだろうな。しかし、本試験を全く受けずに現場だけでAランクまで行くとは……」
「何だろう、素直に喜べない」
因みに現場昇進とは、勤務中やプライベート中に自分のランク以上の犯罪現場に立ち会い、それを解決した際に昇進するシステムである。本試験と違い、正式では無い上に高ランク魔導師の援護等もあるため認められるには、二名以上の上司の推薦とその映像の審査の他に、結構な数をこなさなければそうそう昇進する事はないので本試験を受けた方が昇進は早いのだ。まあ、本試験は本試験でキツイうえにえげつないトラップが仕込まれたりするので簡単と言うほど簡単ではないのだが。
「それは兎も角、実際どうなんだ? 本局の方は何か言ってきてんのか?」
「いやまだ報告してないからな。まあ、したらしたでうるさく言ってくるだろうけど」
「今のうちにこっちで決めた方が安全かもしれないな」
「ああ、下手に危険な部署に行かされるよりはアースラに所属した方が安全だろう」
「三人ワンセットに出来るか?」
「今その方向で母さんが動いてる」
「地上本部(こっち)回せないってのはちとキツイな」
「ああ、これじゃまた何を言われるか……」
「すまんね。レジアスのおっさんには俺から伝えておく」
「頼む。そこから言われないだけでずいぶん楽なんだ」
「……おっさんから普段何言われてんだよ」
「地上本部の状況を説明するだけなんだが、聞けば聞くほど気の毒になるんだよ。って言うか僕にそんな話をしてどうするんだ?! しかも良く聞いて考えると八割が一樹の事の愚痴になるし!!」
「……おっさん、一介の執務官に地上の何を話してんだよ」
はあ、とため息をつく。
「まあ、いがみ合ってる訳じゃなさそうだから良いとして、三人の事任せたぞ?」
「良くはないが三人の事は任されたよ」
そう言うと俺は立ち上がってドアに向かう。
「ん? どこ行くんだ?」
「プレシアさんのとこ。家族水入らずに水差してくる」
「おい馬鹿やめろ! 書類もまだ終わってないだろ!」
「だが断る!」
そう言ってそそくさと部屋を出ていく。
出て行ってすぐに何かを倒した音に、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。
クロノなら、足をバインドで固定して転んだ先がトリモチ状になっているトラップに引っかかるなんて事はないだろうからな(キリッ!
まあ、クロノの事は置いといて俺はスサノオに話しかける。
「スサノオ準備は?」
『何時でも大丈夫です』
「おし、じゃあ頼む」
『了解しました』
そう言うとスサノオは黙り込んで作業を開始する。
そして俺は少し歩いてプレシアさんの所に着く。コンコンコンとドアをノックして一声かける。
「ちわ~っす、一樹です。プレシアさん入ってもよござんすか?」
「ええ、構わないわ」
了解が取れたので部屋に入るとそこには、フェイトとアリシアにサンドイッチされた状態のプレシアさんが聖母のような微笑みを浮かべていた。
その状態に「うぉ!まぶし!」と引きつつ部屋をみると、隅っこの方で所在なさげに丸まっているアルフを発見したので今の状況を聞いてみる事にした。
「ちょいとアルフさんや、これ、どゆこと?」
「ああ、一樹かい。どうもこうも、今までの事を素直に全部話して二人に謝って和解したんだよ。アリシアには怒られて、フェイトにはもうどこにも行かないでって涙目でお願いされて。そんで最後には御覧の通りだよ」
「ああ、なるほど。でアルフは空気を読んでそこで丸まっていたと」
「仕方ないだろ!? あの状態にどうやって混ざれっていうんだい!?」
全くもってアルフの言う通りである。
本人達はそんな気はさらさらないだろうけど他者から見たら混ざれるような雰囲気ではない。
しかし、何時までもこの状態でいるわけにもいかないので声をかけようとするが、
「あ、変態さんだ」
こちらに気付いたアリシアの一言で俺は凍りついた。
「何故その事を?!」
「否定しないのかい!?」
ば、馬鹿な!? アリシアとは初対面のはず!! それが一発で見破られただと!?
驚愕している俺にアルフが突っ込みを入れる。
「ママから聞いたよ。鞭で打たれてご褒美って言ったんでしょ?」
ああ、確かに言ったよ。ネタ的な意味で。しかもそのあと謝ったし。
「で、そういう人達の事は変態って言うんだってママが教えてくれたんだ」
「ちゃうわ! 変態ちゃうわ! たとえ変態だとしても、変態と言う名の紳士だよ!!」
「もう変態で良いんじゃないかい?」
アルフが呆れ気味に言ってくる。
「か、一樹、どうしたの?」
「ん? ちょっとプレシアさんに話があってね」
そう言うとプレシアさんがピクっと反応する。
「そう。三人ともちょっとはずしてもらって良いかしら」
「ああ、ちょっと亜夜となのちゃんのとこにも顔をだしておいてくれるか。二人とも心配してたし」
「でも……」
「大丈夫だ。別にどうこうするってもんじゃないから。ただ、ちょっと大人の話をするだけだ」
「「……」」
フェイトちゃんとアリシアがプレシアさんを心配そうにみている。それを見かねたプレシアさんが二人に告げる。
「大丈夫よ二人とも。ほんとにちょっと話すだけよ。お話が終わったらすぐに知らせるわ」
「「うん」」
「ありがとう二人とも。アルフお願いね」
「分かってるよ」
そう言うと三人は部屋を出て行った。ドアが閉まりロックがかかる。
「ふう~、さてどこから話したものか……」
「初めから全部お願いして良いかしら?さすがにこちらも分からない事だらけよ」
「了解」
そう言って俺は話し始める。今日ここまでに至った理由を。
「……信じがたい話ね」
「まあ、そう簡単に信じられるもんでもないですからね」
とりあえず一通り話し終わった。俺の事についてはレアスキル持ちと言う事にしておいた。
流石に「アニメの世界に来ちゃいました。てへぺろ☆(・ω<) 」なんて言っても信じてもらえるか分かったものではない。なので未来の事を夢で見るという都合のいいレアスキルにしておいた。
これなら似たようなスキルもあるので信じられる範囲ではあると思う。
「そうそれであの時ああ言ったのね」
「あの時?」
「私を助けた時よ。「もともとこの為に貰って来た」って言ったじゃない」
「…………」
「無意識だったの?」
「完全に無意識です」
プレシアさんの問いかけに素直にうなずく。
「こんな大それた事をやる割にはどこか抜けてるわね」
「仕方ないっすよ。いくら頑丈なワイヤーだったとはいえ、万が一切れたら一巻の終わりだったんですから。ちょっとドキドキもんだったんですよ?」
「それでもちょっとなのね……。で、死ぬ予定だった私を危険を冒して、貴重なアイテムを使ってまで助けた理由は一体何なのかしら?」
「助けたい子がいます」
「知り合い?」
「ええ、名前は八神はやて、俺達の知り合いでまず間違いなくフェイトとアリシアとも友達になります」
「……そう。それもレアスキルで?」
「はい、夢で見たのははやてが「闇の書」と言うロストロギアの融合型デバイスの主になっていました」
「「闇の書」……ね」
「知ってるんですか?」
「まあ、そこそこね。魔力を蒐集して完成させると、所有者は巨大な力を得る事が出来る。それこそ世界を滅ぼせるような巨大な力を……。さらには闇の書を守る守護騎士と言う強力な矛と盾を手に入れる。私が知っているのはの程度よ。それにあくまでも噂みたいな情報よ真偽のほどは分からないわ」
「まあ、大体あってますね」
「実際と言うのも変な言い方だけれどもあなたの見た「未来」ではどうなの?」
「まあ蒐集して巨大な力が手に入ると言えば入りますが、蒐集に関してはどうしてもそうする必要があったからなんですよ」
「と言うと?」
「はやては現在下半身麻痺で車椅子生活です。でもそれは闇の書がはやてのリンカーコアの魔力を侵食しているからなんです」
「……」
「そしてその麻痺は現在も進行しています。それをそのまま放置すれば……」
「命に関わる。そう言うことね?」
「はい、そして守護騎士達ははやてに内緒で蒐集を始めます」
「はやてという子の指示では無いの?」
「ええ、はやては守護騎士達に「人様に迷惑かける蒐集は禁止や!」って言って蒐集を禁止したみたいです」
「自分の命が危ないっていうのにすごいわね」
「ほんとっすよ。それで内緒で蒐集するんですけど、やっぱり嗅ぎ付けるんですよね管理局(うち)が」
「でしょうね」
「で、管理局でも「闇の書」について調べなおすんですけど面白い事が分かるんですよ」
「面白い事?」
「ええ、「闇の書」はもともと「夜天の書」と呼ばれていて、本来、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージデバイスなんですよ」
「なんですって?」
「それが歴代の「書」の主が何をどう思って改竄したのか「夜天の書」は今の「闇の書」になってしまったと言う訳なんですよ。完成すれば主もろとも飲み込んじまうとんでもデバイスにね。しかも主が死んだら他の素質あるやつのところに転生するっていう厄介な機能もついてるときたもんだ。しかも主以外システムのアクセスを認めないうえに、強引に操作すれば持ち主を呑み込んで転生するっていうおまけ付き。全く持ってけしからんもんです」
「……ほんとに厄介ね」
「で、ここまで言ったら分かると思うんですけど」
「私に「闇の書」を直せってこと?」
「YES! 「未来」だと時間が足りなくて碌な対応が取れなかったけど、今からなら半年以上時間がある。まあ、それでもギリギリかもしれないけど」
「流石に私一人じゃ無理よ? デバイスは専門外だし」
「あ、いえ、プレシアさんにはそれとは別で動いてもらおうと思ってます」
「?」
そう言うと俺はケースに入った一枚のDVDをプレシアさんに見せる。
「これがこちらの最後の切り札です」
「それが?」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
俺はそう言うとスサノオからパソコンを取り出し、DVDをセットし再生する。
そして画面に出てきたのはさまざまなグラフやデータ、数式等、何かの論文か研究の内容のようなものだった。それをじっと見ていたプレシアさんは徐々に驚きの顔になる。
「なるほどね。これなら確かに何とかなるかもしれないわね」
「ええ、プレシアさんにはこれを「対闇の書用」として作ってほしいんです」
「軽く言ってくれるわね。正直半年でも厳しいわよ?」
「お願いします。こちらでも知り合いにあたっているんですけど多分プレシアさん以上の人はいないと思うんです。それに今回も絶対に失敗したくないんです」
俺はそう言って思いっきり頭を下げる。
「……わかったわ」
「ほんとですか!?」
「ええ、でもさっき言った様に一人じゃ厳しいわ。一樹の息のかかった信頼できる技術者をつけてくれないかしら?」
「分かりました。狂気のマッドサイエンティストを用意しておきます」
「……普通の技術者で構わないわ」
「まあ、まあ、遠慮なさらずに」
「別に遠慮してる訳じゃないわよ!」
そんな事を話しているとプレシアさんが思い出したように訊いてくる。
「でもいいの? この話をここでして。ここ監視カメラがあるわよ?」
「ノー・プロブレム。話し始めた時からダミー画像が流れてる」
「用意周到ね。流石「カリウム」ね」
「あ~、プレシアさん根に持ってます?」
「少しぐらい仕返ししても罰は当たらないでしょ」
「まあ、俺が悪いのは分かってるから良いんですけどね」
「最後に質問しても良いかしら?」
「答えられる範囲なら」
「何故一樹はもう一人、執務官だったかしら? に知らせてないのかしら?」
「あ~、今いる俺の相棒は11年前に闇の書の暴走で父親を亡くしてるんすよ……」
「そうだったの……」
「クロノが闇の書についてどう思っているのか分からないのでまだ話してないんです」
「乗り越えられると良いわね」
「まあ、大丈夫だと思いますよ。クロノなら」
「そう」
「じゃ、そう言う事でよろしくお願いします」
「ええ、お願いするわ」
そう言って俺はプレシアさんと握手をして部屋を出る。
ようやくリィンフォースを助けるカードがそろった。後は時間との勝負になりそうだ。俺はそう思いながら今できる事を片付けるために書類作成していた部屋に戻るのだった。