魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第三十二話

― アースラ ―

 

 そこはある種の戦場だった。様々な人が動き周り、携帯端末片手に確認したり、怒号とまではいかないが様々な声が飛び交い、さらに机に座っている人達は端末から目を離さず、一心不乱に手を動かし打ち込んでいる。

 端末は文字で埋め尽くされていて、それが一つの画面に複数のウィンドウが表示されていて、そのウィンドウも文字で埋め尽くされている。一体何をしているのかと言うと……。

 

「お~い、クロノ! プレシアさん達の被害届誰がとってるんだ?」

 

「今エイミィがとってる最中だ!」

 

「早くしてくれ、実況見分が出来ない。鑑識も待機してもらってんだから」

 

「僕に言うな。エイミィに言ってくれ」

 

「クロノ執務官、ロストロギア回収報告書です。保管簿冊の方にもサインを。後此方が輸送手続きになっています」

 

「これで良いか? 後、輸送はアースラがこのまま輸送予定だ。手続きもそうしておいてくれ」

 

「了解しました。ありがとうございます」

 

「一樹、なのは達から調書は取ったのか」

 

「今、武装隊が手分けして担当してるからそっちに聞いてくれ。それよりアルフの第一発場所と発見者どうする? 知り合いだけど管理局(こっち)の事は知らないぞ?」

 

「どうにか誤魔化せないか?」

 

「俺が発見者って事にすれば何とかなるか?」

 

「じゃあ、その線でいってくれ。場所は聞いてるのか?」

 

「いや、聞いてないからまた後日改めて聞く」

 

「頼む。あまり遅くなるなよ?」

 

「了解。あ、後こっちが事件発生報告書な? 確認よろしく」

 

「分かった。それとカリウムの顔を見てるのはどのくらいいる?」

 

「ん~、どうだろう? プレシアさんとアルフあたりは見てそうだけど?」

 

「後で此方が撮った映像で確認を取りたいんだ」

 

「ん、じゃあ後で全員に聞いとく」

 

「頼む」

 

「後どのくらい残ってる?」

 

「次元震発生報告書、作戦結果報告書、捜査報告書、指名手配手続き、僕達の公傷手続き、現地協力者に対する各種手続き、後は……」

 

「こっちは、遺留品関係、虚数空間の報告書、カートリッジシステム使用のデータと報告書をまとめて父さんに送って、ついでにクロノのS2Uもか、カリウムと入れ替わった時の戦闘報告書に顛末書と始末書、後は……」

 

 二人で指折り自分が処理する予定の書類をつらつらと上げていく。

 

「……やめよう。さっさと終わらせよう」

 

「……そうだな」

 

 二人してため息をつき自分の仕事に戻る。

 これでもまだマシな方だ。これで逮捕者がいるとなると忙しさや書類の量が共に数倍にもなる。

 ましてやこんな大事件の書類ともなれば広辞苑ぐらいの書類の束が幾つ出来るか分かったもんじゃない。

 

「なあ、クロノ。俺達は何でこんなに書類作成を強いられているんだ!」(集中線)

 

「それが管理局員の仕事だからだ」

 

「ですよね~」

 

 クロノの当たり前すぎる答えに納得せざろう得なかった。

 

~ 数時間後 ~

 

「お、\(^o^)/」

 

「一樹、発音が変だぞ?」

 

「いや、ある意味正常だ。まあ、この場面で使うものでもないけどな」

 

「まあいい、みんなが医務室で待ってる」

 

「了解、さて最後の仕事だ。上手くいくかね?」

 

「一体何をする気なんだ?」

 

「ザオラル若しくは復活の呪文」

 

「はぁ?」

 

 やはり通じなかった。そんなクロノのために直球でいう事にした。

 

「アリシアの粗製、じゃ無かった蘇生だ」

 

「……字が違うと言うのは何となくわかったが……ん? 蘇生?」

 

「おう、蘇生」

 

「「………………」」

 

「はぁ!?」

 

「なんだまだ分からないのか? つまりアリシアを生き返らせるって事だ」

 

「さっきのを聞けば嫌でも分かる! おまえ、そんな事出来るのか!?」

 

「あ、いや俺がするには変わりないんだけど俺の能力とかじゃないぞ。アイテム使うからな」

 

「アイテム?」

 

「ほら士官学校の時、銀制服(シルバー)と一緒に海上訓練に行った時ヴァリトラの子供助けたろ」

 

「ああ」

 

「そんときヴァリトラからもらったコレを使うんだよ」

 

 俺は懐からそれを取り出した。それは涙形でビー玉より一回り程大きい。

 それ自体が黄金色に淡く光っていてどこか温かみを感じる。某大冒険に出てきた神の涙みたいな感じだ。

 

「……凄いな」

 

「ああ、貰った時は何に使えばいいか悩んだが今まで使わなくてよかったよ」

 

 まあ、勿論これは嘘だ。そもそもプレシアさんとアリシアの為に貰ったものだ。

 

「効果の方はどうなんだ?」

 

「ヴァリトラ曰く、言伝えだと万病を治し死者すら生き返るんだって。実例がないから使ってみないと分からんだとさ。まあ、万病の方はプレシアさんの病気を治したからあながち嘘でもないんだろうけど」

 

「まて。プレシアの病気を治した? これは何回も使えるものなのか?」

 

「ん? プレシアさんには飲ませたから一回きりの使い捨てだぞ?」

 

「じゃあ、そこにあるのは何だ?」

 

「二個目」

 

「…………フー」

 

 クロノが両目の目頭をつまみながらため息をつく。

 

「クロノ、ため息つき過ぎじゃね? 幸せがストレスでマッハだぞ?」

 

「誰のせいだと思ってるんだ!」

 

 そんなやり取りをしていると医務室に到着する。

 ドアの前に立つとドアがスライドして開く。そこには何時もの面子がそろっていた。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「よ!」

 

 初めに気付いたのは亜夜だった。俺は亜夜に手を挙げ挨拶をする。それを皮切りに他のメンバーも気付く。

 

「お、一樹君、クロノ君、もう良いのかい?」

 

「はい、今仕上げないといけない物はあらかた片付きましたから」

 

「後は今すぐじゃ無くても大丈夫です」

 

 士郎さんの問いかけに応える。

 

「しかし、面倒なもんだな。協力する際にあんなに多くの書類にサインするとは思わなかったぞ」

 

「まあ、今回は地球が管理外世界ってのもあるんで書類が多くなっちゃうんすよ」

 

 守秘義務やら誓約書やら色々あるからな。

 

「でも亜夜ちゃんとなのははサインしてる書類が少なくなかった?」

 

 書類の量の違いが気になったのか美由希さんが聞いてくる。

 

「ああ、あれはちょくちょくアースラに来れたからだいたいサインし終わってたんですよ。士郎さんと恭也さんと美由希さんは今回一度にそれをしたからだと思いますよ」

 

「そうなんだ」

 

「と、そう言えばなのちゃんは? それにフェイトちゃんも」

 

「それならあっちだよ」

 

 そう言って美由希さんがさした方にはテーブルに突っ伏してる二人がいた。

 なのはの横にはユーノが、フェイトの横にはアルフが座っている。この二人は平然としている。

 

「どしたんだあの二人?」

 

 それを見たクロノも不思議そうに聞いてくる。

 

「さあ?」

 

 そんな二人に近付き声をかける。

 

「おう、どうしたんだ二人とも。えらく疲れてるみたいだけど?」

 

「あ、一樹お兄ちゃん」

 

「一樹さん……」

 

「ユーノ二人はどうしたんだ?」

 

 平然としているユーノに聞く。

 

「二人ともどうも調書が取り調べみたいだったから疲れたみたい。悪い事してないのに色々聞かれるから」

 

「「あ~」」

 

 そこで俺とクロノは納得した。調書なんかは結構根掘り葉掘り聞くからそう思っても仕方ないか。

 例えば単に「人を殴った」という文章ではなく、「右手で拳をつくって、正面に立っていた人の左頬を右腕をまっすぐ伸ばして殴りました」となったりする。

 これはどういうふうに殴ったかを明確にするためなので仕方ないのだが、今回の事をそんな調子で聞かれたらそりゃあ疲れもする。

 

「まあ、アレだなのちゃん……かつ丼食うか?」

 

「食べないよ! ていうかそれじゃまるっきり取り調べを受ける犯人だよね!?」

 

「あ、因みにかつ丼を頼んだ場合は自腹になるので」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

 ちょっと待て、驚く人が多すぎだろ。

 

「え、あれって警察の人の奢りじゃないの!?」

 

「いいえ、アレは基本的に本人が食べたいから警察の人に電話してもらって注文してもらうのです。なので自腹なのです」

 

「え~そうなの?」

 

「何故亜夜は残念がるんだ?」

 

「だって、前に再放送の警察もののドラマで、かつ丼を泣きながら食べてたシーンとかあってジ~ンときた感動が今のを聞いて台無しになっちゃったよ」

 

 それを聞いて高町一家がそろってウンウンと頷く。

 

「でもお兄ちゃんよくそんなこと知ってるね? 管理局がそうでも警察が同じだとは限らないのに……」

 

「だってそりゃあ……母さんから聞いたからな」

 

 あぶねぇ~、流石に警察官時代の経験とは言えない。母さんが警察官で助かった!

 

「あ~あ、知らなければよかったな~」

 

 亜夜がそう言っている横で、

 

「二人とも今の分かったか?」

 

「「全然」」

 

 クロノの問いにユーノとフェイトがそう答える。蚊帳の外のミッド組であった。

 

「それはそうと、プレシアさんは何処?」

 

「あ、母さんならまだ隣の部屋です」

 

 隣と言うと手術室だ。アースラには大規模なものは無理だが簡易的な手術が出来る設備が整っている。

 まあ、そこに運んでポッドから出しておいてくれと頼んだんだが。

 

「あれ? まだ準備出来てなかった?」

 

「いえ、出来ているんですけど……」

 

「うん、実際に見るとやっぱりね……」

 

 む、どうやら直接見たことでまた色々ぶり返したみたいだな。

 

「ん、じゃあ準備は出来てるんだな?」

 

「は、はいでもまだそっとしておいてあげ「その必要はない」え!?」

 

 フェイトちゃんの言葉を途中で遮る。

 

「何だって辛い時間を長くしなきゃならんのだ」

 

「え?」

 

「もしかしたらまた一緒に暮らす事が出来るかもしれないんだ。そっちの時間を長くするべきだろ」

 

ドヤァ!

 

 とドヤ顔をしてフェイトちゃんに言う。

 

「え? それはどういう?」

 

「上手くいけばアリシアが生き返るって事だ」

 

「え?」

 

「「「えーーー!!!」」」

 

 期待通りに驚く子ども組。

 

「医務室ではお静かに!」

 

「驚かせた本人が言っていいセリフじゃないぞ」

 

「まあ、そう言いなさんなクロノ。じゃ、俺はプレシアさんの所に行ってくるから」

 

 シュタ! と手を挙げ医務室を逃げるように出ていく、とはいっても目的地は隣なので数秒で到着。

 ドアの前に立つと医務室と同じようにスライドして開く。そして医療器具等が置いてある部屋を通って手術室に入る。

 そこは日本の病院の手術室と殆ど変らない部屋だった。中央にベットがありそのベットの上には大きな円形の照明装置が付いている。

 そして、ベットの横に無言で立ち尽くすプレシアさんとベットに横たわるアリシア。アリシアには手術着の様なものが着せられている。

 俺はそんなプレシアさんの正面に立つとアリシアの首に手をあてる。当然脈はなく冷たくなっている。顔は蒼白、髪の毛はポットから出して間もないのかまだ少し湿っている。苦しんだような顔でもなく本当に眠ったような死に顔だった。

 

「……良く笑う子だったわ」

 

 訥々と語り始めるプレシアさん。

 

「一緒にピクニックに行った時私に花飾りをつくって嬉しそうに笑ってくれたわ。仕事が遅くなって帰って来ても私を待っていて「お帰りなさい」って笑顔で迎えてくれた。その笑顔がどれだけ私の支えになったか……」

 

「……」

 

「またこの子と一緒に暮らしたい、またあの笑顔が見たい一心で違法な研究にも手を出した」

 

「その結果フェイトが生まれた」

 

「ええ、でも思い知らされたわ。どんなに姿かたちを似せてもアリシアは一人だけ、フェイトはフェイトだったわ。どんなにフェイトが笑ってもアリシアの笑顔では無かったわ。今思えば当然なのだけれどね。フェイトの笑顔はフェイトだけの笑顔なのだから。でもあの時の私はそんな事にも気付かない程に追い詰められていたみたいね」

 

「そんでフェイトに八つ当たり?」

 

「全く駄目な親ね。自分の失敗を娘のせいにするなんて」

 

「ちがいない」

 

 クククと笑う。

 

「貴方達と出会って目が覚めた気分よ。改めて言うわ。ありがとう」

 

「うんにゃ、俺はリニスとフェイトに頼まれたからしただけっすよ。何とかなりそうなアイテムも丁度持ってたし」

 

「そう、リニスは元気かしら? あの子にも随分ひどい事をしたから謝らないと」

 

「そうっすね。絶対謝った方がいいっすよ。俺が助けてからずっとプレシアさんの事心配してましたから」

 

「本当に色んな人に心配させたのね」

 

「そうです。だからこれからはちゃんと助けられるようになってください」

 

「肝に銘じておくわ」

 

「絶対ですよ?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「さて、そろそろ始めますかね。プレシアさん」

 

「ええ、分かってるわ。失敗しようと成功しようとフェイトは私の娘よ。今までの酷い事した分その何倍も愛する事を誓うわ」

 

「ん、それじゃ始めます」

 

 そう言うと俺はまず、

 

1、アリシアの上半身を起こす。

 

2、口を開ける。

 

3、龍の涙をアリシアの口にシュゥゥ―――ッッ!! 超! エキサイティン!!

 

4、一樹オリジナル!!

 

 しかしプレシアさんの時の様な変化はなく何も起きない。

 駄目だったかと諦めかけたその時、アリシアの身体が光り始める。プレシアさんの時は一瞬だったけどアリシアはまだ光っている。不思議な光だった。

 眩しい程の光なのにアリシアの事がはっきり確認できる。眩しいが目を閉じる必要を感じない。ただただ不思議な光だった。

 そしてしばらくすると光も引いていき、何時もの手術室に戻った。それを見てプレシアさんがアリシアに呼びかける。

 

「アリシア?」

 

「…………」

 

 しかしアリシアからの返事はなかった。諦めず再度声をかける。

 

「アリシア」

 

「…………ん」

 

 その声に反応したのか微かに声をあげる。

 良く見るとアリシアの顔が蒼白から血の通った肌の色に戻っている。

 それを見た俺は初めにしたように首筋に手をあてる。すると、

 

トクン、トクン、

 

 と指先に微かな振動が伝わってきた。それを確認したのと同時に手術室のドアが開きフェイトが駆け込んで来た。

 

「一樹さん! さっきアリシアがすごく光ってたけど一体何が!?」

 

 どうやら手術室をモニターでのぞいていた様だ。別に立ち入り禁止にはしてなかったんだがなぁ。

 そしてまだ心配そうにこっちを見ているフェイトに親指を立ててサムズアップする。

 するとそれで悟ったのかすぐ笑顔になる。するとフェイトはまだアリシアを呼ぶプレシアさんに優しく声をかける。

 

「母さん、大丈夫だよ」

 

 それを聞いたプレシアさんは一度離れ首に手をあてたままの俺を見てくる。

 

「大丈夫です。成功しました」

 

 俺はそう答える。そしてプレシアさんはもう一度アリシアに声をかけた。

 

「アリシア」

 

 するとアリシアの目がゆっくりと開き、

 

「う、う~ん……ママ? どうしたの?」

 

 そう聞いてきた。プレシアはアリシアを抱きしめて

 

「何でもない、何でもないわ」

 

 そう言いながら泣き続けたのだった。

 

 

 

 


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