― アースラ訓練室 ―
『状況終了です。お疲れ様でした』
訓練室にエイミィの声が響く。
高町家にお邪魔して士郎さん達の協力を得て、アースラに戻り武装隊一個小隊と模擬戦をしたところ、士郎さん達の圧倒的勝利で幕を閉じた。
「……今まで話し半分に聞いていたけど実際に目のあたりにすると凄いわね」
「……一体なのはの家族は何者なんだ?」
「戦闘民族高町家だ」
「ちょ、一樹お兄ちゃん! 変な名前つけないで!」
「でも間違ってないじゃん。唯一の非戦闘員って桃子さんだけだし」
俺がそう言うとなのちゃんは何か言い返そうとしたが事実である事に気付いて、
「……どうしてこうなったの!?」
と頭を抱えていた。
「まあ、それはこいつが全ての元凶だ」
俺はそう言って、フェレットモードのユーノの首をつかみ持ち上げなのちゃんの前に出す。
ユーノを見たなのちゃんは首をカタカタさせて、
「フフフ、ソッカ。ゆーのクンガワルカッタンダ」
と言葉が片言になって、眼のハイライトが消えていく。おや!? なのちゃんの様子が……!
「ちょっとなのは!? もの凄く恐いんだけど!?」
「ユーノ! BBBBBBBB!」
「いきなり何言ってんの!?」
「ゆーのクン、ムコウデО☆HA☆NA☆SHI☆シヨウカ」
「なんで!?」
「おめでとう! なのちゃんはNA☆NО☆HA☆に進化した!」
俺がそう言うとスサノオからお馴染みのBGMが流れる。
残念ながら進化キャンセルは間に合わなかったようだ。その傍らでユーノがなのちゃんに捕まる。
「ぼ、僕が何したって言うんだぁぁぁーーーー!!!」
ユーノの悲痛の叫びを聞き、なのちゃんと一緒に部屋を出ていく(連れてかれる)姿に俺は合掌しつつ、俺、クロノ、エイミィ、リンディさんの四人は訓練室のモニタールームで先ほどの模擬戦を見る。
状況は「時の庭園」での任務を予測し室内戦闘にして、武装隊に仮想敵(アグレッサー)役をしてもらい、士郎さん達が救出チームで模擬戦を行った。
アースラに配備されている武装隊は一個小隊で、通常一個小隊は第一、第二、第三分隊とあり、一個分隊は六~七名で構成されていて一個小隊は約二十名前後になる。
武装隊は決して弱くは無い。厳しい訓練を日々行っている。しかし士朗さん達はその人数をたった三人で制圧してしまったのだ。しかも魔法を使えない「民間人」として。
今士郎さん達は「仕事」の時に使っていた服装になっている。ミリタリーブーツにカーゴパンツ、インナーの上に濃紺のミリタリージャケットを着ていて、手にはタクティカルグローブをはめ、腕やジャケットの下には様々な暗器が仕込まれている。
唯一違うのは、カーゴパンツの色だろうか、美由紀さんは赤、恭也さんが緑、士郎さんが黒になっている。そして三人とも手には「小太刀」を握っている。
因みに「小太刀」とは約30㎝以上60㎝以下の長さの刀の事をいい、長さが約70以上90㎝以下になると「太刀(たち)」や「打刀(うちがたな)」と呼ばれ、90㎝以上だと「大太刀(おおたち)」又は「野太刀(のだち)」と呼ばれる。士郎さん達は「小太刀」を両手に持ち自在に扱い、次々に武装隊員を倒していく。
「しかし出鱈目だ。魔力弾は斬るし、バインドで捕まんないし、背後の誘導弾を見ずにかわすし、おまけに全隊員が一撃で気絶させられるし……」
モニターを見たクロノが呟く。
「でも、嬉しい誤算よこれは。正直これほどとは思ってなかったわ」
「それなら報酬は……倍プッシュだ」
「それも検討しないといけないかもしれないわね」
「マジで?」
自分で言っといてなんだがまさかノータイムで答えられるとは思わなかった。
「マジよ。このレベルの人を雇うと、此方の提示した報酬の倍以上掛かるわよ? でも私の知る限りでもここまでの実力者はいないわ。ESS(イーグレット・セキュリティー・サービス)にもね」
「それはまたずいぶんと高評価ですね。ESSは小さいけど質で言ったら業界トップクラスですよ? いないって事は無いんじゃないですか?」
「そうね、多分いると思うわ。でも武装隊一個小隊を魔法を使わずに、三人で制圧出来る人はいないと思うわよ? ホント、管理局に来てくれないかしら?」
リンディさんがため息をつきそう言った。
「まあ、今はスカウトしてる場合じゃないっすからね。その話はまた今度にしてください」
「そうね、またの機会にしましょう」
「それじゃあ艦長、作戦を詰めましょう」
「そうだな役者も揃った事だし」
そう言って俺たちはモニタールームを後にした。
― 高町なのは ―
「以上が作戦プランだ。何か質問は?」
クロノさんが説明をしてくれる。
ジュエルシードを狙っている悪い人がいて、フェイトちゃんとフェイトちゃんのお母さんのプレシアさんが危ないみたい。今は亜夜ちゃんも呼ばれてみんなで作戦会議しているの。
「なのちゃんに任せるのは重要なポジションだ。今度のフェイトちゃんとの戦闘は負けられない。出来るか?」
「今まで散々邪魔してたくせに!」
「え? まったく記憶に無いのだが?」
「む~~~~~!」
「なのちゃん落ちついて。お兄ちゃんのペースになってるよ」
一樹お兄ちゃんのとぼけた態度に怒ると亜夜ちゃんがなだめてくれた。
危ない危ない、また一樹お兄ちゃんのペースに引き込まれるところだった。
「亜夜ちゃんありがとう。一樹お兄ちゃん、私今度こそ絶対負けないもん。あれからレイジングハートとたくさんトレーニングしたもん。だから絶対勝ってフェイトちゃんを助ける!」
私がそう言うと一樹お兄ちゃんが、「ニッ」て笑った。
それはからかっている笑い方じゃ無くて、安心している様な笑い方だった。
「よし、なら大丈夫だな。それと、亜夜は士郎さん達の足引っ張んじゃねーぞ?」
「うっ! ちょっとそれは自信ないかも……、でもお兄ちゃんもヘマしないでよね」
「HA! HA! HA! 心配するな。何時でも、何処でも、どんな時でも楽しむのが俺のジャスティス!」
「偶にはまじめにやれ」
クロノ君がそう言って一樹お兄ちゃんの頭を張閃で叩く。スパンと良い音が会議室に響く。
「じゃあ一樹、俺達はその「時の庭園」って所に居るプレシアって人の保護をすればいいんだな?」
「ええ、お願いします。出来る限り見つからないように動いてください。プレシアさんの警備態勢がどうなってるのか分からないので。クロノと亜夜が一緒なので戦力は問題ないと思います。最悪プレシアさんと戦闘になるかも知れないので。アースラからも出来るだけサポートをしますので、そう言う事でエイミィよろしく」
「はいは~い、任せてバッチリサポートするよ!」
「保護のタイミングはクロノが出すんだったよな?」
「ああ、こっちは任せてくれ」
「よし、そんじゃ作戦開始と行きますかね」
「そうね、一樹君フェイトさんに連絡お願いできる?」
「時間は現地時間の1200時でしたっけ?」
「ええ、そうよ。各自それまでの時間しっかりと休息と作戦の確認をしておくように。それでは解散とします」
そうリンディさんが言ってみんな席を立つ。その中で私は一樹お兄ちゃんを呼びとめる。
「一樹お兄ちゃん」
「ん? どうしたなのちゃん? 模擬戦ならお断りしますが?」
「ち、違うの! 模擬戦じゃ無いの!……フェイトちゃんに連絡するんでしょ?」
「そりゃするけど、もしかしてなのちゃんは連絡しないで奇襲作戦の方がいいと申しますか? そりゃ、そっちの方が勝率は上がると思うけど流石にそれはty「ち、違うよ! ちょっとお話したいだけなの!」……ユーノにしたО☆HA☆NA☆SHI☆と申したか、フェイトちゃん相手にも容赦しない、流石なのちゃん」
「にゃー! 違うの !普通にお話したいの !それに通信で話すのにそんな事出来る訳ないの!」
「む、それもそうか。そんじゃ今から連絡するからついて来て」
「うん!」
「なのちゃ~ん、どうしたの?」
会議室から出てこないのを不思議に思ったのか亜夜ちゃんが戻ってきた。
「あ、ゴメンね。今一樹お兄ちゃんにお願いしてフェイトちゃんとお話させてもらえるようにお願いしたの」
「え、そうなの? それじゃ私も話したいな」
「ん、じゃあ亜夜も一緒についてこい」
「は~い」
そう言って私達はブリッジに移動した。
― 斎藤一樹 ―
「いいか二人とも、分かってると思うけど作戦の事は絶対に話すなよ? 絶対にだぞ?」
「お兄ちゃん、それはどっちにも取れちゃうよ?」
「冗談だ、よしつなげるぞ」
そう言って一樹お兄ちゃんは手元で何かを操作して通信回線を開く。
するとブリッジのモニターにフェイトちゃんが映し出された。
「フェイトちゃん聞こえるか?」
『あ、はい。聞こえます』
「フェイトちゃんの申し出を話し合った結果、この申し出を受ける事になったよ……なのちゃんが」
『そうですか』
「おうそれでな、なのちゃんが今までの借りを全部返すから命をかけて掛かってこいだとs「にゃーーー! そんな事言ってないの!!」あべし!」
変な事を言い始めた一樹お兄ちゃんの脇腹をレイジングハートで思いっきり叩く。よほど上手く入ったのか蹲って呻いている。
「はあ、はあ、ひ、久しぶりだねフェイトちゃん」
「やっほー、フェイトちゃん私もいるよ」
『う、うん。どうしたの?』
私と亜夜ちゃんはそう言って挨拶をする。
「うん、ちょっとフェイトちゃんに聞いておきたい事があって」
『聞いておきたい事?』
そう言ってフェイトちゃんは首をかしげる。
「うん、ジュエルシードを集めてる理由は一樹お兄ちゃんから聞いたけど、分からない事があったから」
『……なんですか?』
「フェイトちゃんはどうしてあんなに悲しそうな、寂しそうな顔をするの?」
『……そんな顔してない』
「嘘だよ。街で模擬戦した時もそうだったもん」
『そ、そんな事ない』
「ううん、私も同じ時があったからわかるんだ。一人ぼっちで寂しくて、悲しくて。今のフェイトちゃんからはそんな感じがするんだ。でも私にはその時声をかけてくれた亜夜ちゃんがいた、一樹お兄ちゃんがお父さんを助けてくれた」
あの日を思い出す。何時も一人で家にいて、一人でご飯を食べて、誰もいない家に「行ってきます」と言って学校に行って、「ただいま」と言って帰ってくる。それはとても寂しくて、悲しくて、辛くて……。でも助けてくれた人がいた。
『…………』
「亜夜ちゃんは何時も私の事を気にかけてくれた。一樹お兄ちゃんには何度もからかわれたりしたけど、それでも毎日が楽しかった。あの日、亜夜ちゃんに声をかけられて、一樹お兄ちゃんと知り合って本当に救われたんだ。だから私はそんな思いをしているフェイトちゃんを助けたい」
『でも、敵同士だよ』
「そんなん関係ねぇーよ」
蹲っていた一樹お兄ちゃんが復活して立ちあがって言ってきた。
「敵だって助けたいと思ったら助ける。味方でも気に入らないやつはぶちのめす。それがなのちゃんだ!」
「ち、違うよ! 私ぶちのめしたりなんかしないよ!!」
「そうか?今から10年後ぐらいに教えを守らない生徒をぶちのめす気がするんだが」
「なにその予言!?」
「まあ、そんな感じで敵だ味方だってのを気にする必要は無い訳だ」
『でも、それでも私は母さんの力になるって決めたから』
「うん、分かった。でも私はフェイトちゃんを助ける。この気持ちは変わらない」
「ま、お互い全力でぶつかるこった。悔いの残らないように。今回は俺も見てるだけだし」
一樹お兄ちゃんはそう言うけど、実際何かしてきそうで安心できない。
『分かりました。私も全力で戦います』
「おう、よろしくな」
一樹お兄ちゃんはそう言って通信を切る。
「勝手に切っちまったけど良かったか?」
「うん、私の気持ちも伝えられたし大丈夫だよ」
「そうか、亜夜は大丈夫か?」
「あ~、流石にあんな会話してる最中に話しに入っていけないよ」
「まあ、それもそうか」
あんな会話? 私変な事言ったかな? 良く見ると亜夜ちゃんはちょっと顔が赤くなってて照れている感じがする。
「もしかしてなのちゃん気付いてない? 亜夜に助けてもらったとか言ってたじゃん。流石にいきなりそんな事言われたら恥ずかしいやら、照れるやらでこんなふうになるぞ?」
そう言って一樹お兄ちゃんは亜夜ちゃんを指さす。そっちを見ると複雑な表情をした亜夜ちゃんが照れ笑いになっていた。冷静になって考えるとかなり恥ずかしい事を言った気がしてきた。
「ああ! えーっと、違うの! そうだけどそうじゃなくて、すごく感謝してるし、一樹お兄ちゃんにからかわれるのは嫌だけど楽しくて、えーっと、その、つまり二人にはすごく助けられたって事なんだよ!」
なんだか急に恥ずかしくなってきて一気にまくしたてて説明する。
「クックック、プー」
「いや、あのねなのちゃん。落ちつこうよ。」
一樹お兄ちゃんは笑って、亜夜ちゃんは顔が真っ赤になって照れている。
「う~~~、バカーーー!!」
「ひでぶ!!」
耐えきれなくなって、つい手に持ったままのレイジングハートで一樹お兄ちゃんを叩いてしまった。今度も上手い具合に顎に入ってしまいその場に崩れ落ちてぴくぴく痙攣した後動かなくなった。
「あ~、なのちゃん今のはちょっと理不尽だったんじゃない?」
「い、いいんだもん。何時ものお返しなの!」
「まあ、いいけどね。……これどうしよっか?」
そう言って亜夜ちゃんは倒れている一樹お兄ちゃんを指さす。
「とりあえず医務室に運ぼうか」
「そだね」
そう言って運ぼうとした時亜夜ちゃんがふと思い出したように声を上げる。
「あ、そう言えばお兄ちゃん、フェイトちゃんに時間と場所って伝えたっけ?」
「え? ……そう言えば伝えてないかも」
少しの間私達に沈黙が流れる。
「お、お兄ちゃん起きて! フェイトちゃんに時間と場所教えてないよ!」
「にゃー! 起きてなの!」
そう言って私達は一樹お兄ちゃんを起こすのでした。
― 斎藤一樹 ―
「いちちち」
そう言いながら今だ痛む顎をさする。不意打ちで、しかも笑ってる最中だったから避けられなかった。
あの後気絶した俺を二人が起こして、改めてフェイトちゃんに時間と場所を教えた。フェイトちゃんも気付いてなかったみたいでそれを聞いて「そう言えば」って感じになってた。
その後は作戦の最終チェックに「時の庭園」の侵入経路の確認と監視カメラのハッキング等々士郎さん達と吟味していた。
それもやっと終わって今家に帰るところだ。アースラに泊ればいいという声もあったがリニスにもちゃんと報告しておきたかったので家に帰る事にしたのだ。リニスには事前に連絡してあるからもう家で待ってるはずだ。俺はアースラの転送ポートに向かっている。
「しかし、もうすぐ無印も終了か・・。助けられるかな二人を」
ふとそんな事を思う。今まで細かいイレギュラーはあったものの大きな流れは変わっていない。という事は今回も恐らく流れは変わらないはずだ。100%じゃないから油断はできないが大丈夫だと思う。
最悪力技で持っていく。俺の事をばらしてでも助けてやる。ここまで来たんだ助けられませんでしたなんて事にはさせない。決意を新たに歩いていると転送ポートのあるブリッジについた。今は夜勤体制なのか人は少なく最低限の人数しかいない。そこにランディさんがいたので声をかける。
「おいっす、ランディさん。今日は夜勤っすか?」
「やあ、一樹君。その通りだよ。明日、と言ってももう今日か、作戦前に夜勤なんてとんだ貧乏くじだよ」
「まあ、当番制っすからね。運が悪かったとしか言いようがないっすよ」
「ははは、まったくだね」
「で、ちょっとお願いがあるんですけど」
「ん? なんだい?」
「転送ポート動かしてもらえないっすか?」
「別に良いけど何処に行くんだい?」
「家に帰るだけですよ」
「分かった。準備が出来たら教えてくれるかい。座標は家の前で良いかな?」
「充分です」
会話もそこそこに俺は転送ポートに入る。
「ランディさん、ОKです」
「分かった、じゃあ行くよ~」
そう言ってランディさんが操作すると俺は一瞬でアースラから実家前に現れる。そこには慣れ親しんだ我が家が目の前にある。
ポケットから鍵を出して鍵を開け、ゆっくりと玄関のドアを開ける。時刻は既に深夜。家族を起こさないように音を立てないようにこっそりはいって、鍵を閉めなおす。
靴を脱いだらそこから自分の部屋まで飛んでいく。足音が立たないので非常に便利だ。昔では考えられない。そこから二階に上がって突きあたりの自分の部屋の前まで飛ぶ。静かに着地するとこれまたゆっくり自分の部屋のドアを開ける。ドア近くにある電気のスイッチを入れると部屋が明るく照らし出される。机があって、本棚があって、ベットがあって、そして部屋の中央には自分と瓜二つの顔をした男がいた。
「なっ!!!」
突然の事に俺は驚きの声を上げる事しかできなかった。