魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第二十三話

― 斎藤一樹 ― 

 

 治療が終わって、アルフを客室に寝かせておく。危なかったかどうかは、確認する前にさっさと治しちゃったのでわからんが、鮫島さんやアリサの様子を見る限りだと相当危険だったのかもしれない。

 そしてリビングに戻るとリニスが一番に声をかけてきた。

 

「一樹さん! アルフは!」

 

「まだ意識は戻らないけど、命に別状はないよ。とりあえず治療は間に合った」

 

「「良かった~」」

 

 そう言うとリビングに安堵のため息が上がる。

 まあ、電話で俺がああいう態度をとっちまったってのもあるんだろうけど。しかしこれじゃあ、

 

「慰労会は中止かな」

 

「む、どうしてよ?」

 

 アリサが怪訝そうに聞いてくる。

 

「少なくともこれは事故じゃない、事件だ」

 

「どうして事故じゃないってわかるのよ?」

 

 怪訝そうにアリサが聞いてくる。

 

「何も知らない一般人であるなら、「車に轢かれた犬」と言う事故になるだろうが、俺達から見たらアルフが車に轢かれるなんてことはあり得ない。鮫島さん、アルフはどういう状態で見つかったんですか?」

 

「はい、道路の中央に横たわっていました。外傷は、前足が腫れていたのと、口から血が出ていたぐらいでしょうか?」

 

「そのあたりに車の部品や、タイヤのブレーキ痕はありましたか?」

 

「いえ、そういったものはありませんでした」

 

「確かに、ちょっと変ね」 

 

「お母さん?」

 

 鮫島さんの答えに、母さんが反応する。

 

「普通何かしら飛び出してきた場合、急ブレーキを踏むわ。そしてそこに残るのはタイヤ痕に接触したときに破損した車の一部。まあ、破損するかどうかは当たり所にもよるけど、よほどの事がない限りブレーキ痕は残るわ。そして轢いた対象が動物であるなら、証拠隠滅の類はする必要がない。そうなれば現場に残っているわね」

 

「流石警察官、補足あざーす」

 

「普通だったらだけどね。どんなことにも例外はあるから」

 

「まあ、決めつけるのはよくないけど九割がた決定だろうね」

 

「それじゃあ、どうするのよ?」

 

「どうするも何も、本人から話しを聞くのが一番だろ。生きてんだから」

 

「フェイトちゃんには話さなくて良いの?」

 

「ん~、それがだな、今連絡がつかないみたいなんだよ」

 

「え? 何で?」

 

「いや、俺に聞かれても知らんがな。リニス経由でも連絡がつかないんじゃどうしようもない」

 

「ちょっと、何とかなんないの!?」

 

「無茶言うな。現状じゃ何にも分かってないんだ。何もできないよ」

 

「じゃあ、後はアルフさんが目を覚ますのを待しかないって事?」

 

「ああ、そうだな。看病は俺とリニスでやる。見知った顔があった方がアルフも安心だろう」

 

 それを聞いた亜夜が胡散臭そうに俺を見てくる。

 

「……お兄ちゃん、念のため言っとくけどアルフさんに落書きしちゃ駄目だよ?」

 

「……HA! HA! HA! そんな事する訳ないだろ?」

 

「ちょっと間があったわね?」

 

「いやいや、バリカンで額の毛を「肉」って切ろうなんて思ってないですよ!……ん? あれ? アルフって犬形態で毛切ったら人間形態で禿げになったりするのかな?」

 

「そんな碌でもない事考えてるんじゃないわよ!!」

 

ドスッ!

 

 とアリサのツッコミが人体の急所の一つである肝臓に突き刺さる。

 殴られた所を押さえ蹲る。自業自得なのだが、なぜこうもうちの女性陣はツッコミが過激なのだろうか? と思わずにはいられなかった。

 

「じゃあ、リニスさんお兄ちゃん(バカ)はほっといてアルフさんの所に行きましょう。私も手伝います」

 

「ええ、そうですね一樹さん(バカ)はほっといて行きましょうか」

 

「ちょ、おまいら人の事バカバカ言うんじゃねー!」

 

「否定できないでしょ」

 

「まあ、そうなんだけどね」

 

 今までの事を考えればいたしかたないだろう。

 そうこうしてるうちに亜夜とリニスは客室に行ってしまった。あ、そうだ一つ忘れてた。

 

「アリサ」

 

「な、何よ」

 

 声を掛けられ警戒するアリサ。

 

「お前のおかげでアルフが助かった。本当にありがとう」

 

 そう言って俺は頭を下げる。

 

「べ、別にあんたの為に助けた訳じゃないわよ!」

 

「それでも、アリサが助けた事に変わりないよ」

 

「治したのは一樹じゃない」

 

「アリサが見つけたから助けられたんだ。もし見つけてなかったらと思うとぞっとするよ。だから、ありがとう俺達の仲間を助けてくれて」

 

 そう言ってアリサの頭を優しく撫でた。

 

「う~~~~~///」

 

「ん? なんだ? 照れてんのか?」

 

「ち、違うわよ!」

 

「ほんとあんがとな。お礼に何でも言う事を聞いてやろう。一週間語尾に「なの」ってつけてほしいとか、一週間下着をつけないでいてほしいとか、一週間裸エプロンで起こしてほしいとか、一週間浣腸ダイエットにつきあってほしいとか何でもいいぞ?」

 

「あんた! 私をどんな目で見てんのよ!」

 

「あ、いや、すまん。流石に一生とか言われると流石に引くわ~」

 

「なっ! 違うわよ! 自分のマニア度を低く評価された事に怒ってんじゃないわよ!! って言うかそんな事死んでも言わないわよ!!!」

 

「……なん……だと!?」

 

「驚愕してんじゃないわよ!! あったり前でしょ!?」

 

「それもそうだな」

 

「ほんとに腹立つわね。でも急にそんな事言われても決めらんないわよ。だから今は保留にしとくわ」

 

「了解。お手柔らかにたのんます」

 

「今後の態度次第ね」

 

「そうか、じゃあ問題ないな」

 

「大問題よ!! ああもう! あんたと話してると時間がいくらあっても足らないわよ!」

 

「よせよ照れるじゃねーか」

 

「誉めてないわよ!」

 

「まあそれは兎も角、明日は普通に遊ぶくらいだったら問題ないと思うからいつもの度五人で遊んでて大丈夫だ。なのちゃんは連絡しとくからすずかちゃんの方よろしく」

 

「……分かったわ」

 

「おう、じゃあ気をつけて帰れよ~。あ、そうだ。ちゃんとあれ持ってるか?」

 

「大丈夫よ、ちゃんと持ってるわ」

 

 そう言ってアリサは首に下げていたペンダントを見せた。

 凝った意匠のもので値打物である事は容易に判る。しかし凝った意匠とは裏腹にこれには高性能な発信機が内臓されているのだ。

 以前誘拐騒動があった時、忍さんお手製の発信機を五人に渡してあるのだ。

 必要なのはアリサちゃんとすずかちゃんだろうけど、ついでにという事で全員分のをつくってしまったらしい。

 まあ、巻き込まれる危険性が高いと言えば高いので正直ありがたい。

 

「よし、なら安心だ」

 

「ふん、あんたなんか頼りにしてないわよ」

 

「おう、俺も頼りになんかされたら困る」

 

「あたしは助けたくないって言うの!?」

 

「そうじゃなくて、めんどい」

 

「な、何ですってー!?」

 

「お嬢様、そろそろ……」

 

「む~~~~! 行くわよ鮫島!」

 

 そう言うと玄関の方にズンズン歩いて行ってしまう。

 

「かしこまりました、それと一樹様。程々になさってください」

 

「すいません、期待通りの反応をするからつい」

 

「お願いします」

 

「はい、次からは気をつけます」

 

「では、我々はこれで」

 

「判りました」

 

 そう言って鮫島さんも玄関の方に向かって行った。

 少しするとエンジンが掛かる音がして車が遠ざかって行く。ふう、アリサには感謝してもしきれないな。

 原作通りだがこんな大怪我とは思わなかった。流石にひやっとした。でも原作の流れに沿って物語が進むみたいだ。

 そうなると次はなのちゃんⅤSフェイトになる訳だが……。イレギュラーが発生しないかどうか非常に心配だ。

 ため息をついて肩を落とすが、頬を両手でパシン! と叩き気を引き締める。まだまだこれからだ。後一息気張って行こう。そう俺は気合いを入れるのだった。

 

― フェイト・テスタロッサ ―

 

 意識が戻って最初に目に入ったのは天井だった。一瞬何処だか分らなかったけど、母さんの執務室の天井だった。

 あの後、母さんに報告に行って結局ジュエルシードが七個しか集まらなかったと報告したら母さんを怒らせてしまった。そして、そのまま母さんにお仕置きされて気絶してしまった事を思い出した。

 身体を起こそうとしたら、全身に痛みが走る。見れば酷い恰好だった。

 バリアジャケットはボロボロになっていて、体中ミミズ腫れが出来ていた。

 それでもこのままでいる訳にもいかなかったから我慢して身体を起こす。起こし終わった後、膝の上に落ちている布を見つけた。手にとって見てみると、アルフがいつもつけていたマントだった。何でだろうと不思議に思って

 

「アルフ?」

 

 声を出してアルフを読んでみる。けど返事は帰ってこなかった。

 とりあえずマントを羽織って立ち上がる。すると部屋の奥の扉が開いて、母さんが入ってきた。

 

「母さん」

 

 母さんを呼ぶけど、いつも通り返事は無く無言のまま執務机についている椅子に腰かける。

 少し、考えるように背もたれに体重をずけていた。

 

「フェイト」

 

「は、はい」

 

 突然呼ばれて少し声が上ずってしまう。

 

「ジュエルシードだけれど、残りは全部管理局が持っているのよね?」

 

「はい、そうです」

 

「じゃあ、管理局から残りの十四個奪ってきなさい」

 

 それを聞いて愕然とする。はっきり言って、あの戦力に一人で立ち向かって残りのジュエルシードを奪ってくるのは不可能に近い。

 ちょっとだけ一緒だったけど、みんなもの凄く強い。あのなのはっていう子は私より魔力があるし、亜夜って子は剣の扱いがもの凄く上手い。

 そして多分もっと強いのが、一樹さんと、クロノって言う執務官。もしかすると戦いにすらならないかもしれない。

 それほどの戦力だ。とてもじゃないけど私とアルフだけじゃ敵いっこない。

 

「で、でもどうやって」

 

 私は思わずそう聞いてしまった。

 

「今からあなたにジュエルシードを預けるわ。それを全てかけて管理局と一対一に持ち込みなさい。そうすれば向こうも乗ってくるでしょう。此方のジュエルシードがほしいのは向こうも同じなのだから」

 

「で、でも」

 

 それでもし、一樹さんか執務官が出てきたらどうする? ほぼ間違いなく負ける。此方から相手を指定しても向こうが乗ってくれるかどうか…………。

 

「やりなさい」

 

「……はい」

 

 でも母さんはそんな事は関係ないとばかりに言ってきた。どっちにしろ私のする事は一つだけだ。

 そう思って部屋を出ようと出口に向かう。だけどその前に、

 

「あ、あの! 母さん」

 

「……なに?」

 

「アルフを知りませんか?」

 

 そう、私の唯一のパートナー。いつもだったらそばにいるのに今回は姿が見えない。扉の向こうにも気配を感じられない。一体どこにいるんだろう?

 

「……知らないわ」

 

「そうですか……」

 

 しかし、母さんから帰ってきた答えは私の期待したものではなかった。私はそのまま部屋を出ようとして扉を開けた。

 

「フェイト」

 

 でも、その途中で母さんに呼びとめられた。何だろうと思って振り返ると、

 

「もうすぐで終わるわ、だから頑張りなさい」

 

 そう言われた瞬間、今まで暗くなっていた気分が嘘の様に晴れた。

 全身に力が戻ってくる。不思議と身体の怪我なんか気にならなくなっていた。

 

「はい! 頑張ります!!」

 

 元気よく声を出してそのまま勢いよく部屋を出て行った。

 途中でバリアジャケットは修復されて、さっきまで勝てないと思っていたのが嘘の様に今なら誰が相手でも勝てそうな気がする。そんな気がする。

 私はそのまま街に向かうために転送ポートに向かった。

 

― プレシア・テスタロッサ ―

 

「頑張りなさいか、何故私はそんな事を言ったのかしら……」

 

 フェイトが去った執務室ではプレシアが自分のいった言葉を繰り返し、自分の言葉を不思議に思っていた。

 

― アルフ ―

 

「はッ!」

 

 急に意識がはっきりする。次の瞬間跳ね起きて周囲を警戒する。

 

「アルフ、落ち着いて下さい」

 

 毛を逆立てて「グルルゥゥゥ」と唸っていたけど、見知った顔を見て驚いた。そこにはリニスがいた。

 

「亜夜さん、一樹さんを呼んできてください」

 

「はい!」

 

 そう言うと、もう一人いたフェイト位の女の子が部屋から出て行った。

 よく見れば、その部屋には布団が敷かれていて、掛け布団が大きくずれていた。だんだんと警戒心が薄れていき何とか状況を把握しようとする。

 

「リニス?」

 

「はい、そうですよ。身体は大丈夫ですか?」

 

 それを聞いてハッとした。

 慌てて自分の怪我を確認する。腹部の痛みは消えて、何時も通りの状態だった。

何でだ? 私はあのカリウムとか言うのと戦ってかろうじて逃げ出して、途中で力尽きて倒れたんだ。あいつから受けたダメージも相当のものだったはずだ。

 でも不思議な事に痛みを一切感じない。治すにしてもそれなりの時間が必要なはずだ。何があったのか考えていると、部屋に誰かが入ってくる気配を感じた。

 

「おう、アルフ。起きたか」

 

 それはまた見知った顔だった。

 

「な、何であんたがいるんだい!?」

 

「これは異な事をおっしゃる。ここは俺んちだぞ?」

 

「は?」

 

「まあ、落ちつけ今から順番に説明してやるから」

 

 ゆっくりとした動作で説明しようとしている一樹を見て、それどころじゃない事を思い出す。

 

「そ、そんな事はどうでもいい! お願いだフェイトを助けてやっておくれよ! お願いだよ!」

 

「どういう事だ?」

 

「あたしにも詳しい事は判らないんだよ、ただ「時の庭園」に戻った時黒ずくめの変な奴がいて、そいつがフェイトを殺すって言って鬼婆を脅してるんだよ」

 

「なっ!」

 

 アルフの言葉に驚きを隠せないリニス。

 

「何とか逃げてこれたけど、途中で力尽きて……」

 

「アルフ、よく思い出して答えてくれ。そいつはどんな奴だった?」

 

「わからない。体格なんかはあんたと同じくらいだったけど、黒ずくめで顔も変なマスクをしてたし……、ああ、でも眼の色は赤と碧のオッドアイだったよ」

 

「他には、何か無いか?」

 

「後は……ああそうだ。管理局を壊滅させるのが目的だって言ってた。ジュエル―シードを使ってミッドチルダを壊滅させるとかどうとか……」

 

「目的はジュエルシードか、ミッドチルダの壊滅とは大きく出たな。リニス、俺とアルフはアースラに連絡して情報を整理しなおす。アルフも一緒に連れていく。なのちゃんと亜夜にはこっちから連絡するから今はまだ話さないでくれ」

 

「待っておくれよ! フェイトはどうするんだい! すぐに助けないと!!」

 

「落ちつけアルフ、フェイトならまだ大丈夫だ」

 

「どうしてそんな事が言えるんだい!!」

 

 怒っているあたしを見て呆れたのか、ため息を吐くカズキ。

 

「いいか、まずその黒ずくめの目的はジュエルシードなんだろう? そしてプレシアさんは既に七個持っている。その事はその黒ずくめの奴もプレシアさんから報告を受けているはずだ」

 

「それがどうしたんだい」

 

「七個集まったのはちょうど俺が「時の庭園」に行った時だ。それ以降もジュエルシードを回収していただろ? つまりジュエルシード七個じゃ足りなんだ。何個必要なのか知らないけど、少なくとも今アースラに保管してある十四個を狙っているのは確かだ。近いうち何らかのアクションがあるかも知れない。それはつまり、アースラにフェイトちゃんが来るか、連絡してくるかもしれいないってことなんだ」

 

「あ!」

 

「だからアースラで情報を整理するのと、向こうがどう出るかを確認する必要があるんだ。なんせ、敵さんにあってるのはアルフだけなんだからな。だから今のうち、その黒ずくめと会話した内容を一言一句思い出せ。その会話にどんなヒントがあるか分からないんだから」

 

「わ、わかったよ」

 

「よし、じゃあこれからアースラに連絡を入れるからちょっと待ってろ」

 

 一樹はそう言ってアースラに連絡を取り始める。いつもと違う一樹を見て、

 

「リ、リニス? こいつ本当に一樹かい?」

 

 と隣にいたリニスに聞いてしまった。

 

「ええ、非常に稀ですけど真面目な時もあるんですよ?」

 

「何で疑問形なんだい?」

 

「私も見るのは片手で数える程しかないので」

 

「そ、そうかい」

 

「ええ、いつもこのくらい……いえ、この半分でも真面目ならいいんですけど」

 

「あんたも苦労してんだね」

 

 リニスの言葉を聞いて同情せずにはいられなかった。

 

 

 


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