魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

21 / 49
本編 第二十一話

― リンディ・ハラオウン ―

 

 クロノが一樹君を引きずってブリッジから出て行く。

 一樹君の言動は今に始まった事ではないので、今ではいつもの光景として馴染んでしまっている。

 まあ、悪い事ばかりではない。クロノが規律や規則にガチガチに固まった考えをしなくなったのも一樹君のおかげだろう、しかも作戦中の一樹君は、どちらかと言えば優秀の部類に入る。

 此処で「優秀」と言いきれないのが彼らしい。まったくこれでもう少し真面目に任務をこなしてくれれば「優秀」と言いきって構わないのだけれど。

 何度かクロノとチームを組まないか打診して見たのだけれど、「クロノが美少女だったらOKなんですけどね……」と断られてしまった。その代わり「必要な時は何時でも声を掛けてください」と言われたのだけれど……、なかなかいい顔されないのよね、地上本部から。

 どうも引き抜きをしようとしていると思われている様なのよね。

 まあ、出来る事なら引き抜きしたいけど、一樹君の所属は地上本部になっていて、既に一樹君に模擬戦で勝てる局員はいない。地上本部首都防衛隊のエース、ゼスト・グランガイツ一等陸尉には勝てていないみたいだが負けてもいないそうだ。

 その為、二日間(土日出勤)しか顔を出さないから長期の捜査などには参加できないが、突入や救出作戦がある時は必ず声が掛かる様で、関わった作戦の成功率は今のところ100%だそうだ。

 ただ、上司をからかったり、作戦時にふざけたりするため一部であまり良い印象がないようだ。

 それでも「陸」の事情を考えればゼスト一等陸尉に匹敵する戦力の為、おいそれと「空」や「海」に渡せないのも事実の様だ。

 今でこそ嘱託魔導師だが、今後正式に管理局員になれば「陸」の未来を背負うかもしれないのだ。既にゼスト一等陸尉と二枚看板になりつつある。

 そうなれば今回の様な事でもない限り出向は難しいだろう。そして今回の件のジュエルシードは全部無事に回収完了、後はフェイトさんからジュエルシードを渡してもらうだけなんだけど……。

 とりあえず話し合いをしないといけないわね。私はなのはさん達に向き直り挨拶をする。

 

「さて、みんなジュエルシードの回収お疲れ様。いくつか反省するべき点はあるけれど、ここまで頑張ってくれてありがとう。艦長として、また管理局代表として感謝します」

 

「い、いえ! そんなに感謝されるほどの事じゃ……」

 

「そんな事ないわ。私達が到着するまでの間、暴走したジュエルシードを封印してくれた。もし、あなた達がいなかったらもっと多くの被害が出ていたわ。ロストロギアが起こす被害と言うのは生易しいものじゃない、それこそあなた達の住んでいる街はおろか、国、最悪の場合星そのものに影響が出るほどのものよ。だからあなた達はこの事を誇っていいわ」

 

「「「あ、ありがとうございます」」」

 

 ふふふ、まだ実感がわかないみたいだけど仕方ないわね。魔法やロストロギア何てものとは無縁の世界だし。

 

「後日改めてお礼をしたいと思います。もし希望があればそれに出来る範囲でかなえましょう」

 

 そう言うと亜夜さんが「う~ん」と考え始めてしまった。何か希望があるのかしら?

 

「世界征服も、永遠の命も、これから地球にやってくるサイヤ人を倒してほしいってのも無理でしょ?」

 

「亜夜ちゃん!?」

 

「いや、なのちゃん流石に冗談だよ? あ、でも世界征服あたりは出来そうな……」

 

「本気になっちゃったの!?」

 

 横で聞いていたユーノ君も驚いている。

 

「うそうそ。冗談だよ。それに急にそんなこと言われても決まんないって」

 

「そ、そうだよね」

 

「なによ~、なのちゃんホッとしちゃって! お兄ちゃんじゃないんだからそんなお願いしないって」

 

「あ、あはははは」

 

 そんな会話を聞いて「やっぱり兄妹ね~」っと思ってしまった。なのはさんやユーノ君をからかっている姿が一樹君と少し似ていた。

 

「じゃあ、もし何か決まったら教えてもらえるかしら? 一樹君に言えば連絡出来るから」

 

「「「はい!」」」

 

「じゃあ、お願いね。フェイトさんも良いかしら?」

 

 これまでずっと無言のままのフェイトさんにも声をかける。

 

「あ、はい。わかりました」

 

 フェイトさんはハッとしながらも返事をしてくれた。

 

「それと、フェイトさんが集めたジュエルシードだけど、此方に渡してもらえるかしら?」

 

「……すいません、それは無理です」

 

「なぜかしら?」

 

「……今、持っていませんから」

 

「どうしてかしら?」

 

 フェイトちゃんがもっていたジュエルシードは七個。一体どうしたのだろう?

 

「母さんに、全部渡しましたから」

 

「あら? フェイトさんは元々一樹君と一緒に回収していたんじゃないの?」

 

「いいえ、私は元々母さんから言われてジュエルシードを集めてました。その途中で知り合ったのが一樹さんです」

 

「そうだね。元々の知り合いじゃ無くって途中で知り合ってこっちの不利にならなかったから協力しただけだよ。それに私達は一樹に協力してただけで、管理局に協力はしてないよ。」

 

 今まで聞いていたアルフさんが答える。

 

「そうね、確かに協力するっていうのは聞いてなかったわね。でも、あなた達はロストロギアの危険性を知らない訳じゃないでしょ? それにロストロギアの個人所有は認められていないわ。勿論例外はあるけど今回の件についてはその例外にも当てはまらないのよ? 最悪「強制捜査」もありえるのよ?」

 

「…………」

 

「フェイトさん? お母さんがジュエルシードを何に使うのか知らない?」

 

「……分かりません。でも以前一樹さんが話した時は「人命救助」って言ってました」

 

「人命救助?」

 

「はい」

 

「他に何か分からないかしら?」

 

「いえ、それ以外は……」

 

 長い沈黙が続く。なのはさんと亜夜さんとユーノ君も此方を見ている。しかしフェイトさんは俯いて黙ったままだ。

 このままでは埒が明かない。実際今ジュエルシードが手元にないのだから仕方ない。この状況も私の望むものではない。

 

「仕方ないわね。フェイトさん今すぐとは言わないけどお母さんとお話させてもらえないかしら?」

 

「……え?」

 

「流石に今の話だけでは決められないわ。直接話せればそれが一番ね」

 

「……はい、分かりました。聞いてみます」

 

「お願いね。あ、それと確認なんだけど一樹君はお母さんと会ってるのよね?」

 

「? はい。一度ですけど」

 

「そう、ありがとう。じゃあ今回はこれで解散にします。みんなお疲れ様。ゆっくり休んでね」

 

「「「はい!」」」

 

 そう言って全員がブリッジから出ていく。全員が出て行ったのを確認した後通信回線を開きクロノに連絡する。

 

「クロノ、聞こえる?」

 

「はい艦長。どうかしたんですか?」

 

「一樹君の様子はどう?」

 

「まだ目を覚まさないですね。やっぱり無理してたみたいです」

 

「そう、目を覚ましてで良いから艦長室まで来るように伝えてもらえるかしら?」

 

「了解しました。あ、それと一樹から艦長に渡すように言われたデータそちらに送ります」

 

「データ? どんなデータなの?」

 

「中身は聞いてません」

 

「そう、……コレね」

 

 開けていたウィンドウにデータが届いたのでそのデータを開いて、そのデータを読み進めていく。

 そしてその内容に驚く。一体いつの間に調べたのだろうか? そこにはフェイトちゃんのお母さん「プレシア・テスタロッサ」についての報告書だった。

 過去の経歴から現在の状況。会って会話した時の印象等々、詳細が書かれていた。まったくホントにこういう事が出来るのだから普段ももっとしっかりしてほしいものだ。そう思いつつ報告書を読み進めていくと最後に盛大にため息をついた。

 

「何で名前の由来が書かれてるのかしら?」

 

 報告書の最後にはさっぱり意味のない事が書かれていた。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 目を覚ますとそこは知ってる天井だった。

 アースラの医務室には何度か世話になっているので見覚え位はある。あたりを見渡すと隣にクロノがいた。

 

「目覚めたみたいだな」

 

 目を覚ました俺に気付いたクロノが声を掛けてくる。

 

「最悪だ、何で目覚まし一発目で見る顔がクロノなんだ?」

 

「残念だったな。さっきまでみんな心配して来てくれていたけど、もう時間も時間だったから今はもう家に帰ってるぞ」

 

「みんな、フェイトちゃんもか?」

 

「ああ、アルフと一緒に帰ったぞ」

 

「……そうか」

 

 そうなるとこの後はアルフが保護されるイベントがあるかどうかだな。

 今回ジュエルシード回収後の攻撃は無かったからな。若干の誤差はあるけど概ね原作通りに進んでいる様だな。

 

「ああ、それと艦長が目が覚めたら艦長室まで来いと言ってたから行って来い」

 

「ん、了解。所でクロノ、俺はどの位寝てた?」

 

「ん? そうだな、ざっと3~4時間って所か? 結構疲れてたんじゃないか?」

 

「うぇ、そんな寝ちまってたのか。う~ん、もうちょい頑張れると思っていたけど駄目だったか」

 

「まあ、それなりに気の張る状況だったからな。知らず知らず疲労がたまってたんだろう。それに回収は完了したんだ。そのぐらい休んでも問題ないだろう。艦内の警戒レベルもグリーンまで落とされてるからな」

 

「ん? そうなのか? だったら後2~3時間寝ても問題「艦長、一樹が目を覚ましました」……おい」

 

 この野郎、問答無用で艦長に報告しやがった。

 

「さっさと起きろ。艦長室に行くぞ、休むならその後に休め」

 

「仕方がない、そうするか」

 

 そう言って俺はベットから立ち上がりクロノと艦長室に向かうのだった。

 

「斎藤臨時三等陸士、入ります」

 

「クロノ執務官、入ります」

 

 そう言ってクロノと艦長室に入る。

 

「いらっしゃい。身体の方はもう大丈夫かしら?」

 

「はい、充分休んだので問題ないっす」

 

「そう、なら良かったわ。報告書については目を通したわ。よくもまああれだけの情報をこの短い期間に調べたものね」

 

「な~に、俺が死に物狂いで頼めば調べてくれる人がいるので」

 

「……てっきり一人で調べたのだと思ったのだけれど」

 

「HA! HA! HA! そんなめんどくさい事する訳ないじゃないですか」

 

「胸を張って言い切るな! で、あれは結局何の報告書だったんだ?」

 

「ん? ああ、ありゃあフェイトちゃんのお母さん「プレシア・テスタロッサ」に関する報告書だ」

 

「何時の間にしr……ああ、一樹が調べたんじゃなかったな」

 

「おう、まあ半分位はクロノのおかげだけどな」

 

「何でだ? 僕は何もしてないぞ?」

 

「エイミィに「調べてくれたらクロノがデートしてくれる」って言ったらその場で仕上げてくれたぞ。だから非常に間接的だがクロノが手伝ってくれたと言っても良いだろう」

 

「な!? 本人の許可も無く勝手にそんな約束をしたのか!?」

 

「ん? 許可なら取ってあるだろ? この間「僕に出来る事なら協力する」って言ったじゃねーか」

 

「……確かに言ったが、こういう協力のつもりじゃなかったんだが」

 

「何だ? 別に初めてじゃねーんだから良いじゃんか」

 

「「な!?」」

 

「何で一樹がそれをs「一樹君それは本当!?」艦長!?」

 

「ええ、本当ですよ。此処に証拠写真もありますし」

 

 そう言って俺はスサノオに保存してある画像データをリンディさんに送る。

 

「あらまぁ!」

 

 リンディさんのウィンドウにはいくつかの画像データが映し出されていて、エイミィとクロノが仲良く映っている画像が表示されていた。

 ただ、いくつかの画像のエイミィはカメラ目線になっているが、クロノはカメラ目線になっているものは一つもない。

 何故かというと、ただ単に俺がエイミィに気付かれただけであって、エイミィと事前に打ち合わせしたとかそういうのは一切ない。

 クロノが気付いてないのにエイミィに気付かれるとは思わなかったけど。まあ、この事で昼食一週間分とデバガメしていた画像全部コピーして渡すという事で許してもらえた。

 

「クロノも隅に置けないわね~」

 

「か、艦長! からかわないでください!」

 

「いいじゃない、クロノのお嫁さん候補なんだから。もしかしたら娘になるかも知れないじゃない」

 

「良かったなクロノ。親公認になったぞ」

 

「いや、これはこれで問題だろ!?」

 

「「何処が?」」

 

 俺とリンディさんが綺麗にハモって答える。

 

「…………」

 

 クロノが必死に考えているがいい答えが見つからない様だ。

 

「まあ、クロノのデートに関しては置いといて、艦長呼び出された理由ですけど何かしました俺?」

 

「したと言えばしたわよね今回も、報告書や映像をみる限りだと殆ど回収の邪魔しかしてないわよ?」

 

「はっはっは! そんなに誉めないでください。照れるじゃないですか」

 

「今のをどう聞いたら誉めた事になるんだ?」

 

「ねえ、一樹君? もう少し真面目に出来ないの? 今回の件の事件報告書や、私達が来るまでの対応については及第点、他にも要所要所での対応は申し分ないわ。この報告書だって、先を読んだ結果でしょうし、戦闘に関しては言うまでもないわ。でもロストロギアの封印作業中にふざけるのはどうなのかしら? 一歩間違えばそれこそ大惨事になりかねないのよ?」

 

「確かに艦長の言うとおりだな。今回ふざけてなければもっと早く回収出来たんじゃないか?」

 

 ぬ、確かにその通りなんだけどこっちにも事情があるからな~、そんな早く回収完了する訳にもいかないし、フェイトちゃんの事だって準備しなきゃならんし、かといってその事を言う訳にもいかないし。

 今のところ原作に沿ってるから大丈夫だけど。仕方ないからここは謝っておこう。

 

「はい、すいません。次回からは気をつけます」

 

「……給与三ヶ月間30%カットにしましょう」

 

「うぇ!? そんなご無体な!!」

 

「謝るならもっとしっかり謝りなさい。棒読みで謝っても仕方ないわよ。それとも、もっとカットした方が良いかしら?」

 

「イエス・マム! 30%で構いません!」

 

「残念だったな一樹、せっかく10%カットが明けるころだったのに」

 

 クロノがそう言って肩を叩いてきた。

 

「これだと来月は給与40%カットか……チクショーめ!!!」

 

「自業自得だろ」

 

「知ってるよ」

 

「他にも何かしてたの?」

 

「いや~、この間気に入らない上司を模擬戦でボコボコにし過ぎちゃって。ゼストさんが止めてなかったらちょっと不味かったかも。「やり過ぎだ!」って事でめでたく10%カットに」

 

「相変わらずね」

 

「いや~、ついカッとなってやった。後悔はしていない(キリッ」

 

「反省してるのか?」

 

「反省はしてるよ。もうちょっと絶望感を味わってもらった方が良かったし」

 

「駄目だこいつ全く反省してない」

 

 そうため息をつくクロノを後目に艦長に聞く。

 

「艦長、話ってのは今回の件の説教ですか?」

 

「ええ、そうね。ホントはプレシアについて聞きたかったんだけど、報告書があるからいいわ。この報告書に書いてある事以外で知ってる事はあるかしら?」

 

「いえ、「プレシア」に関してはその報告書以外の事は知りません」

 

 まあ、答える訳にもいかないし。

 

「そう、分かったわ。じゃあもう下がってもらって構わないわ」

 

「分かりました。それじゃあ、自宅に戻りますので何かあったら連絡ください」

 

「ええ、その時はお願いね」

 

「それじゃ失礼します」

 

 そう言って俺は艦長室から出て行った。

 さてここからの失敗は許されない。テスタロッサ一家を助けるための正念場、原作とは違う道。ここからは完全にイレギュラー。

 もともとバッドエンドは好きじゃないからハッピーエンドにしたい所ではあるが、全部が全部上手くいけばいいけどそうもいかないだろうし。

 少なくとも原作で起こる現象には対応出来る準備はしてある。後は、

 

「俺の実力しだいなのかね~」

 

 ため息をつきつつ歩いて行くのだった。

 

― アルフ ―

 

 ジュエルシードが回収し終わって、家に戻るとフェイトは鬼婆の所に行ってしまった。

 どうもさっき言われた事を報告するみたいだ。そんな事をしないでも放っておけばいいのに。下手な事を言ってまたフェイトが傷つく所をあたしゃみたくないんだよ。

 そう思うと脳裏にフェイトの傷ついた姿が浮かぶ。何度も何度も鞭で叩かれ気絶するまでそれが続く。

 母親が娘にする行為とは思えない。でも、今はただフェイトが無事に戻ってくる事を願うだけだ。しかし、

 

「遅いねぇ、フェイトは……」

 

 報告に行ってかれこれ一時間は経つ。報告だけならここまで時間はかからないはずだ。

 

「……まさか!」

 

 嫌な感じが全身を駆け巡る。向かうのはあの鬼婆の部屋だ。それほど距離がある訳じゃないのに遠く感じる。

 そして部屋の扉が見えてくる。あたしは、勢いよく扉を開ける。

 

「フェイト!」

 

 扉を開けた瞬間、眼に飛び込んできたのは仰向けになって倒れているフェイトの姿だった。

 あたしは慌てて駆け寄るとフェイトを抱きかかえる。バリアジャケットはボロボロになっていて、身体の至るところには鞭で叩かれた跡がある。そして今も苦しそうにうめいている。

 その姿を見てあたしはキレた。フェイトをそっと横たえて、つけていたマントをはずしてフェイトにかける。

 そして改めて部屋をみる。そこにあの鬼婆はおらず、部屋の奥にもう一つ扉があるだけだ。あたしはゆっくり扉に近付き触れる。押しても引いてもびくともしない。が、

 

「オォォォーーーー!!!」

 

 拳に魔力を込め力いっぱい殴りつける。

 

ドガアァァーーーーン!!!

 

 扉の砕け散る音が響いて、もう一つの部屋が現れる。その奥にヤツの姿を見つける。その瞬間頭の中が真っ白になった。

 

「ウオォォーーーー!!!」

 

 雄たけびを上げて突っ込んでいく。拳を振り上げ、勢いそのままにヤツを殴りつける。

 

ガアン!!

 

 でも殴る事は出来ずにプロテクションで防がれ、自分の攻撃の威力の反動で後ろに弾き飛ばされる。

 反動を殺しながら、バク転をして着地する。

 

「チッ!」

 

 それでもまた攻撃を仕掛ける。今度は展開しているプロテクションを両手でこじ開ける。

 

「オォォォーーーー!!」

 

 少しずつ、少しずつ隙間が出来てくる。そしてそれが大きくなるにつれて抵抗が弱くなって、顔が入る位の大きさになると一気に抵抗が弱くなりそのままの勢いで左右に思いっきり引き裂いた。

 その事に驚きの表情をしている鬼婆の胸倉をつかみ持ち上げる。

 

「何で、何であんなに一生懸命に頑張っている子にあんな事が出来る!」

 

 勢いのまま鬼婆を問い詰めうる。

 

「あんなに頑張ってるじゃないか! あんたの言う事に嫌な顔一つせず、いつも「母さんの為に」って言って頑張ってるのに!」

 

 そう言って今までの事を思い出し、その行動が報われず、頑張ってきた仕打ちがこれだ。

 悔しくて、悲しくて、泣き出しそうになる。

 

「あの子はあんたの娘で、あんたはあの子の母親だろう!? 何でこんな事が出来るんだ!!」

 

胸倉をつかんでいる両手に更に力が入り締め上げる。

 

「黙りなさい」

 

 そう短く鬼婆が言ってきた。ちょうど腹部に魔力を感じ不味いと思った時には遅かった。

 とっさに腹部に力を入れ、衝撃に備えるがいつまでたっても衝撃が来ない。不思議に思って正面を見ると、

 

「ガ、ゴホッ、ゴホッ」

 

 と鬼婆が苦しそうに咳き込んでいる。よく見ると、口の端に血がにじんでいる。そんな姿を見て慌てて掴んでいた胸倉を離す。

 

「ど、どしたんだい!?」

 

 今まで怒っていた相手を心配する。変なことだけど、いきなり吐血されたら誰だってビックリするだろう。

 

「近寄らないで!」

 

 鋭い声に少し後ず去りする。どうすればいいのか戸惑っていると、

 

「困るな、協力者を痛めつけるのは」

 

 という声がしたのでその声のした方を見ると、円柱の上に人が立っていた。

 服は上下共に黒く、その上から黒のコートを着ていて、覆面にサングラスを付けた男が立っていた。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。