魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第二十話

― 斎藤一樹 ―

 

ドパァァァーーーーン!! バシャァァァーーーーン!!

 

 立て続けに襲いかかってくる竜巻を拳で、肘で、膝で、足で迎撃していく。

 一定の距離を近付かせず、離れないように攻撃する。そんな中、一本が攻撃の範囲外に出てしまった。

 「ッチ」と舌打ちをしつつ考える。竜巻は現在六本、普通に相手するだけであればまだまだ余裕だが、融合させないという条件をつけると今みたいに隙が出来てしまう。

 今はまだ六本がばらばらに動いているから良いが戦術や連携を使いだしたら厄介だ。それこそ今見たいな隙が命取りになりかねない。原作ではそんな事は無かったと言って安心はできない。

 現に色々細かいイレギュラーは出ているのだ。それを考えて後一本減らすことにした。今五本の竜巻が俺の周りを固めている。

 

「よし」

 

 俺はもうひとつ封印する事を決めると、右足に魔力と気を込め海面を踏み込んだ。

 

パアァァーーン!!!

 

 と、破裂したような破裂音が周囲に響く。

 そしてそこを中心に海が揺れ、海水が持ち上がり、俺を円柱状に包む。持ち上がった海水は五本の竜巻を飲み込み無力化する。

 

「逆瀧(ぎゃくろう)」

 

 自分の周りから水を噴射させ、そこから「突き」を入れる技だが今回は周囲の竜巻を無力化するために使った。

 流石に海中にあるジュエルシードまでは届かなかったがそれでも足止めには十分だ。俺はそこから範囲外にいる竜巻に一気に接近して、右拳に同じように魔力と気を込め海面を殴る。技などは使わず力任せに思いっきりだ。

 

「おりゃあぁぁぁーーーーー!!!!」

 

ドバアァァーーン!!!

 

 音と共に竜巻がけし飛び、海中のジュエルシードまで海面が割れる。すかさずジュエルシードを握りこみ、

 

「封印!!」

 

 と、右手に魔力を込めジュエルシードを封印する。右手から光がこぼれあたりを照らす。

 少し経つとそれも納まり封印が完了した。俺は元の位置に戻り五本の竜巻と相対する。そして、

 

(お~い、もう俺は封印出来ねーからそっちで頼む。時間稼ぎはするからよろしく!)

 

 なのちゃん達に連絡を入れる。後は準備が整うまで時間稼ぎをすれば良い。この程度ならさっきみたいな事もないだろう。後はどれだけ時間を稼げばいいかだな。

 まあ、そんなに掛からないと思うが……お!? なのちゃんと、フェイトちゃんがチャージし始めたか、となるとそろそろユーノとアルフがバインドで拘束し始める頃だな。それならあと少しだ。

 そう思いつつ周囲の竜巻を吹き飛ばしていくが、やはりすぐに再生してしまう。それを何度か繰り返した時だった、そこに翠とオレンジのバインドが全ての竜巻を拘束していく。

 

「お、やっと始まったか。じゃあ、俺も退避しようかなっと」

 

 そう思って退避しようかと思ったのだが、なぜか俺を中心に竜巻が集まっていく。すっかり囲まれ退路が無くなってしまった。

 

「おいおい、俺の退路は何処だよ……」

 

 てっきり俺が退避してからだと思ったがそうでもないみたいだった。

 こうなると上空に上がるしかない訳で、しかし上空に上がると何故か周囲の竜巻から迎撃が来る。上がれない事は無いが時間がかかってしまう。

 かといってどれか一つ吹き飛ばして変に今のバランスが崩れてしまっても困るので仕方なく、迎撃を捌きつつ徐々に上に上がっていくが……すこし遅かったようだ。

 

「今だ! ユーノ、アルフ離れろ!」

 

 ちょ、クロノ! 俺は!? まだ退避していない俺には警告の一つもない。そこへ、

 

「サンダァァァーーレイジ!!!」

 

 フェイトちゃんの容赦ない攻撃が突き刺さる。

 流石に竜巻の攻撃を捌きつつ、フェイトちゃんの攻撃まで防ぐ事は出来ない訳で、

 

「アババババババ」

 

 と感電する。竜巻からの攻撃自体が無くなったのは良かったが、身体が麻痺してしまって動けない。

 

《「クソ野郎」退避を推奨します》

 

 若干焦っている様にスサノオが進言する。俺だってそんな事は分かっているが身体がまったく言う事をきかない。

 流石にフェイトちゃんの全力攻撃をノーガードで受けるべきではなかったと後悔する。

 

「む゛り゛、う゛ご゛げ゛な゛い゛」

 

《では御愁傷様です》

 

 俺はその言葉を聞いて気付いた。

 そうだったこの後なのちゃんの全力全壊の封印砲が来るんだった。背中に冷や汗を流しつつ、不味いと思って上を見上げるがそこには桜色に輝く魔力が見えるだけだった。

 しかもこっちには全く気付いてないようで、念話すらとんでこない。クロノは何してんだ!?

 

「ディバイーンバスタァァァーー!!!!」

 

 桜色に輝く魔力がなのちゃんの声と共に唸りを上げて此方に向かってくる。

 ほんの数日前までは魔法の「ま」の字も知らなかったのに今ではこんな大出力の封印砲を撃てるようになるとは、この学習能力の高さ、教えた事をすぐさま実践できる吸収力、そして天賦の才と言える魔力量、原作とほとんど変わらない。その見事な姿をみて、

 

「まったく、小学生は最高だぜ!」

 

 そんな呟きと共に桜色の砲撃に飲み込まれ、襲ってきた衝撃に叫び声をあげ意識を手放した。

 

― 斎藤亜夜 ― 

 

 なのちゃんと、フェイトちゃんの攻撃が終わって海面には五個のジュエルシード。……とお兄ちゃん。

 三人でお兄ちゃんを引き上げに行く。ちらりと横眼でジュエルシードを見るとちゃんと封印出来ている。

 凄い、私じゃあんな砲撃は撃てない。

 

《悔しいか小娘》

 

「アマテラス?」

 

 アマテラスが私に声を掛けてきた。

 

《悔しかったら今日、この瞬間を忘れるでない。あの金髪小娘に魔力を渡すしかなかった自分の無力を忘れるな。そうすれば貴様はまだまだ強くなれよう》

 

「優しいね、アマテラス」

 

《ふん、ワシを使うなら今より強くなって貰わねば困るのでな。たまには飴を与えねばなるまい》

 

「そんなことまで言わなくても……」

 

《ふむ、では何時も通りの罵詈雑言がおこのm「私は誉められて伸びるタイプだよ!!」……ふん》

 

 そんなやり取りをしていると下の方から私を呼ぶ声がした。

 

「あ、亜夜ちゃ~ん。ちょ、ちょっと来て~!」

 

 なのちゃんが呼んでる。何だろう?

 

「どうしたの?」

 

 私は近寄ってなのちゃんに声をかける。

 そこにはぐったり下を向いているお兄ちゃんを支えるなのちゃんとフェイトちゃんがいるんだけど…………。

 

「ちょ、それどうしたの!?」

 

 私はお兄ちゃんを指さしなのちゃんに聞く。

 

「そ、それが……」

 

「二人で引き揚げた時にはもう……」

 

 改めてお兄ちゃんを見ると、両手首にバインドが巻きついていて、それで引き揚げられていて、十字架に磔になった某Yesな人みたいになっている。

 所々煤けていたり、焦げていたり若干ボロボロのバリアジャケット。二人の砲撃の強さを物語っているんだけど、問題はその上なのだ。

 フッサフサになっているのだ。髪の毛が。つまり、アフロになっている。それはもう大きめのまりもをそのまま頭にのっけた様な見事なアフロになっているのだ。 本来短髪のお兄ちゃんの髪の毛の量より明らかに多い量のアフロである。

 それを見てもう一度二人を見ると、笑いそうになるのを必死にこらえていた。なのちゃんは今にも吹き出しそうにしていて、フェイトちゃんは顔をそ向けてみないようにしているけど、肩が少し震えている。

 

「ど、どうし、ぷっ……どうしようコレ」

 

 なのちゃんはアフロを指しつつ聞いてくる。

 

「ど、どうしようって言われても……ぷっ……」

 

 よく漫画で爆発とか電撃とかの攻撃を受けるとアフロになるけど…………。

 

「お~い、みんな大丈夫?」

 

 笑いをこらえている所にユーノ君とクロノさん、アルフさんが降りてきた。

 

「すまない、一樹は大丈夫か?」

 

「フェイト! 凄いじゃないか! って、どしたんだい?」

 

 顔をそむけて返事をしないフェイトちゃんを不思議に思ったのかアルフさんが聞くと、フェイトちゃんはお兄ちゃんの方を指さす。

 後から来た三人が指がさした方を追うように顔を向けると…………。

 

「「「ぶぅーーーーー!!」」」

 

 と三人仲良く吹き出した。

 

「あーっはっはっはっは! どうしたんだいその頭は!!」

 

 と豪快に笑うアルフさん。

 

「す、凄い髪型だね。くっ、ぷーー!」

 

 控えめにこらえるけど、こらえきれなかったユーノ君。

 

「くっくっく」

 

 口元を押さえ笑うクロノさん。三者三様の反応だった。

 まあ、今の状態を見たらそうなるよね。アフロで磔けにされてれば誰だって笑ってしまうと思う。

 

「み、みんな。笑っちゃ、駄目、だよ……」

 

 フェイトちゃんも一生懸命こらえているけど今にも笑ってしまいそうになってる。

 

「ま、まあ、ジュエルシードも全部回収出来た事だし一旦アースラに戻ろう。テスタロッサ、君もだ」

 

 クロノさんは笑いをこらえているフェイトちゃんにも声をかける。

 

「そ、そうだね! 無事に回収も終わったんだし!」

 

 その意見に賛同する私。っていうかこのまま笑いをこらえるのも辛い。

 さっさとお兄ちゃんをアースラの医務室に運んでしまおう。そう思っているとクロノさんがなのちゃんとフェイトちゃんからお兄ちゃん受け取り肩を貸して支える。

 

「……はい」

 

「よし、エイミィ転送頼む」

 

『分かったよ、クロノ君。じゃあ、みんな集まってね』

 

「了解、こっちは大丈夫だ」

 

『ん、じゃあ転送するね』

 

 エイミィさんがそう言うと私達の足元に魔法陣が現れて全員をいっぺんに転送した。ちょっとした浮遊感がしたと思ったら次の瞬間には私達はアースラにいた。

 

「みんな、おつかr……」

 

 リンディさんの声が聞こえたけど途中で途絶えてしまった。

  まあ、原因はわかりきってるんだけど。良く周りを見るとみんな堪えてたり、クスクス笑ったりしていた。そんな中、

 

「ん、う~ん」

 

 そううめき声をあげてお兄ちゃんが目を覚ました。

 

「一樹、気付いたか」

 

 クロノさんがお兄ちゃんに声をかける。

 

「クロノ?……アースラに戻ったのか?」

 

 周囲を見て、頭を左右に振りながらクロノさんに聞く。

 頭を振るたびに左右にワサワサ揺れるアフロ。それが更に笑いを誘う。

 

「ああ、そうだジュエルシードも全部無事回収完了した」

 

「そうか、肝心な時に役に立たなくて悪かったな」

 

「いや、囮役は問題なかった。こっちも悪かった。一樹に報告しなかったし、退路も確保しなかったからな」

 

「ああ、その事か。次は気をつけろよ?……っとすまん肩借りっぱなしだな」

 

 お兄ちゃんはそう言って一人で立つ。

 

「いや~、しかしなのちゃんとフェイトちゃんの攻撃は効いたな~。綺麗に意識をすっ飛ばされたわ」

 

 そう言ってなのちゃんとフェイトちゃんに向き直る。

 

「「い、いえ。こっちこそすいませんでした」」

 

 なのちゃんとフェイトちゃんが仲良くはもる。

 

「まあ、次は気をつけてくれ。流石にもうくらいたくね~わ」

 

 そう言って首をゴキゴキならす。左右に揺れるアフロ。

 

「「…………」」

 

 なのちゃんとフェイトちゃんは頬を膨らませて一生懸命耐えている。

 

「ん? どうしたんだ二人とも? 頬膨らませて?」

 

 お兄ちゃんは屈んで首をかしげる。揺れるアフロ。

 

「「…………」」

 

 それでも耐える二人。

 

「ん~~~~~~~?」

 

 二人の顔を順番に何度も見るお兄ちゃん。そのたびにアフロが

 

ワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサ

 

 揺れる至近距離で見ている二人は今にも吹き出しそうだ。そうすると見かねたクロノさんが、

 

「いい加減にしないか」

 

 とクロノさんが張閃でお兄ちゃんを叩く。

 

ズパァーン

 

 と良い音がしたと思ったら「ポサッ」と何かが落ちた。

 

『!?』

 

 私を含めた全員が驚いた。

 

「ああ!? クロノ! なんて事をするんだ!」

 

「一樹……お前、それ……」

 

「ん? ああ、見ての通りヅラだが?」

 

 それが何か? とでも良いそうなお兄ちゃん。

 

「あ~あ、後もうちょっと見てたかったんだけどな~」

 

「……何をだ?」

 

「みんなが笑いをこらえてる所。特にその二人は思いっきり我慢してたからこう、何て言うかつい?」

 

「いつから気付いてたんだ?」

 

「んー、二人に引き上げられたあたりかな?」

 

「ほとんど最初からじゃないか!」

 

「おう、因みに皆さんの我慢している所はしっかり映像に収めているので」

 

《此方になります》

 

 スサノオがそう言うとお兄ちゃんの後ろに大きめの画面が現れてその画像を映し出した。

 まあ、なんと言いますか、みんな変な顔になっている。

 

「ちょ、一樹お兄ちゃん! 酷いよこれ! こんな顔画像残さないでなの!」

 

「あ、あの、これはちょっと……」

 

 流石に画像を見てなのちゃんとフェイトちゃんが講義する。そりゃ、女の子としてこの画像を残されたら……ねえ。

 

「黙らっしゃい! フレンドリーファイアしたんだからこのくらいの罰は当たり前だろう」

 

「「うっ!!」」

 

「それと、フェイトとアルフはまだ説教が残ってんだからな!」

 

「「え!?」」

 

「当たり前だ! あれだけの危険行為をしたんだじっくり説教してやる」

 

「「……はい」」

 

 シュン、とうなだれるフェイトちゃんにアルフさん。それを見て可愛そうになったので手助けをする事にした。

 

「ところでお兄ちゃん」

 

「ん? なんだ?」

 

「この画像いくら?」

 

「ん? 3枚100円で桃子さんが買い取って……あ」

 

「ふ~ん」

 

「は、謀ったな!」

 

「そんな事ないわよ、私もほしかったから聞いただけだし」

 

「明らかに棒読みでそんな事言っても説得力ねーよ!」

 

「でも、どうするの? あれ」

 

 そう言って私はなのちゃんを指さす。そこには何やら異様な雰囲気のなのちゃんがいた。

 

「一樹お兄ちゃん……」

 

「な、何でしょうか?」

 

「……少し、頭冷やそうか?」

 

「ちょ、それはまだ早すぎるし相手が違うから!」

 

 と言って逃げ始める。

 

「知ってる一樹お兄ちゃん?」

 

「なにを……え?」

 

「大魔王からは逃げられないの」

 

「自分で言っちゃった!?」

 

 い、今起こった事をありのままに話すわ。

 私の目の前にいたはずのなのちゃんがいつの間にかお兄ちゃんの前にいたわ。何を言ってるのか分からないと思うけど、何が起こったのか分からなかった。催眠術だとか超スピードとかそんなちゃちなもんじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。

 

「大魔王的な意味でか!?」

 

「うん」

 

「……亜夜ちゃんも頭冷やそうか」

 

 飛び火した!? 反射的にお兄ちゃんの言う事にうなずいちゃった!

 

「ヒャハー! 亜夜! 貴様も道連れだー!!」

 

「ちょっと! 私関係ないじゃない! 一人で逝ってきてよ!」

 

「亜夜が変な質問するからだろ!」

 

「そもそもお兄ちゃんがアフロにならなきゃよかったんじゃない!」

 

「あんな見事な攻撃でアフロにならん方が失礼だ!」

 

「意味分かんないわよ!?」

 

「大丈夫だ。いずれわかる時が来る!」

 

「来ないわよ!」

 

「いい加減にしろ」

 

スパン! スパン! ズギャン!!

 

 クロノさんの呆れた声が聞こえたのと、同時ぐらいに頭を叩かれた感触が残った。

 

「「な、何で私達まで」」

 

「こっちで叩かなかっただけでも良いだろ」

 

 そう言ってクロノさんは右手に持っている「張閃Mk3」(金属製)を見せてきた。

 因みに、不意打ちで叩かれたお兄ちゃんは前のめりに倒れている。どうやら気を失っている様だ。

 

「全面的に悪いのは一樹だがブリッジで魔法を撃とうとするのは頂けない」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「まあ、元凶はこれだから仕方ない。僕は一樹を医務室に運んで来る」

 

 クロノさんはそう言ってお兄ちゃんの襟をつかむと引きずって医務室に行ってしまった。私達はそれを見送って、

 

『はあ……』

 

 と盛大にため息をついたのだった。

 

 

 

 


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