魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第二話

― 斎藤一樹 ―

 

 あの大混乱した日から一週間が経過した。

 あの後、道に迷いながらも遅刻ギリギリで何とか学校にたどり着けた。そこで見たものは、ちっちゃくなった友人達。予想はしていたが実際に見るとやはり頭を抱えたくなる。何人か知らない顔が混じっているが概ね俺の知っている連中ばっかりだ。

 そのため、普段通り? (過去の小学校時代を参考に)過ごすことが出来たと思う。出来たと信じたい! 時々担任の先生が首を傾げていたが気のせいだ! 気のせいだったら気のせいだ!

 そしてただいま週末、つまり土日だ。ここ一週間で分かったことを整理すると次のような感じだ。

 名前 斎藤 一樹 9歳 小学3年生。

 身長は友達より背が高く140㎝ある。まあこのあたりはあまり変わらない。

 勉強面は、もともとは悪くないようだ。部屋をひっくり返したら、テストの答案なんかが出てきたからそれを参考にすると、だいたい中の上ぐらいだと分かった。 これもある程度制限というか同じ状態をキープする方向で行こうと思う。

 まあ、あんまり頭は良い方じゃなかったから、高校に行ったらみんなと同じぐらいになるとは思うけど。

 身体能力は意識が俺に代わってからか鰻登りに上昇中の様だ。この辺りは出来る限り抑えた方が良いだろう。試しに全力で動いたところ、成人並みの動きが出来たが、次の日は全身筋肉痛で動くのもやっとの状態になってしまったが。

 まあ、やっぱり人外の様な力は発揮されなかった。

 しかし、ひとつだけ思いがけない収穫があった。

 それは、たまたま格闘技の番組を見ていた時だった。選手が「技」を出したときにその技の情報が頭に流れ込んできたのだ。初めは何だと思ったが試しに体を動かしたところぎこちないながらもなんとか形になっていた。

 その後も繰り返し練習していくと、よりスムーズに、より速く、より重くなっていった。神様に会ってなかったから特殊能力なんかないと思っていたけどそんなことはなかったぜ! 某RPGゲームの能力とほぼ一緒だった。

 

「ラーニング」

 

 それが俺の能力の様だ。

 それがわかったので、格闘技、スポーツ、音楽等々いろいろ「ラーニング」してやる! と意気込んだものの「ラーニング」が反応するのは主に格闘技、これは反応が一番強かった。次に剣道、弱かったけど一応反応したのが野球。

 何でだ? と思ったらこれは前の世界で俺が経験したスポーツや武道だった。反応も経験年数が長い順で強くなっている。

 しかし一番驚いたのは「漫画」を読んだ時だった。まさか漫画の中の「技」をラーニングするとは思わなかった。

 まあ、確かに経験年数? はダントツで一番長いのだが……。良いのかね?

 ちなみに男の子ならだれもがやった事があるであろう「かめ○め波」は出なかった。これは期待していただけにちょっとショックだった。レベルが足りないのかそれとも根本的に使えないのか……どちらだろう?

 でもこれなら他にも能力があるかもしれないと思いドキドキしたが、それ以外の能力は発動することがなかった。まあないと決まった訳ではないので気長に待とうと思う。

 さて、次は家族についてかな? 両親共に健在。五つ上に兄、五つ下に妹がいて三人兄妹のど真ん中だ。

 そして、父さんが日本出身の「管理局員」母さんが日本出身の一般人だ。

 そう「管理局員」なのだ。ようやく思い出したが「ミッドチルダ」「管理局」とくればこの世界は「魔法少女」で「リリカル」で「全力全壊」な世界の様だ。

 まったく未だに信じられない。こんな事になるならもっと真剣に、アニメの内容を覚えるべきだった。原作に介入するか、否か。確かまだ時間があったはずだ。ゆっくり考えようと思う。

 さて、これからどうするかが問題だ。まず自分の能力が分かった事は大きい。これから武道場を探して自分を鍛えていこう。

 後は漫画だな。「ラーニング」でコピー出来る「技」は片っ端から覚えていこう。お小遣いの大半はこれに消えそうだ。

 そして、「魔法」だ。こればっかりは俺だけじゃどうしようもない。少なくとも親父の説得が必要になってくるし、魔法訓練も必要になってくるだろうし。

 う~ん今の状況を説明しても信じてもらえないだろうしなぁ~。たまに「ミッドチルダ」には行くからその時に説得できるかだな。

 そう悩んでいると、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

「は~い。だれ?」

 

「お父さんだけど、ちょっと良いかな?」

 

そう言って、ドアを開け顔をヒョコっと出してくる

 

「どしたの? 父さん」

 

「なに、明日ミッドチルダに行くことになったんだが、仕事はすぐ終わるからそのあと観光でもと思ってな。」

 

「母さんは行くの?」

 

「お母さんは明日こっちで近所のお母さん達と買物だってさ。」

 

「兄ちゃんは?」

 

「お兄ちゃんは友達と約束があるから行けないってさ。」

 

 おお、なんという行幸! 生き恥をゲフンゲフン……。

 行くかどうかを聞くのが俺が最後なのは納得いかんが、これが御都合主義とでもいうのか? まあ行ったことがないから行きたいんだけどね。

 あれ? 仕事もあるという事は管理局も見られるのかな? そういえば、父さんはどんな仕事してんだ?

 

「父さん、仕事あるの? どんな仕事?」

 

「なんだ~? 父さんの仕事が気になるのか?」

 

 父さんが嬉しそうに、ニコニコしながら答えてくる。お? これは仕事場見学出来るやもしれん。興味もあるしお願いしてみるか。

 

「うん! 俺、父さんがどんな仕事してるのか知りたい!」

 

と小学生ぽく答えると、

 

「そうかそうか、そんなに興味があるのか! じゃあお父さんの仕事も見学するか!」

 

 と、満面の笑みで答えてきた。相変わらずわかりやしーなおい!

しかしいいのか? そんなに簡単に許可して? まあ、自分の子供だし問題ないんだろうな~。

 

「やったー! 絶対だよ!」

 

これまた、小学生ぽく答える。

 

「おう、大丈夫だ! 問題ないぞ! じゃあ明日はちょっと早いから、そろそろ風呂に入って、歯磨いて寝なさい」

 

「何か急に不安になってきた……」

 

「何で!?」

 

 と、言いつつ父さんは部屋から出て行った。

 出たのを確認すると「ふぅ」とため息をつき明日の準備をし始める。もしかしたらトラブルに巻き込まれるかもしれないから注意しよう。あのセリフを聞くとどうもなぁ~。

 でも管理局を見学出来るのは大収穫だ! いろいろ調べてみよう。そう思い風呂に入るため下に降りるのだった。

 

― 翌日 ―

 

「ふぇ~~~~。でっけ~なぁ~」

 

 ただいま、父さんとミッドチルダに来ています。で、目の前に何があるかというと、超高層タワーとその周囲のやや低い(超高層タワーのおよそ半分程度の高さだが、市街地のビル群よりは遙かに高い)建物があります。

 そうです。『時空管理局地上本部』があります。

 ここはミッドチルダ中央区画首都クラナガンです。『StrikaerS』の後半の舞台で、スカさんにベッコンボッコンにされた地上本部です。

 まさか父さんがここに勤務しているとは……。信じられん。

 

「お~い、いつまで眺めてんの? 中に入るよ?」

 

と、父さんが声をかけてくる。

 

「は、は~い。ねぇ父さん。マジでここで働いてんの?」

 

若干信じられないので聞いてみる。

 

「何だ? 信じてないのか? ここは正真正銘お父さんの仕事してるところだぞ」

 

「こんなでかいところで何してんのさ?」

 

「それは着いてからのお楽しみだ」

 

 父さんは、子供っぽい笑みを浮かべ俺の手を引いて「本部」の中に入っていく。

 「本部」の中はすごかった。入って正面に受付のような場所があり、ロビーは吹き抜けになっていて、足元には管理局のエンブレムが描かれていた。すごかった。圧倒的だった。入る前と同じ様にポカンと眺めていた。

 

「どうだ? すごいだろ」

 

 と父さんがニヤニヤしながら言ってくる。チクショウ。答えなんか聞かなくてもわかってる癖に!

 

「うん、すごいや。想像以上だ」

 

 すると父さんは、ニコニコしながら頭をグシャグシャなでてくる。頭が左右に振られるが何となく心地よかった。

 

(何か、久しぶりだな。こんなふうに頭なでられるの)

 

 そう思っていると、父さんは頭から手を離し、俺の手を引き受付の後方にあるエレベーターに向かって歩いていく。

 下行きのボタンを押すと、ちょうど待機していたエレベータのドアが開きそれに乗り込んだ。若干の浮遊感があり、エレベーターが下に向かっていくのがわかる。

30秒程だろうか? 「ポーン」と音が鳴りドアが開く。エレベーターを出ると通路がありいくつかのドアがあった。そのうちの一つのドアの前に立つ。

 

(魔導端末整備開発課?)

 

「ここがお父さんの仕事場だよ」

 

 と言い、ドアを開け中に入っていく。それに続き部屋に入るとそこは不思議な空間だった。

 若干薄暗い空間に様々な機械が並び明滅しており、円筒形の入れ物の様な機械に浮いている宝石のようなもの。壁に並べてある様々な武器。

 そこでやっと思い当った。デバイスだ。ここはデバイスのメンテナンスおよび開発を行うところなのだろう。

 どうやら父さんは戦闘要員ではないようだ。研究員の様なものなのだろう。

 

「じゃあ、父さんは仕事してくるから大人しくしててくれ。周りの物には触らないようにね。」

 

 そう言うと、父さんは奥にあるドアに向かい、ドアを開け部屋の中に入って行った。

 俺はしばらく部屋の中のものを観察してたりしてチョロチョロしていたが、父さんが入って行ったドアの横に、長方形のはめ込み型の窓ガラスがあったので、そこを覗いてみた。

 ガラスの向こうは広い四角い空間だった。

野球場ぐらいあるのでは? と思っているとその中で二つの動く影があった。気になり目を凝らしてみてみると、唖然とした。

 俺と同じぐらいの男の子が、猫耳をはやしたお姉さんと空を飛びながら戦闘しているではないか。あまりの事に唖然としていると後ろから声をかけられた。

 

「どうしたのボク? こんなところで何してるの?」

 

「!?」

 

 某蛇の傭兵のゲームの様に驚きつつ、恐る恐る振り返るとそこには原作キャラがいた。

 その女性は、ポニーテルになっている髪の毛は腰辺りまで届いており、整った顔、スタイルのいい身体に管理局の制服を着ており、全体的に優しい雰囲気に包まれている。

 そう、「リンディ・ハラオウン」その人である。なぜここに? と思ったが、思い当る事があった。

 先ほど猫耳のお姉さんと戦闘していた男の子の方だ。

 

クロノ・ハラオウン

 

 リンディさんの一人息子。その付添にでもきたのだろうか? それならば此処にいるのも納得である。

 それならば猫耳のお姉さんは、クロノの師匠、リーゼ姉妹の「アリア」か「ロッテ」なのだろう。

 しかしまあ、こんな小さいときから戦闘訓練とは恐れ入る。よくやるね~ほんとに。

 そんな事を思っているとリンディさんが更に声をかけてきた。

 

「どうしたのかな?」

 

 更に優しい顔をして訪ねてきた。思わずドキっとしたがこれで俺と同じくらいの年の一児の母なのだから信じられん。

 まだ女子大生でも通じるんじゃなかろうかと思う。家の母さんとは大違いである。

 また考え込んでしまったが自己紹介位しないと失礼だと思いやっと口を開く。

 

「え~と、はじめまして。斎藤一樹です。今日は父が職場を見せてくれる言ったので着いてきました」

 

 軽くお辞儀をしつつ答える。するとリンディさんも律儀に頭をさげ、

 

「あら、一馬課長の息子さんなの? 礼儀正しいのね。はじめましてリンディ・ハラオウンです。今日は息子と一緒に来てるの、後で紹介するわね」

 

「そうですか、楽しみにしt……え? 課長?」

 

「あら、知らなかったの? 一樹君のお父さんはこの魔導端末整備開発課の課長。つまり一番偉い人よ」

 

「HA!HA!HA!またまたご冗談を」

 

 アメリカンな感じで答えるが、

 

「いえ、嘘じゃないわよ?」

 

 と真顔で返されてしまった。

 ……なん……だと? 父さんが課長? あり得ない。つうか想像できん。マジか!?

 冗談なのかどうかリンディさんの顔を見るがニコニコしているだけでわからねーし。

 そんな事を思っていると、父さんが入って行った部屋のドアが開き、父さんが戻ってきた。リンディさんに気づき声をかける。

 

「あれ? リンディさん来てたんですか?」

 

「ええ、先ほど来たばかりです。どうですかクロノのデバイスは?」

 

「S2Uですか? ええ今のところ問題ないですよ。こまめに整備もしてあるみたいだし。大事に使ってもらえて何よりです」

 

「そうですか。調整ありがとうございます」

 

「いえいえ、こちらはそれが仕事ですからね」

 

そう言って、父さんはこちらを見た。

 

「それと、紹介します。息子の一樹です」

 

「ええ、先ほど声をかけたら自己紹介されましたよ。礼儀正しい息子さんですね」

 

 そう言われると父さんはニヘラと顔を綻ばせニコニコし始めた。

 父さん、息子が褒められたのがそんなに嬉しいのか。と頭を抱えていると、父さんが戻ってきたドアから三人が入ってきた。

 一人はさっき戦闘していた男の子クロノ・ハラオウン。そして残りの二人は、猫耳をはやしたお姉さん。クロノの師匠アリアとロッテだろう。気のせいか幾分クロノが煤けていたが?

 

「母さん訓練終了しました。」

 

「御苦労さま。どうだった?」

 

「はい、問題ありませんでした。処理速度もいい感じです」

 

 そう事務的な話をしていると、俺に近づいてくる2つの気配。リーゼ姉妹だ。

 

「ん? 誰この子? クロスケの友達?」

 

「駄目だよクロノ友達連れてきちゃ」

 

 ロッテとアリアがクロノに言い聞かせようとしているので、

 

「だからやめとこうって言ったじゃんクロノ」

 

 便乗してみた。

 

「初対面だよ! 君も変な事言うな!」

 

 そういうとクロノはゴホンと咳払いをしてこちらを向き話しかけてきた。

 

「クロノ・ハラオウンだ。ここは関係者以外は入って来れないはずだけど、君は?」

 

「ああ、斎藤一樹です。あそこでリンディさんと話してニヤニヤしてるのの息子だよ。」

 

 言い方はアレだが事実を客観的にみるとそうなるのでそのまま話してみた。

 が、クロノは特に反応もなく実にあっさり返してきた。

 

「そうなのか。一馬課長にはお世話になってるよ。」

 

「そうなの? いまいち父さんが役に立ってる姿が想像出来ないんだけど? 父さんってどんな感じなの?」

 

クロノは、少し考えてから答えてきた。

 

「僕もあまり詳しくは知らないけど、デバイスマスターとしてはトップレベルだって聞いてるよ。今も僕のデバイス見てもらったけど調子が悪かったところがあっさり治ったし。ただ……」

 

「ただ?」

 

「開発方面では賛否両論らしい。ガラクタばかりかと思えば、たまにすごい物を作るらしい」

 

「そ、そいつはまた……」

 

「でも、優秀なのには変わりないよ。」

 

「そう言っていただけるとありがたい。しかし、さっきはすごかったな! 空飛んでビームみたいなのバンバン撃って。」

 

「あれ? 君は魔導師じゃないのかい?」

 

「うん。魔導師じゃないし魔導師って何?」

 

 そういうとクロノは考え出してしまった。

 まあ知ってるには知っているけど、それを言う訳にもいかないしね。俺は考え込むクロノに話しかけた。

 

「おーいクロノ? どうしたんだ?」

 

クロノは、ハッとなり

 

「すまない。少し考え事をしてしまった。リンカーコアがあったからてっきり魔導師かと思って」

 

 ……マジか!? リンカーコアあんのか俺! イエス! 御都合主義万歳! テンションあがってきた!

 

「え! じゃあ、俺もリンカーコアってのがあるから、さっきみたいに空飛んだり、ビーム撃ったり出来んの!?」

 

若干興奮気味にクロノに詰め寄り質問する。

 

「あ、ああ。資質の問題もあるからわからないけど、努力次第で結構出来るようになるよ」

 

体を引きつつ答える。

 

「どうやったら出来るようになるんだ! やっぱ特殊な訓練が必要なのか!」

 

「いや、デバイスがあればある程度で来るようになるけど。」

 

「マジでか!? よっしゃ! そうとわかれば、父さん!」

 

未だ、リンディさんと話している父さんを大声で呼ぶ。

 

「ん? 何だ一樹?」

 

「さっき、クロノから聞いたんだけど、俺にもリンカーコアがあって魔導師になれるかもしれないだって! だからデバイスくれ!」

 

 自分で言っててアレだが、何という暴論。隣にいるクロノも唖然としている。

まあ、これでもらえるとは思っていないが何か別の方向で考えてくれるかもしれない。そう期待した目で見ていると、

 

「う~ん、流石にあげるのは無理だけど、デバイス使ってみるか? さっきクロノ君が使ってた部屋で。」

 

「うん!」

 

いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 内心で渾身のガッツポーズをする。顔のニヤニヤが止まりません!

かつてこのようなテンションになった事があっただろうか? 否である! 人生最高の日になるかもしれない!

 そうと分かればこうしちゃおれん! 父さんの手を引き部屋に向かう。

まあ結論から言うと、人生最高というには余りにも微妙だったが。

 

 

 




チョコチョコ付け足したりしてますよ~www

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