― 斎藤一樹 ―
一日休みを入れ、なのちゃん達は昨日一日を使ってずいぶんと遊んだようだった。アリサちゃんやすずかちゃんに魔法の事を話したためか、ずいぶんと晴れやかな顔をしていた。
魔法の事を話している時はオロオロしていたがあっさり魔法が受け入れられた事もあり、その後はいつも通りのなのちゃんに戻っていた。
アリサちゃんの家から戻って来た時は満面の笑みだった。フェイトちゃんの方にもリニス経由で連絡を入れ手おりしっかり休むように言ってもらった。
フェイトにもアリサ達見たいな友人がいればいいのだがまだそこまでいってないので今はまだ我慢してもらおう。そして今現在……。
「ち~っす。三河屋で~す。差し入れお届けにまいりました~」
俺はアースラに差し入れを届けに行っていた。
前にリンディさんと約束したのでそれを果たすため差し入れ持参である。
「おい一樹、艦長室なんだから入り方ぐらいちゃんとしろ」
「あ~、すまん。艦長室にはテキトーに入るっていう家訓があるんだ」
「ずいぶん限定的な家訓だな!?」
「ま、それは兎も角、ほれ差し入れ……ありゃ?」
そう言って手に持っていた箱を胸の高さあたりまで持ち上げようとして気付いたのだが、いつの間にか箱が無くなっていた。
あれ? と思いキョロキョロしているとリンディさんが既に来客用のテーブルの上に、箱の中に入っていたケーキを取り出している最中だった。
……前にもこんな事あったけど、いつとられたか分からなかった上に、動きすら捉える事が出来ないなんて初めてだ。
「クロノ……」
「言うな、何も言うな」
クロノも若干諦め気味に言ってくる。リンディさん、あんたどんだけ糖分に目がないんだよ!
「あら、どうしたの二人とも? そんな顔して?」
全ての元凶であるリンディさんがにこやかに尋ねてくる。
「母さん、少し糖分は控えてください。いくらなんでも食べすぎです!」
「でも、健康診断では異常はなかったわよ?」
「マジで!? あんだけ甘いもん食ってんのに!?」
「失礼ね、そんなに食べてないわよ?」
「嘘だ!! この間だってホールケーキ食ってたじゃん!!」
「母さん流石にそれはどうかと思う」
きっとリンディさんが「身体は砂糖で出来ている」って言ったら信じざろうえない。そのうちアンリミデット・シュガー・ワークスとかしそうな気がする。
それともアレか? 某ノートの人みたいに頭を使ってるから糖分が必要なのか? そんな俺達をよそにリンディさんはにこやかに、
「とりあえずお茶にしましょう」
と言ってきたのに対し俺とクロノはその場で盛大にため息をつくのだった。
その後エイミィを呼びお茶の準備を始める。
「クロノ、コーヒーで良いか?」
「ああ」
「エイミィは?」
「あたしは紅茶で」
「リンディさんは?」
「いつm「茶でも飲んでろ」……一樹君、私あなたの上司で艦長なんだけど?」
「では、もう差し入れはいらn「お茶で良いわ!」……それで良いんですか?」
「プライドでは満たされないのよ」
どこか遠い目をして言ってくる。
「糖分ですね。わかります」
「母さん……」
クロノががっくり肩を落としている。
そんなクロノを放っておいて飲み物の準備をする。最近士郎さんにコーヒーや紅茶の入れ方を教わっているので自分でいれたりするのが趣味になりつつある。
スサノオに道具一式入っていていつでもどこでも淹れる事ができる。デバイスマジで便利。某青狸じゃ無かった、青猫のポケット並みに便利である。
ケーキの準備は向こうに任せて俺はみんなの飲み物を入れ始めた。艦長室にコーヒーと紅茶の匂いが漂いテーブルの上には色とりどりのケーキが並ぶ。お茶の準備も完了し全員に配る。
リンディさんは今か今かと待ちきれないのが、はたから見ていてよくわかる。犬であったなら、尻尾を振りまわし、さぞかしよだれを垂らしている所であろう。
「リンディさん、お待たせしました。どうぞ」
「じゃ、いただくわね」
「「いただきます」」
「いただかれます」
そう言うと三人はそれぞれのケーキにフォークをさし口に運ぶ。ぱくっと一口、すると三人は動きを止める。
「どうしたんすか? 三人とも?」
全然動かない三人を不思議に思い声をかける。
「おいし~!」
とエイミィ。
「ああ、美味いな」
とクロノ。
「ベリーッシモ! とても良いわ!!」
とリンディさん。反逆はしないでほしい。
「このケーキは上半分はチョコムース、下半分はブラウニー、間にピスタチオのムースがサンドされて、それらをチョコレートでグラッサージュ(アメ状、ゼリー状のものでつやを出す)して、ハート型というか、ブーメラン型をしているのが特徴的ね。チョコムースの濃厚なコクの割にあっさりした甘さ、ブラウニーのしっとり感と濃厚な甘さがマッチして、味が濃いのに何個でも食べれそう!」
「「「…………」」」
「一樹君! このケーキは何処で売っているの!?」
「なのちゃんの両親が経営している喫茶店ですが……」
「なん……ですって!!!」
リンディさんは雷に打たれたようにショックを受けていた。
「あ~、母さん?」
動かないリンディさんを見かねてクロノが声を掛けるが反応がない。
「「「失礼しま~す」」」
とそこに丁度亜夜となのちゃんとユーノが入って来る。そこで異変に気付いたのかユーノが聞いてきた。
「何かあったの一樹?」
「ああ、それがn「なのはさん!!」……」
「は、はい!」
俺が説明しようとしたのをさえぎってリンディさんがなのちゃんに詰め寄る。
急に声を掛けられ驚くなのちゃん。なんか面白そうな予感がしてきた。
「クロノのお嫁さんにならない?」
「「ぶぅぅぅーーーーーーーーーーーー!!!!」」
「ふぇぇーーー!?」
「「…………は?」」
「ぷ、っく……ほむ!」
仲良く飲み物を吹き出すエイミィにクロノ。真っ赤になって慌てるなのちゃん。何の事だか分かってない亜夜にユーノ。笑いをこらえる俺。良く見るとリンディさんの目が渦巻状にグルグルしてる。
「か、母さん! なに言ってるんだ!?」
「か、艦長!? 急にどうしたんですか!?」
と、当然の様に二人が抗議の声を上げるが、リンディさんは全く耳に入っていないのか無反応。それどころか、
「これでもクロノは優秀で有望よ? 今の内につばつけとけば将来安心よ?」
クロノの良さをアピールし始めた。そんな様子を見た俺は、
「そうだぞ。同期の中でも出世頭で、人望も厚い、性格も真面目ときたもんだ。優良物件なのは間違いないな」
ここぞとばかりに便乗し、ずずいとなのちゃんに迫る。
「え? えぇ!?」
さらに混乱するなのちゃん。
「急な事で混乱するのは無理ないわ! でもこれは私の幸せのためなの!」
「そうだぞ! これはリンディさんの幸せのためだ!」
「わ、私の幸せは!?」
「「え?」」
「そこで疑問形!?」
「いい加減にしてくれ!!」
その言葉と共に俺とリンディさんの頭に張閃が振り下ろされたのは言うまでもない。
クロノの張閃で正気に戻ったリンディさん。優しく微笑みながらなのちゃんに謝る。
「ごめんなさいね、時々ああなっちゃうらしいのよ」
「び、ビックリしました」
「しかしそれだけ翠屋のケーキが美味しかったのだろう」
「そうね、今まで食べてきたケーキで一番美味しかったわ。お母さんによろしく言っておいてね」
「あ、分かりました。伝えておきます」
なのちゃんも桃子さんのケーキが好評で嬉しかったのだろう、直ぐに笑顔になった。
「じゃあ、みんなそろった事だし、ミーティングを始めましょうか」
リンディさんはそう言って自分の机に戻る。
「エイミィ、お願いね」
「はい」
そう言ってエイミィは手元に現れたウィンドウを操作して俺達の前に画面を出す。
「じゃあまず昨日と今日の結果報告を先にしちゃいましょうか」
「「「え? 昨日と今日?」」」
亜夜、なのちゃん、ユーノが疑問の声をあげる。
「すいません、良いですか?」
「何かしら? 亜夜さん?」
「昨日の報告ならともかく、今日の報告ですか? 私達まだ出てませんよ?」
その疑問になのちゃんとユーノも頷いている。
「ふふふ、そうね。今日はまだ出動してもらってないわね。でもこの件に関して出動できるのはあなた達だけだったかしら?」
リンディさんはほほ笑みながら言ってくる。
「お~い、三人とも本来はお手伝いだってこと忘れてんのか? アースラにはこの件に関して対応出来る「武装隊」てのがちゃんと乗ってんだぞ?」
「「「……あ」」」
「今までは偶々、俺達の時にジュエルシードが見つかったってだけで、他の隊員も捜索してんだぞ?」
そうなのだ、基本的に俺達が学校に行っている時間帯はアースラの隊員がちゃんと捜索しているのだ。偶々その時に発見できないで、偶々なのちゃん達の方が遭遇率が高いだけである。
まあ、このあたりは修正力やら得体のしれない力が働いているのやもしれないが。
「まあ、そう言う事だ」
「じゃあ、続きを話すわね。昨日と今日で新たに捜索したポイントで三つのジュエルシードを確保しました。これで残りは7個になるのだけど、今日探したポイントで最後だったからもう地上では捜索する場所はもう残ってないのよ」
「え? もう全部サーチし終わったんですか?」
まだ見つかってないジュエルシードがあるのを不思議に思ったのかユーノが聞いてきた。
「そうなると残りのジュエルシードは……」
「そりゃ地上に無いんなら海中なんじゃないか?」
「あ、そっか」
「御名答、それで海中をサーチした結果なんだけどコレなんだよね」
そう言ってエイミィが画面にサーチ結果を出す。
「うわ~」
「これはまた」
なのちゃんと亜夜が呻く。そりゃあこの結果を見たらそんな感想になるか。
画面を見ると海中の地形が映っていて、300×300メートルの範囲の水深20~40メートルの付近にジュエルシードの反応が7つ固まっている。
一個でもそこそこ厄介なのにそれがひと塊りに7つ、まだ反応してないから良いがどれか一つでも反応すれば連鎖反応でたちまち7つ全てが反応し、あっという間に次元震が起こる可能性がある。
「で、どうやって回収する予定ですか? リンディ艦長?」
原作だと、フェイトちゃんが無理して強制発動して、なのちゃんと二人で封印したけど……。
「その前に一樹臨時三等陸士に確認したい事があるのだけれど」
「俺にですか?」
はて? また何かやらかしただろうか? しかしわざわざ階級つけて呼ぶくらいだから仕事関係か?
「あなたは魔法無しでどの程度水中活動出来るかしら?」
ふむ。
「そうですね、基本的なスキューバの装備があれば空気が続く限り問題ありません。限界深度は測った事がないのでわかりませんが40メートル以内の水深なら活動に問題ないです」
普通はこんな事あり得ないんだけどね。
本来、水中での活動というものは普通は大きく制限される。水深10メートルで3時間半程度、水深20メートル45分程度、水深40メートルで9分程度を超えて潜水すると危険なのだ。
それはなぜか? 減圧症があるからだ。減圧症とは高圧環境下で体内に溶け込んでいた窒素が、急浮上などにより急速に周囲の圧力が低下することにより気泡化するケースが典型的である。症状としては関節痛が典型的であるが、重症例では呼吸器系の障害(息切れ・胸の痛み)やチアノーゼが見られる場合もある。生涯にわたる神経系の損傷等、重篤な後遺症を招くケースも少なくない。
よって先に挙げた限界時間近くまで潜水していた場合には、地上で3時間程度の休憩が必要となる。例外もあるみたいだが一般的にはこんな感じだ。
しかし俺の場合、これらの水深や時間をオーバーしても全く問題なかったのである。まったくもってこの世界にきてから頑丈になったものだ。
「相変わらず馬鹿みたいな身体能力だな」
「そう誉めんなよ、照れるだろ」
「いや、お兄ちゃん誉められてないよ」
軽くボケているとリンディさんが再び話し始める。
「そうですか、分かりました。では回収プランは一樹臨時三等陸士を中心としたものにしましょう」
は?……何で? どうして? ホワイ?
「今回はジュエルシードが密集しているため下手に近付くと発動してしまう恐れがあります。よって今回は魔力を一切使用せずジュエルシードを一つ一つ回収し、現場海域から十分な距離をとった所まで運びそこで封印作業に移ります。封印作業についてはなのはさん、亜夜さん、クロノ執務官に担当してもらいます。一応バックアップに武装隊もいるからで安心してね」
「一切って事は、バリアジャケットも使用しないって事ですよね?」
「そうなるわね、勿論緊急時には使用して良いわよ。必要な装備はこっちでそろってるから問題ないわ。時間がかかってしまうけど発動させずに回収するのならこれが一番安全でしょう」
「……てっきり強制発動させて7個一気に封印でもするのかと思ってましたけど」
「それも一つの手段ではあったけど、発動させないで回収できる手段があるのだから、それをするに越したことは無いわ。発動させると何が起きるか予測できないもの」
安全第一ですね。分かります。
「分かりました、ミーティング終了後装備の確認及び点検を行います。作戦開始時刻は?」
「作戦開始時刻は今から二時間後の現地時間18:00時とします。装備については武器保管庫(ガンケージ)で受領するように」
「「了解しました」」
俺とクロノは敬礼で答える。
「あの~、今回私達はどうしたら……」
「さっきも言ったように、後方でジュエルシードの封印を担当してもらいます。指示はクロノ執務官に従ってください。特に必要な装備は無いのでいつも通りで構わないわよ」
「「分かりました」」
「あの~、僕はどうすれば?」
あ、そう言えばユーノの役割説明されてなかったな。
「ユーノ君は一樹君のサポートをお願いするわ。でも一緒に潜るんじゃなくて海上にボートで待機しててもらいたいの。作戦時間が長くなるから休息を入れつつ回収する予定よ」
「分かりました」
「よろしくなユーノ」
俺はそう言ってユーノに手を差し出し握手をした。
「では、各自準備を始めてね。これでミーティングは終了します」
リンディさんがそう言ったので装備を受領して点検でもしてますかね。そう思って武器保管庫に向かおうとした時、
ビィー! ビィー! ビィー! ビィー!
と艦内に警報が鳴り響く。艦長室のモニターには「WARNING」の文字が躍る。
するとリンディさんの前のモニターにメガネをかけた金髪の男性が映る。確かエイミィの部下のランディっだったか?
「艦長! 現在作戦予定エリア上空に魔力反応を確認しました! 至急ブリッジまで戻ってください!」
「分かったわ。直ぐにそちらに向かいます。エイミィ?」
「既にブリッジに向かいました」
「そう、それなら直接聞いた方が良いわね、って一樹君?どうしたの?」
「……いえ、何でもないです」
俺はorzになっていた。このタイミングで魔力反応つったらフェイトちゃんしかいないし。
あれほど行動する時は連絡しろと言ったのに! アルフもアルフだ! 何やってんだ!?
「一樹! 何やってんだ! なのは達はもうブリッジ向かったぞ! さっさと行くぞ!」
「了解!」
そう言って俺はクロノと共にブリッジに向かうのだった。