― 斎藤一樹 ―
その部屋は長方形の形の部屋で結構な奥行きがある。入口付近から部屋の奥の方まで伸びる机、その机を挟む様に椅子が並べられている。
そこはアースラの中にある会議室だ。戦闘前などに使うブリーフィングルームとは違い、それなりの人数が入る事が出来る部屋だ。
今この部屋には俺のほかに、リンディさん、クロノ、エイミィ、亜夜、なのちゃん、ユーノ、フェイト、アルフ、士郎さんがいる。それぞれ座っている席の前にウィンドウ型の画面の明かりが部屋を薄暗く照らしている。
そんな中俺はリンディさんに今回の事故の件に関しての報告をしている。なのちゃんとフェイトちゃんの模擬戦から3時間ほどしてアースラが到着し、それに乗り込んだと言う訳だ。
「そんじゃまず紹介から始めますか。え~っと、俺の左隣にいるのが知り合いのフェイトちゃんとその使い魔のアルフです。んでもって、右側にいるのが妹の亜夜で、その隣が高町なのはちゃん、その隣がユーノ君、更に隣がなのはちゃんのお父さんの高町士郎さんです」
それぞれ頭を下げ挨拶をする。何やらフェイトちゃんが、「使い魔じゃなかったんだ」と呟いている。
どうやらユーノを使い魔と勘違いしていたらしい。
「そんで、正面に座ってるのがこの艦の艦長のリンディ・ハラオウン艦長、その隣が息子さんのクロノ・ハラオウン執務官、俺の士官学校時代の同期だ。その隣が通信主任兼執務官補佐のエイミィ・リミエッタだ」
此方もそれぞれ頭を下げ挨拶をする。すると亜夜が、
「ねえお兄ちゃん。艦長とか通信主任っていうのは分かるんだけど執務官って何?」
と聞いてきた。ユーノとフェイトちゃん以外の人たちは気になるのか此方を見ている。
「あ~、アレだ。簡単に言うと刑事(デカ)だ」
非常にざっくりとした答えだが概ねあっている。それを聞いて亜夜は「へぇ~」とクロノを見ていた。
「んじゃ、紹介も終わったし報告にうつります。まず事の発端はスクライア一族が発掘したロストロギア「ジュエルシード」が運搬中に事故に遭い海鳴市に散らばった事です。そこからユーノ君が単独で回収を試みるも失敗、負傷したところを通りかかったなのちゃんに助けられた。その後現地時間で4月5日20時35分ごろ、海鳴市においてユーノ君が再度ジュエルシードの異相体と戦闘をしていたところに、なのはちゃんが居合わせ魔法の力に目覚めると共にジュエルシードの異相体を撃破、三個のジュエルシードを回収し封印しました。なお、その時の映像は此方になるので確認してください」
そう言って俺は画面を操作し、スサノオからデータを送る。
それをエイミィが受け取り画面に流す。そして、その映像を見たリンディ、クロノ、エイミィは食い入るように画面を見ている。相当驚いているようだ。
「か、一樹? このデータで間違い無いのか?」
クロノが聞いてくる。
「ああ、間違いない。なのちゃんが魔法と出会ってから戦闘に入る所も映ってるしな。編集してないノーカット版だぞ?」
「これ、初戦闘なのか?」
「ああ、そうだが?」
「あらあら凄いわね」
そう言ってきたのはリンディさんだった。どこか嬉しそうなのは気のせいか? まあ良いやとりあえず続きだ。
「んで、その後高町家と相談しチームを組み手分けをしてジュエルシードを捜索、途中フェイトちゃんも合流し現時点までに9個回収しました。後ほど詳しい報告書と映像データを上げます」
俺がそう言うと、なのちゃんが聞いてきた。
「あれ? 一樹お兄ちゃん、私達の回収したのって7個じゃなかったっけ?」
そう言うと、俺とは別のチームだった人たちが「うんうん」と頷いていた。
「ああ、言ってなかった。なのちゃん達がさっきのを回収している間に2個回収したんだ」
「ふぇ!? 2個も一辺に!? ど、どうやったの!? どこにあったの!?」
そう聞いてくるなのちゃんに俺達のチーム(と言っても亜夜だけだが)は苦笑いしている。
「あ~、なのちゃん。なのちゃんが歩いていると足元にお財布が落ちていました。さて、なのちゃんはどうする?」
突然まったく関係ない事を聞かれキョトンとしていたが答えてくれた。
「それは勿論警察に届け……え?」
どうやら気付いた様だ。
「正解だよ。海鳴警察署に行ってみただけ。そしたら何と2個も届いてたんだ。いや~、親切な人に拾われて助かったよ」
「な、なにそれ~~~!!」
そうなのだ。落し物として警察に届けられていたのだ。
俺も冗談半分に行ってみたのだがまさか本当にあるとは思わなかった。こんなところでイレギュラーが発生しているとは。発動しなくてマジで良かった。
まあ、早く回収が出来たので問題ないと言えば問題ないのだが。なのちゃんが「納得いかないの!」と言わんばかりだが気にせず報告を続ける。
「残りのジュエルシードは12個、しかし現時点で何処にあるかまでは分かっていません。報告は以上です」
俺はそう言って席につく。背もたれに体重を預け「ふう」とため息をつく。
残り12個、海には6~7個ぐらいまとまっていたはずだから残りは実質5~6個。今まで通り分かれて探せばそんなに時間はかからないだろう。
後はプレシアさんをどうするかだな。そんな事を考えているとリンディさんが話しかけてきた。
「大まかな状況はわかりました。残りのジュエルシードについてはアースラの索敵機能も存分に使って探しましょう。エイミィお願いね」
「了解しました」
エイミィが短く答える。
「実働班についてはクロノと一樹君の2チームで行ってください。人員は此方から出しましょう」
「「了解」」
更に俺とクロノが答える。
「それと、なのはさんにフェイトさん、アルフさん、ユーノ君に士郎さん此処まで手伝っていただいて本当にありがとうございました。管理局員代表としてお礼を申し上げます」
そう言うとリンディさんは頭を下げる。
「今後は管理局が引き継ぎますので普通の暮らしの戻ってください。ユーノ君はスクライア一族のいる世界まで送りましょう」
そうリンディさんは言ってきた。さてどうなるかな?
原作通りだと例の言い回しをしてくるんだが、今は保護者の士郎さんもいるし、イレギュラーの俺もいる。
更に現時点でこれは「事件」ではなく「事故」扱いになっている。戦力が必要な訳でもない。
さて、どうなるのかな~、とすでに観戦モードの俺であった。
「あ、あの! リンディさん。最後まで手伝っちゃダメでしょうか?」
お、なのちゃんが動いたか。
「ぼ、僕からもお願いします。最後まで手伝わせてください」
更にユーノ君の援護も入った!
「しかし、これは次元干渉に関わる事故だ。何の訓練も受けていない人間を使う訳には……いや、しかし此処まで封印処理したのは彼女達だ。これからは此方からのサポートも出来る。迅速に回収するには手伝ってもらうのが最善だが、いやしかし……」
おおっと! これは予想GAIです! クロノが賛成派に傾きつつある! 一体どういう風の吹きまわしだ!?
「士郎さんはどちらでしょうか?」
リンディさんが保護者の士郎さんに声をかける。
「そうですね、命の危険がある以上そちら管理局に任せるのがベストだと思います。これ以上危ない事に関わってほしくないという気持ちもありますが、それと同時になのはの意見を尊重してやりたいというのもあります。ですのでもしなのはが中途半端な気持ちではなく本当に手伝いたいというのなら、私からは何も言いません。出来たらなのはに同行させてもらえるとありがたいですが」
「お父さん! 良いの!?」
「ああ、さっき言ったとおりだよ」
そう聞いたなのちゃんは士郎さんに抱きついた。きっと反対されると思ったのだろう、本当に嬉しそうにしている。
「一樹はどう思う?」
そんな事を思っているとクロノに意見を求められた。早くも観戦終了です。
「そうだな、なのちゃん達に手伝ってもらえば間違いなく早く回収できる。今回の事故の事を考えると迅速に回収した方が良いのは間違いない。それに人数が増えればクロノを待機させて緊急時の遊撃としても使う事が出来る。ただし現場に出るのならこれからみっちり訓練した方が良いと思う、亜夜しかり、なのちゃんしかり。あんま無茶されても困るし。とりあえずそのぐらいか?」
「「「…………」」」
「ん? なんだよ。みんなして黙って」
「お兄ちゃんが真面目だな~って思って」
そう言ってくる亜夜に、
「うんうん」
首を縦に振り頷くなのちゃん。
「何時もこのくらいちゃんとしてくれれば」
そう言ってため息をつくクロノ。
「失敬な、俺は何時でも真面目だ」
「真面目な行動がアレだったら余計たち悪いの!!!」
一番被害にあっているであろうなのちゃんが突っこむ。
「何を言う! どんなことにも真面目に取り組むと教わらなかったのか!?」
「過大解釈しすぎだよ!!」
そう言ってきたのは亜夜だった。
「過小解釈するよか良いだろ」
「いや、むしろそっちの方が良かったかもしれない」
冷静に突っ込むクロノ。
「やれやれ、俺に味方はいないのか」
「みんな少なからず被害にあってるからね。いないと思うよ?」
苦笑い気味にユーノが言ってくる。
「ガッデム! なんて世の中だ!!」
「自業自得だな」
クロノがため息交じりに言ってきた。
「はいはい、漫才(コント)はそのくらいにして話の続きをしましょう」
漫才扱いされた。まあ、間違っちゃいないので反論できない。
「ふう、亜夜となのちゃんに関してはそんなもんですかね。次にフェイトちゃんですが、彼女は既に魔法訓練を積んでいるので直ぐに現場でも問題ないでしょう。しかし、体力的、精神的に見ても不安が残るのは事実です。ですので俺とチームを組むのが妥当かと考えます」
「その理由は?」
「まず第一に俺の魔力量ですね。そう何度も封印処理なんか出来ません。そうするともしジュエルシードが複数固まっていた場合、俺と隊員だけでは不安が残ります。その点フェイトちゃんなら問題ないでしょう。俺が前衛、フェイトちゃんが後衛アルフがサポートにつけばそれだけで十分です。封印処理はフェイトちゃん任せになりますが魔力量から言っても問題ないでしょう。次にフェイトちゃんとは知り合いです。行動に関しても気心の知れた人との方が動きやすいでしょう。フェイトちゃん人見知りしますし。そして最後にこれが一番重要かもしれません。それは……」
「それは?」
「男性隊員より、可愛い女の子と一緒の方が俺のモチベーションが上がr「バシィィン!!」……痛いぞクロノ」
俺のすぐ横には張閃(はりせん)を振りぬいた状態でワナワナと震えるクロノがいた。
「またか? またなのか!? また漫才をするのか!?」
「落ちつけクロノ。じゃあ何か? お前はフェイトちゃんみたいな美少女より、ガチムチで良い笑顔の兄貴とチームを組んだ方がモチベーションが上がるというのか!?」
「そんなわけあるか!!」
「だろう? だからクロノ、今からお前に名言を送ってやろう」
「……なんだ」
「可愛いは正義!!」
ズパァァァァン!!!
本日二度目の張閃(Mk2と書かれている)が炸裂した。
「少しでも期待した僕が馬鹿だった!!」
「そうだ、期待したクロノが馬鹿だったんだ」
「こっのバカズキ!! 今日こそ泣かす!!」
「やれるもんならやってみな! 最近は俺の方が勝ち越してるからな!」
「後悔するなよ! この会議が終わったらトレーニングルームに来い!」
「上等だ! 受けて立つ!」
そう二人で言い合っていると、静かな声で、
「終わったかしら?」
「「ゾクッ!!」」
俺とクロノは背筋を凍らせた。二人でギギギと音を出しながら声のした方に顔を向ける。
そこには良い笑顔をしたリンディさんがいて、その背後には某漫画の「地上最強の生物」がいるのが見えた。
周りの連中もガタガタと震えているが、フェイトちゃんだけ顔を真っ赤にして俯いてしまっている。あ、可愛いとか、美少女とか言い過ぎた。
しかしこの状況でこの反応、これがフェイトちゃんクオリティーか!! しかしそんな事を考えていると大抵碌な目に遭わない。リンディ裁判官(検察、弁護士兼任)が直々に死神の鎌を振り下ろす。
「クロノ執務官と斎藤一樹臨時三等陸士、この後トレーニングルームで「特別訓練プログラムS」を行います」
「「ゲッ!!」」
特別訓練プログラムとは、主に精神的に追い詰める訓練プログラムである。
難易度も豊富に用意されており、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっており、自主訓練するにはCが限度とされており、それより上は上司の許可が必要になり、Sから上にあっては指定された医師が一緒にいなければならないという程ものである。
C難度ですらそれなりに追い詰められるのにその三段階上の難易度だ。どうなるか分かったものではない。
「か、艦長? それは流石にやり過ぎなんじゃ……いえ、何でもありません」
見かねたのかエイミィが庇おうとするが、リンディさんと目を合わせた瞬間自分の意見を覆した。後にエイミィは語る。
「アレは無理だよ。声には出てないけど「一緒にする?」って言ってたもん」
目は口ほどにものを言うとは良く言ったものである。
その後会議は俺の意見が通りフェイトとペアになり、他はクロノが遊撃、なのちゃん、ユーノ、亜夜、士郎さんとなった。亜夜の訓練が終了したらもう1チーム増える予定だ。
なのちゃん達はあくまでも現地協力者という形になり非常時は管理局の指示に従うと相成った。そして会議が終了し各自が準備する中、トレーニングルームからは俺とクロノの悲鳴が絶えず響いていたそうな。
― プレシア・テスタロッサ ―
「ママー、こっちこっち!!」
そう言ってくるアリシア、今私達は小高い丘の上にいる。
そこは芝生が生えていて、大きな木もあって日差しを避けるにはちょうどいい日陰を作ってくれている。時折吹き風も心地よく、此処まで歩いて来て火照った身体を冷やしてくれる。
私はシートを日陰に敷き、持ってきたバスケットを置いてシートの上に座る。
「アリシア、あんまりはしゃいでると転んじゃうわよ」
「平気! 平気! 行こうリニス」
そう言ってアリシアはリニスと一緒に芝生の上で遊んでいる。
ああ、ようやくアリシアと一緒にいる時間を作れるようになった。研究も終わって、部署も変わりこれからはアリシアの為に色々してあげる事が出来る。そう思うと自然と笑みがこぼれる。
おやつの準備をしながらそう思っていると遠くで、金色の光が上がる。初めは柱の様に空に伸びたかと思うと次はそこを中心として半球の様になって私達に迫ってくる。そしてあっとゆう間にその光に巻き込まれる。
暗転
そして次に私が目を覚ました時周りの風景は一変していた。
地面は所々焼け焦げ、綺麗に生えていた芝生は見る影もない。シートを敷いていた場所にあった木は、途中からへし折れ燃え上がっていた。
心地よく吹いていた風は、今はどこからか焼け焦げた匂いや、巻き上げられた土煙りを運んでいる。
私はハッと思いだしアリシアを探す。そしてそんなに離れていない場所でアリシアを見つける。
「アリシア!!」
私はアリシアに駆け寄り直ぐに抱きかかえる。外傷はない。まったくと言っていいほど無かった。服さえ汚れていないのだ。
そして直ぐに脈の確認をする。手首に指を当て脈を測るが……無い。アリシアの胸に耳を当て心臓の音を聞こうとするが、私の耳にはその音は聞こえてこなかった。
「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
私は力の限り叫んだ。ああ、また、まただ。もう何度目になるだろう、分かってはいたこれが現実でない事は。
わかっていた。これが夢だという事は、でも、何度でも見てしまうそれが分かっていても、そう願わずにはいられなかったのだから。娘との時間を取り戻したいと…………。
「アリシア! アリシア!! アリシア!!!」
私は愛しの娘の名を呼び続ける。いくら揺すっても返事は帰ってこない。
そして何時もなら此処で眼が覚めるのだが、今回はすこし違っていた。
「母さん、大丈夫だよ」
そう言ってきたのは女の子の声だった。私は振り返るがその女の子の姿は逆光になっていて分からなかった。
でもこの声には聞きおぼえがあった。そしてもう一つ、
「大丈夫です。助かりますよ」
その横にはもう一つシルエットがあった。声からして男の様だけど女の子と同じで姿は分からなかった。
そして二人はアリシアに近付くと懐から何かを取り出しアリシアに飲ませる。すると、
「う、う~ん、……ママ?」
閉じられていた目が開き私の名前を呼んでくる。しかし私が見る事が出来たのはそこまでだった。
― 斎藤一樹 ―
「あ、あの大丈夫ですか?」
そう俺に声をかけてきたのはフェイトちゃんだ。
あの訓練後直ぐに二つのジュエルシードの反応が出てしまい、ただちにに出動となってしまった。
流石にこれは予想外だったのかリンディさんも「大丈夫?」と聞いてきた。
それについて俺は、「大丈夫だ。問題ない」と軽く死亡フラグを立てつつ現場に向かったが、ジュエルシードの異相体との戦闘も問題なく終了し、無事封印して一息ついている所だ。
「ちょっと、ふらつくけど大丈夫。それよりこっちこそ悪かったな。プレシアさんに報告行くの待ってもらって」
「あ、いえ大丈夫です。ジュエルシードが全部集まってないので」
「そっか、それでもちょっとは会いたいんじゃないのか?」
「……少し」
「だよな~。……じゃあさちょっと会ってくるか?」
「え?」
「プレシアさんに。俺もちょっと話したい事あったし」
「良いんですか?」
「構わねーだろ。家に帰るぐらい。報告しない訳でもないんだから」
俺はそう言うとフェイトから少し離れた所でアースラに連絡をする。
その様子を見てフェイトの近くにいたアルフがフェイトに話しかける。
「でも、大丈夫かね? あの鬼婆がまたフェイトに酷い事しなきゃ良いんだけど」
「アルフ!」
「……でもフェイト、あたしはフェイトが心配で」
「アルフ、お願いだから母さんの事悪く言わないで」
「ゴメンよフェイト」
フェイトにそう言われ「しゅん」となるアルフ。耳がペタっとなって、尻尾がダランと元気なく垂れる。
なんつーかこんなアルフも良いね! と思ったのは内緒だ。まあ、そんな二人の会話は全部聞こえているんだけどね。
やっぱりと言うか何というか、この事に関してはイレギュラーは発生していない様だ。まあ、どこまで説得できるか分からないけどやってみますか。
「フェイトちゃん、リンディさんから許可もらってきたよ~」
俺はなにくわぬ顔でフェイトちゃん達のところに行く。
「なんだい、やけにあっさり許可が出たね?」
そうアルフが言ってくる。
「そりゃーそうだろう、今のところ緊急性もないし家に帰るぐらいどうってことないよ。なのちゃん達だって今は家から通ってんだぞ?」
「そう言えばそうだったね。」
そうなのだ。今なのちゃん達は家にいてそこにアースラから連絡を受け直接現場に向かっている。
訓練についてはレイハさんにプログラムとスケジュールをインプットさせ自宅で訓練している。ユーノ君もそれを手伝っているようだ。
今アースラでは亜夜を集中的に訓練している。なのちゃんと違い魔法に慣れている訳でもないので二人見るより別々の方が良いとなったのである。
その為現在急ピッチで亜夜を訓練している。聞くところによると、実際に訓練をしつつ、マルチタスクでなのちゃんがしていたような訓練を行っていて、アマテラスがかなり絞っているらしい。まさに怒涛の訓練漬である。
そんな中亜夜は弱音を吐かずに頑張っているようで、クロノから話しを聞いたところ、なのちゃん程ではないが才能はあるようだ。
スポンジが水を吸収するようにどんどん覚えていっているとの事だった。魔法の才能に剣術の才能、天は二物を与えずと言うが全然そんな事はなかったぜ!
全然、コレぽっちもうらやましい何て思ってなんか無いんだからね! 勘違いしないでよね!
…………ごめんなさい。嘘つきました。沢山才能がある亜夜がうらやましいです。なんだか亜夜の方が俺より主人公っぽいよね。スキルとか才能的な意味で。
まあ、それは兎も角、亜夜の仕上がりが予定より早いのでもうこの分なら明日あたりにでもジュエルシードの捜索に参加できるようだ。そうすればジュエルシードの回収も2~3日中には終わるだろう。そう中りをつける。
「そんじゃ、フェイトちゃんの家に突撃しますか!」
「はい、じゃあ行きます」
そう言うと俺達の足元に魔法陣が出てきた。
「次元転移、目標地点 座標876C・4419・3312・D699・3583・D146・0779・F3125、時の庭園」
そう言うと足元の魔法陣が光り出し、一際輝いたと思ったらそこは見慣れた海鳴市ではなかった。
時の庭園プレシアさんの本拠地、フェイトちゃん達の家、今俺がいるのは転移用の部屋の一室の様だ。
そこは何もない部屋でそれなりの広さがある。これは転移事故を防ぐための処置だ。実際転移する時は明確な位置情報がないと出来ないし、転移した先に障害物があるとそれはそれは恐ろしことになる。
コンクリートの壁にめり込んだりするっていうのもあったらしい。そういう理由からこの様な部屋が用意される事になったという訳だ。
まあ、そんなに頻繁に転移する訳じゃないからこういう場所はそんなにない。珍しいというのもあってキョロキョロしていると、アルフが声をかけてくる。
「何キョロキョロしてんだい? こっちだよ」
そう言ってフェイトちゃんとアルフは部屋の出入り口に向かっている。その二人の後を俺は着いて行った。
しばらく歩いて行くとそこには大きな扉があり、その扉を見た第一印象は「無駄にデケェ!」である。10tトラックぐらいなら余裕を持って通り抜ける事が出来そうな大きさなのだから、そう思っても仕方ないだろう。
第一人の住居なのに此処まででかくする必要あんのか? まあ、そんな事考えてもどうしようもないので置いておくけど。そうこうしているうちにフェイトちゃんが扉をノックする。
「母さん、戻りました」
そう言うとやや間があり、
「入りなさい」
と、返事があった。触れてもいないのに勝手に扉が開いていく。
「アルフはここで待ってて」
「……でも」
「大丈夫だよ。安心して」
「……分かったよ」
おい、アルフあからさまに心配し過ぎだ。わからんでもないがもっと隠せ。念話とかいくらでもやり様はあるだろうに。
「ん? なんだ? なんか心配するような事でもあんのか?」
「あ、な、何でもないよ!」
俺の質問に慌てて答える。
アルフ……それじゃあ何かありますって言ってる様なもんだぞ?
まあ、とりあえず知らないフリしとかないとな。
「ん? そうか? なら良いんだけど」
「じゃあ、行こうか一樹」
「ああ」
そう言って俺とフェイトちゃんは扉の中に入って行った。
扉の向こうは広い空間に執務机(結構高級そうな)が正面にあるだけだった。部屋自体は上品な雰囲気になっており非常に好ましく思える。
そして机には一人の女性が座っていた。髪の毛は長く左目が前髪で隠れてしまっている。
顔立ちはフェイトちゃんに似ているがどこか疲れている感じがにじみ出ている。間違いないプレシアさんだ。
「ただいま戻りました」
「……挨拶は良いわ。で、ジュエルシードは?」
プレシアさん、俺は眼中にないって訳ですか(泣)
「あ、えっとそれは……」
そう言ってフェイトちゃんが俺を見る。そこでようやく視線をコッチに向けてくれた。
まあ、気付いてないなんて事は無いだろうから無視していだだけなんだろうけど。
「始めましてプレシアさん。俺は時空管理局臨時三等陸士、斎藤一樹です。突然ですがプレシアさん、いえ、お母さん!!! フェイトちゃんを俺にkオオォォォーーーー!!」
ドガアァァァーーーン!!!!
俺は最後まで言う事が出来ずに、プレシアさんの放った攻撃をまともに受け吹っ飛び壁に激突する。
その音を聞いてアルフが部屋に入ってくる。
「ど、どうしたんだい!? フェイト!?」
「さ、さあ? 一樹が挨拶したら母さんが攻撃して……???」
「一樹がなんかしたのかい?」
「うんん、何もしてないよ?」
どうやらフェイトちゃんには意味は分からなかったらしい。まあ、それはそれで良いのだが。
「フェイト? どういう事? この男は何?」
「え!? え~っと、ジュエルシードを集めるのを手伝ってくれて? 臨時の管理局員で? 母さんとジュエルシードの事で話がしたいって事だったから連れて来たんだけど……」
フェイトちゃん何故、所々疑問形なんだろうか。まあ、今までの行動を振り返ると手伝っていたかは疑問であるが。
「じゃあ、さっきの事は関係ないのね?」
「さっきの事?」
「……分からないのなら良いわ。それでジュエルシードは何処?」
「それは……」
「……まだ集まってないのかしら? あれだけ時間をかけてまだ一つも集まってないの?」
「ち、ちが」
フェイトちゃんは違うと言いたかったんだろうけど叱られるという恐怖からか上手く言う事が出来ない。
プレシアさんは椅子から立ち上がりゆっくりとフェイトちゃんに近付いて行く。
「残念だわフェイト。あなたはお母さんをそんなに困らせたいの?」
そう言ってプレシアさんは持っていたデバイスを鞭の形にする。
「言う事の聞けない子にはお仕置きが必要だわ」
「フェイトに何するつもりだい!」
「黙ってなさい」
そう言ってプレシアさんはアルフにバインドを掛ける。
「な! くそ! これを解け!」
そうアルフが言うがプレシアさんはそれを無視して鞭を振り下ろした。
アルフは直ぐ後に聞こえるだろうフェイトちゃんの悲鳴と苦しむ姿を見たくないのだろう目を閉じ顔をそむけて、フェイトちゃんは数瞬後に襲ってくるであろう痛みに耐えるために身を固め、必死に耐えようとしている。
バチィッッン!!
確かにそう音がしたがフェイトちゃんは痛みが来ない事に違和感を感じ、アルフは悲鳴が聞こえなかった事から恐る恐る目を開ける。
「いッッッッッッてぇぇぇぇーーーーー!!!!」
俺は背中に手を回し打たれた場所を必死に撫でるがあまり効果は無い。
例えるならば海に行って背中を真っ赤に日焼けして、そこにバチーン! と張り手をくらった様な痛みだ。
「だ、大丈夫かい?」
のたうちまわる俺を見て心配したのかアルフが聞いてくる。
「だ、大丈夫! 我々の業界では御褒美です!!!」
涙目になりつつもそう宣言すると、いくらか周りが「つつー」と身を引いたのが分かった。
ああ、このネタって知らない人に言うとただの変態だよね。言った後に軽く後悔する。
ただフェイトちゃんだけは分からないのか首をかしげている。
「あ、あんたそう言う趣味があったのかい?」
「変態はさっさと出て行きなさい。フェイトその変態から離れなさい」
そう言ってプレシアさんはフェイトちゃんに言う。
それに従いプレシアさんの元にトテトテと行くフェイトちゃん。そしてフェイトちゃんを後ろに庇いながらめちゃくちゃ警戒するプレシアさん。やべ、遊び過ぎた。
「すいませんでした!! ふざけ過ぎました!! なので、そんなに警戒しないでください。そういった趣味はこれっぽっちもありませんので!!」
そう言って正座をして額を地面に「ゴッ!」と叩きつけひたすら謝る。
自業自得なので仕方がない。そうするとプレシアさんも若干警戒を解いてくれたのか話しかけてくる。
「……それで、管理局員が私に何の用かしら?」
俺は額から血を流しつつプレシアさんに聞く。
「ジュエルシードの使い道について聞きに来ました。答え次第では俺はプレシアさんに協力しても良いと考えている」
「そう、でもその必要はないわ」
うわ~い、気持ちいいくらいにバッサリだ。しかし此処で諦める訳にもいかないので再度説得を試みる。
「現在管理局側で確保しているジュエルシードは六つ、フェイトちゃんが五つ合計11個のジュエルシードがある。プレシアさんの目的には幾つ必要なんですか?」
「全部よ」
「ジュエルシード全てを使って何をするつもりなんですか?」
「あなたに言う必要があるの?」
「そりゃ、管理局が回収しているロストロギアを使おうとしているんだから管理局が納得しないとこっちで保管しているジュエルシードは渡せないですよ」
「そう、理由は人命救助よ」
「何処で? 誰を?」
「それは言えないわ」
「何故?」
「依頼者からの意向ね。その依頼者も明かす事は出来ないわ」
はあ~、なにこのピグザム並みの装甲は? これじゃ、何を言っても無駄なんじゃなかろうか? しかし分かっちゃいたけど硬すぎやしないか? どうやって切り崩していったら良いか……。
「そうですか、しかし何でまたフェイトちゃん一人に? いくらアルフがいるからって危険すぎやしませんか?」
「あら? それはあなた達管理局も同じなんじゃないかしら?」
ファッキン!! それを言われるとぐうの音もでないZE!
「それを言われると耳が痛いですが、どうしてプレシアさんは手伝わないんですか?」
「フェイト一人で出来ると思っているからよ。私が手伝う程の事ではないわ。私はほかにやらないといけない事があるのよ」
…………もう、ゴールしても良いよね。コラそこ! 「諦めんの早!」とか思うな! そこも! 「諦めんなよ!」とか言うな! 後「お米食べろ!!」は関係ないだろ!
ゲフンゲフン、それは兎も角、明確に犯罪をしているって訳じゃないからなぁ~今のところ。次元震だって発生させてないし、経緯はどうあれなのちゃんとの一戦は模擬戦になってるし、クロノに攻撃やら妨害した訳じゃないからなぁ~。
は! コレ自分でまいた種じゃね!? 自分の行動の結果がこれだよ! いや、すこしは予想してたけどさ。
ああ、知ってる事を全部ぶちまけたい!! フェイトちゃんもいるから変な質問も出来ない!
ぬぁ~! 会うの失敗だったかもしれんな。タイミングが悪い。しかも嘘は言ってないようなので性質が悪い。
「確認しますが本当に人命救助なんですね?」
「そうよ」
俺はふう、とため息をつきフェイトちゃんを見る。プレシアさんの後ろでアルフと一緒にこっちを見ている。
「フェイトちゃん、いったん戻ろう。まだ渡しても良いって程事情を話してくれてない」
「そ、そんな」
「この理由だけで渡しても良いとは判断できないよ」
俺はフェイトちゃんにそう言う。するとフェイトちゃんが、
「じゃあ、私達の協力関係は此処までです」
そう宣言してきた。うあちゃ~、そう来たか。
「い、良いのかいフェイト?」
見かねたアルフが声をかけてきた。
「うん。私は母さんがジュエルシードを悪い事に使うとは思えない。私は母さんを信じてる」
ふう、失敗だったかなこりゃあ。
「そっか、じゃあ次に会うときは敵同士か。容赦しないぞ……なのちゃんが」
「あんたじゃないのかい!?」
「はっはっは、当たり前じゃん。俺は女の子を殴る様な鬼畜ではありませんよ。でもまあ、邪魔するとお堅い頭の連中が公務執行妨害とか騒ぐから、事前に連絡くれるとありがたい。もし一人じゃ無理そうだったら俺に連絡すれば自由に動けるから」
「分かりました。その時は連絡します」
此処まで来て変な罪状を追加する訳にもいかんしな。それと、
(アルフ、聞こえる?)
(っと、いきなり念話で話しかけるんじゃないよ。ビックリするだろ)
(いや、フェイトちゃんの事でな、今はああ答えてるけど多分連絡してこないかもしれないからホントにまずいと思ったらアルフから連絡してくれ)
(……そうだね、そんときは連絡するよ)
(ああ、よろしく頼む)
(悪いね、色々心配かけて)
(気にすんな。仲間だろ)
(さっき、次会うときは敵同士って言ってなかったかい?)
(プライベートまで敵になる必要な無いだろう)
(まったく、あんたらしいね)
「それじゃ、俺はそろそろ御暇(おいとま)するかな」
「一樹、今まで協力してくれてありがとう」
「そりゃあお互い様だ。こっちも協力してくれてありがとう。これは選別だ。とっといてくれ」
俺はそう言ってスサノオから俺の回収したジュエルシード二つをフェイトちゃんに渡す。
「え? 良いんですか?」
「ああ、今までの報酬とでも思ってくれ」
「でも、それほど協力してませんよ?」
…………考えてみればその通りだ。あくまでもお互いに干渉を出来るだけしないようにするっていう体勢だったっけ。
「ん、じゃあなのちゃんの模擬戦の相手役の報酬って事で受け取っといてくれ」
「……分かりました。ありがとうございます」
そう言って俺はフェイトちゃんにジュエルシードを渡し握手をして部屋から出る。
今回の事で多分シナリオ(原作的な意味で)通りに進む事になると思うんだよなぁ~。
そうすると次は海上戦になるのか?そんとき戦わないようにしっかり審判しないとな。
次は何で行くかな? そんな事を考えて、初めに来た部屋に戻った時俺はある事に気がついた。
「あ、俺転移系の魔法使えねーじゃん」
はあ、とため息をつきプレシアさんの部屋まで戻るのだった。