魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第十四話

― 斎藤一樹 ― 

 

 一年前程前初めてリニスに会ったときのことだ。車椅子に乗ったはやての膝の上にリニスを乗せはやての家まで帰る。

 そして現在八神家のリビング、はやては膝の上に乗っているリニスを撫でて御満悦の様だ、誰が見ても分かるほどに顔がゆるんでいる。

 しかしリニスが汚れている事に気付き、お風呂に入れると言いだして、風呂場に行ってしまった。

 そんな中俺とリニスは念話で会話をする。

 

(え~っと、リニスさんだっけ? さっきの念話途切れ途切れで拾ったんだけど、何でまたあんなところにいたの?)

 

(……その前に聞きたいのですが一樹は魔法が使える様ですが、「管理局」と言う組織は知っていますか?)

 

(うん、とりあえずそこの士官学校を卒業してるよ。でもまだ正式な管理局員じゃないけどね)

 

(そうですか、でしたら大丈夫ですね。私は使い魔で、とある事情により契約を更新せずそのまま消えようとしていました。何故あそこにいたかは正直分かりません。自分でも意識しないで適当に転移魔法を使用したので)

 

(そうなの? しかし何で契約更新しなかったの?)

 

(私の主人、プレシアというのですが、重い病気にかかっていて私と契約することでそれが負担になり、病気を加速させてしまう事が分かったので契約を更新しませんでした)

 

(さっき念話で「助けて」って言ってたのはリニスの事? それともプレシアさんの事?)

 

(……プレシアの事です)

 

(そのプレシアさんは病気を治せば助けられるの?)

 

(それは……)

 

 その質問にリニスは答えに詰まってしまう。

 例え病気を治したとしてもプレシアは助けられない、フェイトの事もそうだ。

 

(違うのか、それはさっき言ってた「二人を」って所に関係する?)

 

(……そうです)

 

(あ~、断片的な話じゃらちがあかねーや。とりあえず事情説明してみ? 案外如何にかなるかもしれないぞ?)

 

(しかし、(しかしも案山子(かかし)もね~ですよ。諦めたらそこで試合終了ですよ?)……分かりました。お話します。その代わり聞いて後悔しないでくださいね?)

 

(……何それ怖い)

 

 そしてリニスは語る。プレシアの事、アリシアの事、フェイトの事、リニスの事、リニスの知る全てを話し終えると俺は漂々と言ってのけた。

 

(良かったな。まだ何とかなるかも知れないぞ? ただ可能性は初号機の起動確率より低いかもしれないけど)

 

 それを聞いたリニスは信じられないという顔をしていた。

 それはそうだプレシアを助けるにはアリシアの蘇生が条件として付いてくる。しかし俺はそれが何とかなるかもしれないと言ったのだ。そりゃ驚く。

 

(気休めを言わないでください。そんな事出来るはずがありません!)

 

(まあ、信じられないのは仕方ないけど、リニスはプレシアとフェイトに幸せになってほしいんだろ? それが手の届くところまで来たのに出来るはずがないで斬り捨てちゃうのか?)

 

(嘘じゃないんですね? ホントなんですね?)

 

 そう言ってくるリニスの声は震えていた。

 

(可能性はゼロに限りなく近いけど、ゼロじゃないよ。どうする? この分の悪い賭けにのってみる?)

 

 俺はそうリニスに尋ねる。リニスは少し考え答える。

 

(……分かりました。その希望にかけてみます)

 

 その声はもう震えておらず、凛々しい声だった。

 

(分かった俺も最善を尽くすと約束するよ)

 

(ありがとうございます。これからよろしくお願いします一樹さん。約束守ってくださいね)

 

そう言って俺達は協力するのだった。

 

(ところで)

 

(ん? 何?)

 

(初号機って何ですか?)

 

(ですよね~)

 

 通じたのかな? と思っていたけどそんな事は無かったぜ! 初号機の意味を説明しつつ話していると風呂場から、

 

ガタァァーーーン

 

 という凄い音と、

 

「ヒャァーーーーーーーーーーーーー!」

 

 と言う悲鳴? が聞こえてきたので、風呂場の前まで行くと扉越しに、はやてに聞く。

 

「はやて! どうした!」

 

「か、一樹兄ちゃん! リニスが!」

 

「リニスがどうかしたのか!?」

 

「えらい、別嬪さんの女の人になってもうた!!」

 

「……は?」

 

 そんな事を言ってきたのでリニスに念話で話しかけると、

 

(リニス? どしたの?)

 

(す、すすす、すいません! はやてが転びそうになったのでとっさに助けちゃいました!)

 

(あ~、そういう事なら仕方ないか)

 

「はやて、とりあえず落ち着け? 今扉を開けると色々まずそうだから、リニス? が着れそうな服はあるか?」

 

「一樹兄ちゃん、自ら「お風呂でバッタリフラグ」をへし折るとは、ここは誉めるべきなんやろか?」

 

「あ、しまった! 開けとけばよかった!」

 

「無意識やったんかい!」

 

「ガッデム! しかし今からでも遅くない! この扉を開ければ桃源郷が!」

 

「今開けたらおばちゃんに言いつけるで!」

 

「……ファッキン!」

 

 そう言われ悔しがる俺だった。

 そんな事があり結局はやてに魔法がばれ、魔法の説明をしてリニスと仮契約を結び、普通に生活する分には問題ないくらいの魔力を供給する事になった。

 ただ、リニスの魔力容量が思いのほか多く俺の魔力だけじゃ満タンまで回復する事が出来ない事に若干へこんだりした。だってリニス俺より魔力量多いんだもん。

 チートっぽく魔力を少し分けただけで全回復って便利だな~と、思わずにはいられなかった。

 

 あ~、今に思えばリニスとの約束からついに此処まで来たのか。さて、フェイト達に接触出来たのは良いけどこれからどうしよう?

 馬鹿正直に真実を話す訳にはいかないし、ジュエルシード集めをやめるとも思えない。

 まあ、とりあえず事情説明をしないとどうしようもないのでまずはそこから話してみよう。

 

「え~っと、フェイトちゃん、とりあえずこっちの事情から説明するけど良いかな?」

 

「分かりました。お願いします」

 

「じゃあ、まず立場的なものから。まずジュエルシードの件に関しては既に管理局に連絡済みだ」

 

「え!」

 

「俺は正式な管理局員じゃないけど、士官学校を出ていてね。今回の件は信頼のおける友人に既に連絡してあるんだ」

 

「そ、そんな……」

 

「だから、もうすぐ管理局もこっちに着くと思う」

 

「…………」

 

 それを聞いたフェイトちゃんは黙ってしまった。それはそうだろう。管理局の介入始まればジュエルシードを集めるのは困難になるのだから。

 

「……今日の事はもう報告したんですか?」

 

「いや、今日の事はまだ報告していないし、するつもりもない」

 

「どうしてですか?」

 

「いや~、あれを報告すると俺が怒られるって」

 

 そう言ってケラケラ笑う。それを見てはやてが聞いてくる。

 

「報告出来ないって、一樹兄ちゃん一体何したん?」

 

「記録とってあるし見てみるか?」

 

 そう言ってスサノオをテーブルの上に置く。

 するとスサノオの上にウィンドウが現れ映像が流れだす。

 それを見るはやてと亜夜とリニス。そしてその映像を見てあきれ顔になる。

 

「また一樹兄ちゃんはしょうもない事をして、私としてはGガン○ムのス○ーカーの方が良かったんやけど」

 

「なのちゃん大丈夫なの? 怒ってなかった?」

 

「はぁ~、一樹さん。こういう事は程々にしないと」

 

 若干一名反応がおかしかった気がするが概ねあきれられた。

 

「いや~、なのちゃん怒っちゃって口きいてくれないんだよ。だからこの件にも呼べなくてな」

 

 そうなのである。あの後なのちゃんを回収してその場を離れたが、顔を膨らませプリプリ怒って後から来たユーノと一緒に帰ってしまったのだ。念話も全く受けてくれずしょうがないので今回連れてくるのを断念したのだ。

 それはそれでまた怒りそうなのだが仕方ない。ちなみに何で亜夜とはやてが一緒にいたかと言うと、はやては「リニスの雇い主はうちやー!」と強引に、亜夜に至っては、説得しても聞かず時間になってしまったので仕方なく連れてきたという事だ。

 

「お兄ちゃん後でしっかり謝っといた方が良いよ?」

 

「ああ、勿論そうするつもりだ」

 

 そう話していると、

 

「あの審判は、あんただったのかい」

 

 アルフがそう答える。

 

「あ、そっか。お面してたんだっけ」

 

「しかし良くフェイトに気付かれないでジュエルシードをとれたね?」

 

「フッフッフ、こっそり動くのは得意なのですよ」

 

「そうは思えないけどね~」

 

「人はみかけによらんのです。偉い人にはそれが「いや、それは違うやろ」……とりあえず最後まで言わせてくれても良いじゃん」

 

「甘いで一樹兄ちゃん! まだまだや! 精進しいや! って言うか使いどころ間違ってるやろ!」

 

「まあ、それは兎も角、話を戻すと今日の事は報告しないから安心して良いよ。後は今後フェイトちゃんはどう動くかだよな。俺達とは別に動いてジュエルシードを集めるか、俺達と協力するかだけど?」

 

「別に動いた時、もしぶつかったらどうするんですか?」

 

「う~ん、今日と同じかな?」

 

「ちょ、お兄ちゃん?反省してるの?」

 

「勿論。反省はしている。でも後悔は無い!(キリ」

 

「駄目やこの人、早く何とかせぇへんと……」

 

 とか言いつつ、グッとサムズアップする俺とはやてだったりする。

 それを見て亜夜は「なのちゃん頑張って!」と思わずにはいられなかった。

 

「……どうしてですか?」

 

「それについては「今のところは」と答えておこう。そっちの事情聞いてないし」

 

まあ大体知ってるけど、イレギュラー的な何かがあっても困るし。

 

「…………」

 

「ジュエルシードの使用目的が極端に悪い事じゃ無ければ協力だって出来る。報告なんぞでっち上げても構わね~し」

 

「さらりととんでもない事を言いますね一樹さんは」

 

「まあ、正規の管理局員でもないし、位置づけとしては民間協力者だからな。事後処理はクロノに任せるとしよう」

 

「クロノって人に同情するわ」

 

「まあ、そんな感じだ。後はフェイトちゃんの答え次第何だけど?」

 

しばしの沈黙。しかしフェイトちゃんはポツポツと答え始めた。

 

「……分からないんです」

 

「分からないって何が?」

 

「集める理由です。母さんに言われただけで何に使うかは分からないんです」

 

「……そっか」

 

「でも、母さんがどうしても必要だって、だから私はジュエルシードを集めて母さんに渡してあげたい」

 

「例えそれが俺達と敵対する事になっても?」

 

「はい」

 

「そっか、……それ以外は何も聞いてない?」

 

「はい、どうしても必要としか聞いてないです」

 

 そう真剣に言ってくる。まだ決定ではないがイレギュラーは無さそうだ。

 原作でも集めてる理由知らなかったし、そうすると目的はやっぱりアリシアを生き返らせる為にアルハザードに行くってことか。

 そうなるとやっぱりプレシアさんと話し合うしかなさそうだけど……どうすっかな。確認のためリニスに念話を飛ばす。

 

(リニス、どう思う? やっぱり目的はアリシアの蘇生かな?)

 

(まず間違いないと思います)

 

(止められると思う? 説得で?)

 

(かなり難しいと思います)

 

(やっぱり別の線で行くしかないのかな~)

 

(手はるのですか?)

 

(あんま自信ないけど、最悪強硬手段に出ても良いし。出来れば丸く収めたいんだけどね)

 

(でしたら今うてる手はうっておきましょう。あの時ああしておけばよかったと後悔しないように)

 

(そうすっか、もしかしたらリニスにも動いてもらうかもしれないからそのつもりで)

 

(分かりました)

 

 ふう、とため息をついて再びフェイトを見る。

 その瞳は強い意志が見てとれる。まったく本当の事を言えないのはもどかしい物である。

 

「フェイト達はこれからどうするんだ?」

 

「ジュエルシード集めをやめるつもりはないです」

 

「う~ん、やめろとは言わないけど敵対はしたくないんだよな~」

 

「はい、それは私も同じです。リニスを助けてくれた人を傷つけたくないです」

 

「お互いに妥協点を探さないとな~、ちなみにそっちは何個集めた?」

 

「さっき、カズキさんから受け取ったのを合わせると3個です」

 

「フェイトちゃんのお母さんは何個必要って言ってた?」

 

「21個全部集めてきてって言われました」

 

 分かってたけどいきなり妥協が難しい状況です。

 残りは15個か。確か海に6~7個あるのは分かってるから、実質8~9個を探さないといけない訳だ。

 

「こっちで集めたのも3個だから残り15個。まあ、当分は封印することを優先するとして、そうだな出来るだけコッチとぶつからないようにしてくれるとありがたい。正直俺としてはジュエルシードが暴走する脅威が消えればそれで良いので。とりあえずはそれで手を打たないか? 勿論そっちから連絡してくれればそっちを手伝う事も出来る」

 

「……分かりました。でも残り全部集め終わったら……」

 

「そんときはまた話し合い! いきなり物騒な話はなしです!!」

 

 リリカルな魔法少女はどうしてこうも好戦的なんだ?

 

「……分かりました。あ、あと、リニスはどうするんですか?」

 

「う~ん、どうするか? フェイトちゃんのサポートについてもらうか?」

 

「それだと、はやてちゃんはどうしましょう?」

 

「うちは大丈夫やけど、どうせなら家に泊らへん? 部屋余っとるし」

 

「お、そうだな。フェイトちゃん達は拠点とかもうあるの?」

 

「と、とりあえずマンションを借りてます」

 

「そっか~、残念や。どの辺にすんどるん?」

 

「え、え~っと、その、あ、あそこです」

 

 そう言って、窓のから見えるマンションを指さす。あ、なんかデジャブ。俺は「こんなところでイレギュラーかよ」と思わずにはいられなかった。

 

 結局、リニスはフェイトと一緒に住む事になり、はやての所には朝から夕方(俺達が帰ってくるまで)の間いる事となった。

 それが決まった時はやては少し寂しそうな顔をしていたが、夜は斎藤家にお世話になるという話が出ると途端に笑顔になった。

 そして今日のところはフェイトとアルフが泊るという事になり、腕に縒りを掛けて料理すると張り切っていた。一人の時から料理をしていて、リニスが住んでからは一緒に料理をしてメキメキ腕を上げていった。

 かなり遅めの晩御飯をみんなで頂き帰宅する。自室に戻り今日の事を謝るためなのちゃんに念話する。

 

(なのちゃん? 聞こえる?)

 

(……なに? 一樹お兄ちゃん)

 

 良かった答えてくれた。さっきより幾分機嫌が直ったかな?

 

(良かった、やっと答えてくれた。いや~今日はすまんかった。もう二度とやらんとは言えないけど、許してくれ!)

 

(全く反省してないよね!?)

 

(流石にその謝り方はどうかと思うよ?)

 

 会話を聞いていたユーノが言ってくる。

 

(いや~、出来ない事は約束しない主義なんだ。それにこの時だけ「もうしない」って言うのは不味いだろ?)

 

(それはそうだけど、でも何か違うよね!?)

 

(細けぇ―こたぁー気にすんな!)

 

(……それ謝ってる人の態度じゃない気がするの)

 

(まあ、それは兎も角、相手のフェイトちゃん心配してたぞ?)

 

(ふぇ? 一樹お兄ちゃんあの子と知り合いなの?)

 

(違う違う、リニスが使い魔だって言うのはもう話したよな?)

 

(……初耳だよ~)

 

(え゛? そうだっけ?)

 

(そうだよ! リニスさんが使い魔さんだなんて聞いてないよ!)

 

(ありゃ? そうだっけか? まあ、それならそれで説明するからいいや)

 

 そんな訳で斯斯然然(かくかくしかじか)と説明中、(プレシアとアリシアの事は省き)それを聞いてなのちゃんとユーノが黙ってしまった。

 

(およ? どうしたのお二人さん?)

 

(……ううん、リニスさん大変だったんだな~って思って。フェイトちゃんもリニスさんとまた会えて良かったなって)

 

(そうだね。でもカズキ、何でジュエルシードを渡してもらわなかったの? アレの危険性は知ってるでしょ?)

 

(ユーノ君、一樹お兄ちゃん、ジュエルシードってそんなに危ないの?)

 

なのちゃんが聞いてくる。そう言えば説明して無かったな。

 

(そうだな、良くて海鳴市が無くなる。最悪地球が無くなる。大雑把だけどこのくらい危険な物だよ)

 

(…………ふぇ!? レ、レイジングハート!大丈夫!?)

 

『大丈夫です』

 

 テンパってなぜかレイハさんの心配をするなのちゃん。

 

(なのは、封印処理されてるから大丈夫だよ)

 

(そ、そうなの?)

 

(これはあくまでも暴走してそのまま放置した場合だから。とりあえず向こうの持ってるやつも、封印はされてるから大丈夫だよ。んで話は変わるけど、しばらくの間は協力ってわけじゃないけどジュエルシードの封印を最優先という事になりました)

 

(え?)

 

(お互いに邪魔しないってこと。向こうが封印した分は向こう持ち、こっちが封印した分はコッチ持ちって事。同じジュエルシードを一緒に封印する時は戦闘はしない方向で話が付いてる)

 

(い、何時決まったの?)

 

(ん? ついさっき)

 

(えぇぇーーー! 何で私も呼んでくれなかったの!?)

 

(いや、いくら念話で話しかけても答えてくれなかったじゃん)

 

(うっ! で、でもユーノ君に言ってくれたって……)

 

(いや~、正直時間があまりなくてな。亜夜とはやて説得してたら時間になっちまってな)

 

(え? 亜夜ちゃんはともかく、何ではやてちゃんが?)

 

(おお、はやては魔法の存在知ってるぞ。原因はリニスでな、今回リニスの雇い主って事で強引にな連れてくはめになった)

 

(……もう何が何だか分からないの)

 

(まあ、ある程度はもう説明し終わったからゆっくりまとめとけ。明日はまた捜索だから)

 

(そうするの)

 

(おう、じゃあ、また明日)

 

(うん、一樹お兄ちゃんまた明日)

 

 そう言って念話をやめる。明日また頑張りますかね。そう思い俺は準備をするのだった。

 

― プレシア・テスタロッサ ―

 

 今、私は自分の机に座り研究成果を纏めている。プロジェクト「F」は一定の成果を上げたが私の望んだものではなかった。研究者としての性なのか成果はきっちりまとめている。

 そして一通りまとめ終わると異変に気付く。微かな違和感、いつもと違う感覚、私は「時の庭園」のセキュリティーをチェックするけど、セキュリティーは正常、何か補足した訳でもなく何時も道理稼働している。

 思いすごしかと思うがどうにも違和感がぬぐえない。念のため庭園内をサーチしているとそれは急に現れた。

 

「誰を探しているんだ?」

 

 いきなり後ろから声を掛けられ、とっさに魔力弾を放つ。しかしそこには誰もおらず魔力弾は壁にあたり炸裂音を立てる。

 

「いきなり攻撃とは怖い怖い」

 

 今度は正面の方から聞こえてくる。振り向くとそこには覆面にサングラスを付けた男が立っていた。

 服は上下共に黒く、その上から黒のコートを着ている。

 

「あなた何者? あたしに何か用かしら?」

 

 私は冷静になるように自分に言い聞かせ、その男に問いかける。

 

「そうだな、まずは自己紹介からだな。私は反管理局組織「こだわりのある革命家の集い」と言う組織で、そうだな「K ―カリウム― 」とでも呼んでくれ。我々はあなたをスカウトしに来たのだ」

 

 男はそう答えてきた。

 

「ふう、残念だけど私は忙しいの。別を当たってちょうだい」

 

 私はK(カリウム)と名乗った男にそう告げ、退室を促す。更に自分の周りにスフィアを浮かべ威嚇する。

 

「そうか、ならば仕方がない。では、此方もカードを切る事にしよう」

 

 カリウムはそう言って私の目の前にウィンドウを開く。そこに映っていたのはフェイトだった。リアルタイムの映像の様で寝ている様子が映し出されている。

 

「これがどうしたの?」

 

「おやおや、自分の娘をコレ呼ばわりか」

 

「当てが外れた様ね。私はコレの事は何とも思っていないわ。人質にはならないわね」

 

「ふっふっふ、まあ、人質には違いないがプレシア君は何か勘違いをしている。私が言っているのはこの娘が殺される事により君の悲願が達成しなくなると言う事だ」

 

 それを聞いた瞬間私は息をのんだ。この男、カリウムとは何者だ? なぜそんな事を知っている?

 

「そうだ、私が言っているのはフェイトの事ではない。アリシアの事だ」

 

 そう言われた瞬間、私はスフィアを放っていた。数十発のスフィアがカリウムに着弾しあたりを爆煙が立ち込める。

 爆煙が晴れるがそこにカリウムの姿は見当たらない。

 すると直後、後ろから強い衝撃を受け前方に吹き飛ばされてしまう。その際持っていたデバイスが手から離れ床に転がる。

 

「ぐっ……」

 

「まったく、先ほどもそうだがいきなり攻撃してくるとはな、そんなにこの娘を殺してほしいのか?それならそうと言ってくれ、合図をすれば私の手下がすぐにでも実行する。そのウィンドウでその様子を確認出来るだろう」

 

「や、やめなさい」

 

「命令出来る立場かね? それでどうするのだ? 我々「違いの分かる赤軍派」に協力するか?」

 

「……さっきと名前が違うわよ」

 

「……気にするな、些細なことだ。それに君には拒否権はない」

 

「……そのようね、それで私は何をすればいいのかしら?」

 

「なに、簡単な事だ。今第97管理外世界にジュエルシードなるロストロギアが散らばっているな。それを集め私に渡してくれればいい」

 

「ふざけないで! 私があれを必要としているのは知っているのでしょう!?」

 

「それは君の都合で私には関係ない。それにこの条件を呑めば君の悲願はかなう」

 

「……なんですって?」

 

「まあ、どう思うか君の勝手だ。しかし協力はしてもらうぞ? 我々もあれが必要なのでね」

 

「……今言った事は本当なんでしょうね?」

 

「本当だ。アルハザードなんぞに頼るよりよほど現実的だ。その証拠がこれだ」

 

 そう言うとカリウムは懐から、ビンを取り出す。そのビンは濃い青色をしていて、液体が入っている様な線がビンの縁のすぐ下に薄っすらと確認できる。

 しかし驚くのはその恐ろしい程の魔力と神々しさだ。一目みてあれならば何とかなるのではないかと期待できる程だ。それを見て息をのみ私は少し考え答える。

 

「分かったわ。じゃあ、出て行ってちょうだい私には時間がないのよ」

 

「そうか、では失礼するとしよう。……お邪魔ついでに質問しても良いか?」

 

「……なにかしら?」

 

「君は何故そこまでフェイトを嫌う? アリシアのクローンなのだろう? いわば家族、姉妹と言っても良いはずだ」

 

「馬鹿を言わないで。アリシアとあれを一緒にしないで」

 

「一緒になどいないだろう。いくらクローンと言ってもそれは違う人間だ。アリシアではないし、アリシアにはなれない」

 

「…………」

 

「それに、君の悲願はもうすぐかなうだろう、その後はどうするんだ? 用済みになったから処分でもするのか? アリシアはどう思うだろうな自分の母親が妹を手にかけるのを」

 

「質問は終わりかしら?」

 

「答えを聞いてないが?」

 

「答えると言ったかしら?」

 

「む、それもそうか、邪魔したな」

 

「ホントにね」

 

「では、これから「素材にこだわる解放戦線」の為に働いてもらうぞ」

 

「……あなた、わざとやってない?」

 

「何の事だ?」

 

「まあ、良いわ。さっさと出て行って」

 

 そう言うとカリウムは出て行った。

 その姿を確認して私はデバイスを拾い再び机に座る。サーチャーでカリウムを追うが直ぐに撒かれてしまった。

 魔法に対する訓練も受けているようだった。本当に何者なのだろうか? そしてさっき言われた事を思い変えす。

 

「いわば家族、姉妹と言っても良いだろう」

 

「クローンと言ってもそれは違う人間だ。アリシアではないし、アリシアにはなれない」

 

 馬鹿馬鹿しい、今更何だと言うのだ。そんな事は当の昔に分かっていた事だ。

 姿形は似ていても私から受け継いだ魔力資質はアリシアには無かったものだ。そうだ、あの人形はアリシアではない出来そこないだ。しかし、

 

「君の悲願はもうすぐかなうだろう、その後はどうするんだ?」

 

 …………これからはどうするのだろう?

 あの男、カリウムの言葉を信じるならアルハザードに行く必要がなくなった。アルハザードにはあの人形は連れて行かない予定だった。そしてアルハザードでアリシアと二人、今までの分幸せに暮らすはずだったのだ。

 だがその必要は無くなった。そうなると三人で暮らす事になる。それともアリシアと二人だけでどこか遠くの世界に旅立つのか…………。

 少し考えていて自分の身体の異変に気付く。何時もであれば魔法を使った後は大体咳き込み、酷い時は吐血したりする。しかし今はどうだ? 心なしか体調がいつもより良い気がする。

 カリウムが何かしたとも思えない。一体どういう事だろう? そう思いながら私はこれからの事を考えるのだった。

 

― クロノ・ハラオウン ―

 

「エイミィ、目的地まではあとどれくらい?」

 

「そうですね~、後二日もあれば着きますよ」

 

「クロノ執務官。あれから一樹君から連絡はありましたか?」

 

「いえ、艦長。あれから連絡はありません」

 

「そう、なら今のところ大きなトラブルは無いようね」

 

「そうだと良いんですが……」

 

 そう言って僕はため息をつく。

 あいつの性格を考えると、周りを巻き込んで面白おかしく行動してそうだ。仕事は出来るのに自分の興味のあること以外真面目にやろうとしない。

 しかも怒られても漂々としていてまた同じような事をして周りを巻き込む。士官学校の時に何度巻き込まれた事か……、その時の事を思い出しているとエイミィが話しかけてきた。

 

「しかし久しぶりだね~、一樹君に会うのは」

 

「そうだな、最近ミッドの方にも顔を出してないみたいだったからな」

 

「最後に会ったのって、確かクロノ君が執務官に受かった時にお祝いした時だっけ?」

 

「ああ、確かそうだ。遊びに来るって連絡はあっても中々予定が合わなかったからな」

 

「そうだね、クロノ君執務官になってから忙しかったもんね」

 

「まあ、仕方ないさ」

 

「そしたらさ、時間が取れたら一樹の世界を案内してもらおうか。いつもこっちが案内してばっかりじゃ不公平だよ」

 

 エイミィがそうニコニコしながら言ってくる。

 

「それはそうだが、エイミィ本音は何だ?」

 

「う!……クロノ君には隠しきれないかな~? 前に一樹君が向こうの料理差し入れしてくれた時あったじゃん、その料理がおいしかったからそれをまた食べたいな~っと思って」

 

「ああ、アレか。確かにアレは美味しかったな」

 

「でしょでしょ! クロノ君もそう思うでしょ!」

 

「でも、それはこの事故を解決してからだ」

 

「まっ、それもそうだね。それじゃクロノ君! さっさと解決しちゃってね!」

 

「……はぁ~、まあ、善処するよ」

 

 そう言って僕はブリッジを後にした。

 しかし実際三人で会うのも久しぶりだ。一樹の世界にも興味があるし良い機会かもしれないな。

 それに、士官学校以降一樹と模擬戦も全くしていない。負け越してしまっているからこのあたりで挽回しておきたいのもある。

 あれから色んな訓練や、事件に遭遇して実力も結構上がったし、今なら結構いい勝負ができると思う。そう思うとじっとしていられなくなり、僕はトレーニングルームに向かうのだった。

 

 

 


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