魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第十三話

― ??? ―

 

 そこはとあるビルの屋上、あたりは暗くなっており屋上からは海鳴市が一望できて、街の明かりが綺麗に輝いている。その屋上には一人の少女が立っていた。屋上だけあって強い風が吹いていてその長い髪が風で揺れている。

 その少女は海鳴市を眺めている。年のころは8~10才くらいだろうか? 金髪を黒いリボンでツインテールにしており、黒い服に黒のブーツ、そして手には三角形の金色のプレートを持っていた。

 

「第97管理外世界……現地名称「地球」母さんの探し物、ジュエルシードは此処にある。行こうバルディッシュ」

 

『yes,sir』

 

 少女が呟くと、手に持っているプレート、バルディッシュがそれに答える。

 そしてその呟きは誰に聞かれる事なく夜の空に消えていった。

 

― 斎藤一樹 ― 

 

 ジュエルシードの捜索が決まり、チームを組み翌日から開始した。

 俺となのちゃんを分けて俺の方に恭也さんと亜夜、なのちゃんの方にユーノと士郎さんと美由希さんって感じに決まった。俺は学校を休んで探しているが、亜夜となのちゃんは学校終了後に捜索する予定だ。

 そんな感じで今はユーノ、士郎さん、恭也さん、美由希さんと一緒に回っている。ユーノは士郎さん達の実力を知らないので見たい、と言ってきたので一緒にいる。

 見つけて戦闘になれば色々試す予定だったのでちょうどいい機会だ、なのでスサノオとユーノに索敵してもらいながら色々回っているが……中々見つからない。

 なのちゃんが劇場版のバリアジャケットだったのでTV版であった所にあるか分からなかった為、今はそれを確かめるため第一発見場所である「神社」に向かっている最中である。

 そして神社の階段の下に着いた時、スサノオが反応した。

 

『魔力反応確認しました≪クソ野郎≫、この階段の上です。現在暴走状態の様です』

 

「げ! マジで!?」

 

 不味い、今は結界も張られていないから急がないと誰かに見られちまう。

 俺とスサノオの会話が聞こえたらしく士郎さん達が直ぐに反応する。

 

「一樹君急ごう。」

 

「そうだね、ぐずぐずしてたら不味いんでしょ?」

 

「そうだな。急いだ方が良い」

 

 そう言ってくる士郎さん達。

 少し興奮状態なのか? すっごくウズウズしてるように見えるんだけど?

 まあ、急いだ方が良いのは事実なので全力で階段を駆け上る。その間にスサノオの中に保管しておいた士郎さん達の武器を出し渡しておく。

 流石に堂々と持ち歩くのは不味いのでこういう手段をとる事にした。隠し持つのもありだけど万が一って事もあるので念の為って事だ。

 そして神社に到着するとそこには、オオカミの様な見た目からして狂暴そうで3~4mはあろうかという怪物と、ジャージ姿の女の人が倒れていた。すると怪物が女の人に飛びかかった。

 そこからの俺達の行動は速かった。まず俺が化物と女の人の間に割り込み女の人に振り下ろされる前足を「ドン!」と受け止める。その際地面が「ボコ!」っとへこみ小さいクレーターを二つばかりつくる。

 そのすきに美由希さんが女の人を抱えその場を離れ、恭也さんが俺が受け止めた前足を切断。士郎さんが怪物の首をねらい斬りかかる。

 しかしそれは間一髪のところでかわされてしまった。怪物が後ろに大きく跳躍し距離をとる。

 俺達は美由希さんをかばうように陣形を組む。即席の連携としてはまあまあだろう。怪物は俺達を警戒し、「グルルルゥゥゥ」と唸り威嚇している。

 士郎さんと恭也さんが斬った傷はたちまち治ってしまった。しかし攻撃がきかない訳では無さそうだ。致命傷があるかどうかは疑問だが。とりあえず色々試してみるか。

 

「一樹、結界を展開したよ!」

 

「サンキュ、ユーノ! 士郎さん、どうやら攻撃がきかない訳では無さそうなので、色んなところを攻撃して見てください。ただ致命傷がないかもしれないので注意してください」

 

「分かった。恭也、久しぶりの実戦だ。じっくり感覚を掴んでいくぞ」

 

「分かった」

 

 すると二人は警戒している怪物に向かって行く。

 そこからは一方的な展開だった、スピードで勝るはずの怪物が撹乱されている。

二人の連携は息もぴったり合っており、確実に怪物に攻撃を加えている。

 士郎さんと恭也さんは相手の攻撃は絶対に受けず、かわしていく。時には飛針(とばり)や鋼糸を使い確実に相手を封じダメージを与えていく。

 しかし、怪物に与えた傷は直ぐに治ってしまう為、ここで二人は致命傷を与える事に切り替える。今までは足や胴体を軽く斬る感じだったが、それが深く急所に近い位置になって来ている。

 そしてそれは起きた。士郎さんの攻撃が怪物の首をはねたのだ。怪物は数歩進むと「ズウゥゥンン!」と音を立てて倒れた。

 

「一樹……、士郎さん達って何者?」

 

「え~っと、多分地球でトップレベルの剣士かな?」

 

 流石に裏世界一の用心棒と答える訳にもいかないので無難に答える。

 ユーノがブツブツつぶやいているが、気にしない。まあショッキング? な光景ではあったからな。

 すると警戒していた二人が此方に向かって歩いてきた。

 

「とりあえず終わったよ。一樹君封印してもらえ「士郎さん!」な!」

 

 俺はそう叫ぶと士郎さんの背後に回り、首がない状態で動き士郎さんに攻撃をしようとしていた怪物との間にはいる。

 薙ぎ払うように攻撃を加えてくる。俺はその前足に肘を叩き込み攻撃をはじき返す。その際魔力を籠めるのも忘れない。すると前足は千切れ飛び怪物がまた跳躍して後ろに下がる。

 

「大丈夫ですか? 士郎さん」

 

「すまない、助かった」

 

「いえ、流石に死んだふりをしてくるとは思わないですよ」

 

「まったくだな」

 

 しかし、そうすると物理的な攻撃はほとんど意味がないようだ。

 それを証明するように俺の攻撃した部分は未だ再生が始まらない。

 首の方は切れた部分から生えてきた。こう、何と言うかアレだ。ナ○ック星人の腕の再生みたいな感じに生えてきた。

 それを見ていた美由希さんは「うえ~」と嫌そうな声を上げる。

 

「しかし、そうなるとやはり魔法による攻撃しかダメージは与えられないのか?」

 

「いえ、似たようなものみたいです。再生する速度が遅いだけで結局再生しちゃいましたし」

 

「そうか、そうなると封印しかないのか」

 

「みたいですね。スサノオ、ジュエルシードはどのあたりにある?」

 

俺はそうスサノオに尋ねる。

 

『ちょうど胸のあたりの様です』

 

 よし、そしたらいっちょやりますか。

 そう決めると俺は魔力と気を練りはじめ合わせ、それを全身に流し、身体能力の強化をする。

 三人が驚いたようにこっちを見ている。そして俺は、地面を蹴り怪物に接近する。怪物との距離はおおよそ10m。その距離を一瞬で詰める。

 「縮地」そう伝えられる特殊な歩法、最近やっとものに出来た技でもある。怪物はまだ気づいていない。

 そして俺はその一瞬で怪物の胸に「貫手」を叩き込む。指をまっすぐに伸ばしその状態で突く攻撃だ。「貫手」は怪物の皮膚を裂き、肉を貫き、その奥にあるジュエルシードを掴み引きずり出す。そして俺はその手に魔力を籠め、

 

「ジュエルシード封印!」

 

 そう叫んだ。すると怪物が霧散し、そこには小さな子犬が横たわっていた。

 屈んで確認すると気を失っているだけで生きているようだ。女の人も無事だしとりあえず一段落だ。

 「ふう」とため息をつき士郎さん達の所に行くと恭也さんが聞いてきた。

 

「一樹、さっき一瞬で距離を詰めたがあれは何だ?」

 

「え~っと、「縮地」って言う特殊な歩法ですよ」

 

「神速とは違うのか?」

 

「そうですね、神速とは別物ですね。」

 

 そう聞いてくる恭也さん。神速は脳のリミッターを自力ではずす感じの技で、縮地は純粋に技術だ。死ぬほど頑張れば誰でものもに出来る…………多分。

 すると、美由希さんが診ていた女の人が呻く、そろそろ目を覚ますかもしれない。

 

「まあ、一つ封印出来ましたし、一度戻りましょう。そろそろなのちゃんも帰ってくると思いますし」

 

「そうだな、とりあえず戻ろう」

 

「この人はどうしよう?」

 

「まあ、幸い怪我もないし、犬も気を失ってるだけだからそのままだな」

 

「そっか、仕方ないね」

 

 神社も若干破損しているし、変に怪しまれてもゴメンである。仕方ないがそのままにする事になった。

 そして俺はジュエルシードをスサノオに入れ、神社を後にするのだった。

 

― 高町家 ―

 

 高町家に戻るとまずリビングでさっきの戦闘で分かった事や個人で気がついた事を話し合う。

 まず、攻撃自体は通じるのはほっとした。幽霊みたいにスカスカとなったらどうしようと思っていたところだこれは良い事である。

 ただダメージは与える事は出来なかった。攻撃した場所はあっという間に元通りになってしまった。それと致命傷と言える攻撃をしても無駄だった。下手に真っ二つにして分裂したら厄介だ。現に死んだふりなんぞしてきた訳だし。

 これだと非魔導師組は囮のみになりそうだ。後下手にジュエルシードを攻撃して、ヒビでも入ったりして壊れたらどうなるかわかったもんじゃないので、事前にどのあたりにあるか言っておいた方がよさそうだ。

 攻撃は受けるとかなりの重さだったのでかわす事、それが無理なら勢いを殺すなりしないと此方が致命傷を負いかねない。等々各自意見を出し合う、そう話していると「ドックン」そう音が聞こえ俺とユーノが顔を見合わせているとなのちゃんから「念話」が来た。

 

(一樹お兄ちゃん、ユーノ君聞こえる?)

 

俺が頷き、ユーノが答える

 

(聞こえるよ? なのはも今の感じた?)

 

(うん。近くでジュエルシードが発動した見たいなの、ここから近いから先に行くね)

 

それを聞いたら、スサノオが

 

『魔力反応を確認しました。此処からおよそ3キロの地点です』

 

 それを聞いた全員が立ち上がる。

 

(まって! なのは!一人じゃ危ないよ!!)

 

(大丈夫! レイジングハートも付いてるから!)

 

(なのちゃん! まずどこかで合流しよう。ユーノも言ったが一人じゃ危ない!)

 

(大丈夫だよ、それに早く封印しないと危ないでしょ? 大丈夫、無理はしないから)

 

(だから、それじゃ危ないって、もしもしもしもし?! なのは? なのは!?)

 

 そう言って念話が通じなくなる。

 あ~、そう言えば確かこの後って確か「あの子」との戦闘になるんだっけ? 原作を思い出してどうするか考える。

 このまま戦闘になって、士郎さん達の目の前でやられたらまずいかも……それに、この時の為に色々準備したのだ。

 このイベントは逃す訳にはいかない! そう強く思い準備を始めるのだった。

 

― 高町なのは ―

 

 私は、急いでジュエルシードが発動した場所に向かった。念話で一樹お兄ちゃんとユーノ君に連絡もしたから直ぐに合流出来ると思う。

 でもその前に私がどれだけ出来るかも確かめてみたかった。今日一日レイジングハートやユーノ君と話して色々教えてもらった。

 ユーノ君がどんな事をしていたのとか、どんな魔法があるのかとか、そして私にそれが出来ると言われた。

 今はまだ良く分からないけど、この力があれば沢山の人を助ける事が出来る。そう何となく、そう思う。

 レイジングハートも私が努力すれば良い乗り手になるって言ってくれた。だから頑張って魔法を覚えよう。

 そう決意してジュエルシードが発動した場所に走っている。そしてその場所につくと所々から音が聞こえ、土煙が上がっている。暴走体が暴れているようだった。

 その暴走体は豹みたいな姿だった。早く封印しなきゃ、急いで変身すると空高く舞い上がった。

 

「あれ?」

 

 上から見ると暴走体ともう一人誰かいる。女の子だ。その子がジュエルシードの暴走体と戦っている。

 鎌の様な武器を手に持って暴走体を攻撃している。私も手伝わなきゃ! 私はレイジングハートをカノンモードに変え、暴走体に突撃していった。

 

「やあああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」

 

ドガアァァァァァァーーーーーン!!

 

 暴走体に体当たりをして、地面にたたきつける。

 

「ジュエルシード封……あ!」

 

 その隙に封印しようとしたけどあと一歩のところで空に逃げられてしまう。だけどそこにはさっきの女の子が待ち構えていて、

 

「ジュエルシード封印!」

 

 そう言って暴走体をもっていた鎌で真っ二つにしてしまった。ジュエルシードは封印されたみたいだけど、あの子は一体何者なんだろう?

 一樹お兄ちゃんの言ってた「管理局」の人なのかな?私は話を聞いてみたくて、女の子のそばに近付いた。

 

「……あの!」

 

 呼びかけるとこっちを向いてくれた。

 

「あの……あなたは「近付かないで」……え?」

 

「それ以上近づいたら……」

 

 そう言うと女の子は周りに魔力で出来た球を浮かばせた。

 

「ま、まって。私はお話がしたいだけなの。あなたも魔法少女なの?とか、どうしてジュエルシードをとか……」

 

 そう聞いてみるけど女の子は答えてくれなかった、緊張が高まっていって私が近付こうとした瞬間、

 

「合意と見て宜しいですね!?」

 

 聞きなれた声が聞こえ。この声は一樹お兄ちゃんの声だ。

 どこからともなくファンファーレの様な音楽も聞こえてくる。声のした方を振り向くと一樹お兄ちゃん? がいたけど服装がいつもと違っていた。

 前に見たバリアジャケット姿じゃなくて私服でもない。白いワイシャツに赤の蝶ネクタイ、黒いズボンに黒の靴、ぱっと見何かの審判さんみたいな恰好だった。

 首にはデバイスのスサノオさんがかかっている。顔は良く分からないお爺さんのお面を付けていた。

 

「か、一樹お兄ちゃん?」

 

 恐る恐る聞いてみると、

 

「いいえ、私は一樹ではございません!」

 

「え? え? でもその首にかかってるのスサノオさんだよね?」

 

 そう指摘すると、一樹お兄ちゃんは自分の胸元を見て一瞬固まり、スサノオさんをワイシャツの中にしまい何事もなかったようにふるまう。

 

「はて? どこにそんなものが?」

 

「今しまったよね!? ワイシャツの中にしまったよね!?」

 

「私はDSAA(ディメイション・スポーツ・アクティビティー・アソシエイション)公式魔法戦競技会の審判! ミスター・ウルチです!! このバトルは公式、MSB(まほうしょうじょバトル)と認定されました!」

 

「スルーされた!?」

 

 そんな私にお構いなく、説明を続けていく。

 

「ルールは簡単! お互いに非殺傷設定で魔法戦を行い、ギブアップ、若しくは戦闘不能と判断されたら負けとなります! ダウンのカウントはテンカウントとします! 今回は特別ルールとして勝者にはこのジュエルシードが与えられます!!」

 

 そう言って手に持っているジュエルシードを私たちに見せる。

 

「え?」

 

 そう言って慌ててさっきジュエルシードがあった場所を確かめるとそこには何もなかった。

 女の子も吃驚している様で唖然としていた。

 

「それでは宜しいですね? MS(まほうしょうじょ)ファイト~!!」

 

 そう言って高く上げた手を振りおろした。

 

「え? え~~~!?」

 

 私は状況が飲み込めず混乱していると女の子が魔力球を使って攻撃してきた!? 慌ててガードしたけど間に合わず、

 

ドガーーーン!!

 

「キャーーーーーー!!」

 

 防ぎきれなかった魔力球の一つが直撃してしまい落ちていく。

 地面に叩きつけられる。何とか直前に魔法で衝撃を和らげられたけど、身体がピリピリ痺れて動かない。そんな中、

 

「ワン!……ツー!……」

 

 カウントを取る一樹お兄ちゃん(怒)なんだかとっても悔しい!!

 

「ナイン!……テン! 勝者! 謎の少女!!」

 

カン! カン! カン! カン! 

 

 どこからともなくゴングの音が鳴り響いてきた。それを聞いてなぜか「負けた」という感じが襲いかかってきたの……。

 どう考えても理不尽だと思う。そう思って空中でジュエルシードの受け渡しをしている一樹お兄ちゃんを見るのだった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 ありゃ~、なのちゃん瞬殺されちゃった。

 まあ、仕方ないかかなり混乱してたみたいだし。その点ではフェイトは直ぐに攻撃できたのは良いね。直ぐ立ち直ったし、この辺は戦闘経験の差なのかな?

 そう考えつつフェイトに近付く。目の前まで行くと、流石にフェイトも警戒しているがジュエルシードを出すと幾分警戒を解いてくれた。

 

「どうぞ、今回の賞品です」

 

「……ありがとう。……あの子は大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。あなたの魔法で痺れているだけでしょう」

 

「そうですか、良かった」

 

 そう言うとフェイトは安心したように「ホッ」と息を吐く。

 

「もしよかったら、名前を聞かせてもらえませんか?」

 

「……フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 

「フェイトですか。良い名前ですね。……おお!それとこのお手紙を預かっております」

 

 俺はそう言うと手紙を差し出す。

 

「え?……私にですか?」

 

 フェイトも驚いている。そりゃそうだろう、あった事もない人からいきなり手紙を渡されるのだそりゃあ驚く。

 しかしそれでも受け取ってくれるのがフェイトだった。裏を見て更に驚いていた。そして俺は何かを聞かれる前に、

 

「それでは、アデュー!!」

 

 そう言い残しさっさとその場から撤退していった。その時なのちゃんを回収するのも忘れない。

 後でなのちゃんに色々言われそうだけど今は我慢してもらうとしよう。そう言いながら全力でその場を離れるのだった。

 

― フェイト・テスタロッサ ―

 

「アルフ、そっちの調子はどう?」

 

 私は使い魔のアルフに聞く。あの女の子と戦闘から大分経つけどこっちを探す様子は無い。どうやら追ってはこないようだった。

 でも途中で出てきたあのお面の人は一体何者なんだろう? 戦闘の審判を始めて、ジュエルシードをくれて、あの手紙を渡されて…………。

 考えてもはじまらないその手紙にあった待ち合わせ場所はここから少し離れた場所だった。

 

「ああ、フェイト。こっちはさっき発動前の奴を一個見つけたよ」

 

「ホント!」

 

「ああ、でもフェイトと戦ったあの子、何者なんだい? まさか管理局の人間じゃないよね? まだ追われるような事はしてないけど」

 

「管理局とは関係ないと思うよ? 魔法も全然使えてなかったし」

 

「そうかい? まあ良いさ、いざとなったらあたしがギッタンギッタンにしてやるさ! それはそうとフェイト、あのヘンテコな審判? から何を渡されたんだい?」

 

「……その事で話があるんだ。こっちに来てもらえるかな?」

 

「分かったよ。ちょうどサーチも終わった事だしちょっと待っててよ」

 

 アルフにそう言ってこっちに来てもらう、そこで私はもう一度手紙を見る。

 表には何も書かれていなかったけど裏を見ると右下に差出人の名前が書いてあった。

 

「リニスより」

 

 短く、そう書かれていた。リニス。私に魔法を教えてくれた先生だ。

 お母さんの使い魔で何時も私とアルフと遊んでくれて、バルディッシュもリニスが作ってくれたデバイスだ。

 でもある日突然いなくなってしまった。お母さんに聞いても話してくれなかった。ずっと、ずっと心配してた。

 でももうすぐ会えるかも知れない。聞きたい事は色々あるけど、またみんなで暮らす事が出来るんだ。そう考え手紙を出してもう一度読みかえす。

 

「今夜、20時に海鳴中央公園で待っています。」

 

 手紙にはそれだけ書かれている。初めは何かの罠かと思ったけど、まだ行動を開始したばかりの私たちを罠にかけるというのは変だと思う。

 それにさっきアルフも言ったけど追われるような事はしていない。そう考えると罠の可能性は低いと思う。

 じゃあ何のために? それを考えているけど全然答えが出なかった。結局行ってみないと分からないそう結論付けた。

 

「フェイト、お待たせ」

 

 そう言ってアルフがすぐそばに現れる。

 

「それで話って何だい?」

 

「……これ」

 

「手紙?……これ!」

 

「アルフはどう思う?」

 

「これはあのヘンテコな審判から受け取ったやつだよね?」

 

「うん」

 

「う~ん、罠にしては何か変だね? こっちは動き出したばっかりだし」

 

「私もそう思う」

 

「どっちにしても行ってみないと分からないね」

 

「そうだね、念のためアルフはちょっと離れた所で様子を見てて。罠だったら援護して」

 

「でも、フェイト。それじゃ、フェイトが危ないじゃないか」

 

「でも、罠だとしたらアルフはまだ向こうに知られてないから、私一人で行った方が良いと思うんだ」

 

「それは、そうだけど……」

 

「大丈夫だよアルフ」

 

フェイトはそう言ってアルフに微笑む。

 

「あ~、分かったよ。でも少しでも危ないと思ったらすぐに出て行くよ」

 

「その時はお願いするね」

 

 そう言って私とアルフは手紙に書いてある場所に行く事にした。

 

 そこは海鳴市の中央付近、周りにはビルが立ち並びオフィス街の中心にある公園、普段であればそこは運動をする人や、サラリーマンやOL等々そういう方々の憩いの場若しくは休憩の場になっているだろう。

 だがしかし今は夜間で公園は人気がなく静まり返っていた。周りに街灯が設置されていてそこそこ明るくなっている。

 噴水がライトアップされてそこが一番明るくなっている場所だった。

 

(何処にいるんだろう?)

 

 そんな中私は進んで行く。アルフはその様子を遠くから見つめる。

 時刻は既に20時を回っている。手紙の内容を信じるのであれば既にリニスは此処にいる事になる。

 ただ手紙には公園の何処とまでは書かれていなかったので見つけるまでは適当に歩き回るしか無さそうだった。

 それらしき人物を探していると他の所より明るい所を見つけた。

 そこは噴水になっていて、ガラスで出来た柱を伝い水が落ちていくタイプの様でガラスの中からライトアップされて中々綺麗だった。少し見とれていると後ろから声をかけられた。

 

「そんなに噴水が珍しですか? フェイト」

 

 それはとても、とても懐かしい声だった。

 私に魔法を教えてくれて、バルディッシュを作ってくれた。いつも私を気にかけてくれて優しかったあの声。振り向かずにその問いに答える。

 

「ううん、綺麗だったから見とれてたんだ」

 

「そうですか、しかし待ち合わせの時間に遅れるのはいただけないですよ?」

 

「う、ごめんなさい。でも公園で待ち合わせとしか書いてなかったから」

 

「あ、それは此方の落ち度ですね。すいませんでした。フェイト元気でしたか?」

 

「うん」

 

 今でも自分を心配してくれる声に、

 

「背も少し伸びましたか?」

 

「うん」

 

 自分の成長を喜んでくれる声に、

 

「アルフが見当たらないですけどどうしました?」

 

「うん」

 

 アルフの事も知っている声に、

 

「うん、じゃわかりませんよフェイト」

 

「うん」

 

 声を震わせ、肩を震わせ、ただただそう答える。

 

「まったくしょうがないですね」

 

「あ……」

 

 そう言うとリニスはフェイトを後ろから抱きしめた。

 

「心配かけてしまいましたね」

 

「心配したんだよ」

 

「すいませんでした」

 

「急にいなくなって、まだ色々リニスから教わりたい事があったのに!」

 

「すいません」

 

「もう急にいなくならないで!」

 

「ええ、分かりました」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーん」

 

 私はついに耐えきれず泣き出してしまった。

 黙っていなくなった怒りが、再会する事が出来た嬉しさが、触れあえた温もりが抑えきれなくなって、感情を爆発させた。一向に泣きやまないフェイトをただただ抱きしめているリニス、そのリニスも頬に伝うものを抑えきれなかった。

 

― アルフ ―

 

 フェイトの後を着いて行って、何かあったらすぐに飛びだせるように準備も万端。

 来るなら来いって意気込んでいたけど、噴水でフェイトが立ち止って、その後ろに出てきた人影に警戒した。

 でもその人影が明るい所に出てその姿が確認できてアタシは警戒を解いた。その姿は見間違えるはずがない、アタシとフェイトに色んな事を教えてくれて、三人で一緒に遊んだ事もある。

 フェイトの後ろにはリニスの姿があった。アタシもそばに行こうとしたけど、

 

「し~~っ、今良いとこだから待って!」

 

「そや、ここで出てったらあかん!」

 

「そうだよ! もうしばらく待って!」

 

 と、いきなり隣から声がした! 何時の間に! 気配を全然感じなかったよ!

アタシはいきなり現れた三人から距離をとり警戒レベルを上げる。

 

「あんた達何mもが!」

 

そう言おうとしたけど後ろから口をふさがれる。

 

「だから、静かに! 二人に気付かれちゃうって!」

 

 そう言ってきたのはさっきの三人のうちの一人だった。

 そんな馬鹿な! アタシは距離をとったはずなのに! 一瞬で後ろに回り込んだのかい!

 

「ちゃんと自己紹介もするから落ち着いて!」

 

 そう小声で言ってくる。後ろをとられて、口もふさがれご丁寧に腕まで極められた状態だ。

 仕方なくアタシは頷く。そうするとゆっくり極めていた腕と口をはなした。さてどんな奴なのか改めて観察する事にした。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 アルフに掛けていた関節技をはずすと軽く距離をとられた。まあそりゃあ当然か。

 

「すまない、まずは自己紹介から、俺は斎藤一樹、リニスと仮契約してるのが俺、そしてこっちが斎藤亜夜、俺の妹だ。そんでもってこっちが八神はやて、リニスのう~ん雇い主かな? 簡単だけどこんな感じかな?」

 

「八神はやてです、よろしゅう」

 

「斎藤亜夜です。さっきはお兄ちゃんがすいません」

 

 そう言って全員が自己紹介してくる。

 

「そ、そうかい。アタシはアルフだよ。て、リニスと仮契約してるのかい!?」

 

「まあ、その話はみんなそろってからって事で」

 

 そんな感じで木陰から二人を見守っている。(イメージ的には「巨人○星」の明子ねーちゃんみたいに見守っている感じだ)そんな感じで見ていると、何やらフェイトが泣き出しリニスがフェイトを抱きしめ二人で泣いているようだった。

 感動の再会である。そんな様子を見て亜夜と、はやては、

 

「良かったね~、リニスさん!」

 

「ホンマにその通りや~!」

 

 号泣してるし。隣のアルフをみると、

 

「良かったよ~、フェイト~! リニスが生きててホントに良かったよ~」

 

 こっちも号泣してるし…………。みなさん徳光さんばりの涙である。

 しばらくしてリニスとフェイトが泣きやみ、噴水の近くにあるベンチに座ったのをみて俺達は二人に近付いた。

 

「お~っす二人とも、もう落ち着いたかな?」

 

「一樹さん。ええ、もう大丈夫です」

 

 リニスはそう答えるが、フェイトは此方を警戒しているがリニスが俺を紹介してくれた。

 

「フェイト、此方は私の恩人の斎藤一樹さんですよ。警戒しなくても大丈夫ですよ」

 

「はじめまして。斎藤一樹です。ミッド風に言うとカズキ・サイトウだな」

 

「え~っと、はじめまして斎藤亜夜です。リニスさんには何時もお世話になってます」

 

「うちは八神はやて、リニスが家に来てからホンマ助かっとるんよ」

 

「あ、え? え~っと、フェイト・テスタロッサです。リニスを助けてくれてありがとう」

 

 そう言ってペコリと頭を下げる。ホントに良い子だねフェイトは。

 

「そこでフェイトちゃん、リニスの事と「コレ」の事でお話があるんだがちょっと時間をもらっていいかな?」

 

 そう言って、俺はジュエルシードをフェイトに見せる。

 するとフェイトはバルディッシュを起動し直ぐにバリアジャケット姿になり、アルフも距離をとり構える。

 

「それを、渡してください。大人しく渡してくれれば手荒な事はしません」

 

「そうだよ、痛い目に遭いたくなかったらそいつを大人しく渡しな!」

 

「そいつは勘弁だ。ほらよ」

 

 俺はそう言ってフェイトにジュエルシードを放り投げる。

 

「え? あ……」

 

 フェイトの意識がジュエルシードに向かう。

 そしてフェイトがキャッチして俺を再び見るがそこには誰もいなかった。

 

「フェイト! 後!!」

 

 アルフが鋭い声をあげ、フェイトに知らせる。フェイトはそれに反応して振り向きざまにバルディッシュで薙ぐ。

 しかしバルディッシュの柄を掴まれ足を払われいとも簡単にバルディッシュをとられてしまう。

 

「それを返せー!」

 

 そう言ってアルフが拳を振り上げ向かってくるが、

 

「やれやれ、血の気の多いこって」

 

 そう言ってアルフの拳に合わせ、カウンターで顎先をかすめるように拳を振るう。

 

コッ!

 

 と軽い音がしてすれ違う俺とアルフ。

 

「ハン! そんな軽いパンチでアタシを倒せると思ったら大間違い……あれ?」

 

 そう言うとアルフはペタンと尻もちをついてしまう。

 立ち上がろうとするが立ち上がれず更に前のめりに倒れてしまう。

 

「ど、どうなってるんだい!?」

 

「ア、アルフ!」

 

 フェイトがアルフに駆け寄る。アルフは状況が理解できないのか困惑している。

 

「お兄ちゃん! なにしたの!」

 

「そや! いくら一樹兄ちゃんいうてもやり過ぎや!!」

 

 そう言ってアルフとフェイトの前に立ちはだかる。あれ? 俺今、悪者ですか? 

 そう思っているとリニスがフェイトとアルフのそばに行く。

 

「リニス! アルフが!」

 

「フェイト大丈夫ですよ。アルフは軽い脳震頭を起こしているだけです。少しすれば立てますよ。それと一樹さん後でちょっとお話がありますので」

 

 そう言うとフェイトはホッとして胸をなで下ろし、俺は冷や汗をたらしていた。

 しかし何時までもその状態でいる訳にはいかないのでそばに近寄るとフェイトが警戒する。自業自得とはいえそういう反応をされると結構ショックである。

 

「はい、これ。無暗矢鱈に攻撃するとこうなるぞ」

 

 そう言ってバルディッシュをフェイトに渡す。そしてアルフの上半身を起こし側頭部を軽くペシ! と叩く。

 

「どうだ? これで大丈夫だと思うんだけど?」

 

 そういうとアルフはあっさり立ち上がる。その様子を見ていたフェイトは唖然。

亜夜とはやては「お~」と拍手している。

 

「簡単な事だよ。顎先に攻撃を受けると頭蓋骨の中で脳が揺らされる、そうすると平衡感覚の麻痺、もろに入れば意識消失、まあKOだな。そういう症状がでる。今のは、その揺れた脳を外部からの衝撃で元に戻した。そんな感じだ」

 

 全員で『へ~』と納得してくれたようだった。

 

「まあ、相手の力量を見極めないうちに突っ込むとこういう事になる、という教訓にしてくれ。それに初めから高圧的な態度をとるのも頂けないな。兎も角此処じゃ何だから場所を移すか、はやての家で良いか?」

 

 そうはやてに聞くと、はやては何やら頬を赤く染めニヤニヤしながら言ってきた。

 

「一樹兄ちゃん! 夜中に乙女の家に上がるなんて大胆やな!」

 

「はて? 乙女? どこにいるのやら?」

 

「目の前にいるやろ!アホ―!」

 

そんな軽口を言い合いつつ、全員ではやての家に向かうのだった。

 

 

 

 

 


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