魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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やっと無印まで投稿でけた!


本編 第十一話 無印開始

― ??? ―

 

ガサガサガサガサガサガサ

 

 そこは森の中だった。木々が並び立ち、暖かくなった陽気からか木々の周りには様々な花が咲き誇っている。

 しかし「ソレ」はそんなものは目に入らんと言わんばかりにその森を通る、「ソレ」は人ではなくましてや動物でもない。少なくとも地球にいる生物には該当しないであろう。

 「ソレ」はその体躯からは考えられない様な速さで移動し、木々にぶつからず器用に避けて通る。

 「ソレ」は饅頭の様な体躯に黒に近い灰色のような色、ウネウネとしていて姿は定まらない。赤く爛々と輝く眼の色は暗い森では不気味である。

 

タッタッタッタッタ

 

 そして、それを追う少年がいた。背丈は130㎝前後だろうか? 民族衣装の様な服に端の方が擦り切れたマントをしている。髪の毛は金髪に翠の瞳、まだ幼さが残る顔立ちは焦燥にかられているものの、強い意志が見てとれる。少年は必死に「ソレ」を追う。

 すると、「ソレ」が一気に跳躍して、広場の様な場所に出た。その中央には池があり、近くにはボートなどが止めてある桟橋の様なものもある。公園の様な場所だった。

 そこで「ソレ」と少年が対峙する。「ソレ」は池の中央付近に立っており水中に沈む様子は無い。少年は手に持っていた赤い宝石の様なものを軽く握る。

 

「お前は、こんな所にいちゃいけない!」

 

 そう言って持っていた宝石を「ソレ」に向ける。すると「ソレ」の体内で菱形の青い宝石の様なものが浮かび上がる。

 

「帰るんだ、自分の居場所に!」

 

 そう言うと突き出した手の前に緑色の魔法陣が浮かび上がる。それと同時に「ソレ」がうめき声をあげる。

 

「妙なる響き 光となれ 許されざる者を 封印の輪に!」

 

 少年は呪文を唱えると持っていた赤い宝石が輝きそれに応える。

 

『Preparing to seal』

 

 すると「ソレ」は唸り声をあげ水面を疾走し水柱を上げ少年に突っ込んで来た。

 

グォォォォォォォォォォォーーーーー!!

 

 「ソレ」は少年が出していた魔方陣の激突し、凄まじい轟音と共に魔方陣との接触によりバチバチと帯電するような状態になる。それに耐えている少年は、

 

「ジュエルシード封印!」

 

 そう唱える。すると「ソレ」の体内から先ほど浮かび上がった青い宝石が顕になる。

 

「うっ……くっ!」

 

 しかし少年に加わっている衝撃も相当なもので、少年はうめき声をあげる。

 すると顕になっていた青い宝石が再び「ソレ」の体内に取り込まれてしまい「ソレ」が少年と距離をとる。

 そして池の中央付近に再び陣取ると、「ソレ」が大きく膨れ上がる。

 

「っく!」

 

 そして次にくる攻撃を悟ってか少年は桟橋から岸へと戻る。

 次の瞬間「ソレ」が爆発した。すると周囲に弾丸の様に飛び散り、桟橋を、建物を、ボートを破壊する。間一髪「ソレ」をかわした少年が土煙の中立ち上がる。しかし「ソレ」は更に少年に向かって飛んできた。

 

「っく!」

 

 少年はとっさに腕を突き出し魔方陣を展開するが、

 

ドン! ドン! ドン! ズガァァァァン!!!!!

 

「うあーーーーー!」

 

 衝撃に耐えられずはるか後方の森に吹き飛ばされてしまった。

 「ソレ」は少年が出てこないのを確認すると一気に跳躍してその場を離れて行った。

 一方少年はダメージを受けながらも必死に立ち上がろうとしていた。

 

「う……追いかけ…………なくちゃ……」

 

 そう言って立ち上がろうとするが身体が動かない。そしてそのまま力尽きてしまった。

 すると少年が輝きだしその光が収まると少年の倒れていた場所には一匹の獣と赤く丸い宝石が残されていた。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 窓から差し込む朝日で眼が覚める。それと同時に、

 

「おお、ユーノよ。死んでしまうとは情けない」

 

 どっかのRPGの王様の様に言う。

 

「死んでねーよ!」

 

 と、何処からとも無く聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 ついにこの日が来たんだと思う。なのちゃんが魔法と出会い、戦いの中に身を投じる。

 分かってはいた、助ける為の準備もしてきた、後は俺自身の行動で今後が変わる。そのとき歴史が動いたって奴だ。

 出来る事ならハッピーエンドで終わりにしたい、あの子達に悲しい思いはさせたくない。また、何時か見た笑顔でいられるように出来る限りの手を打とうと決めた。

 そう思っていると部屋のドアがノックされ、亜夜が顔を出す。その顔はまだ起きたばかりの様で眼をこすっている。

 

「兄ちゃん、起きてる?」

 

「ああ、起きてるよ」

 

「ん、ご飯出来たって。お母さんが呼んでるよ~」

 

「あいよ~、直ぐ行く。なんだ亜夜も起きたばかりか?」

 

「うん、なんか変な夢見ちゃって」

 

 …………何ですと?

 

「変な夢ってどんな?」

 

「ん? なんか変なウネウネしたのと男の子が戦う夢」

 

 …………ホワッツ?

 

「夢見が悪かったのかまだ眠いのよ」

 

「そ、そうか。まあ、顔でも洗えば眼も覚めるだろう」

 

「ん~、そうする」

 

 そう言うと妹は下に降りて行ってしまった。

 ………こりゃ、父さんとも相談した方が良いかも知んない。そう思いつつ学校の準備を始めるのだった。

 

― 高町なのは ―

 

ピッピッピッピ、ピッピッピッピ、ピッピッピ、

 

 携帯のアラームが鳴って朝だと教えてくれる。

 私はもそもそ動いて布団の下から手を出して携帯のアラームを止める。

 布団から出てさっき見た夢を思い返し呟く。

 

「う~ん……変な夢……」

 

 壁に掛けてあった制服に着替え下のリビングに降りていく。そこには既に家族の面々がそろっていた。

 

「あら、おはようなのは」

 

そう言って一番に声をかけてきたのはお母さんだった。

 

「うん、お母さんおはよ~」

 

 そう言って、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんにも挨拶する。

 いつもの様に朝ごはんを食べて、いつもの様に学校に行くそれが私の日常。

 家を出てバスに乗り込むと、いつもの席、バスの一番後ろの席にアリサちゃんとすずかちゃんと亜夜ちゃんがいた。亜夜ちゃんは少し寝むそうだった。

 

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん、亜夜ちゃん」

 

「おはよう、なのは」

 

「おはよう、なのはちゃん」

 

「う~、なのちゃんおはよ~」

 

「どうしたの? 亜夜ちゃんなんか眠そうなの」

 

「うははは、なんか変な夢を見ちゃってね。それでよく眠れなかったみたいで寝不足なのよ」

 

「へ~、変な夢ってどんな夢? 怖いやつ?」

 

「うんにゃ、ウネウネした変なのと男の子が戦ってるやつ」

 

 それを聞いて私も反応した。

 

「それって、森の中走ったりしてた?」

 

「お~してたしてた。て言うかなのちゃん良く知ってるね?」

 

「うん、私も同じような夢見たの」

 

「え? そうなの?」

 

「へ~珍しいわね。何かあったりして」

 

「ホントだね。何かあるのかな?」

 

 そう不思議そうに聞いてくるアリサちゃんにすずかちゃん。確かに一緒の夢を見るなんて凄い偶然なの。

 

「いや~、単なる偶然でしょ、偶然。そんな事より私のこの眠気を何とかしてほしいわ」

 

 そんな意見をばっさり一刀両断してくる亜夜ちゃん。相変わらずと言うか何と言うか。

 

「ちょっと、亜夜も不思議に思わないの?」

 

「ん~、そんな事ないよ? 十分不思議だけど、絶対ないって程じゃないじゃない? 私にとってはそんな事よりこの眠気で授業中に眠らないようにするのが苦痛なのよ!」

 

「亜夜ちゃん、相変わらずだね」

 

 そう、苦笑いするすずかちゃん。

 

「ホントだね」

 

「まったくよ」

 

「いっその事睡眠学習でもしようかな?」

 

『それはだめ(なの)!!!』

 

 そんな事言った亜夜ちゃんに私たちは一斉に注意する。

 

「な、何よ。三人で一斉に言わなくったって良いじゃない!」

 

「亜夜、忘れたとは言わせないわよ!」

 

「そうだよ亜夜ちゃん!」

 

「あれは恥ずかしかったの!」

 

 そうなのです。亜夜ちゃんが前に授業中に眠ちゃったときにそのままにしておいたら、寝言で私達の事を言ってたの。

 本人はいつものメンバーで遊んでいた夢を見ていたそうだけど、変な事を言い出したから慌てて亜夜ちゃんを三人で起こすっていう事態だったの。

 それ以来亜夜ちゃんが寝そうになったら全員で必ず起こすって言う暗黙の了解が出来あがったの。

 三人に言われてショボーンとしている亜夜ちゃんを眺めていると学校が見えてきた。今日も一日楽しく過ごそう。そう思いながらまた四人で話をし始めた。

 

 何時も通りに授業が終わって、私達はいつも通り帰っていた。

 アリサちゃんとすずかちゃんも今日はお稽古がないから一緒に帰っている。亜夜ちゃんは一回家に戻ってから一樹お兄ちゃんと一緒に家の道場に来る予定になってるの。

 あの誘拐事件以来、亜夜ちゃんも家の道場に通い始める事になった。その時お父さんに「私もみんなを守れる力がほしい」って言ってもの凄く一生懸命頼んだ。

 亜夜ちゃんのお父さんとお母さんも始めは駄目だって言ってたけど、最後は折れてお父さんにお願いしに来てた。

 その熱意にお父さんも負けたみたいで、じゃあまずは基礎稽古からと言う事で納得してもらったみたいだった。

 もうあれから数ヶ月経つけど弱音は一回も吐いてないみたい。お父さんのとお兄ちゃんも筋が良いって誉めてたし、最近一樹お兄ちゃんが「亜夜に剣術で抜かれるかも」とぼやいてた。

 それを聞いて私はびっくりした。筋が良いってお父さんが言ってたけどそこまでとは思わなかったから。そんな感じで亜夜ちゃんも頑張っているみたいです。

 

「亜夜も頑張ってるわよね」

 

「そうだね。亜夜ちゃん毎日生き生きしてるもんね」

 

「最近一樹お兄ちゃんが「抜かれそう」て言ってたの」

 

『それ本当!?』

 

「あ、剣術でって言ってたけど」

 

「それでも十分すごいわよ」

 

「そうだね。まだ習い始めてそんな経ってなかったよね?」

 

「お父さんとお兄ちゃんもビックリしてたの」

 

 そう話しながら歩いているといつもの公園まで来た。その公園は小さいけど池もあってボートに乗ったりできる場所もあって休日は家族連れでにぎわう場所なの。

でもそこは変わってしまっていた、池にかかる桟橋は壊れ木屑になっていて、ボートは壊され、管理小屋も壊れていた。ひどい状態なの。でもこの場所って夢で見た…………。

 

「あ、君達、危ないから入っちゃだめだよ」

 

 此処の管理人さんが言ってきた。

 

「はい、でもこれどうしたんですか?」

 

 そうアリサちゃんが聞く。

 

「いや~、朝来たらこの状態でね。いたずらにしては度が過ぎてるから警察に来てもらったんだ」

 

「そうですか」

 

 その話を聞いていると、

 

― 助けて ―

 

 頭の中に声が響き頭痛がする。

 

― 助けて ―

 

 もう一度声が響く。

 

「アリサちゃんすずかちゃん今何か聞こえなかった?」

 

「え? 聞こえなかったわよ?」

 

「うん、私も」

 

 おかしいの、確かに聞こえた。

 

「アリサちゃんすずかちゃんゴメン」

 

 そう言って私は声のした方に走り出した。道を外れ森の中に入って行く。

 

「はぁはぁはぁ」

 

 しばらく走るとそこにはフェレットが倒れていた。

 

「ちょっと、なのはどうしたのよ急に!」

 

「どしたのなのはちゃん」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんが追いついてきた。私はフェレットを抱きかかえ見せる。

 

「なのは、それどしたの?」

 

「イタチ? う~んフェレットかな?」

 

「此処に倒れてたの」

 

「とりあえず病院に連れて行きましょ」

 

「うん、その方が良いね」

 

「分かったの」

 

 私達はそう言って近くの動物病院に向かうのだった。

 

― 動物病院 ―

 

 診察台の上には倒れていたフェレットが、包帯を巻かれた状態で寝ていた。

 治療を終えた先生が道具の片付けを終えフェレットのそばまで来た。

 

「あの、院長先生この子の具合は?」

 

「今見た限りだと特にひどい怪我はしてないみたいね。ずいぶん衰弱してるみたいだけど」

 

 なのは達三人が心配そうな顔から安心して笑顔になる。

 

「先生。この子フェレットですよね? どっかのペットなんでしょうか?」

 

「う~ん、フェレットなのかな? 変わった種類だけど……」

 

「あの~、この後どうしたら?」

 

「そうね、しばらくは安静にしてた方がよさそうだから、とりあえず明日まで預かっておこうか?」

 

『はい! お願いします!』

 

「良いのよ。こっちも好きでやってる事だから」

 

 そう言って快く治療を引き受けてくれた。そして私達三人は病院を後にした。

 

― 斎藤一樹 ―

 

「ふ~ん、それでなのちゃんはフェレットを病院に連れて行ってたんだ」

 

 高町家で晩御飯を御馳走になっている俺と亜夜。

 今日は稽古に熱が入り遅くなってしまったため桃子さんの計らいで食べていく事になったのだ。ちょくちょくあるので今ではすっかり日常の一部に組み込まれつつある。亜夜は泊るときもある位だ。

 そして今日、なのちゃんの帰宅がちょっと遅かったので気になった亜夜が聞いたのだった。

 

「そうなの。特に大きな怪我がなかったから良かったの」

 

「ふ~ん、でもアレだね。病院に連れてくより、お兄ちゃんに治してもらった方が早かったんじゃない?」

 

「…………あ!」

 

 今気付いたと言わんばかりになのちゃんが声を上げる。

 

「まあ、その方が早かったかもな」

 

「一樹お兄ちゃん動物も治せたの!?」

 

「ああ、前にはやてと散歩してた時、猫を治した事もあったからな」

 

「そ、それなら今からでも!」

 

「もちつけなのちゃん」

 

 亜夜がそう言いながらなのちゃんをチョップする。ペシ、と音をさせなのちゃんを落ち着かせる。

 

「そうだぞなのは。だいたい今から病院に行っても開いてないだろ?」

 

 そう士郎さんが言ってくる。

 

「にゃははは、そうだね。」

 

「ま、今日は預かってもらえるんだから明日になったら連れておいで。思いっきりぶん殴って治すから」

 

「……それって大丈夫なの?」

 

「そこはほら、経験者に聞くといいよ」

 

 そう言って俺は士郎さんを見る。つられる様に亜夜となのちゃんも士郎さんに視線が行く。

 三人に気付いた士郎さんはバツが悪そうに頬をかきつつ答える。

 

「いや~、お父さんいつの間にか治ってたから良く覚えてないんだよね。どっちかって言うとベットから落ちた方の痛みが残ってたような気がしたけど」

 

「だってさ」

 

「……いまいち不安がのこる治療法よね。お兄ちゃんのやり方は」

 

「まあ、第三者から見たら絶対治療とは思えないもんね」

 

 その場にいた全員が「ウンウン」と頷く。特に恭也さんは力強い頷きだった。

 そんな話をしつつ食事も終わり帰りの準備をしているとなのちゃんは既にパジャマ姿になっていて亜夜に「今日は泊っていかないの?」と聞いて、亜夜は今日は家でやる事があると言っていた。

 俺と亜夜は「お邪魔しました~」といい玄関を出て帰路についていた。しばらく二人で無言で歩いていると不意に頭の中に声が響いた。

 

(……聞こえますか?)

 

 急に聞こえたので立ち止まると、亜夜が頭を押さえていた。

 

「亜夜? どうした?」

 

 やっぱりか……と思いつつ亜夜に声をかけると

 

「ねえ、お兄ちゃん今声が聞こえなかった?」

 

 どうこたえるか俺は迷っていた。

   1 正直に答える

   2 聞こえなかったと嘘を言う

  →3 「中二病か?」と言う

 ファイナルアンサー? →YES NO

 

「なんだ亜夜「中二び(僕の声が聞こえますか?)」うっせえ! 黙ってろ!!……あ」

 

 とっさに声に反応してしまった。亜夜を見ると、頭を押さえているが「じと~」とコッチを見ている。

 

「お兄ちゃん?」

 

「HAHAHA! 亜夜、どうやらお兄ちゃんは憑かれているようだ! ちょっとお祓いしt「お兄ちゃん?」……何でございましょう?」

 

 もの凄く低い声で呼ばれ思わず姿勢を正す。返事も敬語になっちまった。

 

「お兄ちゃんも今の声聞こえてるんだね?」

 

「イエス、マム!」

 

「じゃあさっき何で(良かった! 僕の声が聞こえt)黙ってなさい! (……はい)」

 

「お~い、亜夜? どうしたんだ? 怖いぞ?」

 

「お兄ちゃん? さっき、私の、質問に、何て、返そうと、したの?」

 

 怖え~、超怖え~。一言一言区切って、なおかつ声がもの凄く低い。

 

「いや~、この声をごまかしつつ、亜夜をからかおうt「ふ~~~ん」……」

 

 この妹は何でこんなプレッシャーを放っているんだろうか?

 

「お兄ちゃん? 私ね、さっきとても不安だったの。人には聞こえない声が聞こえちゃうのかな、とか、妄想癖でもあったのかな、とか、でもねまだお兄ちゃんがいたから、ちょっと心強かったんだよ? いつもみたいに笑い飛ばしてくれるかな?って思ってたんだ。でもお兄ちゃんにも聞こえてて、尚且つ私をからかって遊ぼうとした? 私の気持ちを裏切りもて遊んだわけです」

 

 と言いつつ、竹刀袋から日本刀をとりだした。…………って日本刀!?

 

「あ、亜夜? ソレは一体どしたの? しかも何で取り出してんの?」

 

「ああ、これ? 士郎さんが「素振りもこれでしなさい」って言って貸してくれたんだ。大丈夫。多分、きっと、刃はつぶしてあると思うわよ?」

 

「亜夜、それ確かめてからの方が良くね? 万が一があったら不味いでしょ! しかも今日はやたらと不機嫌だなおい!?」

 

「そうよ。朝から変な夢見るわ、学校でも寝そうになって先生に注意される事数知れず、その事で職員室に呼ばれて、その事を男子の馬鹿共にからかわれて、しかも帰ってる途中も同じ様な声が聞こえて、稽古の最中も士郎さんに注意受けるし、今日の私はすこぶる機嫌が悪いのよ!」

 

 そう叫び、亜夜は日本刀を鞘から抜く。

 すらりと抜ける日本刀、稽古始めて間もないのに日本刀を抜く動作も様になっている。月明かりを受け日本刀もあやしく光る。波紋も浮かび上がりソレは見方によっては幻想的に映っただろう。

 しかし日本刀よりヤバいのは亜夜の目だった。原理は知らないが赤く、それはもう赤く光っている。

 

「ちょ、ちょっと待て! 人間は会話が出来る! 話し合おうじゃないか! しかもソレ八つ当たりじゃね!?」

 

「ダーイ!(死ね)」

 

 ジェイソンとフレディが肩組んで二人三脚して裸足で逃げ出すんじゃなかろうかと思うほど素晴らしい笑顔だった。 

 

― 高町なのは ―

 

 私は走っていた。動物病院に向かって走っていた。

 今日はもう寝ようかなと思い自分の部屋に行って携帯でメールを送信した時だった。不意に頭痛がして昼間の時と同じ声が聞こえた。

 

(……聞こえますか?)

 

 男の子の声で確かに聞こえた。昼間の時よりはっきりと。

 

(良かった!僕の声が聞こえt)黙ってなさい! (……はい)

 

 あ、あれ? 途中で亜夜ちゃんの声が聞こえたような? なんで? そう思ってしばらく考えていると、

 

(え~と、もう話して大丈夫ですか?)

 

 そう遠慮気味に聞いてくる。

 

(僕の声が聞こえる人、助けてください。あなたの力を貸してください!)

 

 だれが話してるの?私は不安になってくる。

 

(お願いします。僕の……ろに来てく……い! お……が……。)

 

 そして、その声は聞こえなくなったしまった。昼間聞いた声。その時その声の元に行ったらあのフェレットがいた。

 もしかするとまた助けを求めているのかもしれない。私が助けられるなら助けたい、そう思ったら行動していた。

 パジャマから私服に着替えてこっそり家を出た。

 そして動物病院に着く手前で嫌な音がして、私はとっさに耳をふさぐけど効果は無かった。

 

キィィィィィィィン!

 

 そしてその音が鳴りやむと周りが変化していた。

 空が赤や緑や黄色とか色んな色がオーロラみたいに絡まりあって複雑な色をしている。

 どうしてそんな事になっているか分からないけどとりあえず私は病院へと急いだ。

 そこで私は生涯忘れない出会いをした。そう私は魔法と出会った。

 

― 斎藤一樹 ―

 

「おーーーーーーたーーーーーーすーーーーーーけーーーーーー!」

 

 俺はひたすら亜夜から逃げていた。今の亜夜は、口は三日月の様になり、顔は暗く(色的には黒)、そして目が赤く爛々と光っている。

 漫画やアニメで見る分にはまあ面白いだろうけど、これ実際にやられるとめちゃくちゃ怖え! 下手すっとトラウマですよ!

 そんな訳で必死に逃げている。氣功で身体強化しているはずなのに差が広がらない。まあ、縮まらないだけマシかも知れんね。そうしていると、

 

『≪クソ野郎≫魔力反応あり。更に結界も張られたようです』

 

 そうスサノオが言ってくる。

 

「結界!? どこから!」

 

『このまま直進、約500メートル先です』

 

 あちゃ~、ユーノはこの先か。

 このままだと不味いな、俺はまず亜夜を正気に………………戻せないな! 亜夜をチラッと見たけどあれに関わったら碌な事にならん気がする。

 ユーノには悪いがこのまま合流するとするか。俺はそのままスサノオのナビ通り進む事二分弱、目的の場所に着いた。すると反対からなのちゃんが走ってくるのが見えた。

 

「あ、あれ? 一樹お兄ちゃん? 何でここに?」

 

 肩で息をしつつ俺に聞いてきた。俺は後ろを指さし、

 

「亜夜から逃げてる最中」

 

 と言うと、なのちゃんが俺の後ろをヒョイとみて、「ヒィ!」と声を上げガタガタ震えだした。

 

「か、一樹お兄ちゃん? 亜夜ちゃんに何したの!?」

 

「いや~、いつも通りにからかったら虫の居所が悪かったみたいでな。そしたらああなった(笑)」

 

「(笑)じゃないよ!? あれどう見たって普通じゃないの!」

 

「なのちゃん、現実逃避は良くないぞ! 現状をしっかり把握しよう!」

 

「元凶は一樹お兄ちゃんだよね!?」

 

「いや、全ての元凶は変な夢と変な声らしいぞ?」

 

 それを聞いてなのははハッとなる。

 

「え! もしかして亜夜ちゃんも聞こえたの!?」

 

「ああ、ついでに俺も聞こえた」

 

「そ、そうなの?」

 

「おう、そんで此処まで来たんだけど、「ドガァァァン!!!」なんぞ?」

 

 俺は音のした方を見る。動物病院の庭から音がする。亜夜もそちらを見ている。

 俺となのちゃんが庭へと入っていくとそこには、ウネウネした化物の攻撃をかわすユーノがいた。

 何度かかわすが体当たりの衝撃で宙に浮く。

 

「あ!」

 

 なのちゃんが反応する。ユーノはちょうどなのちゃんの方に飛んでくるので、なのちゃんがキャッチする。

 するとそのフェレットが、

 

「良かった! 来てくれたんですね!」

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

 マク○ナ○ド的なCMの様に言ってみたら、なのちゃんとユーノが超ビックリしてた。そしたら、

 

「何びっくりさせてんのよ!!!」

 

 ガゴン!!!

 

「ヘブシ!!!」

 

「ハッ! 私は一体何をしていたの?」

 

 正気に戻った亜夜に突っ込まれた。

 しかし、日本刀の峰で思いっきり!! ノォォォォォォーーーー、頭が超痛え! の、脳が二つに割れたんじゃなかろうか?

 

「安心しなさいお兄ちゃん。最初から右脳と左脳に割れてるわ!」

 

「それ、割れてない。分かれとるんや」

 

「良いのよそんな事は」

 

 亜夜は俺の脳はどうでもいいらしい。ひどい妹である。

 

「で、何なのあれは?」

 

 そう言ってウネウネしてる化物を指す。

 

「あ、あれは「キェェ(ガゴン!)アベシ!!」「お兄ちゃん二度目はつまんないよ?」……説明しても良い?」

 

 頭を押さえのたうちまわる俺をよそに「どうぞどうぞ」と進める亜夜となのちゃん。

 

「あれは、ジュエルシードと言って非常に強いエネルギー結晶の異相体です! 今の僕の魔力じゃ何もできないけど、あなたなら何とかできるかもしれない!」

 

 そう言ってなのちゃんを見る。

 

「え、え?」

 

「お願いします! 僕に力を貸してください! お礼はします! 必ずします!」

 

 そう言って頭を下げるユーノ。

 

「え、ど、どうすれば良いの?」

 

「これを、それを手に、眼を閉じて心を澄ませて」

 

 そう言って器用に首にかかっていた宝石をはずしなのちゃんに渡す。なのちゃんが両手で受け取ると「ドックン」と心臓の鼓動の様に鳴動する。

 

「管理権限、新規使用者設定機能フルオープン」

 

 すると、なのちゃんの下に大きな魔方陣が現れる。それを見ていた亜夜が「ホエェェェ」と声を上げていた。

 

「繰り返して言って。風は空に、星は天に」

 

「風は空に……、星は天に……」

 

「不屈の魂(こころ)はこの胸に」

 

「不屈の魂(こころ)はこの胸に!」

 

更に力強く宝石が鳴動する。

 

「この手に魔法を」

 

「この手に魔法を!」

 

「「レイジングハート、セットアーップ!!」」

 

するとレイジングハートが強く輝きだし、

 

『stand by ready. set up』

 

 そう応えた。すると魔方陣から魔力があふれ、空に円柱状に伸びていく。

 螺旋状に帯が出てそれと共になのちゃんが宙に浮かぶ。

 

「なんて、魔力……」

 

 ユーノがポツリと呟く。

 

「ふえぇぇぇーーー!」

 

 宙に浮いた事の驚いたなのちゃんが叫び声をあげる。そして目の前にあるレイジングハートがなのちゃんに挨拶をする。

 

『はじめまして、新たな使用者さん』

 

「え、あ……は、はじめまして」

 

『あなたの魔力資質を確認しました。デバイス、防護服共に最適な形状を自動選択しますがよろしいですか?』

 

「え~と、良く分からないけど、ハイ!」

 

『All right』

 

 レイジングハートがそう答えると、光の奔流がなのちゃんを包み、来てた服が光になる。

 そこからデバイスとバリアジャケットが構築さていく。様々な部品が現れ、各部品が接続されていき先端にレイジングハートがついた杖型のデバイスになる。

 バリアジャケットは始めに黒いインナーを身にまとい、胸部にプロテクターが現れ、そこから白をメインとしたバリアジャケットが構築される。どこか聖祥の制服と似たものがある。そ手首には青いプロテクターがついていた。

 そして杖をクルクルと回し「ジャキッ!」と構える。それを見て俺は呟く、

 

「あれ? TV版じゃなくて劇場版タイプのバリアジャケットじゃん!」

 

その呟きは幸い誰にも気付かれる事なく夜の闇に消えていった。

 

 


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