魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第十話

― 犯人グループ ―

 

 上の階から轟音が聞こえた。何かが崩れるような音だ。

 このビルは廃ビルになってはいるが、崩れるほどボロボロじゃ無かったはずだ。ここを使う前に調べた時もそんな様な所は無かった、しかし

 

バン! バン! バン!

 

 銃声が聞こえた。

 それはトラブルが起こった事を意味している。人質を撃つなら一発あれば十分だ、しかし銃声は立て続けに三発、人質に向けて撃ったんじゃない、他の何かに撃ったのだ。

 可能性として高いのは人質を助けに来た奴に向けて撃った。それが一番高そうだった。

 何せ相手は吸血鬼。どんな手段で仲間の場所を特定したか分かったものではない。直ぐに一緒にいた奴と階段に行き、上の階に声をかける。

 

「おいどうした!」

 

「何があった!」

 

 しかし、返事は無い。

 俺は、もう一人に下にいる奴らを呼んでくるように指示し、ゆっくり階段を上る。この上には吸血鬼を助けに来た奴がいる。それは仲間か、それとも他の奴か。おそらく前者だろう。

 まったく下手な映画みたいなシチュエーションだ、吸血鬼と戦う人間、それは大体は人間側の勝利で終わるが、これは映画などではなく現実に今起こっている事だ。

 人間以上の身体能力を持つ相手に戦うのだ、無事で済む保証はない。これが映画なら序盤に出てくるやられ役だ、そう思いながらも一歩また一歩と進んでいく。

 ついにそのドアの前に着いてしまった。俺は意を決してドアを蹴り開け中に入る。するとそこには、お面を付けた馬鹿がいた。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 ちょうどお面を着け終わったとき、後ろのドアが勢いよく開かれた。

 そっちを見ると一人の男がいた。銃をこっちに構えて警戒している。

 

「誰だてめーは!?」

 

 ふっふっふ! 待っていましたそのセリフ! 言ってくれると信じてました! そう聞かれたら答えなければなるまい!

 

「ん? 拙者でござるか? 拙者、服部○蔵でござるよ。ニンニン」

 

 そう、落ちていたお面とはF(フラッシュ)じゃなくてA(エース)が描いた有名な忍者漫画の主人公だったのだ!

 どんぐりまなこと「へ」の字口、頬の渦巻きがトレードマークのあの顔だ。

 そう答えると、

 

「ちょっとあんた! 真面目にやんなさいよ!」

 

 とアリサに怒られてしまった。アリサの後ろではすずかちゃんがアリサを一生懸命抑えている。

 

「ふ、ふじゃけんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」

 

 そう言うと男は持っていた銃で撃ってきた。

 

バン! バン! バン!

 

 しかし、そこにはハッ○リ君の姿は無く男は消えたハ○トリ君を探す。

 

「な! ど、どこ行きやがった!」

 

 そうキョロキョロしていると後ろから、

 

「残像でござる」

 

 と声がして、後頭部に強い衝撃を受け男は地面に倒れた。完全に気絶したのを確認してハット○君は次の作業に移る。

 とりあえず今倒れている連中を一か所にまとめ、手足をしっかりと縛っておく。後三人いるはずだがまだ上がってくる気配がない。

 その事を不審に思いつつ作業をする。とりあえず全員縛り終わって、武器も全部回収したので大丈夫だろう。

 

「アリサ殿、すずか殿もう大丈夫でござるよ。ニンニン」

 

「何時までやってんのよ!」

 

 バシン!

 

 頭を叩かれた。

 

「痛いでござるよ。アリサ殿」

 

 そう言うとアリサの額にお馴染みの怒りマークが出る。

 

「いい加減にしろ! さっさとそのお面取んなさい!」

 

「アリサ殿が拙者の顔を剥ごうとするでござる! 無理でござる! 拙者の顔は餡麺麭男(あんぱんおとこ)の様に取り外し出来ないでござるよ!」

 

「いい加減にしろ!」

 

 そう言うと俺とアリサはトムとジェリーのようにすずかちゃんの周りをグルグル回る。その様子をポカンと見ているすずかちゃん。しかしそんな事をしていても周囲を警戒することは忘れない。

 すると階段付近にかすかだけど気配を感じた。ピタッと止まる俺。その後ろにぶつかるアリサ。

 

「ちょっと、急に止まってなんなのよ」

 

「アリサ、すずかちゃん悪いけども一度隠れててくれ。今度はちょっと不味いかもしれない。結構な手練が二人いる」

 

 さっきまでの口調はどこへやら、打って変わったような余裕のない声になってしまった。

 それを感じたのかアリサとすずかちゃんも黙って従う。ゆっくりとドアに向き直る。そのドアは開いたままになっていてその先は暗くなっていて見えない。

 ドアに対し自然体で構えをとる。眼を凝らし感覚を研ぎ澄ましていく。月が雲に隠れたのか、部屋の中が一段と暗くなる。

 するとドアから何かが飛んできた。飛針(とばり)いわゆる棒手裏剣だ。しかもご丁寧に一本目の陰に隠れてもう一本飛んできている。しっかりその二本をキャッチして投げ返す。飛針と同時に入ってきていた男はその行動に驚きつつも最小限の動きで避ける。

 チッ! 流石に練習不足か! 体勢も崩せてない。舌打ちしつつも間合いに入ってきた影を向かえ討つ。

 俺は手に持っていたベレッタを構え発砲。

 

 パン! ギャン!

 パン! ギャン!

 パン! ギャン!

 

 乾いた音が部屋に響き、アリサとすずかちゃんが小さく悲鳴をあげたのが分かるが今はそれどころじゃない。

 なんせその相手はこの暗い中、俺の撃った銃弾を三発全部叩き斬ったのだ。

 

「嘘だろおい!? 非常識にも程があんぞ!」

 

 あまりの事に驚愕する。確認できたのは相手獲物おそらく刀、両手に一本ずつ持っている。

 さらに間合いを詰めるスピードも尋常じゃなかった。あっという間に懐に入られ右手に持っていたベレッタをはじき飛ばされる。

 

 ガン!

 

 さらに左から首めがけて、右からは腹部をめがけ白刃が迫ってくる。

 それを上下に弾き、がら空きになった腹に中段突きを放つが、身体をひねりかわされる。

 それと同時に再び白刃が迫る。弾く。

 

 ギャン! ガキン! ギン!…………

 

 耳障りな音が響く。何合と弾き、かわし、打ち込み、かわす。常に移動し止まる事は無い。

 一見して互角に見えるが徐々に、徐々にではあるが俺が押されている。完全に相手の方が実力が上だ。

 純粋な身体能力では俺に若干分がある。しかし相手の方が戦い方が圧倒的に上手い。かなりの数の修羅場を潜って来ているようだ。だんだんと追い詰められている。

 

(チクショウ! こいつ強い! 何か、打開する方法は!)

 

 そう思っていると、アリサとすずかに近付くもう一つの影が視界に入る。

 

「ッ! アリサ! すずか! 逃げろ!」

 

 その影を見た瞬間とっさに叫んでしまった。戦っている最中に度し難い隙をつくってしまったのだ。

 そしてそれを見逃す相手ではない。しまった! と思った時にはもう遅かった。此方の右脇腹に白刃が迫る。

 

ドゴ!

 

 鈍い音が響き、俺は勢いよく吹き飛ばされる。

 地面をバウンドしながらゴロゴロ転がり、アリサとすずかちゃんの隠れている柱にぶつかり止まる。

 

『一樹!(さん!)』

 

 二人の悲鳴が響くが、しかしそれに応える余裕はない。

 人体の急所である肝臓にもろに攻撃を受けたのだ、呼吸は出来ず、手足はしびれ、身体の自由を奪う。

 それでも俺は立ち上がり相手を見据える。相手は攻撃した位置から動いておらずじっと此方を見ている。

 しかも後ろからはもう一人。状況は最悪だ。どうすればこの状況を打開できるか考えるが思いつかない。

 

(こりゃ、魔法使うしかないか?)

 

 そう覚悟を決めて使おうとした時、

 

「一樹君か?」

 

 今まで戦っていた相手が獲物を下げ聞いてくる。その声は聞きおぼえがあった。

 

「え? もしかして士郎さん?」

 

「やっぱり一樹君か。お面してたから分からなかったぞ」

 

「一樹、大丈夫か?」

 

 そう後ろから声を掛けてくれたのは恭也さんだった。

 

「ちょ、あれ? え~~、士郎さんと恭也さんだったの!?」

 

 そう言って俺は地面に座り込む。それと同時に再び月が顔を出したのか部屋の中が明るくなり、二人の顔がはっきりと確認できる。

 

「ああ、すまない大丈夫か?」

 

「しばらくは無理っす。もろに入りましたから」

 

「ははは、すまない。一応加減はしたんだが」

 

 気まずそうに士郎さんが答える

 

「しかし、一樹も腕を上げたな。父さんと結構良い勝負してたじゃないか」

 

「こっちは一杯一杯でしたよ。でも、それならそうと言ってくださいよ。ホントにヤバいと思ったんですから」

 

「仕方ないだろ。一樹君から事前に人数を聞いていて下で三人しか倒してなかったんだ。あと五人いるのに無暗に声を出す訳にもいかなかったからな」

 

 まったくもってその通りである。

 

「しかも、お面をした変な奴がいるんだ。敵じゃない保証は無かったからな」

 

 ぐうの音も出ない。こんなところでお面の弊害が出るとは。

 しかし後悔はない(キリ! ちなみにお面は士郎さんに吹っ飛ばされた時どっかにいってしまったようだ。

 

「まあ、こっちも全く気付かなかったっすからお相子っつう事で」

 

 そう言いながらわき腹の痛みを我慢しながら立ち上がる。

 

「ああ、とりあえず忍も下に来てるし、こいつら運んでおくか」

 

 そう恭也さんが言って犯人を担ぐ。恭也さんと士郎さんが二人、俺が一人という感じだ。

 そうしてビルから出るとそこには忍さんとその横にメイド姿の女性がたたずんでいた。

 

「すずか!」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

 そう言ってすずかちゃんは忍さんの元に走り抱きつく。俺はその姿を見て心底安心した。良かった守れて。本当に良かった。すずかちゃんは忍さんと少し話すと忍さんと一緒にこっちに来る。

 

「一樹君すずかを助けてくれて本当にありがとう。いくら感謝しても足りないわ」

 

「私からも礼を言うわ。ありがとうカ一樹。あの時来てくれなかったらきっと私殺されてた」

 

 そう言って二人がお礼を言ってくる。

 

「でも、私達の秘密を知ってしまった」

 

 あ~、そう言えば聞いちまったな、「夜の一族」の事。

 

「アリサちゃんだったわね。私達の秘密を知ってどう思った?」

 

「…………」

 

 アリサは答えられない。まだ整理がついてないのだろう。

 しか~~し! 俺はそんな雰囲気をぶち壊す!!

 

「なんだアリサ、すずかちゃんが吸血鬼ってだけで友達じゃなくなるのか?」

 

「そ、そんな事ある訳ないじゃない!」

 

「で、でも、私吸血鬼なんだよ? 人の血を吸う化物だよ?」

 

 そうすずかちゃんは言ってくる。

 

「ん? すずかちゃん? 化物って「人の血を吸う」ってことなのか?」

 

「え? そ、そうだけど?」

 

「じゃあ、吸血蝙蝠なんかも化物か?」

 

「…………へ?」

 

「だってそうだろ? 「人の血を吸う」事が化物なら自然界には沢山いるぞ?」

 

「え、で、でも動物は人を殺したりしないよ!」

 

「それはすずかちゃんもだろ?」

 

「そ、それはそうだけど、でも人よりすごい力があるんだよ! ちゃんと手加減しないと人を傷つけちゃうんだよ!」

 

「ん? じゃあ俺と勝負して見るか?」

 

 そう言うと俺はビルの近くに放置されていた机を持ってきた。俺はそこに肘を置きチョイチョイと指を曲げ軽く挑発する。

 勝負は簡単腕相撲だ。純粋に力が強い方が勝つ、実にシンプルだ。すずかちゃんは恐る恐る俺の手を握り体勢をとる。

 

「誰か審判お願いします」

 

「し、仕方ないわね。私がするわ」

 

 そう忍さんが言ってくる。お決まりのごとく「力を抜いて」とか「始めの合図で」とか決めていく。

 そして準備が整った。

 

「じゃあ行くわよ。」

 

 そう言って俺とすずかちゃんの手の上に手を置く。一息吐き、

 

「始め!」

 

 その合図と共にすずかちゃんが力を込めるが、

 

「う、嘘」

 

 俺の腕はびくともしない。

 

「どうした? もうおしまいか?」

 

 そうニヤニヤしつつ、すずかちゃんに言う。

 

「ま、まだまだです!」

 

 そう言って更に力を籠めるがまったく動かない。

 

「じゃ、そろそろ終わりにするか」

 

 そう言うと実にあっさりすずかちゃんの手の甲が机に着く。

 呆然とするすずかちゃんと忍さん、少なくとも二人にとってはあり得ない光景だったのだろう。

 しかし、負けた事が悔しかったのかすずかちゃんは、

 

「わ、私まだ成長途中だから力が弱いんだよ! お姉ちゃんなら勝てるもん」

 

 なんて事を言ってきた。おいおい、そんなに自分が化物だって証明したいんかい!

 

「ん~、すずかの言う事にも一理あるわね。次は私とで良いかしら?」

 

「……まあ、良いっすけど」

 

 ねーよ! 一理なんてこれっぽっちもねーから!

 

「決まりね! 恭也審判お願い」

 

「構わないがなんでそんなに嬉しそうなんだ?」

 

「フフフ、秘密よ」

 

 そして俺と忍さんはさっきと同じ様に机の上に肘を置きガシッと手を組む。

 

「手加減の必要はなさそうね」

 

「大丈夫ですよ。絶対に勝てませんから」

 

「あら、言うわね。じゃあ本気で行かせてもらおうかしら」

 

 忍さんはそう言うと恭也さんに合図をする。俺も恭也さんに頷いて合図をする。

 

「よし、じゃあ行くぞ。……はじめ!!」

 

 恭也さんが合図をすると同時に忍さんが動く。

 

「はあぁぁぁーー!!」

 

 気合いと共に体重も左に移動し、最初から最大の力をかける。

 それを証明するかのように、俺と忍さんを中心にそこから衝撃にも似た風が外に向かって放たれる。

 

ブワッ!!

 

 誰もが俺の負けだと思っただろう。現に俺の右手は机に今にもつきそうなのだから。

 が、まだ着かない。手の甲と机との間にわずか2~3センチ程の隙間がある。

 

「あ、あぶね~! 本気すぎじゃないですか?!」

 

 俺は忍さんにそう言うが、忍さんは答えない。机に着いていない俺の手を見て驚いている。

 

「……う、嘘でしょ?!」

 

 忍さんの手はプルプルと震えているがそれ以上俺の手が机に近づく事はなく、俺によってゆっくり試合開始の位置まで戻される。

 そしてそのまま反対の方に倒れていき、忍さんの手の甲が机に着く。

 

トン

 

 静かにな音にも関わらずその場にいた全員に聞こえた。そして俺は月村姉妹に向けて一言。

 

「ん~、人間に勝てないのに化物を名乗るなんぞ言語道断だ! 出直してこい!」

 

そう呆然としている二人に言い放つ。

 

「いや、それは違うだろ」

 

 恭也さんが冷静に突っ込む。俺はすずかちゃんの前にしゃがみこんで目線を合わせて話す。

 

「ん、まあそれは冗談として、「化物」なんていうもんは人によって違うんだよ。勿論吸血鬼を「化物」という人間もいると思う、でもそれは吸血鬼は怖いとか人を殺すとかそんな先入観から生まれるものだと思うんだ。人間にだって沢山人を殺す奴だっている。俺はその殺人鬼とすずかちゃんを比べたら、間違いなく殺人鬼の方が化物だと思うよ。「人の血を吸う」とか「力が強い」て言うのは些細なことだよ。その持ってる力を自覚して、溺れる事がないんだからすずかちゃんはまぎれもなく人間だよ。だから安心しな、アリサだってなのちゃんだって亜夜だってはやてだってそんな事気にしないでずっと友達でいてくれるよ」

 

「そうよ! すずかが吸血鬼だからって嫌いになる訳ないじゃない!」

 

 そうアリサが言ってすずかに抱きつく。

 

「それに、すずかは私が撃たれそうになった時かばってくれたじゃない!」

 

 そう言ってアリサが腕に力を込める。

 

「私達はずっと友達よ」

 

 そう言ってアリサはすずかに語りかける。呆然としていたすずかちゃんだがそれを聞いた後、ぽろぽろ涙を流し、

 

「ありがとう、ありがとう、アリサちゃん」

 

 そう言って静かにアリサの胸の中で泣くのだった。

 

「時に、忍さん。秘密を知った人ってどうするの?」

 

 気になったので聞いてみると、

 

「う~ん、記憶の消去か私達に忠誠を誓うかってとこなんだけど……」

 

「つまり?」

 

「あなたとすずかが私と恭也見たいになるってことよ」

 

「マジッすか?」

 

「マジよ。まあ、それもすずか次第だけど」

 

 忍さんはすずかを見てどうする? とでもいうような顔をしている。

 こ、これはすずかちゃんと婚約フラグか!? と若干ドキドキしていると、

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「あら? じゃあ、記憶消去しかないわね」

 

と言われ、激しくで凹んだ。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 あの後、犯人グループを忍さん、恭也さん、士郎さんが尋問して依頼主を吐かせ記憶を消去して警察を呼んでその場から立ち去った。その際に忍さんが、

 

「記憶を消す時間違いが起こっても私の所為じゃないわよね~♪」

 

 すっごい笑顔で言っていた。ただし眼は笑っていなかったが。

 その瞬間は俺達三人はかなりドン引きしていたが。とりあえず全員ではやて家に戻る事になった。

 アリサとすずかちゃんがどうしてもみんなに会って安心させたいと言ってきたのだ。

 まあ、この面子がそろっているのだから今回の様な事は起きないだろう。はやての家に着くと、初老の執事服を着た男性が飛び出してきた。

 「お嬢様ー!」と言いながらアリサに抱きつく。アリサも「鮫島!」と言いながら抱きつく。

 どうやら迎えに来た車の運転手の様だ。頭に包帯を巻いているが他は大丈夫のようだ。

 そして、そのあとから亜夜、なのちゃん、はやてが飛び出してきた。三人は勢いそのままにアリサとすずかちゃんに飛びついた。まあ、そんな事をしたらどうなるかは誰でも分かる通り、

 

ドシャーン!

 

 五人は纏めて倒れる事になった。地面に倒れながら全員で再会を喜ぶ。眼には涙を浮かべているが全員がもの凄く嬉しそうだった。俺はこの笑顔を見て、本当に守る事が出来て良かったと心の底から思うのだった。

 それと同時に安心したからなのだろう、全身の力が抜け、目の前が暗くなり俺は意識を手放した。

 

― 高町恭也 ―

 

 目の前で一樹が倒れる。地面にぶつかる直前で支える事が出来たのは幸いだった。

 

「おい! 一樹!」

 

 俺の声に気付いた忍と父さんが近寄ってくる。

 

「恭也、一樹君は大丈夫か?」

 

 そう言われてから一樹の状態を確認する。

 脈はある、呼吸もしている、ただ意識がない。

 恐らく家に着いた事で緊張の糸が切れたのだろう、俺はそう結論付ける。

 

「ああ、大丈夫そうだ。たぶん緊張の糸が切れたんだと思う」

 

 そう言うと父さんも安心したようだ。短く「そうか」と言って息を吐く。

 

「恭也、その子いったい何者?」

 

 忍が聞いてくる。まあ、気になるのは当然だろう。まだ子供とはいえ、すずかの腕相撲で圧勝し、忍との勝負にも勝っているのだ。普通であればこれは当然の結果だろうが、忍とすずかは「夜の一族」なのだ。その力は成人男性を軽く超えるもので、中学生程度の力で如何にかなるものではない。

 二人から見ればあり得ない事だ。しかし一樹はそれを覆した。それも圧倒的な力で。聞きたい事は沢山あるのに何時もはぐらかされてしまう。俺はため息をつき忍に言う。

 

「それは俺も知りたいよ」

 

 何時も一緒に稽古をしている弟分を見てそう思うのだった。

 

「ん? そう言えば一樹兄ちゃんはどないしたん?」

 

 今、一樹がいない事に気がついたはやてがキョロキョロし始める。そして恭也に支えられてる一樹を見つけると器用に車椅子に乗り近付いてくる。

 

「か、一樹兄ちゃん! どないしたん!」

 

「心配ないよ。疲れて寝てるだけだから」

 

 俺はそう言うとはやては心配そうに言う。

 

「そうなん? でも早く手当てとかした方がええんとちゃうか?」

 

「いや、怪我らしい怪我はしてないぞ?」

 

「え? 一樹兄ちゃん、銃で撃たれたんよ?」

 

「…………え゛?」

 

 ギョッとして父さんを見る。父さんも同じく眼を丸くしている。

 

「まさか、一樹兄ちゃんから聞いとらんの?」

 

 俺は慌てて一樹の上着を脱がせ、傷を確認する。

 そこには包帯が巻かれていて、所々赤く血がにじんでいた。大出血している訳では無いが、放っておいて良い物でもない。

 

「ノ、ノエル! 救急箱あるか!」

 

「リ、リニス! 救急箱や! 救急箱取ってきて!」

 

そう言って二人で慌てて手当てを開始するのだった。

 

― 斎藤亜夜 ―

 

 みんなで再会を喜んでいた。つい勢い余ってアリサちゃんとすずちゃんに突っ込んじゃったけど、みんなで笑って、みんな目に涙を浮かべている。

 あの光景を見て、絶望的な状況を味わって、それでもこうして再開できた。恭也さんと士郎さんには本当に感謝だ。

 お兄ちゃんも無事に戻って来てくれた。あ、今更だけどお礼言わなきゃ。そう思いお兄ちゃんを探す。キョロキョロする私にみんなが気付いたようだ。

 

「どしたのよ亜夜?」

 

「あ、いやお兄ちゃんを探してて」

 

「あ、そうだね。一樹さんにもちゃんとお礼しなきゃ。ね、アリサちゃん」

 

「う! そ、そうよね命の恩人だしね。」

 

「にゃははは、アリサちゃんは素直じゃないの」

 

 そう言いながらアリサとすずちゃんの言葉に驚く。

 お兄ちゃんが命の恩人? え? 恭也さんと士郎さんが助けてくれたんじゃなかったの? 私がそう聞くと、

 

「始めに助けに来てくれたのは一樹よ。私が銃を突きつけられた時助けてくれたの。あっという間に周りにいた犯人四人を片付けちゃったわ」

 

「うん、そうだよね。あの時は私もびっくりしたな」

 

 なん………ですって!?

 あのお兄ちゃんが大人四人をあっという間に片付けた? てっきり恭也さんと士郎さんの手伝いだけかと思ってた。

 しかもそのあと敵と勘違いして士郎さんと戦ったと言うじゃない。いつもはネタで私や明お兄ちゃんを弄って最終的に怒られてるのに。

 そう言えばなのちゃんの家にある道場に通い始めてから雰囲気が変わったような、そうでもないような……。

 ええい! わかんないなら私もいっそ高町道場通い始めようかな。 そう思っているとはやてちゃんの声が聞こえて、

 

「リ、リニス! 救急箱や! 救急箱取ってきて!」

 

 と何やら慌ただしい。はやてに近付くと恭也さんに抱えられいるお兄ちゃんがいた。

 

「お、お兄ちゃん大丈夫!」

 

 そう言って慌てて近くによる。

 するとリニスさんともう一人メイドさん………メイド! 初めて見た! リ、リアルメイドホントにいた! って違う! 今はそんな事を気にしている時じゃない!

 そうぶんぶん頭を振って、その考えを吹き飛ばす。そうしている間にテキパキと治療を済ませていく二人。治療が終わったのか報告してくる。

 

「脈拍、呼吸共に安定しています。命に別状は無いようです」

 

 これはメイドさん

 

「ええ、恐らく貧血と疲労、家に戻って安心したためだと思いますよ。右脇腹と銃創以外は怪我はありませんし」

 

 これはリニスさん。二人の手際の良さに驚きつつ、お兄ちゃんを見る。

 その顔はどことなく嬉しそうに笑っているように見える。それを見て私も嬉しくなったのと同時に、私も誰かを助けられたらと思う。

 いいな、と思っている自分がいた。こんな事にならなかった私はこんな気持ちにならなかったかもしれない。

 恭也さんの隣にいる士郎さんを見るとどこか気まずそうにしている。私はそんな士郎さんに声をかけた。

 

「士郎さん、お願いがあります」

 

 これからの為に私も強くなろうと決意するのだった。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 痛みで眼が覚めた。

 眼を覚ますとそこは自分の部屋のベットの上で横には父さんがいた。

 

「お、眼が覚めたか一樹」

 

 読んでいた本から目をはなし俺にいってくる。俺は上半身を起こし父さんに聞く。

 

「父さん、俺が倒れてからどの位経った?」

 

「ん? そんなに経ってないよほんの二~三時間ぐらいだ」

 

「みんなは?」

 

「もうみんな帰ったよ。お前によろしく言っといてくれだってさ」

 

「そっか」

 

「もう大丈夫そうだから父さん下に行くぞ?」

 

「うん、ありがとう。スサノオのおかげて2人を助けられた」

 

「それは良かった」

 

 そう言って父さんは部屋から出て行った。

 俺は軽くストレッチをして身体の調子を確かめる。痛みはあるけどもう大丈夫のようだ。

 士官学校の時から怪我の治りも早かったが、流石に今回のは若干かかりそうだ。

なんつっても銃創だからな。傷跡残っちまうかな? まあそうなったら仕方ないか、と諦める。

 後数日は大人しくしておこう。怪我が治ったら今回の反省を含めて士郎さんに稽古つけてもらわないと。高町道場通う日数多くしようかな? この状況だとそう思わずにはいられなかった。

 もっともっと強くならないと助けられる人が助けられなくなる。俺はそう決意を新たにするのだった。

 

 

 


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