都市伝説の様な住民消失事件。
精霊の加護と共に騎士達はその地に降り立つ。
ホンコンにおけるバイオネットの戦いから三日後。
満月を迎える前日の事である。
魔法騎士達は夏の長期休暇を利用し、ここ北海道へと訪れていた。
伝手は旋風寺コンツェルンの社長からである。
そして同じくその地に降り立った金色の姫君の姿もあった。
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光達は自分達の出身地を案内した後、エメロード姫の提案で自然が多い場所へ出かけたいと申し出があった。
そこで今回は北海道へ足を延ばしたのである。
ちなみに護衛兼引率者にザガートとランティスが請け負っている。
当のイーグルに関しては行きたがっていたが、セフィーロの守りが手薄になるので御留守番となった。
実際、Anti・DCなどの襲撃があった場合に機動兵器を動かせるのはイーグルらオートザム組しかいなかったのもある。
ちなみにエメロード達はいつもの服装ではなくこちら側の服装に変えている。
海に関してはエメロードにお飾りし放題とノリに乗っていたとの事。
素体が良いので服が中々決まらなかったが、淡いピンクと白のワンピースで収まった。
男性二名に関しては光の一番上のお兄さんより服のコーディネートを合わせて貰っている。
なお、エメロードとザガートの髪のサイズは魔法で変えているので悪しからず。
「姫、私達の世界はどうですか?」
「戦いが起こっているとは思えない程、静かな場所もあるのですね。」
「私達の国は元々侵略者の侵攻を受けやすい場所だったのですが…」
「二度の戦いの後と思えない程に今は落ち着いてはいるわね。」
「そうでしたか…」
光の会話から始まり、エメロードは静かな街並みの感想を伝えた。
しかし、未だ小競り合いが続いているのは事実である。
風と海はその件もまた自分達の世界の問題であると伝えた。
ランティスとザガートもまたその会話に質問の様な発言をした。
「それは柱が無くとも平和を護る者達が存るからこそと言う事か。」
「しかし、柱が無き世界もまた戦乱が起きているのは事実だ。」
「確かに柱が必要と思った人もいるかもしれない、でも…たった一人が犠牲になる制度なんて考えられなくて。」
「光。」
新たに柱の資格を受け継いだ光であったが、自分がやった事が正しいのかまだ不安の中に居たのである。
不安な表情をする光の手を取ってエメロードは答えた。
「光、私達は光達の誰かを助けたいと願う心に救われました。」
「姫。」
「光の取った行動もまた間違いではないと思いますよ。」
「ありがとう、エメロード姫。」
どんより空気を変える為に海と風は観光の続きへと誘った。
「光、湿っぽいのは止めて今は楽しみましょう。」
「そうですわ、せっかくエメロード姫達もこうして散策に来られたのですし。」
函館から札幌の間を散策した一行。
今後の予定では釧路市に足を延ばす予定との事だ。
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その夜。
北海道・某所にて。
ここシウン邸では家主であるセルドア・シウンの帰宅から騒々しい事が起こっていた。
「トーヤ、急な話で済まないがすぐに家を出られる準備をして置け。」
「父さん、帰って早々どうしたの?」
「訳は後で話す、今は家を出る準備をするんだ。」
「…」
リビングで寛いでいた彼の息子のトーヤ・シウン。
父親の急な話に最後は無言となっていた。
その様子に不満を抱えた息子の癇癪であると推測し誤解を解こうとしたが…
「トーヤ、確かに私のやり方は気に喰わないのかもしれない…だが。」
「それって父さんの隠し事と関係があるの…例えばフューリーの事とか?」
「っ!」
フューリーの言葉に驚くセオドア。
その様子を傍観しつつトーヤは話を続けた。
「…俺が気が付いてないと思ったの?」
「トーヤ…それは。」
「そうじゃないなら別件かな。俺をここから連れ出す理由は?」
「…」
「話せないなら俺はここから動かない、俺にだってやらなきゃならない事があるし。」
トーヤはかつてフューリーのハーフとして生を受けた複数の記憶を持っていた。
その記憶から既に父親がフューリーと呼ばれる異星人である事を理解し答えた。
今回の件がフューリー絡みの件でないと推測した上でここを動かないと告げた。
「それでも…お前をここへ置いておく訳には行かないのだ。」
「…父さんじゃなければ誰の差し金?」
それに対しセルドアは反論を続けたが、トーヤは誰かの差し金と察して話を逸らした。
梃子でも動かないと悟ったセルドアはある人物の名を出した。
「ブルーロータス、その者から明日の満月の日の前にここを離れなければ死が待つと告げられた。」
「…」
「信じて欲しい、一刻も早くこの地を離れなければならない。」
「なら、家の地下に隠してあるアレを使っても構わないよね?」
「トーヤ、如何言う事だ?」
「俺だって何もしていなかった訳じゃないよ、やる事はやっておいた方が良いと教えたのは父さんだろ?」
「それとこれとは話が…」
「その日に襲ってくるナニカの正体は見当が付いている……地下に置いてあるヴォルレントは使わせて貰うよ。」
淡々とトーヤはセルドアに話を続けた後、隠し扉より秘匿された地下の格納庫に籠ってしまった。
その後を追ったセルドアであったが、扉の電子ロック番号を書き換えたのか開かなくなっていた。
「トーヤ、一体どうしたと言うのだ……それに皇家の事を今まで覚えていたと言うのか?」
忘れていると思っていた過去と秘密を知っていたトーヤにセオドアは驚きを隠せなかった。
一方でトーヤは地下格納庫へと続く通路の中でとある人物へ連絡を送っていた。
「中尉、俺も動く時が来たようです。」
『そうか、判った。』
「例の蟲に関してはどうなっていますか?」
『駆除には俺達の仲間が跡を追っている、言って置くが…深追いはするなよ?』
「判りました、キョウスケ中尉。」
トーヤは通信端末をオフにすると速足で通路を進んだ。
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翌朝。
北海道全域で謎の濃霧が発生。
事故防止の為に一部を除いて一般市民の外出は禁止された。
だが、この選択は半分正解で半分間違いでもあった。
ここ、地球連合軍・八雲基地にも霧に潜む者達に襲撃を受けた悲鳴が届いていた。
『こちら釧路戦術訓練所。繰り返す、こちら釧路戦術訓練所!』
「こちら地球連合軍・八雲基地です、応答願います。」
『至急応援を…訓練所内に…巨大な蟲が…ああっ!!?』
「応答願います、訓練所…応答願います!!」
先程、八雲基地の管制塔より釧路戦術訓練所より入電が入った。
救援要請の連絡であったが、オペレーターの断末魔を最後に通信が途絶してしまったのである。
その様子に応対する八雲基地側のオペレーター達だったが、通信は繋がったまま向こう側との連絡は途絶えてしまった。
「何があった!」
「釧路戦術訓練所より、エマージェンシーコールです。」
「何だと!?」
「先程通信は途絶、発信内容に巨大な蟲とありました。」
「…蟲だと?」
「司令、救援の手筈はどうなさいますか?」
「この濃霧では下手に出撃させた場合の二次被害が予想されます。」
八雲基地の司令は苦虫を噛み潰した様な表情であったが、すぐさま行動を取った。
「至急、樺太基地から救援要請が可能か通達を行え。」
「了解しました。」
「同じく地球防衛軍・釧路駐屯地にも注意を呼びかけろ。」
「了解。」
「同時に東北、関東方面の基地に応援要請を!」
「了解しました。」
「民間人への避難指示と避難所への待機通達を忘れるな!」
オペレーター達に指示を出し、出来得る限りの手を打った。
しかし、時既に遅く…
一部の市街では被害が出ている事を彼らは知る由もなかった。
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同時刻、札幌市内の旅館にて。
旅館の一室で稲葉駆、天音、シャーリィの三名が待機していた。
北海道のとある場所に安置したシグ・オニキスを回収する為に訪れていた。
その道中でトーヤ・シウンと言う少年に出くわし、意気投合。
目的を果たした後、彼とは別れた。
それらを先日に終えて、本日の国内線で関東に戻る予定だったが…
突然の濃霧にて運航が中止となり、立ち往生していたのである。
天音が濃霧で不鮮明な外の様子を見ながら話は始まった。
「兄さん、この霧…晴れそうにないね。」
「ああ、シグ・オニキスを回収した後で良かったな。」
「本当ね、それにしても…ここってこんなに霧が出るの?」
「いえ、異常気象が原因で稀に霧が発生していると旅館の人が話していました。」
「今日は特にその霧が濃すぎて軍から外出禁止令が出ているらしい。」
「本当に困ったわね。」
「大河長官が俺達にも緊急招集をかける位の何かが起こるって例のブルーロータスが話してちゃな…」
「戻りたいのは山々だけど、無断で機体に乗るのが禁止だとお手上げよね。」
空白事件後、地球防衛軍に在籍している勇者に関わりを持つ子供達は理由が無い限り機体の無断使用を禁止されていた。
これにより事件が無い限り、子供達は勉学に励む事となった。
「兄さん、これだと国内線が動くのは無理があるみたい。」
天音が付けたレトロなテレビより流れるニュース案内で関東地方に大型台風が接近しており、関東エリアの空港の全便が運航未定とアナウンサーが話していた。
「こっちは霧で向こうは台風かよ、ついてねえぜ。」
「霧が晴れるまで大人しくしているしかなさそうね。」
「…うん。」
三人は旅館の女将の計らいで国内線の運航が再開するまでの間、他の宿泊者と共に旅館で待機していた。
愚痴を言う二人を他所に天音は用意されたお茶を飲みつつも嫌な予感を感じるのであった。
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数時間後、釧路湿原にて。
「…」
「ハスミ、怒ってる?」
「色々とね。」
やっとBPLの研究所へ強制捜査に入ろうとしたら何ですか?
関東の湾岸でバビロンプロジェクトの最終直面?
北海道全域で虫型UMA共の住民拉致騒動?
オマケにホンコンの事件は解決していないし?
マジでキレていいですかね?
「拙いのはアカマツ工業のクルーがここにやってくるって事、どんなバッドタイミングよ?」
「確かにマズイよね?」
「この件は穏便に済ませるつもりだったのに無限力め、余計な事を…」
そんなに原作の流れをさせたいんですか、あーそうですか。
一応、ターニングポイントですもんね。
唯でさえ、アムロ大尉達が転移に巻き込まれて惑星ガイアに強制旅行中だし。
ゴブリン結社とかよく判らん連中が動き出してきたからBF団の皆様と一緒にフルボッコ巡回して貰ったり。
如何言う訳かキラー・ザ・ブッチャーが復活したから『地獄』に処刑して貰いに行ったりしたり。
出来れば協力者に成りそうな人がいるから回収しておかないとね。
ガルラ大帝国の偵察部隊もチラホラしてきたからそろそろカタつけないとかな?
今の所、修羅の方には動きが内から様子見。
デュミナスの行動もまだ不明な点が多い。
ごっちゃ混ぜに成り過ぎて整理しにくくなってる。
小父様の方も何か嫌な動きをしている人がいるから牽制しないとだし。
考えただけで問題点多すぎよね。
「はぁー。」
「ハスミ、そろそろ時間だよ。」
「判ったわ。」
私は深呼吸をして落ち着きを取り戻した後、戦闘準備を整えて配置に就いた。
釧路湿原奥地にあるBPL…正式名称、生工食料研究所への強制捜査。
と、言うのは表向きであり正確には掌握である。
私は今回の協力者達に声を掛けた。
「では、皆様方…ご準備は宜しいですか?」
「うむ。」
「いつでも?」
独特の葉巻を片手に持つ紳士。
中東の飾りを付けた社長。
赤い仮面の忍者。
幽霊の様に姿を掴ませない蟲使い。
指パッチンの人。
瓢箪の酒瓶を携えた人。
不死身の人。
元バラルの元締め。
機械仕掛けの私の親友。
「では、参りましょう。」
目指すはBPL最深部。
私はやれる事をやるだけだ。
=続=
それぞれの戦い。
明かされる真実。
そして迫りくる脅威。
それは此度の戦いの始まりだった。
次回、幻影のエトランゼ・第四十五話 『巡天《メグルテン》後編』。
呪いは重なりて傀儡となる。