その地で発生する不可解な事件。
動き出す者達。
己の宿命に抗え。
前回、ギリアム少佐の連絡を受けた私達はアジャンター石窟から移動。
連合軍・インド基地でティアリー博士の搭乗するダウゼントフェスラーと合流。
その後、七月初めに開催された第十三回ガンダムファイト・決勝リーグが行われているホンコンへと向かった。
「凄い賑わいでしたね。」
「いや~相変わらずのお祭り状態で凄いね。」
「さっきの対戦も勉強になりました。」
「確かに…(相手がシュバルツさんじゃ…勝ち目ないよ、アレ。」
「まさか床を畳み返しに使うなんて忍者様様だったね。」
「どちらかと言えば相手の力技を流れる様に受け流していたのは流石でした。」
決勝リーグ開催地であるホンコンの街中を散策する私達。
予想以上の賑わいに驚いていた。
先程、ネオドイツ対ネオノルウェーの対戦を見終わったばかりである。
一応、表向きの休暇扱いになっているので少し楽しんでいた。
本格的に動くのは夜なのでそれまでの暇潰しを兼ねている。
今回の件は連合軍・諜報部と国際警察機構双方の合同捜査であり、極秘の為に現在は軍服ではなく私服である。
ロサに関しては私の肩掛けバックに隠れて貰っている。
「確か、ドモンのネオギリシャ代表選手とネオインド代表選手との対戦が終わった頃だから……凄く嫌な予感が。」
「ハスミちゃん、何か嫌な予感でも当たったかな?」
「思いっきり、どストレートに。」
他の事で手一杯ですっかり忘れてた。
これ、順番は違うけどGガンの原作ルート一直線に行っている。
SRWシリーズでは決勝リーグの件は有耶無耶になっていたり原作終了扱いで情報が少ない。
正直、扱っているシナリオ事例がないからキツイな…
他のエージェントの話だと、GGGも新型ガオマシーンを奪われてパリで行動中だし。
終着点であるホンコンで網を張っていれば向こうから当たってくると思う。
この調子だと北海道の事件に間に合うかな?
今日が新月だから約二週間って所だし。
約束の日までに間に合わせないと…
「ねえ、ハスミ…あれ。」
「え?」
バックからひょいっと顔を見せたロサが指差した先にあったのは…
運行中のバスの上でドモンとネオネパール代表選手が絶賛バトル中でした。
「…」
「あれ、ドモンさんだよね?」
正に『開いた口が塞がらない』とはこの事である。
真昼間の街中でアンタラ何しているんですかー!?
うん、原作視聴済みだからオチは解っているけど…
実際…生で見ると心の中で『エー!?』っと言いたくなったのは気のせい?
「あらま、すっごいね…」
「ティアリー博士、呑気にタピオカドリンク啜りながら言わないで下さいよ。」
近くの露店でタピオカミルクティーを購入して飲んでいるティアリー博士。
マイペースな所は変わらずである。
「止めた方が良いの?」
「どうするかな、ドモンなら何となく片付けそうだし…放って置こうと言いたいけど。」
「じゃあ、止める?」
「事の顛末を識る身としては…止めておいた方が一般の方達にご迷惑にならないと思う。」
「じゃ、ハスミちゃん…よろしくね?」
「はぁ、極秘捜査なのに始末書モノかな?これ…」
私は一歩踏み出すと戦闘中のバスの元へ向かった。
その動きは一瞬であり、一般の人には何事もなかった様にハスミの姿は景色に溶け込んだ。
******
一方、問題のバスの上では。
暗いトンネルの中でドモンは説得を続けていた。
「死神キラル、お前にファイターの魂はないのか!」
「ドモン・カッシュ…貴様には解るまい。」
キラルは告げた。
ファイターにとって大事な視力。
その光を失った自分が立たされた位置を。
泥水を啜る様な過酷な修行を遂げて。
残りの感覚を研ぎ澄ませ、ガンダムファイトに復讐を遂げる為に舞い戻って来た事を。
「まさか…貴様!」
ドモンは彼からにじみ出る憎しみが何かによって増幅されている事に気が付く。
既に終わっていた筈の呪いが再び目覚めた事を自覚した。
「闇の中であっても私には無意味だ…!」
ドモンはキラルの一撃を避けたのと同時に赤い鉢巻を取り外し、彼のアイマスクに直撃させた。
トンネルを抜けると彼の目元には呪いの証が刻まれていた。
「やはり、DG細胞か…!」
「フフフ、目の見えぬ私に再び立ち上がる力を…悪魔と契約を交わしたのだ!」
「キラル、一体誰がDG細胞を!」
「…貴様には関係のない事!」
キラルの長い錫杖の追撃が始まろうとした時、それを遮る様に一つの影が入り込んだ。
「様子見に来て正解だった。」
「お前は!?」
その影の名前を言いそうになったドモンに彼女は人差し指で他言無用の合図を送った。
「お久しぶりです、ドモン。」
「お前、インドに向かっていた筈じゃ…」
「訳有りでこっちに飛ばされましてね、まさか本命に当たるとは思いませんでしたけど。」
「ふん、斬る相手が増えようが構わ…!?」
「眼が見えない事と言う事は他の感覚で周囲の情報を得て要るようですけど、その周囲の気配を捻じ曲げればどうなると思いますか?」
「な、何も見えんだと!?」
キラルがこちらの動きを捉えられない状況に唖然としているドモン。
「今の内に撤退を…!」
「だが、奴を放って置けば!」
「今はその時ではないとだけ…伝えておきます。」
ドモンは彼女に促されてバスの上から撤退した。
暫くしてからキラルは動ける様になったが、その頃にはドモンともう一人の姿を見失う事となった。
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その夕方、撤退したドモン達は他の仲間達と合流。
港の中にある屋形船の一つの中で来日したハスミ達に今回の件に関して会議が行われた。
極秘捜査の為、船の持ち主には席を外して貰っている。
「何だと、DG細胞が流出した!?」
「正確には空白事件の最中、シャドウミラーを通じてバイオネットを始めとした犯罪組織にDG細胞が流出しました。」
「そんな頃に…!」
「おまけにドモンを襲ったキラル・メキレルが感染してたって…どう言う事だよ!」
「これに関してはまだ調査中ですが、国際警察機構はバイオネットとその協力者がこのホンコンで新型DG細胞の実験を行っている事を掴んだのです。」
ドモンの発言を始めにチボデーが驚きの声を上げていた。
ハスミは可能な限り、今回の情報を告げた。
それに対しサイ・サイシーが質問。
「その新型DG細胞って、今までのと違うの?」
「通常のDG細胞はライゾウ博士の手で治療方法が確立していますが、この新型は改良を重ねており女王感染者と呼ばれる感染者を媒体に他の感染者を意のままに洗脳出来る様に改造を加えられたそうです。」
今までのDG細胞はDG自身が他の感染者達に命令を下していたが、新型はDGではなく女王感染者が他の感染者を意のままに操れると言う厄介な改良が加えられている。
続いて、ジョルジュが質問。
「その女王感染者とは?」
「まだ調査中ですが、恐らく女王蜂と働き蜂の習性を利用したのではないかと推測されています。」
「詳しい経緯はまだ判明されていないと?」
「はい、先ほど入った情報によれば…この新型DG細胞は潜伏期間と発症期間も操作出来るようです。」
「それじゃまるで…!」
「…下手をすれば新型DG細胞による大規模パンデミックが引き起こされます。」
「…」
レインの荒げた声の後にハスミは静かに今回の危険性を告げた。
アルゴはその様子を無言のまま聞いていた。
「ただ、この新型DG細胞は旧型に感染した事がある人には効きにくいそうなのです。」
「それはこの場に居る全員が当てはまると言う事か?」
L5戦役に於いて感染経緯がある、チボデー、サイ・サイシー、ジョルジュ、アルゴ、キョウジ、ハスミ。
空白事件で感染経緯がある、ドモン、レイン。
DG細胞のアンドロイドから空白事件に於いてのGアイランドシティの一件で人の肉体を取り戻したシュバルツ。
ティアリーに関しては続けてハスミが説明した。
「ティアリー博士は初期段階ですが、防衛用のワクチンを投与済みなのでお気に為さらずに。」
「安全の為に裏方に回るんでよろしくー」
「話を戻します、その件で国際警察機構は貴方方に捜査の協力を求めています。」
「協力?」
「勿論、ファイトに専念してください。大体の事は私の方で捜査しますので。」
「だが、他のエキスパートでは捜査の手が回らないのだろう?」
「それでも誰かがやるしかないと…そう思います。」
今の所、感染経路が不明な時点で感染を気にせず捜査が行えるのは自分だけ。
ワクチンの製造は進んでいるけど、投与して完全に機能するには時間が掛かる。
もしかしたらワクチンが効かないかもしれない。
「治療方法はないのか?」
「それはまだ調査中です、私の目的は感染経路の発見と現物の発見ですので。」
「打つ手無し…か。」
「いや、一つだけある。」
「ドモン、まさか…」
「紋章の力、己の力と紋章の力である程度の発症は防げるだろう。」
ドモンは覚悟の上で答えた。
己の生命力と紋章の力で新型DG細胞を浄化する荒行。
下手をすれば自らの命も危うい。
現時点で他の方法が無い以上はその力に頼るしかない。
「次のキラルとの戦いでやってみようと思う。」
「ドモン、解っているな?」
「…覚悟は出来ている。」
シュバルツの問い掛けにドモンは迷いのない答えを告げた。
決行は明日の対戦。
そこで希望の光となるかはまだ誰にも判らない。
=続=
暴走する触銀の呪い。
対峙するGとZ。
いずれ巡り遭う運命。
この運命を変えられるのだろうか?
次回、幻影のエトランゼ・第四十四話 『闘乱《トウラン》中編』。
蒼き女神はただ見守るだけ。