何処か似ていて何処か異なる。
ただ同じである事がある。
それは人の手で操られる事だ。
前回のトルコのインジリスク基地へのテロリスト襲撃事件後。
カーウァイは引き続き新人訓練の為に同基地に滞在。
カイとテンペストはカイの新型機受領と試運転調整の為に南欧のアビアノ基地へと移動した。
そこで並行して戦技教導隊のメンバーと合流し新型機のトライアルを行う予定である。
同じ頃、北米エリアのコロラド地区にあるテスラ・ライヒ研究所である事が起こっていた。
******
テスラ研の超機人ケージの前で安西エリとソフィア・ネートの二人が話し合っていた。
「え……アースクレイドルへ戻れなくなった?」
「ええ、事後処理はミタール・ザパト博士のチームが単独で担当する事になったわ。」
気難しい表情でソフィアはエリとの会話を続けた。
「今思えば、あの後すぐに彼がこの私をテスラ・ライヒ研究所へ向かわせたのは…私をアースクレイドルから引き離す為の策だったのね。」
「やっぱりね、あの蛇ジジィ…やる事が相変わらず陰湿。」
ソフィアの会話に入って来たウィスティアリア・マーリン博士。
ミタールの事を知っているのか会話の始めから毒づいていた。
ちなみに彼女はエリとソフィアの後輩に当たる。
「ティアリー博士。」
「お久しぶりです、ソフィア先輩、エリ先輩。」
「貴方も着ていたのね。」
「ええ、私の場合はちょっと新作の製造に場所をお借りしている形ですけどね。」
「またドッキリ武装の制作かしら?」
「それもありますが…ガーバイン・クリンゲのフルメンテナンスが主です。」
「それならマオ社の方が…」
「色々とあって、あのAMはここで整備した方が良いとギリアム少佐から言われましてね。」
「あの子の機体は興味深いデータを持ち過ぎているからね、秘匿の問題もあってここで整備する事になっているんだよ。」
「と、カザハラ所長からもお墨付きを貰っています。」
世話話も程々にエリ達は話の軸を元に戻した。
「ミタール・ザパトか…噂ではツェントル・プロジェクトとやらの主幹を務めているらしいが…」
「ツェントル・プロジェクト?」
「連合軍の管轄で進められているらしいんだが、詳細は判らない。」
「あ、それ私が仕入れた情報ですと…メンテナンスフリーの自立型機動兵器の開発を行っていると聞いています。」
ティアリーの爆弾発言に驚くエリとソフィア。
「えっ!?」
「どこでそんな情報を?」
「この前にエリックのじい様にお会いした時にちょこっと。」
「もしかしてエリック・ワン博士の事?」
「はい、本当は機密事項なのですが…じい様本人から何か怪しいから内緒で伝えてくれって頼まれたんです。」
「…それでいいのかしら?」
「まあ、こっちにすれば好都合だったよ…あのプロジェクトに参加している科学者達は非EOTI機関、非DCの人間で占められてようなので伝手がなかったんだ。」
カザハラ所長はそのプロジェクトに自分の研究所の所員への引き抜きが入らず情報が手に入らなかった事を話した。
「もしかしてメンテナンスフリーの自立型機動兵器って…まさか。」
「あの蛇ジジィは恐らく第二、第三のUGの発展型を作ろうとしているのではないかと…あくまで推測ですけど。」
「待って、あの事件の件で軍は…」
「一度は手を引いた、けど…面白味があるから復活させようとしている輩が居るって事は私でも判りましたよ。」
「成程ね、アースクレイドルの一件もその為かな?」
「恐らく、ミタール博士達の狙いはフェフ博士の残した研究データ、クレイドルの中枢コンピューター・メイガスとマシンセルの回収と思われます。」
「…博士の思惑が判ったのに何も出来ないのが歯痒いわね。」
「クレイドルやツェントル・プロジェクトの件は折を見てギリアム少佐に調べて貰うよ。」
「お願いします。」
「…(やれやれ、ハスミちゃんが蛇ジジィの奴らにデータを引き抜かせない為に動いて居たのに例の連中も諦めが悪いね。」
「ソフィア…貴方はこれからどうするの?」
「手元に残っているアースクレイドル関連の資料を基にプロジェクト・アースの見直しを検討するわ。」
「確か、月にもクレイドルが一基ありましたよね?」
「ええ、あのクレイドルの為に何か役立てれば…」
「それなら引き続き、テスラ研に居て貰っても構わないよ?」
「宜しいのですか?」
「代わりと言っては何だが、今度二人で食事を…」
「………カザハラ所長。」
「所長、そんな事をしたらゼンガー少佐に斬艦刀でぶった切られますよ?」
「じょ、冗談だよ…エリ博士、ティアリー博士。」
流石親子と言うべきか、カザハラ所長のナンパ行為にエリとティアリーがしっかりと釘を刺した。
その後、ソフィアはエリから超機人の調査の話を聞きつつ彼女と共に超機人達が眠るケージへと向かった。
「…(ワンじい、ちゃんと博士達に伝えて置きましたよ……今必要な部分だけは、ね?」
ティアリーもまたハスミとの誓いを護りつつ彼女のガーバインのカスタマイズへと戻っていた。
動き出した思惑の中、不穏な空気を感じつつも何も出来ない歯痒さが博士達の心に残して…
******
そして同時刻。
極東のとある場所にて。
都内に位置する医療施設にて大規模火災が発生。
ガス爆発の可能性もあり、警察関係によって封鎖。
鎮火した医療施設からは焼け焦げ破損した遺体が数多く発見された。
数から医療施設に収容されていた入院患者と職員と確認がとれたとの事。
だが、有る筈の遺体の数が合わなかった事が次の事件を予想させた。
「ハスミ少尉、状況は?」
「少佐、先程ブレイブポリスより確認が取れました。」
私はギリアム少佐の元で『ある事件』を追っていた。
今もその事件の一環で調査を行っている。
私は調査の結果、判明した事だけを説明した。
「被害者は?」
「当日就業の病院関係者全員、当日まで入院していた患者が数名です。」
「生き残りが居るのか?」
「いえ、焼け跡から残りの死体が見つからず行方不明との事です。」
「そうか…」
「恐らく、次の事件は既に始まっているのかもしれません。」
医療施設の地下に残された不釣り合いな巨大貯水槽跡地の壁に残された穴。
それを目視した私は遅すぎたと確信した。
運び込まれた筈のボトム・ザ・ワールドでの死傷者の遺体が奪われてしまった。
リンカージェルに満たされた容器に付け込まれた遺体はいずれアニムスの花を咲かせる。
そう、地球の意思によってベストマンを倒す為。
種は撒かれ、花は咲き、花粉は飛び去り、再び種が育つ様に。
アルジャーノン化の蔓延は防げないのか?
それでも出来得る限りの事はして置こう。
「ギリアム少佐、別件で連絡が入ってしまったので少し外しますが…宜しいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。」
「申し訳ありません。」
私は離れた場所に移動し携帯端末で連絡を取る振りをして念話を行った。
(リュウセイ、聞こえる?)
『おわっ、急に連絡寄こすなよ。』
(どうせ、報告書纏めている最中でしょ?)
『まあ、そうだけよ…所で如何したんだ?』
(そろそろ例の件でラトゥーニから連絡が入るだろうから忠告して置こうと思っただけよ。)
『まさか、例のトライアルで出て来るミロンガの事か?』
(そうよ、恐らくそっちでも遭遇すると思うけど…)
『こっちはまだ出遭ってねえ、護衛任務でも預かってねえし今回もこっちで引っかからないのかもしれない。』
(成程ね…国際警察機構でもウォン重工業の裏取引で捜査をしているけど晴海の式典に間に合うか不明よ。)
『そっか…で、俺に何させようってんだ?』
(次にミロンガと遭遇したら時間を引き延ばして欲しい。)
『どういう事だ?』
(ま、色々とね……答えはその時に解るわ。)
『結局、答えないんだな。』
(例の件で例外を除いて記憶を持つ者に真実を答えられない以上はヒントだけを渡すしかないもの。)
ハスミが『私はどこまでも中途だから…』と答えるとリュウセイは『気にし過ぎだぜ、お前って本当に自分で何でも抱え込み過ぎ。』と返した。
(ありがとう、気を付けるわ。)
『ハスミ…お前も無理するなよ。』
(そっちもね。)
私はヒントだけリュウセイに伝えると念話を閉じた。
「ふぅ。」
さてと、あのミロンガを奪取して奴らのトライアルを妨害しないと。
もしも奴らが別ルートから搬入しようとしても無駄だけどね。
小父様にルート差し押さえして貰ったので搬入出来ませんぜ?
念の為にアビアノ基地周辺はこちとらで網で張らせて貰いましたし。
問題のヘルゲートにはもう『地獄』と『将軍』達を向かわせたから色々と何とかなるでしょう。
これでも何か仕掛けると言うのなら大連の工場も爆破して於きましょうかね?
まあ、その時はブル・トレロを開発している企業に出向中の…とある少佐さん達を足止めしないと。
アハハ…私は本気で怒っているのですよ。
タダでさえ色々と厄介な案件がドバドバと山積みにされているので。
どこの誰ですか?Z後日談なオーバーデビルとか復活に忍者モドキを出現させた輩は?
人が色々と手を回して置いたのに無下にしましたね。
(さてと…傀儡の回収を頼みましたよ?『男爵』と『隠者』さん?)
手間を取らせた罰として奴らに度肝を抜かせてやる。
フッフフフフ…
「…(アレは何かをしようとしているな。」
ハスミの後姿を確認したギリアムは彼女から氾濫している陰湿オーラを感じ取り、冷や汗を流した。
******
それから数時間後。
鋼龍戦隊の片割れであるハガネはアビアノ基地に搬入予定の新型機の輸送を行っていた。
艦長は副長だったテツヤ・オノデラである。
元艦長のダイテツ・ミナセは空白事件後の定期健診の結果で引っかかり療養する事となった。
本人も『ワシももう歳だろうか…』と空しく呟いていたそうな。
ハガネには配備隊としてSRXチームが同乗しており、レイオスプランに関しての説明会が始まっていた。
その直後、リュウセイはラトゥーニから連絡が入り新型トライアルの四番目の機体に関して何か知っていないかと聞かれたものの…
前世と同様に今回も情報が入ってこなかったので判らないと告げた。
その直後、戦闘配備のアラートが艦内に鳴り響いたので通信はそこまでとなった。
連合軍のマーカーを出している輸送機がAnti・DCの残党に襲撃を受けていた所だった。
先んじて出撃したリュウセイのR-1とアヤのR-3、イングラムのエクスバイン・リヴァーレ。
他はメンテナンス中だった為と空中戦だった為に待機となった。
「相手はAnti・DCの残党か?」
「情報ではそうみたいよ。」
「リュウセイ、ここは俺とアヤが引き受ける…お前は輸送機に迎え。」
「了解!」
Anti・DCのリオン部隊の攻撃を掻い潜りリュウセイは輸送機へと向かった。
だが、伏兵なのか所属不明の機体が後続で現れた事で状況は一変した。
リュウセイは輸送機への道を阻まれる事となった。
「くそっ、後もう少しだってのに!」
その時、輸送機から一体の機体が出撃した。
PTでもAMでもMSでもない別のナニカが姿を現したのだ。
VTXシリーズのゲシュタルト…名はミロンガ。
「アレは…(とうとう出て来やがったかミロンガ…!」
ミロンガは出撃後にODEシステムの前身であるAMNシステムを作動しており、到底人間業とは思えない迎撃行動を行っていた。
システムが作動した以上はパイロットの命は無いだろうとリュウセイは悟った。
そしてミロンガは周囲に展開していたAnti・DCの残党と所属不明機群の殲滅が完了すると輸送機へと帰還した。
だが、ここで運命の女神は悪しき者達に冷ややかな笑みを向けた。
突如、戦闘空域に展開された広域ジャミング。
そして現れた二機の機動兵器。
一体はMS、もう一機はこれも所属不明の見られない機体だった。
広域ジャミングによって不可解な動きを発するミロンガ。
「成程、蒼い睡蓮からの情報通り…あの機体は電子攻撃に弱い様だね。」
「男爵、俺達が援護を…」
「その必要はない、君達には撃ち落とした機体の確保を頼みたい。」
「…了解しました。」
「さあ、道化達の人形劇はここまでにしようか?」
片方のMSはビームキャノンで両腕、両脚を撃ち落とすともう一方の機体がミロンガを奪取。
そのまま戦域を離脱してしまったのである。
「あの青い機体、まさかトールギスⅡ…!?」
片方の機体形状に見覚えのあるリュウセイはコックピットの中で静かに呟いた。
戦闘後、ハガネと共にアビアノ基地に着陸した輸送機。
ウォン重工業は試験機の一機を欠いた事でトライアルへの参加が中止となった。
理由は連合軍の時期量産期に成り得る機体が敵に奪取された事と敵に情報が知れ渡った機体を量産機に回す事は出来ないと上層部で決定した為である。
そしてトライアルに参加予定だったウォン重工業は本来提出する予定の機体が完成していない事もあり参加など到底無理だと判断されてしまったのである。
これに対しマウロ准将は問題の追及をハガネに押し付けようとしたが、軍の執行委員会と国際警察機構によって彼の裏取引の情報が開示された為にマウロ准将は泥沼に堕ちる事となった。
近々ウォン重工業に国際警察機構の強制調査が入る予定である。
この結果、軍のトライアルに参加見送りだったマオ社とイスルギ重工に強制参加の白羽の矢が立った。
傀儡の事件は終息を迎えた様ではあるが闇はまだ深く根付いていた。
そして新たな火種は炎の息吹を上げようとしているのだった…
=続=
目覚めの息吹。
彼の者によって赤き炎は目覚める。
少年よ、その時は訪れた。
次回、幻影のエトランゼ・第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》前編』。
この目覚めは黒き闇が迫る前触れ。