幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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地の底で彼らは蠢く。

遺伝子に刻まれた目的の為に。

その身を刻み、自らを苗床にする為に。

古き盟約は再び始まる。


第三十九話 『覚醒《ベターマン》前編』

 

季節は再び流れ梅雨入りを始めた。

 

それと同時に奇妙な事件も始まりつつあった。

 

各地で多発するレイバー暴走事件。

 

都内で発生した失踪事件。

 

まるで解れた糸の様に。

 

それは何処かで糸巻きの様に引き寄せられる。

 

 

******

 

 

外州精機の一件後、詐欺メール配信で逮捕された女性は通信法違反と詐欺罪で逮捕される事となった。

 

事情聴取における本人からの説明によると…

 

開発部希望で夢を持って職場を探していたそうだが、何処も受け入れてくれず今の職場でもお茶くみばかりさせられていたそうだ。

 

世の中、夢だけではやっていけないと言う表れなのだろう。

 

ちなみに彼女が狙われた理由は送信メールに中二病なネーミングのデータを送付する等と記載したからである。

 

そのメールの一部に超時空転移ナンチャラ?と偶然にも記載してしまい、それが原因でモノリスモドキに狙われたのだ。

 

その女性もお金が振り込まれる事にタカが外れてしまったらしいが、やった事は犯罪なので良い薬になっただろう。

 

それからしばらくして台東区のレイバー暴走を期に都内各所で暴走レイバー事件が発生。

 

最初は土木用レイバーによる暴走、そして地球防衛軍傘下の陸上自衛隊が訓練中に無人レイバーが暴走と…

 

立て続けに発生し、原因は未だ分かっていない。

 

いや、解っていても手出しが出来ないと言うのが正しいのかもしれない。

 

 

「…」

 

 

私ことハスミは現在、伊豆基地の諜報部隊の分隊室のデスクにて報告書作成に勤しんでいた。

前回の詐欺メール事件とモーディワープ社への視察の件を纏めている。

 

モーディワープ社に関しては諜報部隊でも情報が回ってきている。

 

公式記録ではアルジャーノンと呼ばれる奇病の調査に乗り出した企業とだけ情報があるだけだが…

 

事の顛末を知っている身としてはどうにかしたいものである。

 

この視察の時はギリアム少佐と共に施設見学を行った。

 

その時にイルカの水槽でイルカの超音波の研究をしていたのを見せて貰った。

 

観察記録を録っていた研究員の一人にボソリと呟いて置いた。

 

 

『以前この水槽で泳いでいた十二匹のイルカは元気にしていますか?』

 

 

その研究員は何かに驚いていたが、私は普通にニッコリと笑みを返して置きました。

 

覚醒人の内部ユニットにイルカを使ったのはお前らだろ?と遠回しに言っただけだが…

 

流石に研究員の倫理観に触ったのか相当のダメージだったみたいだ。

 

伊達にサイコドライバーをしている訳ではないので。

 

 

「…(問題はアルジャーノン発生元が彼らと接点がある事かな。」

 

 

再び、書類整理をしながらの話に戻ろう。

 

記入処理を行いながら私は脳内でアルジャーノン事件で関わってくる一連の騒動を纏めている。

 

有限会社アカマツ工業製ニューロイド。

 

覚醒人一号、それは分析、調査を目的として製造された機体。

 

機体は兎も角、これに使用されている中枢ユニットがモーディワープ社製の物。

 

先も話した通り、この中枢ユニットには十二匹のイルカの大脳皮質が使用されている。

 

これは原作のフリーデンクルーが遭遇した白イルカ事件の『Dナビ』と同じモノである。

 

どちらもイルカが発する超音波を利用したのだろうが、イルカにとってはいい迷惑だ。

 

ちなみにモーディワープ社・フランス支部で製造されたティランはボノボ…チンパンジー十二頭分が生体ユニットとして使用されている。

 

このティラン一番機から三番機よりはマシと思いたいがどちらも命を軽んじている。

 

この一連に関してはまだ明かさない方が良いだろう。

 

問題はこのアルジャーノン騒動で暴走する超人同盟とBPLの方が厄介だ。

 

一方は超能力者の集まり、もう一方はUMAと呼ばれるバイオ生物を使役する集まりである。

 

まあ、妖機人よりはマシと思いたい。

 

ちなみに原作のきしめん騒動に出て来たメデューサと呼ばれる管虫型UMAがどうも苦手である。

 

しかも肉食で通風孔や排水溝を伝って移動するので質が悪い。

 

もし出て来たのなら対処法である実を早めに見つけておきたい。

 

アジャンター石窟に行く予定でもあれば別だが…

 

いや、そんな都合よくあの実が手に入る筈もないか。

 

 

「多くの犠牲の果てに芽吹く華は使うべきではないのかもしれない。」

 

 

所変わってギリアム少佐の執務室にて。

 

 

「ギリアム少佐、詐欺メール事件の事後報告書とモーディワープ社での視察報告書をお持ちしました。」

「ご苦労、ハスミ少尉…明日は休暇扱いで一日休んでくれ。」

「えっ…急にどうしましたか?」

「簡単に言えば根詰め…君は働き過ぎと言いたい。」

「…またテンペスト少佐に言われましたか?」

「相変わらず君が自分への加減をセーブ出来ていない…少佐からも『無理でも上官命令で休暇を取らせてくれ』とね。」

「過保護と言いたい所ですが…立て続けの捜査に資料整理に三徹明けなら仕方ありませんよね。」

「頼むからそうして欲しい、更にカーウァイ中佐にも釘を打たれているのでね。」

 

 

お義父さんは兎も角、カーウァイお義父さんの横槍は無茶振りがあるのだろう。

 

パパさん同盟の過保護加減は相変わらずです。

 

流石に例の事件から視察にアルジャーノン騒動とレイバー暴走事件の捜査で右往左往である。

 

表向きは連合軍の軍人に国際警察機構のエージェントと二束草鞋。

 

裏向きはホルトゥスのリーダーでガンエデンの巫女の仕事もこなしている状態。

 

確かに働き過ぎと言えば働き過ぎなのかもしれないけど…

 

結構栄養ドリンクで何とかなるもんですけどね、リボ様とチオさん、チョコラ女王を舐めてはいけない。

 

身体にも悪いのは間違いないので再び休暇を取る事となった私であった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃。

 

第3新東京市・第壱中学校にて。

 

一学期の中間試験を終えて一息ついた所である。

 

ちなみに午後は教師陣が会議の為に不在となる為、昼頃に生徒は解散出来る状態であった。

 

 

「じゃーん、ボトム・ザ・ワールドのプレオープン前の先行招待券。」

「どうしたんや、それ?」

「ミリタリー仲間の人が行けなくなったからって譲って貰ったのさ。」

「ボトム・ザ・ワールドって今度開園する地下遊園地だったっけ?」

「そ、丁度四枚あるし…俺達で行かない?」

「今日は訓練あらへんし、いいんやないか?」

「シンジは家の事…大丈夫か?」

「大丈夫だよ、ミサトさんは残業だしアスカも加治さんの所で泊まるって言ってたから。」

「綾波はどうするんだ?」

「彼女なら定期検査で先に帰ったよ。」

「となると、俺とトウジ、シンジにカヲルの4人か…」

 

 

閑散とした2-Aの教室でケンスケがいつものメンバーと談笑し、急遽遊園地に行く事が決定した。

 

試験中との事もありエヴァの訓練も入ってなかった為、四人は一度帰宅してからボトム・ザ・ワールドに向かった。

 

同じ頃、陣代高校にて。

 

2年B組の教室で『立てばシャクヤク座ればボタン歩けばユリの花』ではない千鳥かなめとツインテール眼鏡っ子の常盤恭子の二人が話をしていた。

 

 

「カナちゃん、今度遊園地行かない?」

「遊園地?」

「うん、ボトム・ザ・ワールドって地下遊園地なんだけと?」

「今度、オープン予定の遊園地か…いいよね。」

「私とカナちゃんと他に誘って中間試験明けにどうかなって?」

「となると詩織に小野D、風間君…あとは宗介か。」

「相良君、カナちゃんが行くって言ったら絶対行くよね?」

「肯定だ、地下遊園地となれば何が起こってもおかしくない。」

「だ・か・ら、そう言う考えを捨てなさいって言ってんの!」

 

 

本日も鋭いハリセンの音が教室内に響くのであった。

 

同じく隣の2年C組では…

 

 

「今、すっげーいい響きのハリセンが鳴ったな。」

「またB組の相良が怒らせたんだろ?」

「そんなに有名?」

「有名も何もB組の相良宗介って言えば戦場帰りのミリタリーマニアって呼ばれる問題児だぜ?」

「そーそーこの前なんて後輩のラブレターに気が付かずに下駄箱を爆破した…だもんな。」

「それってヤバくねえか?」

 

 

先の戦いで各所の校舎が破壊された事で学生間の疎開状態が発生。

 

この陣代高校は破壊を免れたので疎開状態となった学生の受け入れを行っている。

 

カモメ第二高校から疎開してきた蒼斧蛍汰もまたその一人である。

 

今は陣代高校の生徒らと慣れ親しんでいる。

 

 

「宗介って奴もミリタリー好きなら俺も話してみたいかも…」

 

 

この時、蛍汰は知らないだろう。

 

そう遠くない未来で彼と遭遇するのだから…

 

彼自身の未来を変える事となった地、ボトム・ザ・ワールドで。

 

 

=続=




それは闇に潜み、襲い掛かってくる。

しかし、その悪意は偶然と言う遭遇で一網打尽とされる。

次回、幻影のエトランゼ・第三十九話 『覚醒《ベターマン》後編』。

共鳴の響きは滅びの音色の序曲。

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