幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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縁は繋がる。

エニシはツナガル。

そう、その時は来た。


縁の付箋

空白事件の後、梁山泊での暴露をした後の事。

 

私はギリアム少佐率いる諜報部隊へ転属の前に外出届を出して墓参りをしていた。

 

申請受理されたその日が母の命日だったからだ。

 

私の誕生日の一週間前の日に母は事故死した。

 

加害者は轢き逃げで逃走、母は私を庇って亡くなった。

 

一瞬だったが憶えているのは血走った加害者の眼。

 

母はその時、体調を崩していた時期で力が使えなかった。

 

間の悪い事に父はその場にいなかった。

 

この父は本物ではなく光龍の影武者の役割を持っていた地機仙だったとの事。

 

護衛として母を守り切れなかった為に処分されたと後で聞かされた。

 

今思い返せば、あの惨劇は仕組まれたものだったのかもしれない。

 

加害者の血走った眼…恐らくは『血塗られた眼』だろう。

 

当時、こちら側の世界に潜入していたクロノは下の下の構成員。

 

何事もなければ監視程度に留めていた?

 

もしかして…奴らがガンエデンの存在を知ってしまったから?

 

だから母は亡き者にされた?

 

…もう少し冷静に調べる必要があると思った。

 

で、その結果がこれだった訳だ。

 

 

******

 

 

「つまり、母が引き起こした『約定事件』はクロノの監視の眼を国際警察機構とBF団、父さんから遠ざける為にやった一芝居って事だったのです。」

 

「「…」」

 

「その結果、母は亡くなりましたが…」

「…ハスミ。」

 

 

伊豆の一角にある集団墓地。

 

その奥にある墓石に新しく活けられた仏花の白百合の花と線香。

 

その前で合掌する私ことハスミ、テンペスト少佐、カーウァイ中佐、孫光龍。

 

私達は軍服だったが、光龍に関しては珍しく黒の喪服だった。

 

恐らくは母の為だろう。

 

 

「紹介が遅れてしまいましたが、こちらが私の血縁上の父親の孫光龍です。」

「始めまして。」

 

「「…」」

 

「この人が父親と知ったのはつい最近です、それまでは危険人物と認識していたので…」

「今もそう見えるかい?」

「………………………微妙ですね。」

「あらら。」

「それでも、母を愛してくれたのは間違いないのですよね?」

「そうだね。」

 

 

親が子を見る眼。

 

その視線で二人が親子なのだなと改めて認識する義父二人。

 

光龍はこれまでの礼を二人に伝えた。

 

 

「僕から礼を言わせて欲しい、この子を育ててくれてありがとう。」

「いや、事情があったとは言え義娘を持てた事を感謝している。」

「これからも家族の付き合いが出来れば、僕も安心出来る。」

「どういう事だ?」

「先もハスミが話していたと思うが、クロノの活動が活発になり始めている。」

「…」

「恐らく、何かしらの行動を起こしてくるだろう。」

 

 

遠回しに言えば、奴らが身近な人物を標的にする時が迫っているとの事。

 

 

「ハスミが常に奴らの魔の手が掛からない様に見守っているが限度がある。」

 

 

光龍はハスミの肩に手を添えて答えた。

 

 

「これからもこの子が無茶をしない様に支えて欲しい、同じ父親として。」

「…光龍。」

「僕自身も過去にやった事の後始末を終わらせた訳じゃない、きっと何かの縁でこちらに振ってくる可能性がある。」

 

 

そう、僕自身がバラルを離れた事で奴らが暴走しないと言う保証はない。

 

特に地機仙の連中と夏喃はね。

 

僕以上に総人尸解計画に固執している以上、もう僕の手には負えない。

 

バラルから出る時に泰北に押し付けてきたけど、今思えば悪い事したなぁ。

 

 

「僕も出来る限りこの子を支えていくつもりだ。」

「孫光龍、その言葉…信じてもいいのだな?」

「最愛の妻と娘の前で嘘は付けないよ、そんな事をしたら僕がレンゲにあの世ではっ倒されるよ。」

「…(尻に敷かれていたのだな。」

「…(ハスミの性格は母親譲りだったか。」

 

 

光龍の発言に同情の目と内心で納得した表情をした義父二名。

 

 

「えっと…この話の続きはいずれしましょう、今は防ぐべき事件を追わなければならないので。」

「そう言う事で今後とも宜しく。」

 

 

この日、父親同士の縁は繋がった。

 

それは来たるべき日への布石。

 

 

=続=




=オマケ・発覚の理由=


「所でハスミ、僕が父親だって如何して判ったんだい?」
「この前、応龍皇が教えてくれました。」
「…は?」
「良かったですね、応龍皇に好かれていて。」
「そうだね…(お節介なのは相変わらずか。」


光龍の脳裏に後光を出しながら応龍皇が爪で器用にGJしている姿が想像された。


「まあ、それが無くても貴方が父親だって何となく解りましたけどね。」
「…と言うと?」
「父さんの思念から察しました、最初は動揺しましたけどね。」
「僕、そんなに変な念を出していたかな?」
「それは秘密です。」


言えるわけがない。

レムレースの奇襲で負傷した私を助けようと必死になってくれた時に漏らした言葉を聞いていたなんてね。

それにV.Bの転生者の一人が母さんだった事にも驚いている。

お父さんは別れる最中にV.Bから本人の魂の欠片を貰った。

それが原因でV.Bの魂は欠片となって複数のV.Bの生まれ変わりが世に出る様になった。

その中でもV.Bの特徴を多く受け継いだのが母さんだった。

魂の欠片を持っていた父さんは母さんが生まれ変わりだって気が付く事が出来た。

だからこそV.Bは魂の欠片を父さんに残したんだって思える。

自分は消えるけど何時か出会える様にと…

気の長い話だけどロマンチックと思えてしまう。

私もそう言う恋をしてみたいと思ったけど、それは出来なさそう。

私は既に仕えるべき相手の片腕になる事を契ってしまったのだから…


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