白い堕天使。
祈りを込めて。
紅の呪縛を巨腕の鉄杭にて穿て。
アースティアの悪意を吸収したデボネアを倒し、アースティアから転移した人々から英雄視されるエオニア一行。
その凱旋を他所に私達は次なる戦いの場へ向かわなければならなかった。
私ことハスミ、ロサ、テンペスト少佐はインスペクターに奪取されたジェネシス奪還作戦に向かったノードゥスと合流。
勇者特急隊と魔法騎士達、エオニア一行は木星へ向かったGGGとVARSの連合と合流。
エオニア一行よりエルドランチームは地球防衛軍の要請で月にてガルファの中継基地となっている螺旋城、ラダム、イバリューダーの巴戦が発生している戦場へ向かう事が決定した。
セフィーロの防衛は引き続きアースティアのレジスタンス連合と休戦しているマーダル軍が引き受けてくれる事となった。
倒すべき敵の大半が居なくなったもののいつ何が起こるか判らないからだ。
これは同意せざるを得ない。
インスペクターの先遣部隊の親玉に寄生したアインストの事もあるのでこちらとしては内心有難い。
場合によっては地球各所でアインストが襲撃を始める可能性も捨てきれない。
結果、木星と月行きはエメロード姫の力で転移するとの事でセフィーロ城でそのまま待機。
私達三人はラングレー基地とテスラ研経由で移動していたシロガネと合流しそれぞれの戦場へと向かった。
******
宇宙へ上がった私達。
シロガネにはラングレー基地で増員した部隊とテスラ研で待機していた戦闘人員と合流している。
ラングレー基地からは行方不明だったリュウセイとマサキ、アクセル中尉。
そして謹慎処分中だったイングラム少佐もといイングラム大尉が乗艦。
少佐が大尉なのは前回の戦いに置ける降格と長期謹慎からの処分を受けたからである。
リュウセイ、マサキ、アクセル中尉はラングレー基地へ救助され機体の修復とイングラム大尉との合流を待っていたらしい。
私は彼らが行方不明になった前に行方不明になってしまっていたので久しぶりの再会である。
マサキから『幽霊か?』と言われたので『私が幽霊なら貴方は数回遭難の末に餓死してるわよ。』と遠回しの小言を含ませて置いた。
ちゃんとクロとシロに『余計に返されてるニャ。』と『図星突かれてるニャ。』と突っ込まれているよ。
後でクロとシロのペアには嫌われない程度にモフモフさせて貰った。
気になるイングラム大尉の乗機はエクスバイン・リヴァーレ。
L5戦役で大破したR-GUNリヴァーレを回収しそのパーツを受け継いだ機体である。
これも驚いているが他にも驚いている事がある。
正式名称は明かされていないが、あのFDXチームも乗艦していた。
理由は彼らの機体を搭載したPTキャリア・クレーエがシロガネに搬入されていた為である。
恐らくはインスペクターの兵器回収若しくは鹵獲の為に派遣されたのだろう。
ホワイトスター戦で彼らの中から戦死者が出る為、こちらもマークして置く必要がある。
テスラ研からはあのウォーダンさん、レモンさん、リシュウ博士が合流する事となった。
レモンさんの護衛であるエキドナさんも一緒である。
ちなみに乗機であるが、レモンさんはヴァイスセイヴァー、エキドナさんはアンジェルグ・ノワールである。
ウォーダンさんは黒い参式、リシュウ博士は零式。
スレードはマシンセルの不具合で稼働不可なので斬艦刀のみ引継いで参式にて参戦した形である。
そして…
「お義父さん!どうしてここに?」
「久しぶりだな、ハスミ。」
シロガネにカーウァイお義父さんが乗艦していたのである。
話に寄ると治療の方は一区切りついたらしいが…
「JUDA系列の医療施設で治療中だった筈じゃ?」
「リハビリも一通り済んでいる、安心していい。」
続けてカーウァイは今回の乗艦の件について話し始めた。
「上の方で良からぬことが起きているらしい、そこで私にも白羽の矢が立った訳だ。」
「ジェネシス奪還作戦に何か?」
「いや、ホワイトスターの方でだ。」
「…情報ではそちらもインスペクターに掌握されたと聞いています。」
「ああ、どうやらお前が予想していた通りの事が起こる可能性が出て来た。」
私はその言葉で眉を潜めた。
そしてカーウァイお義父さんは耳打ちで私に伝えた。
(地球と太陽系各所での庭師達の配置が終わっている、後はお前の合図で動く手筈だ。)
(…判りました。)
私はお義父さんとのヒソヒソ話を終わらせた後、次の合流まで自室で待機する事にした。
ちなみにお義父さんの階級は中佐、イングラム大尉と同じく降格処分を受けたとの事だ。
合流先でも別行動になる為、必要な話だけをしてその後は別れた。
二度目のホワイトスター攻略の為にイングラム大尉とお義父さんの…ガルインの記憶が必要なのだろう。
念の為説明するが二人のお義父さんには例の事を話してはいない。
深入りする事は余計な悪意を引き寄せやすい。
二人には私がホルトゥスのエージェントをしている形で取り繕っている。
実はリーダーでしたと話せればいいが、それはまだ出来ない。
カーウァイお義父さんと別れた後…
もう一人の人物と私は再会する事となった。
「キョウスケ中尉。」
「ハスミ、無事だったか…」
「はい。」
あの第四エリアでの襲撃の後、宇宙に放り出された所を航行中だったロンド・ベル隊に救助され月のマオ社で機体修復後に北米のラングレー基地へ移動していたとの事だ。
「あの…エクセレン少尉は?」
「アイツはアインストに連れ攫われた。」
「…!?」
「既に何度か交戦している。」
「やはり、こちら側のアインストにも例のアインストと同じ特性が?」
「…そう言う事だ。」
流れのままにエクセレン少尉のアインスト化は止める事が叶わなかった。
それでもこの戦いは必要な事なのかもしれない。
私は何も言えず口を紡いだ。
「…万丈からお前の事情は聞いている。」
「…」
「無茶だけはするな、お前もまた戦うべき相手を追う為に戦っているのだろう?」
「はい。」
「次の戦いは激戦になる、どちらかになるかは判らないが…頼んだぞ?」
「了解です。」
私は次の作戦会議が始まるまでの間、キョウスケ中尉と行方不明の間の出来事を話した。
次のホワイトスターでの戦いはどちらかになるか判らない。
それは決着は白き魔星か蒼き孤狼なのかを意味している。
最悪の場合、あの戦いはゲストを加えてより苛烈になるだろう。
私はそれを恐ろしく感じてた。
「ハスミ!」
「ロサ、どうしたの?」
慌てた様子でこちらへ向かって来たロサ。
「フィフス・ルナが消えちゃったって!」
「!?」
「何だと…!」
「どういう事なの…?」
「それがアクシズの人達が衛星を警護して居たら黒のカリスマが突然現れてフィフス・ルナを奪取されたって…」
「奴か…!」
「…これは良からぬ事の前触れでしょうね。」
「ああ、奴だけは捨て置けん。」
私は残していた戦いの荒波を…
あの黒き道化との戦いを呼ぶ最終決戦の光景を今更になって思い出したのだ。
(迂闊だった。この世界ではユニウスセブンが健在している…だからフィフス・ルナがその代用にされたのか。)
Zの流れでは過去の世界樹攻防戦においてユニウスセブンは崩壊し数多くの死傷者を生み出した事件になっている。
そしてそこで家族を失った一部のザフト兵がテロを起こし地球にユニウスセブンを落下させると言う暴挙に出たのだ。
それも一つの切っ掛けでそれぞれの世界で起こった事件が連結し次元震が発生してしまうと言う結末を迎えた。
こちら側の世界では血のバレンタインは防がれユニウスセブンは健在しオーブ本土襲撃は免れている。
いずれネオ・ジオンによって落とされる予定だったフィフス・ルナにその白羽の矢が立ったのだろう。
セフィーロの激戦中に宇宙でラウ・ル・クルーゼが戦死しジェネシスが流れ通りに破壊された…
これで手打ち、こちらから手は出さないのだからまだマシだろうと思わせたいのか…無限力。
「キョウスケ中尉、私はこの答えに関してここで答える事は出来ません。」
「解っている。」
「この答えを知る者はその渦中に居た人達が握っています。」
そう、Zの流れでジ・エーデル・ベルナルを倒した者達がその答えを知る。
少々流れが異なってしまったが、恐らく気が付いてくれるだろう。
「ハスミ、お前はどこまでこの戦いを知る?」
「私は結末に至る流れから異なる流れを読み取りそれを伝えるだけです。」
「…(前に話していた変化の可能性による異なる事象の訪れの件か。」
「私はここに居る事を許されました、だからこそ手を取り合った未来を見たいのです。」
それぞれが違う正義を持ち合わせている。
常に重ね合う事はないだろう。
それでも重ね合わせた未来を取り合った未来を手に入れたい。
新しい可能性と未来が待つ世界へ歩みたい。
******
そしてまた奇跡を起こせた。
可能性を信じ希望を捨てなければ…
「エクセレン!」
「…」
アインストの罠によって戦艦から出撃不能となったノードゥス。
シロガネはその渦中に突撃した。
「どうして…ワタシはただ…」
「エクセレンは返して貰うぞ…!」
ライン・ヴァイスリッターの頭部の宝珠をアルトアイゼン・リーゼが貫いたのだ。
そして一瞬の刹那。
キョウスケは己の影を垣間見た。
蒼き孤狼とその影達を。
「過去が未来に勝てると思うのはここまでだ。」
「…(ああ、決着を付けよう。」
白き魔星。
そこが貴様の墓標だ!
=続=
再び始まる白き魔星での対決。
次回、幻影のエトランゼ・第三十五話 『来星《ライセイ》前編』。
古の孤狼はその眼で何を見る。