幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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目指すは魔物に囚われし美しき島国。

そして再会する為に睡蓮は更なる戦略を立てる。

それは強大な力と共に彼らを護る影と成り果てようとも…




第二十六話 『共闘《キョウトウ》前編』

私が孫光龍に救助されてから更に一週間近くが経過した。

 

前回の戦闘で負傷した傷も徐々に癒えている。

 

どうやら彼ら特有の技術の御蔭らしい。

 

流石は仙人様と言った所だろうか?

 

 

******

 

 

「ここまでしてやられるとは…!」

「スクリーンのメディアに向かって悪態付いてどうしたんだい?」

 

 

彼のプライベートビーチに設置された豪邸レベルのセーフハウス。

 

そのリビングに備え付けられた液晶画面を見ながら私は苛立ちを見せていた。

 

若干動ける様にはなったが、まだまだ全快とは言えない。

 

代わる代わる変異とそれに対応出来ない自分に対しての苛立ちもあるが…

 

それに拍車を掛けているのが現在速報されている内容についてである。

 

画面下の見出しには『エーデル・ベルナル准将、大統領主任決定』と映し出されている。

 

これに関してはアカシックレコードで調べた結果、地球政府内部で大規模なクーデターが起こってしまっていた。

 

シャドウミラーの瓦解によってあのナマズ髭が奴らと手を組んでいた事が露見し、更にオペレーション・ハルパーと呼ばれる軍事クーデターを起こす準備をしていた事もナマズ髭を追い詰める結果となった。

 

本来なら封印戦争時に奴を追い込む筈だったが、エーデル・ベルナル准将指揮下のカイメラ隊と呼ばれる特殊部隊によってそれは水の泡となった。

 

言い方を変えれば手柄を横取りされたと言ってもいい。

 

今回の大地震の混乱を利用して起こされた為に未然に防ぐ事が出来なかった。

 

ホルトゥスのメンバーも各地に潜伏させている為に大規模な大隊活動が困難になってしまっている。

 

本隊との連絡が取れれば良かったのだが、黒のカリスマが出現した事によりそれも出来なくなった。

 

地球圏で普及されている通信手段がUNに関連する商品に置き換わっており、下手に連絡を取る事が出来ない。

 

原作を知る人達にはご理解して貰えるだろうが、UNを管理しているのはエーデル・ベルナル率いるカイメラ隊だ。

 

つまり連絡手段が限られてしまったのだ。

 

そして大地震によるエリア分断のせいで通信手段が制限されてしまっている。

 

注意していたとは言え、こんな状況でホルトゥスを動かす事が出来ない自分が歯痒い。

 

早急に第四エリアを解放しないとホルトゥスを動かす事が出来ないし彼らの身に危険が迫る。

 

最悪の展開が続く中で私は彼に話を戻した。

 

 

「新しく大統領になった女性…どう思いますか?」

「エーデル・ベルナルか…僕も噂程度に聞いた事があるよ、何でも『聖母』と言われている人物じゃないか。」

「聖母?聖母どころかどこぞの女狐以上に凶悪な性格の持ち主ですよ…それも何重にも重ねた厚化粧を塗りたくった顔のね。」

「随分と悪辣な解説だね。」

「これも私や隊長達を襲った奴の仕込みと思えば虫唾が走りますよ。」

「余り怒ると傷に触るよ、いくら僕らの技術で治したと言っても普通なら今でもベッドの上だからね。」

「…」

「君の怒り具合から察するにその黒のカリスマが本格的に行動を開始したと見ても?」

「ごもっともで、御蔭様でSNSでも大混乱ですよ。」

 

 

前回、レムレースの攻撃により大破したガーリオンカスタム・タイプT。

 

そのコックピットの中で無事に残っていたスーツケースから持ってきたタブレットを光龍に見せた。

 

画面に映し出されていたのは例のSNSで黒のカリスマによって書かれた文章やそれを真似る愉快犯や模倣犯の仕業のも紛れており痛い文字の羅列が続いている。

 

 

「見るに耐えない内容だね、何だいこの阿保共のお遊びは…?」

「この一連の流れも黒のカリスマの仕込みです。」

「見る限り、面白半分で奴はこんな下らない事をしているのかい?」

「ご名答です。」

「…黒のカリスマの出現に伴うSNSの炎上、模倣犯や愉快犯の出現、そしてエーデル・ベルナルの大統領就任で地球政府は更に荒れるだろうね。」

「ええ、御蔭様で私は彼らの元に戻る事が困難になりました。」

「戻らないのかい?」

「このまま混乱が進めば、黒のカリスマは自己快楽の為に更なる混乱を求めて一大イベントを行う筈です。」

「一大イベント?」

「例えばノードゥスの部隊同士の潰し合いです。」

「!?」

 

 

これが実行されれば、私達を目の敵にしている内外の敵勢力の反攻が行われるだろう。

 

この同士討ちだけはどんな事があっても阻止しなければならない。

 

ホルトゥスを動かそうにも内外の敵勢力を止める為に行動して貰っているので人手不足だ。

 

私は解決出来ない事案を一度引っ込めると話の続きを始めた。

 

 

「現在のノードゥスは今回の事態収拾の為に部隊を分散させて事に当たっています。」

「確か…例の魔族の襲撃で部隊がバラバラになっていたんだったね。」

「はい、奴が潰し合いを行う手順にはまず…地球断絶現象に伴う通信障害、そしてノードゥスのエリア解放の武勲、この二つがピースです。」

「…」

「そしてあの女狐が准将時代に築き上げたUNと呼ばれる通信機構、これを先程のピースに合わせるとどうなりますか?」

「ああ、成程…つまりUNで集めた情報を元に虚偽の報道を造り出して彼らの部隊に別々の内容を流すって訳かな?」

「その通りです、まともな人なら偽物であると気が付いてくれると思いますが…その都度、新参者や血の気の多い人が居るのもノードゥスなので何処かで衝突になる可能性が出て来ると思います。」

「だから潰し合いがしやすい訳か…奴の性格ならその後のイベントも残していそうだね。」

「恐らくは…(当然、特大級の凶悪な大イベントを仕掛けて来る。」

「君はそれを止めたいのだろう?」

「その通りです。」

 

 

正直な話、記憶持つ彼らなら止める為に動いてくれるだろうが、それをさせない為に既に内部へ毒が仕込まれているだろう。

 

問題はその毒がどう作用するかだな。

 

例のシナリオでは二分した部隊を引き合わせて『正義』と言う名の元にそれぞれの『正義』をぶつけ合った。

 

そして相寄れない者達が居た事もその衝突に拍車を掛けた。

 

視野が狭くなった彼らがどう出るかで私は今後も単独で動くつもりだ。

 

 

「成程、それで自らの行方不明若しくは戦死した状況を利用するという訳だね?」

「ええ、要は道化と言った所です。」

「それはいいとして、君…乗っていた機体が動けない事を分かってやってる?」

「勿論です、代用パーツや部品が無い以上は機体の修理は不可能…なので隠し玉の裏技を使います。」

「おやおや、随分と引き出しを持っているんだね。」

「女性は秘密で美しく着飾るものです。」

「…そう言う事にして置くよ。」

 

 

あ、そうだ。

 

アレの事も一応聞いて置くか…

 

 

「一応聞いておきますが、貴方がバラルを裏切ったとなれば『四凶』や『四罪』が動くと言う事は?」

「前者はあると言いたい、後者は旧西暦の戦いで消失したし使えない駒を彼らが復活させる事もないだろうね。」

「…」

「他の神仙達が動けない以上、本格的な行動はしてこないよ。」

「傍観ですか?」

「そうだよ、元々バラルはノードゥスに眼を掛けていたからね。」

「かつての様に自らの剣にする為に?」

「ま、彼らが早々に下る事はないと思うけど…」

「要は品定めという訳ですか。」

「かもね、それにバラルを裏切る僕には関係ないし。」

「…(本心か?それとも白を切るか?」

「君に信用して貰う証として僕も前線に出るよ。」

「!?」

「僕が君の戦う力と成れば信用してくれるかい?」

「…解りました、次の戦いでその手を貸して貰います。」

「ん、とっておきの舞台でもあるのかな?」

「ええ、少なくともあの戦場ならば貴方が多少暴れても彼らへの被害が少ないでしょうから。」

「もしかして『限仙境』の事を言っているのかな?」

「手を貸すのならその位どうって事も無いでしょう?」

「ハハッ、これは手厳しいね。(もしかして僕、マズイ籤を引いたかな?」

「では、作戦会議と行きましょうか?」

「お手柔らかに。(期待しているよ、僕の新たなガンエデンの巫女様。」

 

 

動けない今、出来得る限りの戦略を立てて置く。

 

次の再戦までに絶対の勝利を掴むために。

 

 

******

 

 

更に一週間が経過。

 

オーブに滞在中のノードゥスは前回行方不明となったATXチームの三名のMIA認定を決定し次の作戦に移る事となった。

 

まずはAnti・DC残党によって占拠されているリクセント公国の解放。

 

この件に関してはヒリュウ改とハガネの二艦で行う事になった。

 

理由はオーブ内にミスリルが追っているテロリスト集団が潜入していた事が判明した為である。

 

何度か戦闘となり、その多くが拿捕されたが…

 

幹部クラスは行方を眩ませてしまい、魔族の襲撃の事もありオーブの守りを手薄に出来ないと判断した為である。

 

その為、アークエンジェルと箱舟の二艦がこちらで待機と言う形となったのである。

 

所が…

 

待機中だったノードゥスの各戦艦に一通の電子メールが送信されてきた。

 

開封するとSOUND・ONLYの表示のメールから流麗な口調の男性の声が響いた。

 

 

『急な連絡で申し訳ない、私の名は『男爵(バロン)』…ホルトゥスのエージェントをしている者だ。』

 

 

一度再生すると機密保持の為にメールが消去されるでそのまま聞いて欲しいと付け加えていた。

 

 

『君達に残念な知らせがある、現在…君達が奪還を試みているリクセント公国は魔族の根城と化している。』

 

 

男爵の情報提供により、リクセント公国が激流のシードの根城と化していた事が判明した。

 

証拠としてリクセント公国近隣の海域と公国内部の様子が映し出された映像が添付されていた。

 

 

『我々はホルトゥスの当主より貴君らに助力する様に命令を受けている、共闘を受け入れて貰えないだろうか?』

 

 

最後に指定時間と座標ポイントを伝えるとメールは自動的に消去された。

 

メール内容のコピーを取った艦長達は待機中の各部隊を呼び寄せ、緊急会議を行った。

 

メール内容とホルトゥスのエージェントからの共闘依頼について話し合った。

 

部隊を動かすには危険と判断し少数精鋭のみで出撃し指定ポイントに向かう事が決定した。

 

判断はアクセル中尉とギリアム少佐の手に委ねられる事になる。

 

 

******

 

同時刻。

 

男爵が指定したポイントにて。

 

とある無人島の浜辺て仮面を付けた男性と部下の青年が話を続けていた。

 

仮面の男性は舞踏会で付ける様な蒼いアイマスクと青を基調とした軍服を纏っている。

 

 

「さて、彼らがここに訪れるまで時間を潰すとしよう。」

「男爵様、彼らは受け入れて下さるでしょうか?」

「安心したまえ。」

 

 

部下の不安を無くす様に男爵は仮面越しではあるが自信満々の笑みで返した。

 

 

「彼らなら必ず受け入れてくれるさ。」

 

 

そう、今回の戦いは私の罪滅ぼしでもある。

 

これは敗者と化した私が仮面を付けてまでもやり遂げなければならない。

 

風となった友よ、こんな無様な私を笑ってくれ。

 

私は二度と俗世に戻る事が出来なくてもそれを選んだ。

 

この戦いも当主が私に示してくれた償いの機会なのだから。

 

 

「そして…いずれ起こる円舞曲の演奏が始まる前に私は止めなければならない。」

 

 

=続=

 




仮面の男、男爵。

彼が率いる部隊との共闘。

そして美しき島を奪還する為に手を取り合う。


次回、幻影のエトランゼ・第二十六話 『共闘《キョウトウ》中編』。


動き出す様々な思惑。

それは一つに繋がる。


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