幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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次の戦場へ向かう前。

睡蓮は今は亡き家族への祈りを捧げる。

己のルーツを紐解く為に。

そして新たな思惑が巡るのだった。


閑話・壱 『紐解《ヒモトキ》』

アイドネウス島へ出発する前日の早朝。

 

私は今後こちらへ戻れる時期が分からないので少し早い墓参りに向かった。

 

伊豆内陸の郊外に位置するこの世界での私の実家。

 

かなり古いお屋敷であるが使い勝手はいい。

 

祖父母が無くなる少しの間だけ住んでいた。

 

今は近所に住む三人姉妹のお姉さん一家にお願いしてもらっている。

 

私の実家から何かと便宜を図って貰っており、その縁からだそうだ。

 

我が家の墓標は伊豆の海が見渡せる山沿いの丘にあり、数多くの墓石が立つ中でひっそりとそこに立っていた。

 

祖父母が墓石を豪華にしたがらない謙虚性もあった為だ。

 

ご丁寧に家族一緒に遺骨が収められる日本式である。

 

しかし血縁上の父の遺骨は入っていない。

 

理由とすれば生前に母方の祖父母から絶縁をされてしまった事と遺伝上の父親の遺骨が発見されなかった事である。

 

事件発覚後に崖からの転落自殺をしたのだ。

 

死体は海に流れてしまい、発見されていない。

 

見つかったとしても無縁仏として葬られるだろう。

 

 

 

*****

 

 

 

「御爺様、御婆様、母さん、私…軍人になりました。」

 

 

墓石の周囲を掃除し打ち水とお供えの花束を供え終えると私はお線香を添えた。

 

そして合掌を捧げた。

 

 

「私がいずれ戦場に出るのは運命だったのかもしれません。」

 

「それが九浄家の使命ならば、私もそれに従います。」

 

「だから見守ってください、お義父さんと共に行ってきます。」

 

 

合掌を終えると私は打ち水用の桶を持って実家の墓を後にしようとした。

 

するとどこかで見慣れた姿をした男性がお供えの花束を携えて実家の墓へ向かって来ていた。

 

 

「失礼、ここに九浄家の墓があると伺ったのでお参りに来たのだが…」

「家の墓にですか…でしたらこの先の墓がそうですが?」

「君はもしや…九浄家のご息女のハスミ嬢かな?」

「はい、そうですが……貴方は一体?」

「これは失礼、私はこう言うものです。」

 

 

男性に渡された名刺を見遣ると少し驚いた表情のまねをした。

 

 

「ああ…あの、一介の大企業の社長様が何故私の家に?」

「君のお爺様には多大な恩義があってね、御葬式の際にも顔を出させて貰った事もあるのだが?」

「そうでしたか、この度のご足労ありがとうございます。」

「それはこちらの台詞だよ、亡くなられた事を惜しむ者達も多く居たものだ。」

 

 

 

あえて言おう。

 

何で貴方が出てくるの!?

 

時系列ならもうちょっと先でしょうに!

 

幻惑のセルバンデスさん。

 

何かジャイアントロボルート進んでいませんか?

 

このままだとバラルの園とバベルの塔でダブル頂上決戦の結末しか見えてきません。

 

いやー!!

 

 

 

「ハスミ君、宜しければお時間はあるかね?」

「あ…あの少しならあります。(逃げたいでござる、逃げたいでござるです!」

 

 

 

そのままの流れで私はセルバンデスと共に再び墓参りをした。

 

それでも危機を脱した訳ではない。

 

いくら私がサイコドライバーでもこの状況は拙いでしょう!

 

無数の未来予知でも判ります。

 

下手打つとここで死亡フラグ真っ逆さまだよ。

 

アカシックで調べたら『舞台演劇』使えるってどんだけーですか!?

 

てか、あれは漫画版でしょ!?

 

そもそも私の正体は横浜での変態忍者のせいでバレてるし!

 

てか、名前言っちゃった私もどうかしてるよ!

 

ヤバい、積んでます!

 

そんな私が脳内で一人暴走をしているとスマホの音が響いた。

 

互いにスマホを取り出すと音の主は私ではなかった。

 

 

 

「…お仕事ですか?」

「ああ、重要な案件でね。」

「ご苦労様です。(お願いですから、このまま静かにお帰りください。」

 

 

 

墓参り後、何とか私は危機を脱した。

 

本当に心臓に悪いです。

 

私はその足で実家の屋敷を訪れて亡き御爺様より託された手記を手にした。

 

それによると我が家系は過去にとんでもない事をしでかしていたらしい。

 

箇条書きするとこうである。

 

 

 

 

※古より続く守人の家系。

 

※記述によると機械仕掛けの翼を持った女神、大いなる意思と接触している。

 

※人類が宇宙に進出する遥か過去に異星人と度々接触していたらしい。

 

※代々女傑当主によって繁栄、男尊女卑が激しい時代は男装の麗人など。

 

※表は男性当主、真の当主は女性となっている。

 

※明治22年頃日本海溝付近にて謎の船舶が沈没する様子を黙視。

 

※その後発生した大戦中に先祖が超機人に接触し搭乗者をしていた。

 

※その後の戦いでオーダーと共にバラルと接触、後に壊滅に追い込んだ。

 

※上記の功績により西暦時代まで日本政府より影の守護を任命される。

 

※メテオ3による西暦時代崩壊後、日本政府より守護を解任、別の道を模索。

 

※地球連邦軍設立を機に一族の一部が入隊、影より軍内部の安定を図る。

 

※数十年前、国際警察機構とBF団との戦いに第三者として乱入し現当主がある約定を定める。

 

※上記の戦いで詩篇刀・御伽が破損の為、地下倉庫に安置したものの喪失。

 

※15年前、次代当主誕生、同時に現当主の身体並びに能力の弱体化。

 

※10年前、現当主事故により死亡。

 

※半年後、当主暗殺を謀った婿養子の後妻一族を社会的抹殺、婿養子縁切り、罪無き赤子は里子に。

 

※三ヵ月後、先代当主死亡。

 

 

 

そこから途切れており、ささっと流し読みをした結果がこれである。

 

但し、この手記はかなりの厚みを持っているので他にもやらかした事は多そうである。

 

んで。

 

ご先祖様、一体何やらかしてくれちゃってるんですか!

 

母さん、国際警察機構とBF団に喧嘩を売るなんて貴方どんだけ強者なのですか!?

 

て、言うかあの凶悪レベルの人外と戦ったのですか貴方は!!?

 

今初めて判明、過去の御爺様と母さんは人外クラスの狂人ですた(泣。

 

詩篇刀・御伽の件は交差する世界か無限の開拓地に行ってこいと言うフラグにしか思えない!!!

 

絶対に動く死体と巨大トカゲとバトりたくないです!

 

後、生身でカタパルトから射出されるのも絶対に嫌でござる!!

 

一通り某漂流者なギャク暴走した私は落ち着きを取り戻した後、屋敷を後にした。

 

驚愕の事実を知ってしまった以上、やるべき事が増えてしまったのは事実だ。

 

よし、駄菓子屋に寄って英気を養おう。

 

あーしばらくはBF団に襲撃されない事を祈りたいね。

 

本当に。

 

 

******

 

 

とある南の島にて。

 

 

「厄介な事をしてくれましたね。」

「…」

 

 

何処かのリゾートを思わせるプールサイドにて南国の気候であるにも関わらず白いスーツを着こなす男性がビーチベッドに寝そべっていた。

 

 

「何を言いだすと思えば、貴様こそ隠し事とは…どういうつもりだ?孔明。」

「マスク・ザ・レッド、貴方こそ何をおっしゃいますかな?」

 

 

大きめのグラスに注がれたメロンソーダを啜りながら孔明と呼ばれた男性はマスク・ザ・レッドの話を聞いていた。

 

 

「九浄家の人間は全て絶えた筈……だが生き残りがいたとは聞いていないが?」

「ええ、あの九浄の長老にしてやられましたよ。」

 

 

まさかあの九浄家の姫巫女が生きていたとは。

 

いやはや、戦況はまだまだ私達を見捨ててはいないようですね。

 

さて、我らがビッグファイアはどう出られますかな。

 

 

「かつて、我らBF団を含め国際警察機構の者共は全員その能力を約定によって九浄家当主に封印されたのだぞ。」

「ええ、あれは厄介な出来事でしたよ。」

「ならば…!」

「お待ちなさい、例え九浄家の生き残りがいたとしても封印は解除出来ないのですよ?」

「何故だ!あの小娘一人始末すれば済む事…っ!?」

 

 

呆れた表情ではあるがいつもより鋭い目つきで孔明はある言葉を発した。

 

 

「九浄家先代当主である『蓮華』の能力である『約定』はその一族に危害が及んだ場合、永久に破棄する事が出来ないと付け加えてあるのですよ。」

「…アルベルトに監視を任せていたのはそう言う訳か?」

「その通り、唯一『約定』を破棄できる次代の当主を死なせる訳にはいきませんからね?」

「ふん、俺は好きにやらせて貰うぞ!」

「ビッグファイアに逆らうおつもりで?」

「いや、我らがビッグファイアに逆らう事はない、俺自身あの小娘に興味があるのだ。」

「私は説明しましたよ?くれぐれも厄介な事にならない様にして貰いたいですな?」

 

 

孔明が話し終えるのを待たずにマスク・ザ・レッドはそのままパラソルの日陰になっている影に沈み込む様に姿を消した。

 

そして一人になった孔明も溜息をついた後、誰も居ない筈の場所で誰かに話しかける様に答えた。

 

 

「分かっています、まあ悪い様になりませんよ。(あれはややこしい…恋と言うものですからね。」

 

 

******

 

 

 

「くしゅん!」

 

今、ものすごく嫌な悪寒がしたような?

 

=続=

 




<今回の登場人物>

《BF団》

※幻惑のセルバンデス
幻惑もしくは眩惑と呼ばれる十傑集の一人。
約定事件によって『舞台演劇』などの能力を封印されている。
現在は『オイル・ダラー』と言う表会社で行動している。

※策士・諸葛孔明
BF団のナンバー2、その所載は謎に包まれているが今回の会話で腹黒さは日増しにUPしている模様。
約定事件に関わっており、本来の能力『水魚の交わり』を封印されている。


《九浄家》

九浄蓮華(レンゲ・クジョウ)
九浄家の先代当主であり、ハスミの母親。
享年27歳。
約定事件の首謀者にして固有能力『約定』によって国際警察機構並びにBF団の能力を封印した張本人。
『約定』によって封印したのは双方の特殊な力のみであり武道に関しては何の隔たりもなく使用は可能らしい。
当時のヤング時代の孔明曰く「私の数倍は腹黒かったですよ。」と呟いている。
刀剣の使い手で約定事件では詩篇刀・御伽で阿鼻叫喚の絵図を披露したと言う。
二つ名は『深淵の蓮華(シンエンのレンゲ)』。


九浄 漣(サザナミ・クジョウ)
九浄家の先々代当主、ハスミの祖父。
享年78歳。
当時の政財界からは『鬼震の漣(キシンのサザナミ)』と恐れられており、かなりの猛威を振るっていたらしい。
天下り政治&腐敗政治を断固毛嫌いしており、当事者達を再起不能なまでに社会的抹殺するなど迷宮入りの騒動を度々起こしていた。



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