幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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幾多の戦いの始まり。

その通過点に過ぎない。

この戦いも進むしかない。

その先に一瞬の出来事が待ち受けようとも。







第十二話 『白星《ホワイトスター》前編』

天使の輪は墜ち、最後の使者は共に歩む道を選ぶ。

 

鎖から外された異星の人々の帰還。

 

偽りの独裁者からの解放を期に人々は結束の時を向かえる。

 

敵は白き魔星にアリと…

 

 

******

 

 

私がネルフ本部に放り出されてから三週間近くが経過した。

 

エアロゲイターの前線基地とされているホワイトスターへの反攻作戦が決定。

 

そう、OGシナリオの一つである『OPERATION・SRW』の開始でもある。

 

 

「例の伊豆基地での襲撃を合わせたエアロゲイター保有のゲシュペンストmk-Ⅱの記録データです。」

 

 

作戦に備えて物資、資材の供給が進む中で私は例のゲシュペンストの件でクロガネの一室に呼び出された。

 

旧戦技教導隊関係者の集まりである。

 

ギリアム少佐の説明の後、カイ少佐の言葉を皮切りにそれぞれが意見を出す。

 

 

「どう思う?」

「疑念の予知は無いと思います。」

「ハスミ、あれに乗っていたのは確かにカーウァイ隊長だったのか?」

「画面越しですが、あの姿…そして機体に触れた時に感じた気配は間違いなくお義父さんでした。」

「年季が立ち過ぎているとは言え、あの様な姿にされるとは…」

「ギリアム少佐にはもう話してある事ですが、お義父さんを操っていた相手の念動波形パターンを記録しておきました。」

「そしてハスミが記録した敵の念波データと一致する念波データがこちら側に残っています。」

 

 

ギリアムが近くのコンソールを動かし、テーブルにはめ込まれた画面からあるデータが表示される。

 

 

「そのデータは地球連邦軍内に秘匿されていた特殊脳医学研の実験非検体『ジェニファー・フォンダ』と一致しました。」

「特殊脳医学研…特脳研か、SRX計画の要である以上はイングラム少佐が前々から接触していた可能性は高いか。」

「リュウセイ曹長に救出されたレビ・トーラー…いえ、マイ・コバヤシの事もありますからね。」

「それらが繋ぐピース、奴らは人類を拉致し自らの兵として戦場に投入しているのだろう。」

「つまり、今までのエアロゲイターの行動は…実戦投入の為の実験でしょうか?」

「恐らくは…」

 

 

知っていたとは言え、実際にやられるとキツイ。

 

ホルトゥスが動いているから被害は最小限に抑えられている。

 

それが無ければどれだけの人が犠牲になっていただろう。

 

同じ人間のする事じゃないと実感できる。

 

 

「ハスミ、大丈夫か?」

「…すみません。」

「ハスミ、お前はどうする?」

「ゼンガー隊長?」

「恐らく、次の作戦ではカーウァイ隊長が投入されるだろう。」

「カーウァイお義父さんをどうするか…ですか?」

「そうだ。」

「我々は最悪のケースを想定して戦う覚悟だ。」

 

 

救える可能性が低い以上、せめて自分達の手で…

 

それが隊長達の決断。

 

私は、私が出来る事をするだけ。

 

 

「同行させて貰えないでしょうか?」

「ハスミ、判っていると思うが…」

「判っています、だからこそ……諦めたくないのです。」

「ハスミ。」

「もしも、その時が来たのなら私も覚悟を決めます。」

「判った、作戦時は俺達と追従して貰うぞ?」

「了解です。」

 

 

ほんのわずかでも希望があるのなら意地でもしがみつく。

 

けれども、私の中で一つの思いが揺らぎはあった。

 

カーウァイお義父さんとテンペストお義父さんのどちらを優先するのか?

 

私にとってはどちらも育ての親に変わりはない。

 

私は偽善であろうとも自分の意思を捻じ曲げる事だけは絶対にしたくはない。

 

だから揺らぎはない事を告げた。

 

 

「テンペスト少佐、私は少佐の養女になれて嬉しかったです。」

「ハスミ?」

「カーウァイお義父さんを無事に助けても私の気持ちは変わりません。」

「…」

「私にとって二人はどちらも私のお義父さんですから。」

「ハスミ。」

 

 

変わりつつある現実と未来。

 

過去は変えられなくても進んできた歩みは残るのだ。

 

この培ってきた思いだけは間違いじゃない。

 

 

「当たり前だろう、お前は私の義娘に変わりはないのだからな。」

 

 

照れ臭く言うお義父さんであったが…

 

 

「お義父さん、顔が赤いですよ?」

「うっ///」

「一本取られたな。」

「カイ、お前っ!?」

「微笑ましいですね。」

 

 

いつも通りに茶化されるのであった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻。

 

ハガネ艦内格納庫にて。

 

 

「…」

 

 

ホワイトスターか…

 

今回は前の記憶も入り混じっているせいかどうも落ち着かねえ。

 

SRXの合体も出力の関係で数十回か…

 

レビ…いや、マイを救えただけまだマシだったけどよ。

 

マオ社からR-GUNパワードとビルドシュバインの納機も終わった。

 

ヴィレッタ隊長とも合流出来た。

 

後は教官を救えるかだ。

 

いや、今度こそ救うんだ。

 

絶対にこの手を放さねえって決めた。

 

何度だって追いかけてやる。

 

もうあんな思いは懲り懲りだ。

 

 

「教官…逃げても何度だって追いかけてやるから待ってろよ。」

 

 

リュウセイは誓う。

 

その先の未来の為に。

 

 

******

 

 

「ドモン、判っていると思うが…」

「無茶は今回だけだよ、兄さん。」

 

 

ホワイトスターへの反攻作戦。

 

その前に起こった戦いに置いてシャイニングガンダムはついに地に伏せた。

 

想定していた時期よりも持った方だろう。

 

 

「…(ゴッドガンダム、ようやくお前に会えた。」

 

 

格納庫に納機されたゴッドガンダム。

 

時系列の違いから今回の戦いが初陣となる。

 

シャイニングガンダムは回収され、向こうで解体される予定だ。

 

名残惜しいがシャイニングは役目を果たしたのだ。

 

いつかまた乗る事があるだろうか?

 

それは誰にも予測不可能である。

 

 

「稼働テストもしていない機体にお前を乗せるのは…」

「大丈夫だ、今までもそうだった筈だよ。」

「ドモン。」

「必ず帰ってくる、その時は兄さんに応援して欲しい。」

 

 

危機が去れば、ガンダムファイトは再び再開されるだろう。

 

今回の俺はDG事件を追う為にガンダムファイターに選ばれた訳じゃない。

 

正式な国からの依頼だ。

 

 

「…(DGは無くなり、ウルベがDG細胞を手にする危機は去った、だが…今も感じるこの不快な感覚は何だろうか?」

 

 

今はまだ、訪れる事の無い災厄の気配にドモンは不穏な感覚を覚えるのだった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ 

 

 

同艦内休憩所にて。

 

 

「ふう…」

「兄さん、どうしたの?」

 

 

ぺガスらのメンテナンスが終了し一息入れたD兄弟。

 

 

「ちょっとな。」

「もしかして、次の作戦の事?」

「ああ…」

「兄さんの記憶でも僕の記憶でも体験した事が無い戦いだったね。」

 

 

二人にはC・Eを主軸とした戦いの記憶しかない。

 

その為、今回の戦いに関する記憶がない為か遅れをとるのではないか?

 

そんな不安が過ぎるのだ。

 

もしもこの戦いで別の勢力が仕掛けてきたら護り切れるのか?

 

変わりつつある戦況に抗える事は出来ない。

 

 

「クワトロ大尉だっけ?あの人の話じゃ…こっちの?前の世界はややこしい事になっているみたいだし。」

「そうだな、クワトロ大尉…いや、あの人がシャア・アズナブルとして敵対したのちに地球連合軍が設立された事には驚くしかない。」

 

 

異なる世界における封印戦争時に起こったシャアの反乱、封印戦争終結後に地球連邦軍は各組織の残存兵力を纏め上げ地球連合軍へと編成される事となったが…

 

更なる混乱の渦中に身を投じる結果へと繋がった。

 

 

「本当にややこしい。」

「ああ、今回の戦いを切り抜けても次の問題が山積みに残っているからな。」

「ラダムの母艦、また月に不時着すると思う?」

「それは判らない、場合によっては別の場所に拠点を変える可能性があるかもしれない。」

「うん、これだけ多くの敵勢力が地球を狙っている以上は考えられるよね?」

「この話は後だ、今はただやるべき事をやるだけだ。」

 

 

******

 

 

同時刻、ラーカイラムの個室にて。

 

 

「ホワイトスターへの反攻作戦、気が抜けないな。」

「ああ、そして影で暗躍するシャドウミラーや他の組織の動向も気になる。」

「敵が動いている様子が無い以上は手出しは出来ないですよね?」

「私兵か何か伝手があればこちらも動けるでしょうが…」

「その伝手でミスリルやグランナイツが発見されただけでも朗報と言えるだろう、ラル達には感謝しきれない。」

「ラルさんが?」

「ああ、地球でアルテイシア…いや、セイラと共に調査をしてくれている。」

「そうか、こっちでもカイの伝手を使って例の組織に接触できないか動向を探って貰っている。」

「例の組織?」

「コウ、お前も覚えているだろう…GGGだ。」

「ですが…アムロ大尉、この時期の凱達は…」

「解っている、今後の事を踏まえての話し合いだ。」

「しかし、ここまで大胆に動いても良いのですか?」

「あくまで我々の様に記憶を所持していると言う仮定での行動だ。」

「こちら側から特定の人物にある言葉を送ってそれに反応すれば記憶を所持していると判断できる。」

「ある言葉?」

「彼らが記憶を所持しているのなら反応する言葉だ。」

「GGGには霊帝、ミスリルとグランナイツには御使い、こんな感じにね。」

「そうか、前の世界で戦った相手の異名を知っているのなら…」

「可能性はあると言う訳だ。」

「しかし、こちらの誘いに乗るでしょうか?」

「やるだけの事をやるだけさ。」

「だが、向こう側の気付いている筈だ……この世界を覆う強大な影をな。」

 

 

戦いの中で見え隠れする強大な影は近々その姿を現すだろう。

 

クワトロの言葉にアムロ、コウ、ガトーはただ頷くしかなかった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

搬入作業が終了し宇宙へと上がったノードゥス。

 

彼らは敵の中枢に潜り込み、敵の大将格を倒す任務が与えられた。

 

ホワイトスターに向かって続々と集結する艦隊。

 

地球連邦軍保有のグレートアークを旗艦とし、それぞれの組織で主だった戦艦がその姿を現していた。

 

そしてOPERATION・SRWの開始の合図である閃光弾が発射された。

 

OGシナリオの一つ『L5戦役』の始まりである。

 

 

=続=

 




流れる筈の涙は堪えるしかない。

ただ、勝利の為に魔星へと向かう。

あの温もりは過去の思い出。

次回、幻影のエトランゼ・第十二話『白星《ホワイトスター》中編』

嘆くな、戦いはまだ終わりではない。


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