幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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それは願掛け。

たった一つの願いの為に。

彼女は髪を切った。


髪の付箋

 

メメントモリ騒動からの軌道エレベーター損傷。

 

並びにクーデター鎮圧後。

 

この事件をブレイク・ピラー事件と呼称された。

 

事態を引き起こしたパング・ハーキュリー率いるクーデター派の軍人達は逮捕された。

 

アロウズは例の如く一連の騒動のパング率いるクーデター派に全ての責任を押し付けようとしたが…

 

異議ありと宣言したリモネシア共和国とイグジスタンスの正論と証拠によって覆された。

 

更にイノベイト達によって掌握されていたヴェーダがワイズマンと呼ばれる存在によってハッキングを受け、アロウズがこれまで行って来た大量虐殺の証拠がネットワークを通じて露見。

 

最終的にイノベイトの正体も世界に晒される事態が発生した。

 

アロウズを陰で操り、世界を遊戯盤の様に転がしていたイノベイト。

 

晒された事実に世界はアロウズへ憎しみの矛先を向けた。

 

 

******

 

 

<リモネシア共和国・政庁>

 

 

諸々の事後処理を終えたイグジスタンス。

 

現在は修理と補給を兼ねてZEXISが滞在している状態である。

 

経過報告もあり、最下層の円卓の間でリアクター全員が集合していた。

 

 

「はぁーしんどー。」

 

 

今回の開口一番はクロウである。

 

名前通りに一苦労状態を受けていた。

 

 

「クロウさん、お疲れ様です。」

「ヒール役をやるにしても、あの毒舌はしんどい…ぜ。」

 

 

ウンザリした顔のクロウ。

 

これに関しては前回の一件が絡んでいる。

 

ソレスタルビーイングに対して初代ロックオンの安否を隠蔽していた為だ。

 

実際、助かるか不明な状態のまま彼らに伝えるのは酷である。

 

理解して貰ったが、その矛先がクロウに向けられたと言う事だ。

 

 

「スメラギさんとの話し合いでアイツはトリニティの引率を兼ねて第二チームとして活動するって形になった。」

 

 

実際、今回は早期にトリニティがサージェスによって戦闘不能に陥った事。

 

それが功を奏した事でトリニティは現在のソレスタルビーイング…

 

イノベイトのやり方に疑問を感じて離反した。

 

更に彼らが使用していたプトレマイオス級戦艦も無事である。

 

イグジスタンスの技術提供の機体もあるので彼ら側の所属と言う形で行動して貰おうと決定したらしい。

 

要は協力者である此方の動きを監視して貰う形にした…が正解だろう。

 

まあ、隠している情報は多々あるので何とも言えない。

 

 

「取り敢えず、一つ目の案件は良いとして…ルイス・ハレヴィのその後は?」

「沙慈を取り戻すって事でソレスタルビーイングに同行した。」

「その件に関してカレンは納得しましたか?」

「正直、戦場に出る事は納得はしていないが…同行だけは認めていた。」

 

 

共に過ごした学園の学友が戦いに巻き込まれてしまった。

 

ゼロ…ルルーシュやカレンにとってもそれは納得出来ないだろう。

 

だが、彼を取り戻すにはダブルオーライザーの機能は必要である。

 

配役が入れ替わった以上は可能性のある人物に奇跡を委ねるしかない。

 

 

「シモンとタケル達は何か言ってきましたか?」

「カミナやマーグが生きている…お前の采配か?って竜馬達が怒り狂ってたぜ。」

「そうね、禿げない程度には放って置きましょう……努力のご褒美と思って欲しい。」

 

 

復活したカミナとマーグがZEXISに合流しないのはシンカによる記憶からの警告。

 

今は接触してはならないと注意を受けているからだ。

 

合流が許されるまで彼らには影で行動して貰う。

 

何時か必要な時に出て貰える様に。

 

 

「今回は配役が少し変わってきている分、敵の行動パターンも変異しているからね。」

「例のギャラクシー船団によるバジュラの洗脳。」

「反乱イノベイト達の人類掌握。」

「エンデの暗躍…」

「ゲシュタルトを駆使し各方面で反乱を引き起こすズール皇帝。」

「姿を見せてねぇアンチスパイラルも居るぜ?」

 

 

アサキムの話から始まり、ヒビキ、クロウ、ユーサー、ガドライト、ガイオウの順である。

 

 

「それに関して更に厄介な案件を入れたい。」

「ハスミさん、何かあったんですか?」

「光龍父さん達からの情報で新西暦の世界に地球艦隊・天駆の転移が確認されたわ。」

「ハスミ、それって例のガーディムとドンパチやってたって言う?」

「はい、接触した彼らの話によるとネバンリンナとの和解に成功したものの彼女がエンデに連れ去られたと…」

「はぁ!?」

 

 

ヒビキとエルーナの疑問に対して答えるハスミ。

 

ランドの驚きも最もだ。

 

ハスミの発言はTの物語…EXシナリオに出て来た鉄の器フラグは立った事を示している。

 

不安定な肉体ではなく完璧な肉体を手に入れた奴との戦いはより激化するだろう。

 

 

「へっ、敵がパワーアップしようが俺達が仕留めればいい。」

「その楽観的な考えに至れるのはガイオウ、貴方だけですよ。」

 

 

激化すると言う事は戦場の規模が拡大する事を示している。

 

最悪な展開とすれば、強制的な世界融合からの崩壊。

 

それに伴う多くの負念を取り込む事がエンデの思惑なのだろう。

 

負念の意志達は誰もがバアルの頂点を目指している。

 

全てを手に入れる為に彼らは独自の行動に移すだろう。

 

足の引っ張り合いをしてくれている方がまだマシだが、統率者が現れればそうも言ってはいられない。

 

一億二千万年の周期である銀河崩壊のタイムリミットが刻々と迫っている以上は気を引き締めていかないと…

 

 

「ハスミ、我々も本腰を入れねばならんな?」

「はい。」

「ZEXISのシンカを促す為にも奴らに試練を与えねばならん。」

「大案件を彼らに?」

「その通りだ、先の情報通りならエンデの一件が今回の騒動の要因となったのだろう?」

「仰る通りです。」

 

 

アウストラリスの話す通り…

 

ガイオウが関心しこちら側に移った事で配役が変わった。

 

魔獣エンデこそ人類が討つべき敵としてバアルによって配置されたのだ。

 

終焉の銀河は迫り時獄と天獄が始まる。

 

予言通りカウントダウンは始まってしまっている。

 

エンデを倒した時、それはカウントされるのだ。

 

人類滅亡の刻が刻まれる…

 

 

「御使い共も何処で暗躍しているかは解らん…皆も注意せよ。」

「今日まで此方に手を出していない事自体が不自然ですね。」

「あの日、ソルの目覚めと同時にソルの鍵となった私達に手を出しにくくなったせいもあります。」

「私達が抑止力になっている…って事?」

「疑似的とはいえ、ソルの力を開放した時だけ私達は高次元生命体と同じ状態になる。」

「…奴らと同じか。」

「言葉通りです。」

 

 

アイムやセツコ、尸空の疑問に対してハスミが答えた。

 

それが御使いやバアルを食い止める抑止力となっている。

 

問題はソルの力を使い続ければ…

 

私達はヒトには戻れないだろうと。

 

 

「決断すべき時が来た時、俺達は決めなければならない。」

 

 

アウストラリスも察してしまっている。

 

この戦いの先に待つ私達の末路を…

 

私達が往くべき道が決定してしまった事を悟った。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃、リモネシア共和国国内。

 

ZEXISの滞在許可が下りている指定区域。

 

そこで話す絹江とルイスの姿があった。

 

 

「ルイスちゃん、本当にいいの?」

「もう決めました。」

 

 

民間人でありクーデターに巻き込まれただけのルイス。

 

あのまま軌道エレベーターに居れば、被害者として元の生活に戻れただろう。

 

だが、事情を聞いた以上は彼女も自分の意思で決めたのだ。

 

 

「ブラックリベリオンの時、カレンの怒りを聞いてずっと悩んでいたの。」

 

 

故郷を人としての尊厳を奪われた人の気持ちを考えた事があるのか?

 

いざ、自分達が同じ立場に晒された時にそう言ってられるのか?

 

 

「私、ブリタニア・ユニオンで偏見とかそう言うのに全然眼を向けなかった。」

 

 

沙慈やお姉さんがハーフだからって理不尽に八つ当たりされているのを見ていたのに…

 

ニーナと同じで怯えて何も知ろうとしなかった…

 

 

「ううん、世界の在り方に眼を向けていなかったの…自分の幸せばっかりで。」

 

 

財閥の一族と言う立場があった為に何不自由なく生きて来たから…

 

世界が抱える闇を知ろうとしなかった。

 

 

「私、沙慈を救いたい……私に出来る事があるならやりたいの!」

「ルイスちゃん、ありがとう。」

「…絹江さん。」

「一緒に沙慈を救いましょう。」

「はい。」

 

 

ルイスは沙慈を絶対に救うと言う証として長かった髪を切った。

 

彼女の何も知らない少女だった証との決別を込めて…

 

配役を変えてイグジスタンスとZEXISの戦いは激化する。

 

新たな仲間達と共に戦うべき敵へ向かうのだった。

 

 

=続=

 


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