幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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怒りの矛先。

反逆の闘志を胸に。

愚か者は一片も残さない。

ただ消え失せるのだ。


第百十七話 『死闘《シトウ》前編』

 

エクスクロスとの同盟を結んだイグジスタンス。

 

期間限定の同盟とは言え、一国家を討ち取るには十分すぎる戦力である。

 

エンブリヲは神聖ミスルギ皇国を中心に並行世界から呼び寄せた軍勢を皇国に配置し防衛して来るだろう。

 

エクスクロスはミスルギ皇国内に捕らえられているアウラを開放を最優先。

 

その後、アンジュとサラマンディーネの歌とアウラの力でエンブリヲの潜む本拠地に殴り込みを仕掛ける事となった。

 

念の為、本拠地移動までの妨害が出た場合に踏まえて助っ人の助力も使用する手筈だ。

 

だが、これを期にドアクダー軍団や魔従教団も仕掛けてくる事も踏まえて戦力を分散する事となる。

 

話し合いの結果…

 

エクスクロスとイグジスタンス、エンブリヲによって仲間の拉致を受けているメンバーを主力部隊。

 

残りは陽動と他の勢力への妨害行動に出る事となった。

 

 

******

 

 

そもそも、光龍らが何故…イグジスタンスの元へ訪れる事が出来たのか?

 

その理由を説明する。

 

イグジスタンスがサイデリアルとして行動していた頃。

 

ハスミはある条件で天鳥船島のクロスゲートの起動を可能とする処置を施した。

 

それが念動者三人をキーとした緊急起動方法である。

 

条件はメインキーとなるマシヤフに危機が迫った時…

 

マシヤフの近親者と他二名で起動キーの代理とする事が可能と言うモノだ。

 

危険性が高いので普段は使えない手であるが致し方ない。

 

また、ハスミはエンブリヲによって拉致される前…

 

事前にDDコミュニケーターで光龍達に助っ人確保の指示を行っていた。

 

この為、迅速に動けたのである。

 

 

「じゃあ、手筈はこんな感じかな?」

 

 

光龍達の進言もあり他勢力の敵部隊への陽動はホルトゥスが行う事となった。

 

助っ人がほぼ主力級のメンバーを選りすぐって来たらしくので本気と見ていい。

 

陽動に参加する助っ人メンバーは天臨社改め新生VTX社のメンバー、GreAT社のメンバーである。

 

規格外なティラネード・レックスやダイガイアンとイーファスの部隊、ラッシュバート、ストレイバードやガルドデウスとヴァレイシリーズの部隊の配置。

 

ちなみに新生VTX社で生産ラインにゲシュペンストは使用せず代替としてイーファスを使用。

 

新西暦の世界では既にゲシュペンストに続いて発展型が出ているのが理由の一つである。

 

問題はハスミがこれだけの戦力を開発並びに増産の協力をしホルトゥスと言う組織で隠蔽していた件だ。

 

他のホルトゥスのメンバーは新西暦の世界の事件対応で動けないが十分すぎる戦力だった。

 

 

「で、主力部隊に協力するメンバーは…」

 

 

エクスクロスとイグジスタンスの同盟部隊に協力するのは…

 

DG細胞の件でドモンら三人にクスハ達を奪われたブリット達、TREEAのメンバーらに加えてエンブリヲに親しい女性を奪われたZEXISの一部メンバーである。

 

ZEXISへ事情を説明し、一部のメンバーと共にこちら側へ渡って来たのだ。

 

向こう側での戦いは残留中のイグジスタンスの他メンバーが別個で対応する形なので戦線の総崩れは無いだろう。

 

手は足りている位が良いとハスミが偶に言うのもこう言う事態の時の為だ。

 

事前通達があったとは言え、規格外の戦力をかき集めた光龍の発言。

 

 

「あの自称調律者君が調子に乗って色々とやり過ぎた……この位の報復はいいだろう?」

「我々が来た以上は大船に乗ってくれ。」

「過剰と思われるが何が起こるか判らない…その為の戦力は集結させたよ。」

 

 

助っ人の各部隊の代表であるダイマとルドの言葉。

 

ちなみに二人は新西暦の世界でクロノによる暗殺未遂があった為に一時的な避難をしている。

 

まあ、暗殺しようにも逆にやり返せそうな人達なのだが…

 

話を戻し、規格外は当たり前であり想定外も想定内が前提としているのがホルトゥスの在り方。

 

そもそも…これだけの規模の戦力を隠し持っていたハスミの手腕もまた末恐ろしいと感じ取られただろう。

 

 

「…有難いですかね?」

「…どう言えばいいのか。」

「…敵の意表を突くにはいいのでしょう。」

「皆さんも…慣れてしまえば気にはなりませんよ。」

 

 

順に倉光、ドニエル、ネモ、シナプスの発言。

 

エクスクロスの艦長らは青褪めた表情で開いた口が塞がらない状態だったが…

 

その艦長の一人であるシナプスだけは何時もの事で遠い目をしつつも冷静さを保っていた。

 

慣れとは恐ろしいものである。

 

 

「…」

「アマリさん?」

「イオリ君、ちょっと驚いただけ。」

「確かに驚くよね。」

「うん。」

 

 

エクスクロスの中核になりつつあるアマリとイオリも同様の感想を告げていた。

 

規格外も想定内が常に当たり前のイグジスタンスやホルトゥスの在り方。

 

その在り方も今後も必要なのだろうと…

 

 

「新しい世界からの来訪者達も中々興味深いですね。」

 

 

アマリらの仲間であるホープ、彼は彼でマイペースに答えていた。

 

一方で旧サイデリアルことイグジスタンスが行った行為。

 

新西暦の世界では侵略行為であったが…

 

影で暗躍し暴走を繰り返すクロノを止める為の措置とシンカへ導く為の行動である事は光龍らによって説明された。

 

その代表がエンブリヲへの粛清の為にここへ訪れていた。

 

 

「…」

「アウストラリス。」

 

 

周囲の様子を静観していたアウストラリス。

 

彼に声を掛けたのは…以前、拳を交えた者だった。

 

 

「ドモン・カッシュか…」

「事情は孫光龍から聞いている。」

「…」

「お前も助けに行くのか?」

「組織を纏める者として先陣を切る事は出来んが…言葉通りだ。」

「そうか。」

 

 

代表を務める以上、個人の感情を優先する事は出来ない。

 

それでも愛する存在を救いたいと言う意思も見え隠れしていた。

 

 

「ドモン・カッシュ、あの時はあの様な形で拳を交えてしまったが…」

「…」

「事の全てが終わった後…お前や他の者達と改めて拳を交えたい。」

「それは俺も同じだ。」

 

 

幾度と拳を交えた事で真意は通じていたのだろう。

 

負けのまま終わらせる訳にはいかないとドモンは告げた。

 

それに対してアウストラリスは静かに返した。

 

 

「…楽しみにしている。」

 

 

>>>>>>

 

 

作戦決行の時が訪れた。

 

陽動の為にVTX社のメンバーとGreAT社のメンバーにホルトゥスが先行して行動を開始。

 

ミスルギ皇国の部隊は陽動部隊の戦力に油断していたのだろう。

 

だが、知る者は知っている。

 

彼らもまたエクスクロスと同等の部隊と最終決戦で雌雄を決した存在である事を…

 

 

「やる気のない者は…去れ!!」

 

 

陽動作戦でドアクダー軍団と対峙したVTX社メンバー…

 

先陣を切ったのはダイガイアン一号機のダイマである。

 

 

「あれはストレスを相当溜め込んでいるわね。」

「確かに。」

 

 

二機のティラネード・レックスよりサギリ・サクライとサイゾウ・トキトウの会話。

 

 

「社長一人で突っ込んでますけど…いいんですか?」

「ああ言う時は自由にやらせて置くのが一番ですよ。」

 

 

二機のサブ・パイロットを務めるラミィ・アマサキとルーディー・ピーシーザルトが愚痴っていた。

 

 

「すまん、何分…ダイマも暗殺未遂で逃亡生活していた期間が長すぎてな。」

「エイムさんのせいじゃ…」

「そうですよ、ハスミさんに思いっきり駄目出し説教されて関心したのに悪い癖は出るモノですね。」

「あれじゃあ、どっちが悪者何だか…」

「関心と言うならあの悪趣味なパイロットスーツを止めた事だけだろうな。」

「あ、悪趣味…(カッコいいと思うのだが。」

「ハスミさんからも機能性も欠片もないダサいスーツ発言されてましたからね。」

 

 

同じくダイガイアン二号機のエイム・プレズバンドも会話に加わり、戦闘中ではあるが会話の余裕があるらしく…

 

攻撃の手を緩めない程度に話を続けていた。

 

最もストレス発散するかのように大剣ぶん回して攻撃をするダイマの様子に周囲がツッコミを入れる始末である。

 

敵陣は陣形を崩された上に立て直した戦力を激減させる事となった。

 

 

一方、その頃…

 

 

同じく陽動作戦でGreAT社のメンバーVS魔従教団が展開していた。

 

ルーンゴーレムとディーンベルの混成部隊。

 

ドアクダー軍団と同じく、この期を逃すまいとミスルギ皇国へ侵攻して来たらしい。

 

だが、圧倒的な戦力によって軒並みに陣形を崩される事となる。

 

 

「さて、狂いに狂った狂信者達…この場を去るならこれ以上の攻撃はしないと約束しよう。」

「…邪教の者め!」

「我らの神の御神託によりお前達をほろぼ…!?」

 

 

魔従教団…その彼らの前に出現したの起動要塞ガルドデウス。

 

防御機構を備えたコアフォートレスを引っ提げての登場である。

 

 

「残念だよ、もう少し聞き分けが良いと思ったが…致し方あるまい。」

 

 

レジスレイトレーザーによる攻撃は魔従教団の陣形を崩すには十分な効力を持つ。

 

最もレボリューションカノンまで使ったらアル・ワースの一地域が焦土と化すので控えている。

 

 

「なあ、悠兄…」

「言うな、一鷹。」

 

 

この光景に対して共に出撃していたラッシュバートの南雲一鷹とストレイバードの悠凪・グライフ。

 

圧倒的な戦力に成す術がない魔従教団に対し同情しそうになっていた。

 

こちらもまた『どっちが悪者?』的な思考になりつつある。

 

二機のサブ・パイロットであるHL-0 ハルノとAL-3 アリスも何とも言えない表情をしていた。

 

 

更にもう一方…

 

 

陽動作戦でミスルギ皇国軍をたった一機で相手にしていた存在。

 

 

「さてと、先陣を切らせて貰った以上は…しっかりやらせて貰おうか?」

 

 

上空より飛来する真・応龍皇。

 

龍玉を取り戻した姿であり本気モードを披露出来る状態になっていた。

 

娘を奪われて怒りが臨界点突破中の光龍とのコンビは計り知れない。

 

 

「因みにゲストは僕だけじゃないよ?」

 

 

光龍は兵器サイズの呪符を応龍皇の周囲に数枚程展開すると呪言を唱えて妖機人召喚を行った。

 

 

「油断すると機体諸共…君らも喰われるよ?」

 

 

旧西暦時代の頃の部下の一人だった偃師。

 

彼が率いた七体の妖機人を再生し復活させ顕現したのだ。‎

 

 

「僕も本気だよ……隠れて見ている自称調律者君?」

 

 

応龍皇だけでも過剰な戦力なのにも関わらず妖機人まで出現。

 

暴君時代の光龍が一時的に復活した瞬間でもあった。

 

 

>>>>>>

 

 

同時刻、エンブリヲの居城。

 

 

「…エクスクロスにイグジスタンスも本腰を上げて来たか。」

 

 

アル・ワースからの映像でミスルギ皇国に後がないと悟ったエンブリヲ。

 

 

「彼らには時間稼ぎをして貰おう。」

 

 

元の世界への帰還を条件に同盟を結んだ勢力をあっさり切り捨てたのだ。

 

 

 

「私の作り上げた女神達の目覚めの時まで…」

 

 

エンブリヲは自身の背後に潜む巨大なナニカを見上げた。

 

脈打つ金属のソレは胎動し目覚めの時を待っている。

 

贄となった三人を染め上げる白銀。

 

物言わぬ装飾品と化した彼女達を目視した時。

 

エンブリヲは悟る。

 

最も手を出してはならない存在達を敵に回した事を…

 

 

=続=





世界を繋ぐ歌。

竜の願い。

光と風の歌声は調律される。


次回、幻影のエトランゼ・第百十七話『死闘《シトウ》後編』


立ち向かえ。

己の心と共に。

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