幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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白銀のドレスを纏い。

美しい人形は主人に従う。

それは組み込まれたシナリオの様に。

だが、抗いもまたその心に秘めていた。


第百十五話 『人形《ヒトガタ》』

 

エンブリヲの用意したパラメイルで構成された部隊。

 

ダイヤモンドローズ騎士団…

 

金剛の薔薇とは、いい感じに燃えそうな名前だ。

 

騎士団筆頭はサリアと言うツインテールの少女が指揮を執っていた。

 

他にも彼女と同じノーマの少女や女性達が騎士団に組み込まれている。

 

どうやら囚われている間にアルゼナルが襲われたらしい。

 

だが、アンジュの采配でアルゼナルで亡くなる死傷者は少なからず減らせたようだ。

 

それでも彼女達がここで騎士団になっていると言う事はエンブリヲの仕業か…

 

 

******

 

 

油断しているのか分からないが…

 

エンブリヲの城で余計な事をしなければ、最低限の自由は許されている。

 

私ことハスミは日課の鍛錬に勤しみながら私の中のあの子と対話を続けた。

 

 

 

「…(どう?」

 

 

ーマダ、カカルー

 

 

「…(ゴメンね、こんな事をさせてしまって。」

 

 

ーダイジョウブ、ヘイキダヨー

 

 

「…(解析が終わっても感染はそのままで。」

 

 

ーワカッター

 

 

 

私には一度DG細胞に感染した経緯がある。

 

自我を持ったもう一人のこの子は私と共に生きる事で様々な知識と耐性を会得しつつあった。

 

これもシンカなのだろう。

 

優しさを学んだ事で別世界で瀕死の重傷を負った時もこの子に助けられた位だ。

 

今は時間が必要だ。

 

 

ガキン!!

 

 

奴を油断させる為の時間を…作らないと。

 

 

 

「精が出るねぇ?」

「体を動かしていた方が気が紛れるので。」

「…」

「セツコ、大丈夫?」

「もう大丈夫よ…心配かけて御免なさい。」

 

 

鍛錬の様子を見ていたエルーナとセツコ。

 

セツコに関しては日々の折檻が負担になっている為か調子が悪い。

 

酷い時は三人して全裸で吊し上げもある。

 

アル・ワースに近いせいか突如としてEXマン達が出現。

 

見せられないよの看板を用意するので危ないシーンはカットされている。

 

慣れる様なものでもない…ただ平気であると彼女は告げた。

 

 

「無茶は失敗の元…セツコ、無理な時はちゃんと言う事。」

「…うん。」

 

 

ハスミはセツコの負担を理解し無理をしない様にと答えた。

 

同時に見張はどうなったかをエルーナに質問した。

 

 

「エルーナさん、見張は?」

「見張の子達もハスミの鍛錬見てれば手を出す気も起きないさ…」

「そうですかね?」

 

 

ダイヤモンドローズ騎士団の子達は青褪めた顔でこちらを見ていた。

 

そんなに怖いのかな?

 

 

「ハスミ、アンタ少しは自覚しなよ…普通の女の子は片手で大剣振り回して馬鹿デカい岩をスパスパ斬らないって。」

「並行世界ではこれが普通の所もあるんですけどね。」

「…アウストラリスがアンタの事を惚れる訳だ。」

 

 

エルーナさんの呆れた表情を余所に。

 

まあ、ストレス発散も兼ねて勢い余って岩石を斬りまくっていたからしょうがないか。

 

 

「ま、アンタのそう言う所…嫌いじゃないけどね。」

「?」

 

 

>>>>>>

 

 

ダイヤモンドローズ騎士団が帰還した。

 

どうやらアンジュを捕らえて連れて来たらしい。

 

同時に私達も場所を移された。

 

場所は神聖ミスルギ皇国、あのビビり皇帝ジュリオはエンブリヲによって暗殺された後らしい。

 

エンブリヲは私達にダイヤモンドローズ騎士団に強制加入させた。

 

三人してあのコスプレ制服を着用している始末。

 

この制服のお陰か感染した部分を隠せているので何とも言えない。

 

加入の件に関しては戦力上MSと特機が各一機と戦艦一隻なので一個隊として動くなら妥当なのだろうか?

 

直属のラグナメイル五機じゃ手が足りてないと見える。

 

他にもミスルギ皇国軍には大ゾギリア共和国やキャピタル・アーミィ、トワサンガ、ジット団、ネオ・アトランティスなどが加わっている。

 

一部は元の世界への帰還を条件に加わっている派閥もあるので何とも言えない。

 

拉致られる前、イグジスタンスは戦線を一時的な冷戦状態に持ち込む為にドアクダー軍団、魔従教団、神聖ミスルギ皇国に仕掛けているので風当たりが酷い。

 

寧ろ恐怖の対象になっているらしく余り話しかけられないのが幸いだった。

 

そんな中で私達はアンジュと話すタイミングを得られた。

 

エンブリヲとの会話の後、自室に戻されたアンジュの様子を見に来室した私達。

 

開口一番、向けられたのは敵意だ。

 

 

「貴女は…!」

「この間はどうも。」

 

 

妹さんの救出作戦で顔合わせした位で余り接点はない。

 

事情を知るマサキ達が軽く説明した位だろう。

 

 

「どうしてエンブリヲに…!?」

 

 

アンジュの疑問は最もだ。

 

だから素直に答えた。

 

 

「…奴に仲間を奪われたからよ。」

「えっ?」

「アイツは他の世界から女達を集めて自分の隠れ処に保管しているのさ。」

「その中に私達の仲間も捕らわれているの。」

 

 

ハスミを含めエルーナやセツコの言葉に動揺するアンジュ。

 

 

「でも、貴方達はどうして…」

「私達自身も奴に枷を付けられて逃げられない状態なのよ。」

「そうだったの…」

「でも、貴方はまだ何もされていないから逃げる事は出来る。」

 

 

ハスミの説明の後にアンジュは声を上げた。

 

 

「えっ?」

 

 

アンジュに脱走を促すエルーナとセツコ。

 

 

「アンタが脱走するなら手伝うって話だよ。」

「…」

「余り時間は残されていないわ、どうするの?」

「お願い出来る?」

 

 

アンジュの即答と共に私達は行動を起こした。

 

同時にアンジュを救出する為に現れたアルゼナルのメンバーやアウラの民の先行隊。

 

彼女らの援護もあってアンジュはメイドのモモカと共に脱出した。

 

 

******

 

 

アンジュ達を逃がした事で折檻を受けた私達。

 

DG細胞を応用した口にしたくない程の酷い折檻だった。

 

数時間の折檻を受けた後、エンブリヲは私達に指示を出した。

 

 

「君達に仕事を頼みたい。」

「仕事?」

「ああ、ホーリーウッドについて知っているかな?」

「いえ…」

「情報を集めた上で、そのホーリーウッドを再生させる根源を奪取して貰いたい。」

 

 

ホーリーウッドは聖なる力の宿る大樹…

 

エンブリヲは何に使う気だ?

 

 

「それを奪取すれば…今回の無礼行為の一件は不問とし眠っている者の命を保証しよう。」

「…了解。」

 

 

ホーリーウッドの土壌を正常に戻すヨカッタネの在処は判っている。

 

ドアクダー軍団の第五界層のボスであるアック・スモッグルが所持している筈だ。

 

この事をエクスクロスに知らせられればいいのだけど…

 

今は流れのままに進むしかない。

 

 

=続=

 





汚染された大地。

それはひっそりと芽吹きの時を待っている。


次回、幻影のエトランゼ・第百十六話『光樹《ホーリーウッド》』


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