幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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鳥籠の鳥は鳴かない。

飾り立てた鳥は飾り。

それは彼女達も…


籠の付箋

 

エンブリヲによる集団拉致事件。

 

それはアル・ワースだけに留まらず、多元地球や新西暦の世界にも及び…

 

念願のスフィアリアクターを手に入れた事で過激さは日に日に増していた。

 

エンブリヲの箱庭とも言える閉鎖世界には続々と各世界から女性達が運び込まれている。

 

彼女達は…飾り物の様に保管されていた。

 

 

******

 

 

アル・ワースでの拉致から数週間後。

 

 

~エンブリヲの城・城内テラス~

 

 

エンブリヲはお気に入りの女性達を集めて午後のお茶会を開いた。

 

彼好みもあるが、その女性達に似合うドレスも指定している徹底ぶり。

 

文字通り籠の中の鳥を愛でる様に…

 

 

「…」

「君達のお陰で私のコレクションは着実に増えつつある。」

「…そりゃどうも。」

「…」

 

 

テラスに供えられたテーブルにアフタヌーンティーが用意され、エンブリヲと拉致されたリアクター三人が着席していた。

 

ごく普通のお茶会なら楽しめただろう。

 

目処前の存在が居なければだが…

 

 

「これは君達への労いも兼ねているのだが…お気に召さなかったかな?」

 

 

労いと都合の良い言葉が告げられた。

 

人攫いの片棒を担がされた…気分が悪いに決まっている。

 

目処前のチョコレート系のケーキに罪はない。

 

 

「…(我慢しなきゃ。」

「…(セツコ、本音が駄々洩れ。」

 

 

セツコも敵が出した食事に手を付けたくないのは判る。

 

それが好物のチョコレート菓子でもだ。

 

本人の意思とは別に食べたい欲求が強いのが犇々と伝わってきた。

 

 

「…(エルーナさんは普通に食べてるし、何時でも余裕な点は見習いたい。」

 

 

エルーナは出されたお茶とケーキに手を付けている。

 

長年の経験で毒が入っていないと見抜いたのだろう。

 

それは私も見抜いている。

 

奴が此処で私達の命を奪う事はしない。

 

絶対安全な枷を私達に付けている以上は…

 

 

「…(お茶に使われている茶葉がこのケーキに合うのが腹立つ。」

 

 

私ことハスミもお茶とケーキに罪はないので食べてしまっている次第。

 

アフタヌーンティーなので礼儀作法は守るけど。

 

 

「お、美味しい…ぐすっ。」

 

 

流れでセツコも我慢できずにチョコレートケーキに手を出してしまったのである。

 

悔し泣きか食べるかはセツコに任せた。

 

 

「エンブリヲ、単刀直入に聞きます。」

 

 

ハスミはお茶で一息ついた後、質問に入った。

 

 

「女性達を集めてどうするつもりですか?」

「シンプルだが解り易い質問だね。」

「貴方が女性を集めると言う点は理解しました…問題は集めてどうするつもりだったのか?」

「…君達は人類の滅びが迫っている事は知っているね?」

 

 

エンブリヲが語ったのは一万と二千年の周期で起こる大災害の事。

 

その災害の前の時期にエンブリヲは属する世界で実験を行った結果。

 

この世界へと辿り着いた。

 

次元力の干渉や影響のない閉鎖世界。

 

此処が新たな楽園に成ると…

 

その楽園に自分以外の男は不要。

 

それ故に優秀な女性達を各世界から連れ出したらしい。

 

 

「…(奴の考えは原作と同じか。」

 

 

ハスミは目元を伏せてお茶を口にした。

 

 

「悲しみを癒す乙女、全てを欲する金牛、英知を識る山羊。」

 

 

エンブリヲは告げた意味の順に私達の顔を眺めた。

 

 

「君達を手に入れた事は私にとっても大きな好機だよ。」

「…」

 

 

私も二人も奴に眺められて嫌な気分だろう。

 

誰がアンタみたいなクソ鰤に協力したいと思う?

 

人質となった皆の為だ!

 

それを忘れるな…今なら奴をダロル湖かナトロン湖に沈めたい気分だ。

 

いや、因果地平の彼方へ飛ばすのが正しいか…

 

 

「君達には次の仕事も頼みたい…逆らえば解るね?」

「!?」

「い、いやっ!?」

「また、かい…っ!」

 

 

エンブリヲの言葉と同時に座席から崩れ落ちる三人。

 

全身に広がるDG細胞を利用し一部の痛覚が過敏にされた。

 

 

「…(こんな事で、屈したくないっ!」

 

 

どんなに抗っても全身の発熱がそれを遮ってしまう。

 

今回はどれ位我慢すればいい…?

 

 

「さて、何処まで持つかな?」

 

 

エンブリヲは優雅で悪魔めいた笑みで三人の様子を観察していた。

 

解放されたのはそれから数時間後だった…

 

 

「…」

「セツコ…大丈夫?」

「良く耐えたよ。」

 

 

日々行われる責め苦によってセツコの精神は徐々に擦り減らしていた。

 

与えられた一室のベッドの上で顔を覆ってすすり泣くセツコ。

 

私とエルーナさんでセツコのフォローをする日々を送っていた。

 

 

「ハスミ、いつまで続きそう?」

「アウストラリス達が打開策を見つけるまでは何とも言えません。」

 

 

城の地下には囚われた女性達が次元力で作られた牢獄に閉じ込められていた。

 

奴が改造したDG細胞を感染させられ身動きかとれず眠り姫の様に安置されていたし。

 

それはまるで博物館の見世物の様に…

 

丁重に保管されている。

 

ある程度の自衛が出来る女性は牢獄で眠りに就かされているし…

 

一部はDG細胞の影響下で城の管理を行っていた。

 

彼女達の自我は無く、さながら着せ替え人形の様である。

 

現時点で全員を救い出す為にはDG細胞の影響緩和と陽動作戦が必要。

 

私達自身もここへ到着後に感染させられた以上は下手な動きは取れない。

 

人質が居る以上、奴への協力を強制させられている。

 

ちなみに一度反抗して痛覚10倍の刑や口では言えない数々の折檻は既にやられており、地獄を見てしまった。

 

エルーナさんや私は兎も角セツコは余りの羞恥に発狂し掛けたのでフォローするのに手間が掛かった。

 

正直…生きた心地はしない。

 

エンブリヲは嬉々としてこの事を彼らに告げるだろう。

 

その時こそ奴の最後と思いたい。

 

 

=続=

 






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