幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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剥がれる理。

お前達の天狗は何処から?

圧倒的な力の前に伏せよ。

己の立場を理解せよ。

そして敗北は平等に…


剥の付箋

 

前回のデス・ゴッドがお星様になって早数日が経過。

 

私ことハスミはアル・ワースの戦線の混乱を起こした。

 

魔従教団とドアクダー軍団に連戦を繰り返し、奴らの協力者らをほぼ壊滅に追い込んだガイオウ達と共に一度多元世界へと帰還。

 

例の如くあの奪還作戦と復活の日を迎えた後…

 

ある事件が発生するが終盤で説明する。

 

今回はその事件後にアル・ワースで起こった出来事。

 

神聖ミスルギ皇国の闇と黒幕についてだ。

 

 

******

 

 

今回の話は前回に続いてアル・ワースでの出来事。

 

エクスクロスに参加するアルゼナルのノーマの一人アンジュ。

 

元は神聖ミスルギ皇国の第一皇女アンジュリーゼ。

 

成人式の日にノーマと発覚しアルゼナルへと落とされた。

 

ノーマとはマナと呼ばれる魔法を生まれながらに使えない人々の事。

 

その多くは女性が多くアルゼナルも構成員の多くが女性だ。

 

実際は調律者と名乗るエンブリヲが仕掛けた事が原因だが…

 

アルゼナルはドラゴン退治の為にノーマに架せられた刑罰の流刑地。

 

ドラゴンの中にあるドラグニウムと呼ばれる物質を手に入れると極秘裏に皇国へ送っていた。

 

そのドラグニウムをマナの根源にされているアウラと呼ばれるドラゴンへ変換し循環させる事でマナの魔法は成り立っていた。

 

ドラゴン達は元々アウラを崇拝する人々でアウラの民と呼ばれている。

 

エンブリヲによって滅ぼされた地球の人々の生き残りであり、ドラゴンの襲撃もアウラ奪還の行動でもあった。

 

巡り巡ってエンブリヲと言う存在に気付いたアンジュ達はアウラの民と手を組み立ち向かう事となる。

 

今回の出来事はその道中で発生した彼女の妹を救う為に起こした行動であるが…

 

実際は罠であり国民の前でアンジュを処刑する為のものだった。

 

このアンジュも前世の記憶を取り戻しており、何かあって誘いに乗ったのだろう。

 

私達もユーサー皇子と共に神聖ミスルギ皇国に出向く形だ。

 

使者として向かったマルグリット卿の安否確認の為に…

 

 

~エクスクロスの陽動作戦から数時間が経過後~

 

 

神聖ミスルギ皇国に近い国境付近。

 

陣形を組んで待機するインサラウムのAS部隊。

 

 

「ハスミ、どうだろうか?」

「残念ですが、マルグリット卿は既に…」

「…そうか。」

 

 

マルグリット卿は既にエンブリヲによって連れ去らわれた後だった。

 

奴の事だ、気に入った女性をそう易々と手放す気はないのだろう。

 

同時に嫌な予感は的中した。

 

 

「陛下、ミスルギ皇国の部隊の様です。」

「通信が入っておられますが…」

「此方に回してくれ。」

 

 

自身の護衛として出撃したウェインとシュバルの問い掛けに答えた。

 

 

「聖インサラウム皇国のユーサー殿下とお見受けするが?」

「神聖ミスルギ皇国のジュリオ皇帝…」

 

 

通信の相手は現在の申請ミスルギ皇国の皇帝…ジュリオ。

 

あのアンジュの兄だった。

 

 

「そちらへ使者として送ったマルグリット卿の件について話したい。」

「彼女は謁見を終えて自国へ戻られた筈だが?」

「戻ってきた配下の話ではそうではない……それにはどう答える?」

「…マナも使えぬ卑しい者達が。」

 

 

そこからの展開は早い。

 

話は通じずジュリオは勝ち目のない戦を先に仕掛けたのだ。

 

 

「殿下!?」

「構わん!各機応戦しこの場を乗り切る!!」

「待ってたぜ!!」

「承知!」

 

 

ユーサーはシュバルとウェインらに攻撃の指示を与えて応戦する。

 

 

「ヒビキ、ガドライト、ハスミ、君達は先行して皇国へ向かってくれ。」

「えっ?」

「おいおい…マジか?」

「皇子…ですが。」

「この布陣で機動力があるのは君達の機体だ……頼む。」

「判りました。代わりにアルシャト隊を置いていきます。」

「なら、俺んとこの部隊も置いていくぜ…手数は多い方がいいだろう?」

「済まぬ。」

 

 

今回の敵の部隊は機動力がある機体が多い。

 

重量級の機体である皇子やアークセイバーに手間を取らせてしまう。

 

 

「アルシャト隊!皇子を護衛しアークセイバーと連携の上で敵を蹴散らせ!!」

 

 

ハスミは連れて来たアルシャト隊に指示を出して連携体制を取らせた。

 

 

「お前らも俺らが戻るまでヘマすんじゃねえぞ!」

「頼みます!」

 

 

同じくガドライトもジェミニス隊に指示を出す。

 

同じ部隊に所属するヒビキもまた声を掛けた。

 

 

「俺達が道を切り開く!!」

「行かれよ!!」

 

 

シュバルとウェインの協力の元で戦線が切り拓かれた。

 

同時に三機は隙間を抜けて神聖ミスルギ皇国へと向かった。

 

 

>>>>>>

 

 

その頃。

 

神聖ミスルギ皇国では…

 

 

「やっぱりね。」

 

 

陽動作戦によって皇宮へと侵入したアンジュ、アマリ、イオリの三人。

 

皇宮内の護衛を掻い潜りアンジュの妹であるシルヴィアを再会した。

 

 

「私を呼び戻してどうするつもりだったの?」

「アンジュリーゼお姉様、何を?」

「惚けるな…!」

 

 

アンジュは茶番劇を終わらせる為に声を荒げた。

 

 

「どうせあのクソジュリオの入れ知恵でしょう?」

「良く気が付いたな、ノーマよ。」

 

 

皇宮の広間に絞首台が設置されていた。

 

公開処刑を行う為の舞台は整っている。

 

現れたジュリオはシルヴィアと合流し侮辱の声を告げた。

 

アンジュは気にせず嫌味で返した。

 

 

「足らないお頭のアンタの考える事はお見通しよ。」

「貴様…」

「お兄様を侮辱…ひっ!?」

 

 

アンジュはシルヴィアの乗る車椅子を撃ち抜いた。

 

 

「アンタもいい加減、か弱い女の子の振りを止めたら?」

 

 

アンジュは銃で威嚇したままシルヴィアの車椅子を蹴り上げ彼女を振り落とした。

 

 

「ひっ!…私の足は貴方が…!」

「貴方の足はもう治っているのよ…問題は貴方が歩こうとしないだけ。」

 

 

アンジュは皇女時代に宮廷医より経過報告を聞かされていた。

 

シルヴィアが歩けないのは自分自身の問題であると…

 

 

「さっさと歩きなさい!自分の力で!!」

 

 

アンジュは弾が尽きるまで銃を放ち威嚇し続けた。

 

 

「あ、いや…いやぁあああ!!!」

 

 

目処前の死に反応しシルヴィアはゆっくりと体を動かして立ち上がった。

 

そして舞台から落ちると物陰に逃げて行った。

 

 

「…馬鹿妹。」

 

 

そして、銃撃の音で足元が竦んでいるジュリオに顔を向けた。

 

 

「さてと…アンタの相手もしないとね?」

 

 

アンジュはジュリオに銃を突きつけた。

 

 

「ひいぃいい…護衛は…護衛はどうした!?」

 

 

ジュリオは隠れていた護衛を呼び寄せようとしたが…

 

 

「それはコイツらの事か?」

 

 

控えていた護衛は全員気を失って倒れており動く事が出来なくなっていた。

 

新たな来訪者によって…

 

 

「そ、そんな…」

 

 

護衛の一人の首根っこを掴んで現れた存在。

 

 

「神聖ミスルギ皇国の皇帝ジュリオ……貴様に聞きたい事がある。」

「エンブリヲとの関係と連れ去った女性達を何処へ移送した?」

「返答次第じゃタダじゃ置かねえぞ?」

 

 

この場に現れた来訪者達…順にヒビキ、ハスミ、ガドライトである。

 

 

「イグジスタンス!?」

「どうしてここに…?」

「事情は先の通りよ、この干物皇帝が私達の仲間を連れ去った奴と繋がっている。」

 

 

今まで手を出していなかったイオリとアマリの問い掛けにハスミは答える。

 

 

「馬鹿な…護衛の他に我が国の民達が!」

「それなら俺らの力で黙って貰っているぜ?」

「むやみに傷つける必要もない。」

 

 

護衛の他に見物客として集まっていた民衆達。

 

それらはガドライトとヒビキのスフィアいがみ合う双子の力で沈黙していた。

 

 

「視させて貰うぞ…お前の持つ真実を!」

 

 

ハスミもまた知りたがる山羊のスフィアを開放しジュリオの知る情報を得た。

 

 

「…そう言う事か!」

「ハスミさん、どうしましたか!?」

「先手は打たれた…国から撤退する!」

「ちっ無駄骨って訳か!」

「ここまで来て…!」

 

 

ハスミはスフィアで得た情報を共有すると周囲に国から脱出する様に促した。

 

 

「エクスクロス、そちらも撤退を!」

「…判りました。」

「アンジュさん、妹さんは…」

「…連れてくわ。」

 

 

アマリ達に促されたアンジュは物陰に隠れていた妹を気絶させると合流したメイドのモモカとタスクを引き連れて脱出。

 

 

「タスク、来てくれてありがとう。」

「俺は何もしてないよ。」

「でも、来てくれたでしょ?」

 

 

アンジュは危機を察知し救援に来たタスクに礼を伝えた。

 

 

~皇宮から脱出後~

 

 

陽動作戦を済ませて合流したエクスクロス。

 

皇国の部隊は国境付近に出現したアークセイバーへの攻撃で戦力を集中させた結果、無防備になりつつあった。

 

脱出した様子を目視したワタルから声を掛けられた。

 

 

「アンジュさん、妹さんは?」

「助けたけど…後で説教が必要って所よ。」

 

 

気絶したままではパラメイルに乗せる事は出来ない。

 

なので手足を縛った状態でモモカと共にゼルガードに預けた形である。

 

同時に出現するジェニオン、ジェミニア、エクリプス。

 

 

「イグジスタンス!」

「どうして彼女達が?」

「事情は後だ!早く国から撤退を!!」

「えっ?」

「黒幕野郎が次元嵐で国ごと俺らを消滅させる気だ!」

「次元嵐?」

「次元力で発生する嵐です…巻き込まれればタダでは済みません!!」

 

 

ミスルギ皇国に次元嵐が発生すると告げるイグジスタンス。

 

彼ら…特にハスミの言葉に嘘はないとゴーカイジャーのマーベラスが答えた。

 

 

「アイツらの言葉通りだ…早い所、逃げた方が良いぜ!」

「キャプテンマーベラス、彼らを頼みます。」

「任せて置け。」

 

 

アンジュ達を回収後、ゴーカイガレオンに先導されエクスクロスは撤退した。

 

 

「ハスミさん、この国の人々は?」

「もう次元嵐の届かない範囲に転移させた。」

「仕事が早いことで…っ!」

 

 

その時、国を覆っていた次元力の流れが変わった。

 

同時に転移者の姿をあった。

 

 

「漸く会えたね。」

「エンブリヲ…!」

 

 

黒幕の一人であるエンブリヲが漆黒のパラメイルと共に現れた。

 

ハスミは冷静さを失わない様に黒幕の名を呼んだ。

 

 

「おや?私の名を知るとは…イグジスタンスは情報共有が早い。」

「お世辞は要りませんよ。」

「すまし野郎!アンナロッタ達を何処へやった!!」

「スズネ先生、セツコさん、エルーナルーナ達も!」

「エメロード姫や光達、マルグリット卿もお前に拉致されたのは判っている!!」

 

 

不在中にエンブリヲに連れ去られた仲間の名を叫んだ。

 

 

「彼女達は丁重に預からせて貰っているよ?」

「…」

「勿論返せと言われても返す気はない。」

「テメェ…!」

「なら、奪い返すまでだ!」

 

 

エンブリヲも奪い返される事を考慮して答えた。

 

 

「これでも戦えるかな?」

 

 

エンブリヲが用意したのは呪いを込めた人柱だった。

 

機体に見覚えのあったヒビキとガドライトは叫んだ。

 

 

「あれは…!」

「他の世界の戦力を呼び寄せやがったのか!」

「そんな…まさか!」

 

 

そしてハスミはスフィアで知った。

 

目処前に出現した機体のパイロット達の正体を…

 

 

「エンブリヲ…!!」

「君にも判るだろう…従順な私の選んだ美しい乙女達を?」

「彼女達をDG細胞で無理やり従わせたのか!」

「その通りさ、あの細胞はとても役立っているよ。」

 

 

この分だと連れ去られた女性達はもう…

 

 

「ハスミ…?」

「ステラ…フォウ…クスハ…皆。」

「私達はいいから…」

「あの人を…」

「…」

 

 

判断が鈍る。

 

これじゃあ彼に顔向けできない。

 

決断しろ…私が出来る決断を…!

 

 

「君が大人しく来れば彼女達を引き下げよう。」

「…」

「ハスミさん、駄目だ!?」

「ヒビキ、ガドライトさん……後の事を頼みます。」

 

 

ハスミの決断は彼女達の安全を確保する事。

 

 

「では、案内しよう。」

「…」

 

 

エンブリヲは出撃させた機体を撤退させ、エクリプスと共に転移した。

 

コックピットでハスミは静かに呟いた。

 

 

「ゴメンなさい…ヴィルダーク。」

 

 

敗北に屈する事への謝罪の言葉と愛する人の名を…

 

 

=続=





~その頃、新西暦の世界では~


天鳥船島である異変に気が付いた存在達が居た。


「カーウァイ、テンペスト。」
「光龍…」
「…」
「ちょっと…あの次元将にお小言をしに行こうか?」


笑っていない顔の三人。

アビスは緩んだ。

多元世界への道は開かれたのだ。


「調律者とやら…僕らの娘に手を出した報いは受けて貰うよ?」


アル・ワースに嵐の前の静けさが広がりつつあった。


=続=

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