幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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悪意の流れ。

これは暗躍者達の勝利。

だが、その悪意に立ち向かおうとする存在もいる。

それを忘れるな。


第百十二話 『悪流《アクリュウ》』

 

ZEXISは第303独立愚連隊の離反、カミナとマーグを失った。

 

黒の騎士団は行政特区で起こった『血塗られた眼』の直接的な犯人として仕立て上げられていた。

 

だがそれは余計にブリタニア・ユニオンへのヘイトを上げる事となった。

 

原因は既にイグジスタンスが国連を通して次元力の暴走で起こる奇病であると判明している事。

 

原因が判明している以上、全ての責任を黒の騎士団に押し付けるには無理がある。

 

しかし、世論は黒の騎士団を糾弾しゼロも姿を消す事態も起きて事実上機能不全へと陥った。

 

俗に言う形を変えたブラックリベリオンが引き起こされたと言っていい。

 

更に別行動中だったソレスタルビーイングはヴェーダとのリンクが途切れた上に反乱者の汚名を着せられ…

 

所在地を晒された上に三大国家でも強硬派の部隊に襲撃を受けた。

 

三大国家に疑似GNドライブが行き渡っていたらしく裏切り者の暗躍が早期に起こったらしい。

 

これによりロックオンは効き目を負傷した状態で戦った為に行方不明、他のマイスター達も敵に捕縛されたり戦闘不能へと陥った。

 

同じく別行動中だったZEXISが最悪の状況になる前に救助したがプトレマイオスは一部の人員を失った上に航行不能。

 

ZEXISは引き続き仲間と戦力の一部を失ったのである。

 

 

******

 

 

怒涛の出来事から二週間後。

 

 

<リモネシア共和国・政庁内>

 

 

政庁内に設けられた地下施設。

 

イグジスタンスの基地として利用されており、リモード大統領を含めた数名のみが入る事を許されている。

 

その医療施設として使用されてる研究エリアにて。

 

 

「…」

 

 

ソレスタルビーイング崩壊を受けてZEXISと別行動を取っていたクロウ。

 

ロックオンとペアを組んでいたオレンジ色のハロは彼が引き取っている形だ。

 

そのハロはリンクから外れているとはいえ、ヴェーダからの監視の危険性も含めてリンクを阻害するフィルターを搭載。

 

オレンジハロ自身も簡易的な思考だけのAIとは言え、ある程度は理解したらしい。

 

 

「クロウ、ゲンキナイ?」

「解るか?」

「ロックオン、オキナイ、オキナイカラ。」

「…当分は無理そうだとさ。」

 

 

隔離されたエリアを通路の窓越しに見るクロウとオレンジハロ。

 

そのエリアは医療施設の一角で無数の調整槽が均一に設置。

 

数槽程使用されているが、内部確認の為の窓が封鎖された状態。

 

ロックオンが入っている調整槽だけは眠っている本人を確認する事が出来ている。

 

負傷が激しい効き眼部分には治療用のパットが当てられ治療は継続中だった。

 

 

「…(刹那、悪りぃ…お前らを騙す結果になっちまった。」

 

 

現時点でロックオン達が無事である事をソレスタルビーイングやZEXISに知らせる事は出来ない。

 

仲間の死を超えて自らの足で歩む事…

 

それこそが彼らの成長を促す事に繋がる。

 

お小言を貰うヒール役はするとクロウは心に決めていた。

 

 

「クロウさん…ここでしたか?」

 

 

医療施設へ訪れたハスミとセツコ。

 

 

「ハスミとセツコか。何かあったのか?」

「実はロックオンさんの機体は回収しましたが…」

「これを期に機体へ改修を施そうと思いましてね。」

「対アロウズ用って訳か…」

 

 

先のソレスタルビーイングを襲撃した強硬派の部隊は後のアロウズと化す部隊。

 

手引きはリボンズ・アルマーク率いるイノベイト達だろう。

 

ヴェーダ奪還まではリンクを遮断する必要がある為、デュナメスの改修作業に時間を要する。

 

此度の戦いには間に合わないが、アロウズが舞台に立つ頃には間に合わせる予定だ。

 

 

「成程、格納エリアにあったあの機体とかもその改修作業に入るのか?」

「…今後の戦いで必要になるのは判り切っていますからね。」

「だな、俺らが戦った奴らの他に別の並行世界で暴れていた連中も出て来た以上は…」

 

 

クロウが話していたあの機体の詳細はさておき…

 

彼の言う通り、イグジスタンスはアル・ワースでの戦いも控えている。

 

戦力を二分し双方の世界の戦いへ介入する事が決定した。

 

但し、メインはZEXISとエクスクロスが戦いの中心になるので露払い程度だ。

 

積極的に戦いへ加入を進めて来るだろうが、断固拒否する。

 

彼ら自身がシンカの道を進み会得する為には私達が影から促す事しかないのだから…

 

 

「ハスミ、ブラックリベリオンとソレスタルビーイングの崩壊が起こってしまったけど…」

「アカシックレコードは成るべくしてなったと言っていた…いくら私でも止めようがない。」

「前に話していた止めてはならない流れの事?」

「…そうよ。」

 

 

無限力の意思も復活してチラホラと動きを見せているし。

 

この破界の先に再世の時代が訪れる。

 

そして終焉へと導く時獄と天獄が始まる。

 

 

「捻じ曲がってしまったけど、こちら側の地球連邦軍が設立される。」

「アロウズ…ティターンズの設立を思い出すわね。」

「今回は設立を阻止したから違和感があると思う。」

「実際にこれからあの事件が起こると思うと…」

 

 

アロウズが引き起こす一方的な武力介入。

 

正義と言う暴力の果てに力無き者を蹂躙するだけの行為。

 

 

「それを阻止するのがZEXISでありソレスタルビーイング。」

「…」

「直接的な介入は出来ないし彼らの為にならない。」

「それでも。」

「悲しみを広げたくない…でしょ?」

「あ…」

「だから、私達が裏側から彼らの手助けをするのよ。」

「ハスミ。」

 

 

ハスミもこの謀略に屈する彼らを救う手筈を整えていた。

 

流れを知るからこそ、救うべき命を救う道を模索していると…

 

セツコはそれを察して安心した表情を見せた。

 

 

「ハスミ、頼みがあるんだが?」

「頼みとは?」

「沙慈の恋人と姉ちゃん達を救いたい…間に合うか?」

 

 

クロウもまた悲劇を繰り返させない為に動きたいと答える。

 

ハスミはそれに応える様に答えた。

 

 

「無論です。その為に尋ねたのですから。」

「…済まねぇな。」

「私は以前に言った筈です…あのサージェスは潰すと?」

 

 

ハスミの視線は冷徹さを秘めていた。

 

理不尽な暴力を振りかざす相手に対して鉄槌を下す為に。

 

 

「リボンズにとって資産家であるハレヴィ家の経済力と財力は手に取る程に欲しい筈です。」

「それであの時…トリニティに狙わせる為にしたのか?」

「ええ、あのリボンズの事です…沙慈・クロスロードの姉が嗅ぎまわって手に入れた情報は消したい案件でしょう。」

 

 

前世上の流れになる。

 

絹江の死によって各国のジャーナリスト達はソレスタルビーイングに関する報道から手を引いた。

 

このまま報道を続ければ、自分達の命が危ういと察した為に…

 

だが、密かにソレスタルビーイングの真実を追って報道を続ける者達も存在した。

 

アロウズに対抗しようとしたレジスタンスの一つカタロンもそうであった様に。

 

 

「…奴が行動を起こすのは今夜です。」

「例の結婚式は?」

「そちらは私の部下達が監視を行っているので、動きがあれば動く様に指示してあります。」

「…」

「今はあの無精ひげを仕留めるのが先です。」

 

 

~数時間後~

 

 

夜も更け、都心には消えない灯りが灯るビル街。

 

その街の中にも闇は存在する。

 

下層エリア…ダウンタウンの様な光景が広がる場所。

 

沙慈の姉である絹江はゲイリー・ビアッジと言う男性と接触し情報を得ようしていた。

 

だが、その行動は浅はかだった…

 

 

「アンタは踏み込み過ぎたんだ…この世界の闇にな?」

「ひっ!?」

 

 

人気のないダウンタウン。

 

そこで助けを呼ぶ事は出来ない。

 

絹江は腹部を拳銃で撃たれて身動きが取れない状況。

 

出血も酷く、治療しなければ命はない。

 

弱肉強食の…喰うか喰われるかの状況の最中。

 

だが、最悪の状況でも正義の女神は平等に奇跡を迎えさせた。

 

 

「いい加減にしろや、この髭達磨?」

「テメェらは…?」

 

 

ゲイリーことサージェスが向けていた拳銃をアーミーナイフを投げ付け弾いたクロウと…

 

打刀を携えたハスミの姿があった。

 

 

「PMCトラストのゲイリー・ビアッジ…いや、アリー・アル・サージェスと呼んだ方が?」

「っ!?」

「私達はソレスタルビーイングではない。そうね…独特な奇声を上げる青年に聞いたと言えば解るかしら?」

 

 

ハスミは間髪入れずにサージェスの名を答えた。

 

サージェス自身も自身の素性を知られた

 

 

「テメェ、あの基地外野郎の知り合いか?」

「顧客と言った方が正しいです。」

「へぇ~アイツも随分と偉くなったもんだぜ?」

 

 

嘘と真実を織り交ぜて答えるハスミ。

 

嘘の様で真実に近い言葉はサージェスを油断させる為の話術である。

 

 

「さてと、彼女を狙ったのは…大体は察していますので。」

「だったら…テメェらも纏めて始末するだけだ!」

 

 

サージェスはダウンタウンの廃屋に隠れていた仲間に指示を出してクロウ達に銃を向けさせた。

 

 

「あーあー、止めとけばいいのによ?」

「へっ?」

 

 

クロウの発言にサージェスは間抜けな声を上げた。

 

クロウ達に銃を向けていた仲間が瞬時に倒されたのだ。

 

 

「ったくよ、全然手応えねえぜ?」

「暇つぶしとしてそちらに渡したのですから善処はしましたよ?」

「これなら獣人かあのバケモン連中を相手にしていた方が…まだマシだぜ?」

 

 

崩壊する廃屋と山積みにされたサージェスの部下達。

 

その主犯が呆れた口調で現れたのだ。

 

 

「は?」

 

 

これにはサージェスも驚愕せざる負えない。

 

目処前に現れたのは破界の王と呼ばれた存在なのだから…

 

 

「話が逸れましたね、貴方をここで仕留めさせて頂きます。」

「この俺を仕留めるってか?随分と大きく出たな…イグジスタンス!!」

「はぁ、口五月蠅いですよ……無精ひげ。」

 

 

サージェスの悪あがきにハスミの毒舌が開始する。

 

 

「ああ、ついでですけど?身綺麗にしても体臭が酷いですね……特に足とか?」

「はぁ!?」

「あら?図星ですか?」

「俺は臭くねぇし!!」

「否定すると余計に本当になりますけど?」

「そういや…テメェから嫌な臭いがするな?」

「俺も同意するぜ?」

 

 

ハスミの発言でサージェスの体臭がピックアップ。

 

同じ様に同意するかの様に答えるクロウとガイオウ。

 

この場で勝ち目のないサージェスが取った行動は…

 

 

「て、テメェら……くそぉおおおおお!!」

「裏切り者の監視者達によろしくお伝えくださいね?」

 

 

体臭(特に足)が臭いと言う不名誉なレッテルを貼られたまま撤退したのである。

 

ちなみにガイオウに仕留められた部下達も散り散りに退散した様だ。

 

出血が止まらない絹江は自身を救ってくれた人達に声を掛けた。

 

 

「あの…貴方達は?」

「絹江・クロスロードですね?」

「はい。」

「私達はイグジスタンス。」

「イグジスタンス…貴方達…が!?」

「貴方のジャーナリストとしての協力が必要です…まずは治療が最優先ですね。」

「…」

 

 

その後、絹江・クロスロードは何者かに襲われ死亡したと報道された。

 

それは偽りの力で彼女を守る為の言葉だった。

 

 

 

=続=





悲劇の果てに。

彼らは強くならねばならない。



次回、幻影のエトランゼ・第百十二話『改始《カイシ》』



さあ、改めて始めよう。

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