幻影のエトランゼ   作:宵月颯

211 / 237

齎された真実。

真の敵の正体。

語るには余りにも悲惨な…

創造主の求めた末路。


第百九話 『解告《カイコク》』

 

サンクキングダムのでの戦いの後。

 

私達は眠りから目覚めたソルからの忠告を受けた。

 

 

『真の敵の名は…ナルーダ・タドーケ』

 

 

真の敵の名はナルーダ・タドーケ。

 

創造主であり創生と滅亡を司る…云わば始まりの高次元生命体。

 

幾多に別れた様々な世界を構築した人物。

 

長きに渡ってこの世界も構築し成り立ちを与えた。

 

此処も彼の遊戯盤であり救済もあれば破滅も与えられる。

 

平等であり不平等。

 

彼は何故…

 

生み出した幾多の世界の消滅を望んだのだろう?

 

私達はそれを知らなければならない。

 

 

******

 

 

あの日から三日が経過した。

 

サンクキングダムでの戦闘の後。

 

混成部隊に援軍として現れたブリタニア・ユニオンのスザク達と共に…

 

イルイの力で一度リモネシア共和国へ転移。

 

そこで一通りの話し合いを行う事にしたそうだ。

 

例の終焉に関しても秘匿と言う事で制限を掛けている。

 

実際、混成部隊はいずれもシンカに至っていない。

 

シンカの兆しが出た頃を皮切りに話す予定だ。

 

 

<リモネシア共和国・政庁内>

 

 

政務室で話し合いを行うアウストラリスとリモード大統領。

 

 

「大統領、やはり国連…いや、三大国家が動き出したか?」

「ええ、ファウヌスさんのお話通りで破界の王ガイオウを引き渡せと。」

「ふん、自らの手で制圧できぬ臆病者共が…」

 

 

サンクキングダムでの戦闘後、イグジスタンスがガイオウを捕獲した事を遠回しに知った三大国家。

 

ガイオウの身柄を国連に引き渡せ。

 

指示に従わない場合はリモネシア共和国を国連加盟国より除名。

 

反国連国家として武力制圧すると圧力を掛けていた。

 

碌に戦う事もせず、巣籠状態になっていた国連加盟国の国々。

 

イグジスタンスが手に入れた成果を横から攫う姿勢にアウストラリスは苛立ちの表情が見えていた。

 

 

「大統領、引き続き共和国の安全は保障する…三大国家からの通達の延長を頼む。」

「判りました。しかし再三の返事で拒否を行ったので…いずれは強硬手段に出て来るでしょう。」

「こちらにも策はある。奴らの驕り高ぶった意思をへし折り敗北を知らしめる必要があるだろう。」

 

 

掛かってくるのなら容赦はしないとアウストラリスはリモード大統領に答えた。

 

 

「…(問題は一部の機体が使えん事か。」

 

 

目覚めたソルの力を開放した事によってリアクター機はオーバーヒートを迎えた。

 

現在は最優先で修復作業を行っている。

 

尸空の死骸とハスミの念神は異空間で自己修復中の為に召喚は不可能。

 

問題はクロウの機体。

 

元々、他の機体とは違って初期型から許容範囲以上の力を引き出してしまった。

 

これによりブラスタは機能不全に陥った。

 

現在はトライア博士に引き渡し、リ・ブラスタへの改修作業を進めて貰っている。

 

 

「この状況を生み出した存在…やはりあの者の手引きか。」

「あの者とは?」

「ファウヌスが話していた危険人物の一人が動き出した様だ。」

 

 

アウストラリスは目を伏せて答えた。

 

危険人物が動き出した事を認識し改めて今の状況を対処しなければならないと…

 

同時に危惧している事も含まれていた。

 

 

「…(エンブリヲ、貴様と相対する時…貴様の命運は尽きたと思え。」

 

 

~数時間後~

 

 

リモネシア共和国・政庁内の遺跡。

 

現在も改装工事は続行中であり、ようやく完成した円卓の間でリアクター勢が会議を開始。

 

ややこしい事になった案件が多いので一部を除いたほぼ全員が雁首揃えてネガティブなオーラを放っていた。

 

 

「ナルーダ・タドーケ…それが此度の戦いの元凶。」

「その存在が自壊した直後のソルが遭遇した。」

「…奴は一体何者なんだ?」

「世界を消去すると考えている以上は碌な高次元生命体ではなさそうね。」

 

 

アウストラリスは目を伏せて答え、ユーサー、ヒビキ、ハスミの順に答えた。

 

 

「ハスミ、スフィアで奴の詳細は解るか?」

「いえ、恐らくはスフィアでも認識出来ないナニカで隠蔽されている様子です。」

「そうか…」

 

 

アウストラリスはハスミにスフィアで詳細を探れないかと尋ねるが不可能と答えた。

 

元々スフィアでアビス・メモリーが解禁されただけでそれ以上の存在である以上は識る事が出来ない。

 

相手も事象制御を行える為、こちらの覗き見の度に何度も書き換えをされてしまえば調べようもない。

 

 

「救いだったのはこちら側への事象制御が行えない事。」

「僕らの持つソルの護りがある以上は手出しは出来ないだろうね。」

 

 

今回の会議から参加したアイムの発言とアサキムの返答。

 

アイムの行った行為は許されないが、御使いの影響からの自己防衛による暴走である以上深くは言えない。

 

現在は監視と言う名目でこちらで預かっている。

 

同時に呑気にコーラ飲みながら話すガイオウも含まれている。

 

 

「おい、鎧女…これからどうするつもりだ?」

「ナルーダの事は今後も調査を継続しますし…当面の問題は貴方の行動ですかね?」

「…」

「別に責めている訳ではありませんよ。」

「なら、どういう意味だ?」

「やった事への責任は取って貰うのが筋では?」

 

 

ガイオウより鎧女と呼ばれたハスミの発言は正論であるが…

 

何処か棘があり物凄く機嫌が悪い事を示していた。

 

 

「ガイオウ、悪い事は言わねえ…今は黙って置いた方がいいぜ?」

「…」

 

 

クロウのヒソ声で無言になるガイオウ。

 

ハスミの尋常ではない気配を察して黙っている事にした様だ。

 

 

「ハスミ、シェーヌを始めとした民達の治療…感謝する。」

「皇子、その事ですが…まだ安心は出来ません。」

「理由は?」

「かつてのエスターの状況に陥る人も少なからず出てくる可能性があります。」

「今後も経過観察が必要だと?」

「はい。」

 

 

次元獣と化したエスターの時と同様に次元獣化した人々の治療を行った。

 

同時にあの現象に陥る可能性も否定出来ないので経過観察を続行中。

 

マルグリット卿にはその事を伝えて了承して貰った。

 

 

「完全な治療に至らず申し訳ありません。」

「…前回の情報を元に治療法を模索している、これ以上の貢献はない。」

 

 

いくらスフィアで解決方法を検索しても限度ある。

 

私は完全な治療法が確立するまで研究は続行し…

 

治療を施した人々の経過観察は継続していく事を約束した。

 

話を戻し、次の議題へ進める。

 

 

「アウストラリス、混成部隊への対応はどうされますか?」

「…」

「破界の王と言う世界共通の敵がこちらの手にある以上、彼らはそれぞれの戦いに戻る形となります。」

「ハスミ、例の存在はどうなった?」

「私達が目覚めさせたソルの力で奴は自身の巣へ帰還、復活まで時間を要するでしょう。」

「そうか。」

 

 

世界共通の敵が早期に倒された。

 

ZEXISの存続の意味を無くす事になる。

 

新たな害悪が出現しない限り…

 

 

「流れは変わった…」

「尸空さんの言う通り、破界の王の早期退場によって戦うべき存在が消えた。」

「実際、ガイオウが暴れていた方が統制が取れてたかもね。」

 

 

尸空の言葉の意味をハスミが解りやすく説明しエルーナも意見を告げた。

 

その意見に何故?と言う表情を示したヒビキ。

 

 

「…」

「ヒビキ、こちら側のAC世界…多元地球で引き起こされた戦乱にガイオウの破壊活動も大きく作用された。」

 

 

より強大な敵が現れた時、少なからず一致団結し脅威に立ち向かおうとする人々が出てくる。

 

その強大な敵が居なければどうなるか?

 

かつての様に紛争や小競り合いを続けて不安定な日常が続いたでしょう。

 

こちら側に地球連邦軍が設立の目処が立たない以上は…

 

 

「それに邪魔を仕掛ける存在もいる…裏切りのイノベイト達や戦乱を求める者達。」

 

 

ソレスタルビーイングはそう言った人々の悪意を集中させるハリボテ代わりになる筈だった。

 

私達側の世界に存在したクロスDCやアンチDCの元の姿であるDCもそれに該当する。

 

後者は私がホルトゥスとして介入しちゃったから有耶無耶になってしまったけど…

 

 

「あの存在も介入し始めた以上は例の一件も絡んでくる。」

「あの存在に例の一件?」

 

 

アイムの言葉に魔獣エンデとネバンリンナとハスミは答える。

 

 

「ハスミ、魔獣の一件は俺も聞いているが後の奴は?」

「ガーディムと呼ばれた人々が建造した独立型躯体。」

「ガーディム?」

 

 

クロウの質問に答えるハスミ。

 

 

「別の並行世界の銀河に存在した異星の人々、彼らも大災害の影響で滅んだ。」

「…」

「詳しい経緯はスフィアで直接視て貰った方が…かなりの情報量なので。」

 

 

ハスミ、VとXで起こった戦乱をスフィアで各自に脳内再生。

 

ある程度、簡略化しているものの…情報量は多い。

 

それにより頭痛を引き起こしたメンバーが数名程続出した。

 

 

「何と言うか一部の阿保と変態の襲撃は避けられないかと…」

 

 

ハスミ、VとXで遭遇するだろう一部の阿保と変態の襲来を告げた。

 

 

「ハスミ~あのガミラス艦隊と戦ってみたい~!!」

「…(エルーナさん、確実に言うと思った。」

「ハスミ、あのエンブリヲと言う女の敵は何処にいますか?」

「…(セツコ、顔が拙い事になっていますが?」

 

 

ハスミの服の裾を持ってフリフリするエルーナと般若顔になっているセツコの相手をするハスミ。

 

ハスミもまたどうしようもない表情で応対していた。

 

 

「あの世界の雑魚は馬鹿なのか?」

「…(バルビエル、創界山の階層ボスは大体何処か抜けてる人達です。」

「…」

「…(尸空さん、分かりにくいですが青褪めて思い詰めた表情しないでください。」

「マナの国、碌でもない思想国家だったか。」

「…(ユーサー皇子、それにはエンブリヲも絡んでいるのでお気持ちは察します。」

 

 

続けてバルビエル、尸空、ユーサーの状況にツッコミを入れた。

 

 

「何処の世界にも碌でもない連中は居るって事か。」

「クロウ、それ…お前が言える事か?」

「うぐっ!?」

「ランドの言う通りです。」

「…言えてるな。」

 

 

クロウの失言にツッコミを入れるランドと同調するヒビキにガドライト。

 

 

「…やれやれです。」

「楽しそうでいいんじゃないかい?」

 

 

現在のやり取りを傍観中のアイムとアサキム。

 

少しばかりの茶番の間、コーラの飲みつつ黙っていたガイオウはアウストラリスに話した。

 

 

「…テメェの集めた連中、骨のある奴らばかりだな?」

「そう思うか?」

「ああ、こんな状況でも慌てねえ…肝が据わってる連中だ。」

「それぞれが修羅場を潜り抜けた…ここに集った者達は志を一つにする同志だ。」

「お前、変わったな?」

「変わった?」

「堅物のお前がこうも許す連中だ、お前自身が変わったのもあるだろうよ。」

「そうかもしれん。」

 

 

戦友を取り戻したアウストラリスの表情は何処か憑き物が落ちた様に素直だった。

 

ガイオウの言う様に憂いの一つが無くなったのもあるだろう。

 

アウストラリスは無自覚に笑みを浮かべていた事に気づかず、ただ変わったとガイオウが告げるだけだった。

 

 

「ハスミ、ナルーダに関する現状報告は鋼龍戦隊のみとし混成部隊への緘口令を敷け。」

「判りました。」

「並びにインぺリウムは崩壊、ガイオウらの身柄はイグジスタンスが貰い受けると声明を出す。」

「問題は国連が納得するか…ですかね?」

「ガイオウが今後も事を起こさぬのなら奴らも黙る。我らと事を構える意志があるのなら別だがな?」

「成程、燻り出しですね?」

 

 

アウストラリスの言葉の意味を察して答えるハスミ。

 

 

「燻り出し?」

「混乱に乗じて三大国家を陰で動かす連中を燻り出す…それこそ表沙汰に出来ない情報もリークする予定。」

「表沙汰に出来ない情報?」

「国家…いや、現政府の混乱に政治家連中の汚職から蓋しておきたい事まで虱潰しに暴露するのかい?」

「正解。」

 

 

ヒビキの質問に対して答えるハスミ。

 

その答えに頸を傾げるもアサキムのフォローに正解と答えた。

 

 

「…半分はスフィア頼りになりますがね。」

 

 

スフィアを使えば大体の情報は丸裸に出来る。

 

それこそ、某政治家の裏金から下着の色に周知されたくない性癖迄何でもござれ。

 

証拠品は私の部隊の部下達が洗い浚い収集したので有無は言わせません。

 

 

「最初はトカゲの尻尾切りに右往左往するでしょうけど…切る為の尻尾はいずれ無くなる。」

 

 

政治家も国を維持する為の候補者は多い訳ではない。

 

 

「何時までも小競り合いばかりで目を向けるべき方向に人々を導けない政治家は不要です。」

 

 

ハスミの眼は笑っていない。

 

最もな意見を静かに答えた。

 

 

「中途な理想では人は導けない…実践し動ける方が相応しいと思います。」

 

 

恐らく、政治家連中を全員イノベイト達に置き変える可能性も否定出来ないが…

 

場合によってはフェレシュテの奇声基地外に情報を流しましょうかね?

 

あのサージェスでさえ恐れた輩ですし。

 

後は例の五人のイノベイト達とアポを取って協力を仰ぎましょう。

 

 

「君は上に立つと言う意思はないのか?」

「ユーサー皇子、私は上へ立つ意思はありません。」

 

 

私の思想は政治家に不向きだ。

 

私の知識は誰かの支えになる事で効力を発揮する。

 

例え、私が政治家になったとしても緩やかな怠惰へ変わるだろう。

 

 

「私の力は何かしらの状況になった時の抑止力程度でいいのです。」

「謙虚なのだな?」

「自分自身を知る事は大事な事ですよ?」

「…(いや、あれは彼に尽くす為の意思だろう。」

 

 

ハスミの返答にユーサーは察して納得。

 

この話し合いの最中に三大国家の進軍が発覚したので対応へと移った。

 

 

「エルーナ、バルビエル、アサキムはハイアデス隊、アンタレス隊、アルファーグ隊を率いて予定通り三大国家の攻撃が行われ次第対処しろ。」

「オッケー、派手にやらかしても?」

「手を出せぬ程度にして置け。」

「了解したよ。」

「判った。」

 

 

アウストラリスはエルーナを始めとした各部隊へ指示を出す。

 

 

「尸空とガドライト、ヒビキは先の混乱に乗じて国内に入り込むであろう輩共の対処を。」

「了解した。」

「はいよ。」

「判った。」

 

 

順に指示が出された後、円卓の間を後にして行った。

 

 

「ハスミとセツコは司令部にて戦況対応。」

「了解。」

「判りました。」

「残りは待機せよ。」

 

 

待機の指示があったが、ランドはそのまま格納エリアへ移動。

 

 

「んじゃ、俺は機体整備の助っ人に行ってくる。」

「アウストラリス、皇子さん達は?」

「一国家の君主をこちら側の戦場に出す訳にはいかん、今回は待機して貰おう。」

「だ、そうだ。」

「アウストラリス殿、申し訳ない。」

 

 

鋼龍戦隊と混成部隊は今回の戦いに巻き込めないので待機。

 

混成部隊に関しては独自に動くと告げて国家から離脱。

 

国連から内部混乱を引き起こせと言う理不尽な命令を受けたのもある。

 

人の命を軽んじる様な行為は出来ないと告げてリモネシア共和国から撤退。

 

彼らの進む道は険しいだろうが致し方ない。

 

 

=続=





巡れ世界を…

変異した世界で私達は闘わなければならない。


次回、幻影のエトランゼ・第百十話『再廻《サイカイ》』


謝罪の言葉。

それは償いの証。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。