幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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迎え撃つ。

お前達を。

狙った獲物が牙を向く事を忘れるな。


迎の付箋

 

イグジスタンスの総戦力であるリアクター機がサンクキングダムへ出撃した頃。

 

現時点で行動を水面下で起こしていたイノベイトの一人…

 

リボンズの指示でチームトリニティはリモネシア共和国へと移動。

 

彼らに下されたミッションはリモネシア共和国の殲滅。

 

リモネシア共和国内の内情を把握する事が出来なくなったのが主な理由だ。

 

これに関してはハスミが共和国内の全イノベイト達を強制退去させたのが関わっている。

 

ちなみにイノベイトだけではなく外部への移転を求めた人達も混じらせて行った。

 

周囲には違和感のない様にしたが、意図的にイノベイト達には認識出来る様に行動した。

 

ハスミとしては『お前達の行動は全て読めているぞ?』と認識をさせる為でもあったのだが…

 

未だ彼女の恐ろしさを知らないイノベイト達は外部からの監視を継続していた。

 

いつかリモネシア共和国へ行動を起こせる様にする為に。

 

そして利用出来ないのなら殲滅を目的に切り替わった。

 

狙っていた流れに至った事に笑みを浮かべていたのはハスミだったりする。

 

最もな理由で奴らを殲滅する事を出来るのだから…

 

 

******

 

 

リモネシア共和国、防衛ラインにて。

 

後のセントラルベースと化したリモネシア共和国に現れたチームトリニティのガンダム。

 

それに続いて赤いイナクトも追従していた。

 

 

「二人共、準備は良いな?」

「何時でもいいぜ?」

「あの国を壊すんでしょ?」

 

 

ミッションの内容を確認するトリニティ達。

 

順に長男のミハイル、次兄のヨハン、末子のネーナである。

 

 

「…」

「貴方がアリー・アル・サージェスですね?」

「ああ。」

「自分はチームトリニティの代表のミハイル、今回のミッションから一緒になります。」

「どうも。」

「テメェ、マイスター候補の癖に兄貴に!」

「ヨハン、ミッション前だ…言葉を慎め。」

「…判ったよ。」

「ヨハ兄、さっさとミッション終わらせちゃおうよ?」

 

 

トリニティに新参のマイスター候補が入った。

 

それが先程話していたサージェスである。

 

だが、サージェスには特命で命令が下されていた。

 

それは後に解る事だが…

 

 

「…(箱入りのおこちゃま共…精々、粋がっていろよ。」

 

 

ポーカーフェイスを貫くサージェス。

 

彼の悪意が周囲に振り巻かれるのはもう少し先…

 

 

~リモネシア共和国・監視エリア~

 

 

イグジスタンスのリアクターと鋼龍戦隊が不在の中。

 

国内に待機していたイグジスタンスの部隊。

 

監視エリアから転送された映像を司令室で目視するダバラーンとサルディアス。

 

 

「やはり、代表らの不在を見据え攻めて来たな。」

「さて、我々も国防の為に出撃しますか?」

「…」

 

 

留守を任されているイグジスタンス各部隊の副官達。

 

その中でロサは分析に呈していた。

 

 

「敵は四機、疑似GNドライブ搭載のガンダムと例のややこしい人による強襲。」

「ロサさんは何かあると?」

「そうですね、ハスミの読み通りなら…恐らく仲間割れを起こします。」

「仲間割れ?」

「それだけソレスタルビーイング…いえ、反乱イノベイト達の内情は複雑って言ってました。」

「成程、では…その仲間割れの理由は?」

「あの赤いイナクトが理由の一つです。」

 

 

ロサは映像に映し出された赤い塗装のイナクトに視線を向けた。

 

 

「あのイナクトがどうかしましたか?」

「このまま迎撃をしつつ様子見をしていけば解ります。」

「それは先程の仲間割れと関係が?」

「そう言う事です。」

 

 

不確定な情報は伝えず、いずれ起こる可能性がある事だけを伝えたロサ。

 

 

「今回の迎撃部隊は…」

「あの…私が単機で出ちゃ駄目ですか?」

「ロサさんお一人でですか?」

「はい。」

「だが、相手は四機とはいえ荷が重いのでは?」

 

 

迎撃を行う部隊は状況に応じてローテーションで行っており、今回はジェミニス隊だったが…

 

ロサが単機で出撃すると申し出をした。

 

これにはサルディアスとアンナロッタも引き留めをするものの…

 

 

「私のあの力が錆びついていないかの確認なのです…今後必要だと思うので。」

「あの力?」

 

 

ロサの言葉に疑問を持つ尸刻。

 

 

「使い方次第では呪いにも祝福にも変わるってハスミにも言われてます。」

 

 

ロサは改めて他の副官達に単独出撃させて欲しい事を告げた。

 

 

「ご迷惑をお掛けしますが、お願いします。」

 

 

ダバラーン達は少し考えてから答えた。

 

 

「確かに代表らが不在の間は最低限の戦力で共和国を防衛する必要がある。」

「何事も臨機応変にですね。」

「貴方の事だから策があるんでしょ?」

「ロサ、無茶だけはするな。」

「…貴方の無事を祈ります。」

「皆さん、ありがとうございます。」

 

 

ロサは一礼すると出撃の為に司令室を後にした。

 

 

******

 

 

リモネシア共和国側から出撃したロサの機神エザフォス。

 

たった一機の出撃にブーイングをするネーナとヨハン。

 

 

「えーたった一機?」

「これならさっさと終わるな?」

「油断するな、二人共。」

「そうだぜ、お兄さんの言う通りだ。」

 

 

ミハイルとサージェスの言葉もあり、渋々了承した。

 

 

「ソレスタルビーイングのガンダム、この国をどうする気ですか?」

「殲滅する、総戦力が出撃した今…その国を守れる戦力は存在しない。」

「立ち直った国を亡ぼす気ですか?」

「元はテロリスト共を匿っていた国じゃねえか?」

「そうよ、無くなって当然じゃない!」

「そちらもテロリストなのにですか?」

「その通りだ、私達は理想の為に…」

「結局は同じ穴のムジナですね。」

 

 

ロサはミハイル達の話を聞き、溜息を付いた。

 

 

「そちらのお嬢さんは良く分かってらっしゃる。」

「変人さんの言う通りですね。」

「は?」

 

 

「「ブブッ!!!?」」

 

 

「赤い機体に乗る男性の人って変人が多いってよく聞きましたので。」

 

 

ロサの発言にサージェスは思考停止しヨハンとネーナは盛大に拭いた。

 

若干、偏見にも似た間違いも含まれているが事実もあるので致し方ない。

 

 

「冗談はさて置き、戦うのなら容赦はしませんよ?」

「自分で言って置いてそりゃねえだろうが!!」

 

 

流石の変人発言に苛立ちを覚えたサージェス。

 

先行してエザフォスに攻撃を仕掛けるものの…

 

 

「砂塵の迷衣!」

 

 

ロサの扱う魔法の一つ、砂の粒子を操り砂の竜巻を生み出す。

 

文字通り磁気を含む竜巻なので実弾系は全てのみ込まれる。

 

 

「晶石の弾奏!」

 

 

続けて二丁銃型に変形した魔法剣から放たれる銃撃技。

 

銃口からではなく周囲に魔法陣を展開させそこから発射させるタイプである。

 

これにより弾幕の嵐が勃発する。

 

 

「なんじゃありゃ!?」

「実弾系やファングは使えねえって事か!」

 

 

サージェスのイナクトの装備とファング頼りのヨハンのガンダムでは分が悪い。

 

 

「ミハ兄、長距離なら!」

「ネーナ、頼む!」

 

 

ミハイルは自身の機体に装備された長距離キャノンで狙う戦法に移ったが…

 

ネーナの機体とドッキングした瞬間を狙われた。

 

 

「ミハ兄!?」

「な!?」

「これがミサイルロデオです!」

 

 

ロサは金剛の弾道でダイヤモンドミサイルを生み出し、上に乗って一気に距離を詰めた。

 

爆発のタイミングは任意で行えるのもこの魔法の利点である。

 

二人はミサイルが爆発する前にドッキングを解除し緊急離脱を行った。

 

この時、接続部分を無理に解除したので接続部に異常が出ていた。

 

 

「アイツ、なんなのよ!」

「たった一機で出て来た以上は手練れであると推測していた…」

「要はバケモンじゃねえか!」

「だからこそ、インぺリウムの相手を出来た連中って訳だ。」

 

 

ロサは元の位置に戻ると静かに答えた。

 

 

「もう終わりにしないといけない。」

 

 

ロサはあの力を使う事を選んだ。

 

 

「私の前身…私の始まり…私は忘れない……だってこれも私だから!」

 

 

機神エザフォスの眼孔が赤く光る。

 

それは己の内に潜む悪魔の目覚め。

 

かつてそれが猛威を振るえば星を生かす事も滅ぼす事も可能な力。

 

 

ーその名はUG細胞ー

 

 

「起きて…みんな!」

 

 

ロサは両手から結晶体を出現させる。

 

それが弾けると無数の種子型の結晶となり地面に接触と同時に更に弾け飛んだ。

 

それは人型へと形作られ数を増やしていった。

 

姿に名残を残すもののその形状は違う。

 

知る者はこう答えただろう。

 

デスアーミーと…

 

 

「あの機体、兵力を瞬時に増産出来るのか!?」

「ミハ兄、さっきのでGNタンクの接続に異常が…どうする?」

「残念だがミッションは失敗…撤退するぞ!」

「俺はまだまだやれるぜ!?」

「ヨハン、深追いはするな!」

 

 

形勢逆転出来ずに混乱するチームトリニティ。

 

だが、この状況を狙ったかの様に行動を起こした存在が居た。

 

 

「テメェ、何しやがる!?」

「戦えねえガキのお守は終わりだ。」

 

 

突如、サージェスの機体がヨハンの機体に取り付いたのだ。

 

理由は一目瞭然でヨハンのガンダムを奪取する事。

 

 

「あばよ、クソガキ?」

 

 

一時的に制御不能となったヨハンのガンダムのコックピットのハッチが開閉。

 

サージェスは拳銃を突き付け、ヨハンを撃ち抜いた。

 

被弾の影響で気絶したヨハンはそのままサージェスの手でコックピットの外へ投げ出された。

 

ガンダムを奪ったサージェスの次の狙いは他のガンダム。

 

 

「小娘、碌な技術もねえのに…今までよくも悪態ついてくれたな?」

「ひっ!?」

 

 

サージェスはスローネツヴァイのファングでスローネドライを行動不能に追い込む。

 

 

「ヨハン!ネーナ!?」

「おっと、今までご苦労さん…お前さんらのスポンサーはお前らの事を用済みだとさ。」

「なん、だと…?」

「テメェらのお陰でより世界は混乱に導けたと?」

「…」

「じゃあな。」

 

 

サージェスは混乱するミハイルのスローネアインをファングで攻撃し撃墜。

 

そのまま戦場を離脱していった。

 

 

「みんな、あの人達を助けて。」

 

 

ロサは彼らの通信を傍受。

 

そのやり取りから仲間割れを起こしたと判断。

 

出現させた分身達に救助の指示を与えた。

 

 

「やっぱり、ところがぎっちょんの人…裏切ったねハスミ。」

 

 

ロサは静寂となった戦場で言葉を紡いだ。

 

 

=続=

 





=その頃の司令室=



「…」
「アレがロサさんの本気ですか?」
「心配する必要はなかった…な。」
「空白事件の時、アタシもあれで死に掛けたからね。」
「ロサさん…」


順にダバラーンは思考停止、サルディアスは唖然、アンナロッタは驚き、ツィーネは恐怖、尸刻は心配。


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