幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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古の記憶は蘇る。

超越した筈の始原神は語った。

真の敵の存在を。


第百八話 『星喰《ホシグイ》』

前回の戦いの直後。

 

突如として世界が罅割れた現象。

 

その現象が停止しリアクターと名乗った者達とガイオウが別で出現した謎の異空間に閉じ込められた。

 

漁夫の利を得ようと軍を率いて侵攻して来た三大国家。

 

だが、限仙境の結界が展開されたサンクキングダムへの侵攻は誰一人として行う事は出来ない。

 

結界は星を守護する存在が生み出した結界だけに悪意ある者の侵攻を阻んでいる。

 

今は話し合いと言う場所が設けられた今の状況。

 

結界に守られた者達は出来得る限りの相互理解へ歩みを進めるだけだった…

 

 

******

 

 

一度、スフィアは一つに戻ろうとした。

 

だが、相互理解の末に別れて独立する道を選んだ。

 

相互理解は他者と他者が居なければ成立しない。

 

たった一つの孤独よりも共栄の道を選んだ…

 

それは、今まで眠っていたソルの中に芽生えた人としての意思だったのかもしれない。

 

 

「これがソルの知る記憶…」

 

 

ヒビキの開口一番の言葉。

 

今の今まで眠っていたソル。

 

スフィアの共鳴により目覚め、リアクター達に語り掛けた。

 

かつて起こった前回の十億と二万年前の大災害の記憶を…

 

経緯は今までと同じだったが、若干違う点がある。

 

それは四体のガンエデン達の介入だ。

 

 

「初代達の記憶を受け継いだ私でもここまでの規模とは思わなかったわ。」

 

 

ハスミもまた歴代のガンエデンの巫女達の記憶を引き継いでいる。

 

その中でソルの語った記憶と初代の記憶を照らし合わせた。

 

ソルの崩壊、早期による御使いの暴走、バアルの暗躍。

 

当時の大災害に抗った戦士達の末路…

 

 

「当時の俺やガイオウ…いや、ヴァイシュラバ達も奴らに抗ったが…」

「結果的には負けちまった。今更…思い出す事になっちまうとはな。」

 

 

先の戦いで殴り合いを繰り返したアウストラリスとガイオウ。

 

殴り合いの果てに消えた筈の記憶は蘇った。

 

今は真の名であるヴィルダークと記憶を取り戻したヴァイシュラバと呼ぶべきだろう。

 

同じくしてクロウらはアイムより事情を受けていた。

 

 

「で、テメェは憑りついた御使いの奴を欺く為に偽り続けたって訳か?」

「ええ、アリエティスの中のスフィアと共鳴した瞬間に奴らに眼を付けられてしまったので…」

 

 

アリエティスを建造し完成直後に前世の記憶に目覚めたアイム。

 

だが、完成と同時に御使いの『怒りのドクトリン』と『楽しみのテンプティ』に眼を付けられてしまい…

 

彼らを欺く為に自分自身を偽り続けなければならなかった。

 

何度も偽りを重ね重ねした結果…かつてと同じ末路を迎えた。

 

アイムの言葉は真実であるとハスミからのお墨付きを得たユーサーはアイムより謝罪の言葉を受けた。

 

前回の即死スレスレの攻撃が響いているのかハスミに対して少し後ずさっている。

 

 

「アイム・ライアード…」

「皇子、理由はどうであれ…貴方の国を再び襲撃してしまった事は間違いありません。」

「スフィアの反作用や能力の影響がどういうモノなのか余も理解している。」

「…」

「その沙汰はいずれ話し合おう。今はやるべき事を行う事が君への許しに繋がるだろう。」

 

 

敵すら許す愛情。

 

愛情の何たるかを識る事でユーサーもまたサードステージに上がれたのだろう。

 

逆にアイムも己の所業を忘れず世界を時に優しく偽り、愚かな神すらも欺く意思を貫く事を選んだ事でサードステージへ急成長を遂げていた。

 

定められた必然が今の状況を生んだかのように…

 

 

「ねえ、ハスミ。」

「エルーナさん、何でしょうか?」

「ここに居るのって全員リアクターだよね?」

「まあ…一名違いますけど。」

「何でそうなる訳?」

「単にソルが話をしたかったから呼び寄せたのでは?」

 

 

確かにリアクターを除けばガイオウは例外である。

 

ヒビキやガドライトさんの様にスフィアが二つに分かれた状態で所持している例外を除けば…

 

 

「もしかして…?」

 

 

ハスミはガイオウを引き入れた理由をソルに問質した。

 

その答えにソルはとんでもない事を告げた。

 

 

「ガイオウを引き入れたのは新たなスフィアリアクターへ!?」

 

 

ソルを構成する定義はどこ行ったの!?

 

 

「はぁ!?」

 

 

これに関してはガイオウも驚愕顔である。

 

ソルは理由を語った。

 

 

「えっ…成り立ちが変異した?」

 

 

この件に関してはヒビキの発言に同意したい。

 

ソルを構成していたのは…

 

ソルの記憶である黒の英知。

 

ソルの心を司るスフィア。

 

ソルの外観である黒い太陽。

 

ソルの内観であるプロディキウム。

 

ソルの姿たるヘリオース。

 

この五つが構成してソルは顕現していた。

 

だが、ソルは生まれた瞬間に己の在り方と御使いに反旗を起こして崩壊。

 

崩壊後も己の残骸が利用される末路を辿った。

 

ソルは前回と同じ末路を犯さない為にある手段を取った。

 

 

「それがソルが起こした反旗の結果だったと?」

 

 

アウストラリスもこれには気難しい表情をしていた。

 

ソルは十二のスフィアがリアクターと再会し集結した時に復活する様に仕掛けを施して置いたらしい、

 

ややこしい事にリアクター全員がサードステージに上がっている事が条件かつトリガーだったとの事。

 

 

「よくもまあ…今まで御使いの連中に気が付かれなかったな?」

「巧妙に隠されていた…」

「…それしかねえか。」

 

 

同じくソルの行動に反応するクロウと尸空。

 

 

「ソル、それなら私を選んだ理由は?」

 

 

この場に居るリアクターの中でハスミだけは初回である。

 

ソルはガンエデンの末裔で在りアカシックレコードと最も近しい存在である事を理解した上で…

 

流れ流れでその子孫に行きつくように動かしたとの事だった。

 

 

「成程…(別のリアクター候補の元に渡るよりはと考えた結果だったのね。」

 

 

話を戻し…

 

ソルは自身を崩壊させる時に惑星エス・テランに残される筈だった黒い太陽、プロディキウム、ヘリオースをそれぞれのスフィアに分解し融合させ隠した。

 

黒い太陽=風のエレメントを持つ星座。

 

プロディキウム=火のエレメントを持つ星座。

 

ヘリオース=水のエレメントを持つ星座。

 

それらを封印する楔として地のエレメントを持つ星座。

 

いずれかのスフィアが悪用された場合の保険として最後のスフィアが生まれた。

 

 

「そいつが俺に託すって言うスフィアか?」

 

 

ガイオウに託すのは、彼の誰にも縛られず自由である意思に惹かれたからだと言う。

 

 

「それぞれのスフィアでソルの神骸を隠した…確かに理に適っている。」

「ハスミ、どういう事なの?」

「セツコ、これはね…」

 

 

黒い太陽はソルの外観、風のスフィアで巻き上げ覆い隠す。

 

プロディキウムはソルの中身、火のスフィアで燃やし力を奪う。

 

ヘリオースはソルの姿、水のスフィアで輝きを屈折させ打ち消す。

 

そして地のスフィアは生命を生み出す豊穣で他のスフィアへ力を与える。

 

若しくは鎮めの力として効力を発揮している。

 

 

「こうやってある法則に当てはめるとしっくりくる。」

「それって…前に話していた星座の法則の事?」

「他にも色々な分野に当てはめたりはしているけど根本的な考えは同じよ。」

 

 

風のスフィアは双子座、天秤座、水瓶座。

 

火のスフィアは獅子座、射手座、牡羊座。

 

水のスフィアは蟹座、蠍座、魚座。

 

地のスフィアは牡牛座、乙女座、山羊座。

 

それぞれの星座とスフィアの感情が属性と合っている点。

 

風は揺るがない風の様に流れは一定。

 

火は火事場の馬鹿力で常に燃え上がる。

 

水は止まらぬ流れは溢れ出る意志。

 

地は力を奪う鎮め。

 

同時に同じ属性同士のスフィアは力を高め合う。

 

しかも同属性内の性格も相性がいいと来た…

 

 

「確かにその通りだよ。」

「だな?」

 

 

バルビエルとガドライトも納得する。

 

 

「以前、君が創った結界で模擬戦をした時もそうだったね。」

「あの時はご協力感謝致します、皇子。」

「スフィアで判ったとしても実証も必要だろう、私としても良い経験だった。」

 

 

ユーサー皇子の言葉を借りるならサンクキングダムへの殴り込みを仕掛ける前…

 

他のリアクター達も巻き込んで、ある実証実験を願い出た。

 

それが先の性格相性の実験である。

 

実証の結果、予想通りの大当たりを引いた。

 

今更ながら思うが…

 

本当にこの設定を提案した人は正直凄いと思った次第。

 

でも、おかしな事が一つある。

 

前世で得た情報が今世でも反映されていると言う事。

 

誰が?何の為に?

 

これもバアルの仕業?

 

いや、奴らの影でコソコソしている輩の仕業か?

 

スフィアを以てしても感知不可能な相手。

 

この存在が様々な世界に干渉している事は掴めたが、それ以上の事は掴めなかった。

 

一瞬、どこぞのハーレム鰤と思ったがちょっと毛色が違う。

 

 

「んで、ソルはガイオウ…いやヴァイシュラバにスフィアを渡すのか?」

「渡す事は決定事項で後は本人の意思次第だと。」

 

 

ランドさんも決定事項に特に何も意見は言っていない。

 

 

「わーったよ、俺にスフィアを渡したとして…ソル、テメェは何をさせる気だ?」

 

 

即決な態度のヴァイシュラバであるが、ソルに最もな質問をした。

 

 

「世界を守れ?」

「真の敵?それは一体…」

 

 

ソルの答えにアサキムとアイムが疑問視する。

 

真の敵は御使いとバアルだけではないのかと?

 

 

「それは常に何処にでも存在している?」

「まさか…幽霊か何かか?」

「認識が曖昧…?」

 

 

ユーサー、クロウ、尸空の言葉で明確な姿は認識出来ない。

 

 

「でも、アタシらを監視しているんだろ?」

「監視…でもどうして?」

「私達がソルを目覚めさせられるから…?」

 

 

エルーナ、セツコ、ハスミへの言葉で危険が迫っている事を通告される。

 

 

「全くハッキリしねえな…」

「それには同意する。」

「ソル、その存在は一体何だ?」

「いい加減、グダグダには飽き飽きなんだけど?」

 

 

この状況にガドライト、ヒビキ、アウストラリス、バルビエルも痺れを切らしそうな状況。

 

ソルは静かに答えた。

 

 

『この世界の成り立ちを壊す者…その名は…』

 

 

ソルの最後の言葉を聞いたのと同時に異空間は消失し元の戦場へと引き戻された。

 

同時に世界が罅割れた現象も再開。

 

食い破ろうとする暴食の魔獣の姿を目視した。

 

 

「ソル…お前の意思は俺達が引き継ぐ!!」

 

 

再びこの場のスフィアがリアクターがその意思を一つにした。

 

事象への干渉ではなく。

 

御使いが目覚めさせようとした存在の復活。

 

神であり人でもある。

 

新たな始原の存在。

 

それがソルの望んだ共存共栄の果ての姿。

 

 

「俺達は抗う…待っていろ!お前の喉元に喰らい付いて見せる!!」

 

 

ソルの代弁者としてヒビキが答える。

 

いや、ヒビキの身体を借りてソルが答えているが正しい。

 

感情も話し方もヒビキを知る為にトレースしているので似通っているが…

 

 

「…」

 

 

かつてZ事変の最終決戦で再誕した神。

 

それとは違う新たな概念。

 

それぞれがソルの力を宿した存在。

 

それらがかざした次元力が一点に集中し食い破られそうになった罅割れに向けて放たれた。

 

反対側の世界で雄叫びを上げる魔獣。

 

己を滅びへと導く次元の奔流。

 

目覚めてしまった。

 

目覚めさせてしまった。

 

 

「俺達はいずれ…」

 

 

魔獣の撤退を確認したのを確認した直後。

 

リアクターの機体は全機オーバーヒートを迎えて停止。

 

この状況に混乱する混成部隊並びに鋼龍戦隊は対応に追われる事となった。

 

 

=続=





始原神の目覚め。


次回、幻影のエトランゼ・第百九話『解告《カイコク》』


それは脅威なのか?

それは奇跡なのか?

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