幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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異なる戦い。

それは遂行しなければならない。

私達は立ち止まれないのだから…


第百六話 『遂行《スイコウ》』

 

引き続き、リモネシア共和国・政庁にて。

 

政庁の最下層に古代遺跡が存在した。

 

造りはガンエデンを祀った遺跡に近かった。

 

恐らくは私達の世界の先史文明期に廃棄された遺跡の一部がこの多元地球と融合したのだろう。

 

それでもクロスゲートに変わりはないので使用する事にした。

 

既に安全性の調査は済んでいる。

 

 

******

 

 

ハスミは最下層へ案内する前に鋼龍戦隊のマイルズ司令にクロウを引き合わせた。

 

クロウ自身、元軍人だったので司令の怒りを買う事はないのが救いだった。

 

続けて彼が天秤座のスフィアである『揺れる天秤』のリアクターであると説明。

 

インぺリウムに在籍しているアイムを除き、これで十一人目となる。

 

最後の一人はこれから対話し協力を仰げるかは説得次第だ。

 

クロウの自己紹介もそこそこに…

 

今後もZEXISで行動する事を彼自身が伝えた。

 

 

「では、君は引き続きZEXISに?」

「アイムの奴が俺にちょっかいを出すのは判っている。解りやすい囮が居る事に越した事はねぇ。」

「念の為、ハスミ少尉が君をスフィアで監視するが…構わないか?」

「ああ、そっちと協力体制を取るには時間が必要だからな。」

「出来れば穏便に済ませたいが…」

 

 

ZEXISの組織系統が政府に認可された組織と反政府組織の混成部隊と言う側面がある以上。

 

鋼龍戦隊の一部クルーから協力出来ない声も上がっているので同盟を結ぶのは先延ばしとなった。

 

イグジスタンスは元々サイデリアルと名乗り、あちら側の地球連合政府の同盟国家に侵略行為をした経緯もある。

 

そのイグジスタンスも過剰な戦力は同盟結束の瓦解の元となるので避ける構えだ。

 

 

「ハスミ少尉からも聞いていると思うが、ZEXISの周囲に例の影がちらつき始めている。」

 

 

遠回しに警告を促されたクロウは察して答えた。

 

 

「…ご忠告どうも。」

「では、クロウさん…例の区画にご案内します。」

「頼むぜ。」

 

 

謁見を終えた後、ハスミはクロウをクロスゲートが安置された区画へと案内。

 

そこには既にクロスゲートで移動する者達が集まっていた。

 

 

~政庁・最下層区画~

 

 

「来たか、クロウ。」

「久しぶりだな、アウストラリス。」

 

 

再会したクロウに対して挨拶を交わすアウストラリス。

 

 

「他の連中は来ていないのか?」

「陰で良からぬ事をしでかした輩に…灸をすえにな?」

「…何となく察しが付いたぜ。」

 

 

インぺリウムの出現後。

 

このインぺリウムの暴走を利用し暗躍する者達が動き始める。

 

事前に鋼龍戦隊との話し合いで部隊を複数に分けて行動する事となった。

 

ブリタニア・ユニオン方面へはアンタレス隊。

 

人革連方面へは鬼宿部隊。

 

AEU方面へはギント支隊。

 

多元地球の近海方面はハイアデス隊。

 

暗黒大陸の獣人軍団は先の三大国家へ襲撃を掛けているので様子見。

 

アサキムは単独でインぺリウムの動向を探っている。

 

残りはリモネシア共和国の防衛と言う形となった。

 

アルシャト隊、アルファーグ隊、ジェミニス隊、レフィーナ支隊もここに組み込まれている。

 

 

「それでガドライトとヒビキが残っているって訳か。」

「本当ならソレスタルビーイング号の調査に出る予定だったんだけどな…」

「アイムへ余計な情報を与えない為に此処の調査チームに組み込まれたんです。」

 

 

ヒビキ達にはゲート起動に備えて機体へ搭乗し待機して貰っていた。

 

いがみ合う双子のスフィア強奪を防ぐ為に敢えてゲート調査に携わって貰う形である。

 

 

「残りのメンツで考えると妥当な判断か…」

 

 

皇子さんはどうか知らねえが、アイム以外の全員がサードステージ上がり。

 

アイムの野郎がサードステージに上がれねえ限りは心配する事はねえか。

 

まあ、こっちに手を出せば…どうなるかは察した。

 

 

「…それで、皇子と関係があったクロウさんを呼び寄せたのも理由の一つです。」

「つまり説得要員って訳か?」

「記憶があるにせよ、穏便には行かないと思いましたので。」

「…(確かにな。」

「慈愛の王子となるか黄金の王子となるかは…これから次第でしょう。」

 

 

ハスミは事前にクロウにも機体に搭乗して貰い、ゲート付近へ待機。

 

各自、機体に搭乗後にスフィアを発動させゲートを起動。

 

問題なくゲートの先へ向かう事となった。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃。

 

ブリタニア・ユニオン領域のオーバーフラッグス基地にて。

 

例の如く、トリニティチームのガンダムの襲撃を受けていた。

 

前世と同様にインぺリウム襲撃の対応に大部隊を動かしてしまった事が原因。

 

オーバーフラッグス部隊の一部隊で隊長を務めるグラハム…

 

彼も別動隊の奇襲を視野に基地防衛の強化を上層部に進言したものの…

 

あっさりと却下され、ガラ空きに近い状態で基地を離れる事となってしまった。

 

そしてオーバーフラッグス基地はトリニティの襲撃を受ける結果を迎えた。

 

暴走したクロノの暗躍も絡んでいるのでなるべくしてなったが正しいのかもしれない。

 

 

「二人共、今回のミッションは判っているな?」

「勿論、あの基地をぶっ壊せばいいんだろ?」

「アタシ達なら簡単よね?」

「仲間が誘導している今が好機だが…油断するな?」

 

 

チームトリニティの三兄妹。

 

ヨハン、ミハイル、ネーナの三人はヴェーダからの指令を受けてオーバーフラッグス基地を襲撃。

 

これに関しては例の胡散臭い存在によるものだが、それを知れている者は指で数える程度である。

 

その事情を知る人物の一人が提案した『お仕置き』が発動しつつあった…

 

 

「バルビエル様、部隊展開の準備は済みましたよ。」

「なら、少し待とうか?」

 

 

オーバーフラッグス基地より少し離れた場所でアンタレス隊を待機させたバルビエル。

 

ブリタニア・ユニオン方面の対応は彼の担当である。

 

副官であるサルディアスに部下の配置を命令し今に至る所だ。

 

 

「と、言いますと?」

「ハスミの話ではあの基地にラマリスが出る予兆があるらしい…例の教授を助ける絶好のタイミングにね?」

 

 

バルビエルは期を見てトリニティに奇襲を掛けると告げた。

 

それに対してサルディアスはその期が訪れるまで話を続けた。

 

 

「…同時に我々の行動が侵略行為ではないと言う証拠になりますね。」

「それを見越しての助言だろうさ。」

「流石は当主が認めたお相手…でしょうか?」

「サルディアス、ガンエデンの名に聞き覚えはあるか?」

「ガンエデン…」

「そう言った星系の歴史を調査するのが、以前のお前の仕事だっただろう?」

「…確かに聞き覚えがありましたよ。」

 

 

バルビエルの発言に答えるサルディアス。

 

 

「ですが、星によっては伝承の仕方が様々でしたよ。」

「例えば?」

「星を滅ぼす者、星に救いを与えた者、神々の戦い…簡単に言えばそんな感じのばかりでしたよ。」

「より正確には伝わっていなかったって訳かい?」

「恐らくは伝承によっては御使いの敵と判断されるのを恐れての事でしょう。」

「…」

「まさか辺境惑星の地球にガンエデンが遺されていたとは思いもしなかったですが…」

「当事者が聞いたら怒り出すだろうね?」

「は?」

「ハスミと彼女の従妹がその現ガンエデンの巫女だよ。」

「…先程の失言、聞かれてますよね?」

「当然だよ。」

 

 

ニヤニヤとしてやったりのバルビエルの表情にサルディアスは内心でいつかやり返そうと密かに思った。

 

話も程々に期が熟したのを見計らいアンタレス隊はオーバーフラッグス基地へ乱入しトリニティチームと出現したラマリスを排除した。

 

 

~人革連・インド方面~

 

 

オーバーフラッグス基地の襲撃と同時刻。

 

ここインド方面に出現した螺旋王配下の獣人部隊。

 

 

「…雑魚に用はない。」

「な!?」

「獣は獣らしく逃げ惑う事だ。」

 

 

敵部隊を取り纏めるリーダーに対して鬼宿隊の尸空は答える。

 

それは力量の違いと無益な戦いを終わらせる為の言葉でもあった。

 

だが、血の気の多い獣人達はそれを拒否した。

 

彼らもまた抗う意思を持つ者達である為に…

 

 

「チミルフ様、如何なさいますか?」

「構わん!螺旋王様に歯向かう者達は全て蹴散らし倒すだけだ!!」

「…忠告はしたぞ?」

 

 

螺旋王配下の四天王の一人・チミルフが乗艦するダイガンザンを中心とした陸戦部隊。

 

怒涛と言う二つ名を持つ以上は新手であろうと引けない。

 

その意を酌んで尸空は自身の半身たる機体を呼び出す。

 

 

「こい、尸逝天。」

 

 

イグジスタンスの戦力の一端として尸逝天を呼び出した尸空。

 

それは巨大な生物の死骸。

 

それは死を齎す積尸気からの使い。

 

尸逝天より尸獄門を発動させ、展開していたチミルフの部隊の半分を消失させた。

 

 

「な!?」

「螺旋王に伝えろ、俺達は奴らに反逆する…イグジスタンスの名と共に。」

「ぐっ!」

 

 

脅しではないと判断したチミルフ。

 

残存部隊を取り纏めてインド方面から撤退して行った。

 

 

「…尸空様、あの件を伝えなくて良かったのですか?」

「…」

「尸空様?」

「…伝え忘れた。」

 

 

尸空の言葉で戦場に沈黙が広がった。

 

 

「「「…(それは忘れてはならないのでは?」」」

 

 

副官の尸刻より要件の伝え忘れがあった事を指摘された尸空。

 

彼は静かに伝え忘れたと答えた。

 

それに対して部下達は無言で通したのだった。

 

 

~AEU・アフリカ方面~

 

 

ラマリスの出現を受けて出撃したギント支隊。

 

ラマリス対応の機体を中心とした部隊編成を行っているので余程の事がない限りは混乱は起きないだろう。

 

だが、ここぞと言う所で空気を読めない輩は現れるのであった。

 

ラマリス対応を行っていたギント支隊に対して攻撃を仕掛けるAEUの部隊。

 

指揮官は…

 

 

「AEUのお偉方がお前らに用があるとさ?」

「断ると言ったら?」

「力づくで引っ張っていくしかねえな?」

 

 

PMCトラストより出向しているゲイリー・ビアッジことアリー・アル・サーシェス。

 

AEU上層部からの指示でリモネシア共和国と同盟を結んだイグジスタンスの動向を探るのが本来の目的だったが…

 

彼は命令違反とも言える行動を取った。

 

そう…鋼龍戦隊への攻撃である。

 

それは鞍替えの時期を見通しての行動でもある。

 

 

「最も俺は戦争が出来ればそれでいいがな?」

 

 

サーシェスの本音とも言える発言。

 

 

「…(奴がアリー・アル・サーシェスか。」

「キョウスケ、奴は俺が仕留める。」

「アクセル、いいのか?」

「奴も『永遠の闘争』に惹かれた輩だ。」

「頼む。」

 

 

ギント支隊に組み込まれていたキョウスケとアクセルの会話。

 

サーシェスの在り方がかつてのシャドウミラーの様であると察するアクセル。

 

外道の始末は自身で着けると答えた。

 

 

「気を付けろ、ハスミの話では倒しても舞い戻ってくる奴らしいからな?」

「なら、這い出れぬ様に地中に深く沈めてやるさ。」

 

 

ハスミの見解からのサーシェスは『戦争を好み、狂気じみた発言で敵味方問わず荷電粒子砲をぶっ放す某主任の様な基地外野郎』である。

 

戦争の闇と戦いに縛られながらも悪を貫いた悪らしい悪。

 

その様な輩を放って置く程、甘くはないが…

 

 

「イグジスタンスってのは随分と面白れえ機体を持っているじゃねえか?」

「…」

「ん?黙ってねぇで何か喋れよ?」

「失せろ、雑魚が!」

「!?」

 

 

アクセルはこの世界に来てから苛立ちを覚えていた。

 

この世界にもかつてのシャドウミラーの様な思想を持った連中が存在した事を…

 

それは『理想無き永遠の闘争』である。

 

それが齎す結末を知るからこそ、アクセルはサーシェスの相手をするのだった。

 

 

「逃さん!!」

 

 

ソウルゲインの拳が唸る。

 

それは連撃からの一閃。

 

ソウルゲインの必殺技の一つである舞朱雀。

 

 

「マジでヤベぇ!?」

 

 

サーシェスは機体のスペックが段違いであると察して機体を破棄し撤退。

 

残ったAEU側の部隊も隊長機の破壊を受けて蜘蛛の子を散らした。

 

倒すべき相手を一点に絞った結果だった。

 

こうして各所で引き起こされた戦いは終息を迎えつつあったが…

 

ゲートの向こう側では新たな事件が発生していた。

 

 

~聖インサラウム王国・王宮~

 

 

王都跡地に出現したゲートとそれに伴う反応で応戦体制を取る聖インサラウム王国の兵士達。

 

だが、私達の来訪でそれは止まる事となった。

 

出撃していたウェイン・リブテールの対応の後に王宮へと案内された。

 

玉座の間でユーサー皇子らと再会。

 

話によれば修羅の乱の頃の私達の来訪後…

 

破界の王の進撃は王都半壊でとどまり、前回よりは被害を少なく出来たそうだ。

 

だが、事態は一転。

 

次元力を抽出するZONEを使用していないにも関わらず、この星から急速に次元力が消失。

 

そして大時空振動からの次元震動が発生し別の世界に転移。

 

同時にその世界にある惑星と同化してしまったとの事だった。

 

その惑星の名はアル・ワース。

 

 

「まさか、こちら側の世界がアル・ワースに取り込まれていたなんて…」

「ハスミ、何か知っているのか?」

 

 

アウストラリスの質問に対してハスミは答えた。

 

 

「以前にお話した魔獣エンデに関係する事です。」

 

 

ハスミはアル・ワースの成り立ちとそれに関わる魔獣エンデの詳細を答えた。

 

魔従教団はオドを糧に魔法を行使する集団にしてエンデの私兵。

 

その名の通り、魔が従える教団である事も…

 

 

「では、この星の次元力が急速に失われたのは…!」

「先のエンデの仕業…そしてマナの国に暗躍するエンブリヲも関わっています。」

 

 

ZONEを使用していないにも関わらず、星の次元力が消失したのはエンデが喰らったのが原因。

 

そして残滓となったこの星もエンデの世界に取り込まれた。

 

いずれ、膨れ上がった人々の負の感情を喰らう為に…奴の狩場へ放り込まれたのだ。

 

 

「それがスフィアを辿って辿り着いた真実です。」

「…陛下。」

「…」

 

 

ユーサー皇子の護衛で付き添っていたジェラウド・ガウス・バンテールが陛下の動揺振りに声を掛けた。

 

 

「…(皇子様も動揺はするだろう、生き残った民に新たな危険が迫っている。」

 

 

クソ鰤だ…いや、エンブリヲの対処方法はアルゼナルの人々とアウラの民の協力が必要。

 

問題はエンデの方だ。

 

奴もまた御使いと同様の負の高次元生命体。

 

迂闊な方法は取れない…ならば。

 

 

「ただ、希望はあります。」

「それは一体?」

「希望の要になるのはエンデと同質の存在…ゼルガード。その操者であるイオリ・アイオライトとアマリ・アクアマリン、精霊ホープの協力が必要です。」

 

 

聖インサラウム王国で発生した出来事。

 

これは更なる敵の出現を暗示していた。

 

そしてこの国の人々を守る為に私達は二つの世界を行き来する必要が発覚した。

 

破界と再世にアル・ワース事件…

 

本来の世界への帰還はまだ先になりそうだ。

 

 

=続=





早すぎる遭遇。

そして共鳴する星々の鼓動。


次回、幻影のエトランゼ・第百七話『共鳴《キョウメイ》』


それらが齎すのは何か?

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