これは守る為の力。
これは足掛かりの為の場。
扉は開かれた。
半開きのまま。
彼らと対話する為に。
リモネシア共和国で起こった大時空震動から数時間後。
次元の王にして世界を破壊する者の現出。
その者の名は破界の王と名乗った。
次元獣を使役する破界の王はリモネシア共和国跡地を去り…
その後、世界中のネットワークをジャックし放送を開始。
映像に映ったのはリモネシア共和国の外務大臣だったシオニー・レジス。
筆頭執政官と名乗った彼女の宣言によって新帝国インぺリウムの名が公表された。
インぺリウムは領土を持たない国家。
移動要塞グレートアクシオンとそこに属する者達が全てと宣言。
彼女は答える。
一国家の主権として何者にも冒されない自由を要求し宣言すると…
今後、彼らの進路並びに行動を邪魔する者はその自由を侵害する者として武力を以って排除すると答えた。
グレートアクシオンはポイント1271を南西に向けて航行中と説明。
進路上にあったハルネス連邦がその見せしめとして滅ぼされた。
新帝国インぺリウムは次元獣を戦力として有している。
これにより二時間後…
連邦は停戦を求めたが、要求は受け入れられずに敗北し滅亡した。
これからは先のハルネス連邦の様に国や国家を失い…
その生き残りの多くが難民か傭兵…最悪の場合はテロリストと化すだろう。
そうなれば、国連など何の意味もなさない。
国家も法も秩序も全てインぺリウムの前に討ち滅ぼされるだろう。
例えるなら海に落ちた隕石が巨大な高波を広げる様に。
多元地球の誕生から二十年間。
今日まで薄氷の上に築かれた沈黙の平和が今…打ち破られようとしていた。
******
ハルネス連邦の壊滅報告から数日後…
時を同じくして新たな兆しもまた現れた。
それは破界の王の出現と共に…
イグジスタンスと名乗る集団が時空震動で出現。
彼らは侵略の一切を行わないと宣言。
次元震で国が崩壊したリモネシア共和国跡地に国を再建。
跡地には再びリモネシア共和国の民間人達が生活を開始。
驚く事は代表である大統領も含め住人達は全員無事に生還した事だった。
イグジスタンスによって救出され難を逃れた。
これまでの事実がリモネシア共和国の大統領の緊急国放によって発表された。
またDECがアイムと名乗る人物がアクシオン財団との結託によって全て消失。
あの大時空震動の影響で文字通り産出されなくなった件も説明された。
国連での有力な発言権を失ったリモネシア共和国だったが…
新たな策としてイグジスタンスとの同盟契約を結んだ事を発表。
これにより、リモネシア共和国は現在も出現しているラマリス対策の特権を会得。
僅か一日にしてリモネシア共和国は国家として返り咲いたと言うべきだろう。
正に破壊からの再生とも言える状況だった。
最後に国連は各国ごとに自国防衛の為に同盟が瓦解した。
この事から国連らしい機能はしないだろう。
なので一国家としてやりたい事はやらせて貰おうと思っている。
~リモネシア共和国・政務室~
「リモード大統領、ご苦労だった。」
「いえ、私を含め国民を救ってくださった貴方達に比べれば些細な事です。」
「では、大統領…これからの本題に入りましょう。」
イグジスタンスや鋼龍戦隊の協力で共和国の再建が進む中…
リゾート地ではなく防衛の為の拠点であるセントラルベースへの改築が進んでいた。
全てが終わった後は元のリゾート地として戻す事も視野に入れているので複雑な造りになっている。
最も先の『プロジェクト・ウズメ』こと『カラミティ・バース』の発生によってリモネシアの地中から古代遺跡が発見された。
後の観光名所として利用する手立ても構築中である。
但し、公式的な調査が終わってからであるが…
「私が至らぬばかりに彼女に酷な選択を強いてしまいました。」
リモネシア共和国大統領のリモード・モブックス氏は答える。
外務大臣だったシオニーに外部の諍いの多くを委ねてしまった事。
結果、美しい国を守りたいと言う純粋な思いをアイムに利用された。
スフィアを通してこの場に同席していたハスミも理解していた。
彼女も巡り巡って世界の歪みによる被害者であると…
「ハルネス連邦の難民もこちらで引き受けたいのですが…」
「では、リゾートエリア外にギガフロートの建設を含めましょう。」
「主に海運…海洋牧場と海中農場への労力を増やす事になるが構わないか?」
「はい、産業問題や食糧問題に更にはエネルギー問題の解決になるのなら…ただ。」
「防衛の件ならお気になさらず…三度の食事より戦闘好きな方達が暇を持て余していますので。」
「は、はぁ…」
リモード大統領の申し出にアウストラリスや元サイデリアルの執政官や文官達にハスミが国政に対応。
国防に関してはエルーナと元サイデリアルの軍部やマイルズ司令官にギント艦長らが対応。
同じ様にリクセント公国と言う小国を治めているシャイン王女の経験もあるので国としては前より成り立っている方である。
「問題は国連の連合軍が国家ごとに部隊を解散し引きこもっている事だ。」
「破界の王の現出によって何処の国も自国防衛の為に苛立っているのでしょう。」
「陛下。いえ、代表…どうなされるのですか?」
「破界の王を止めるのはZEXISだ。我々が直接手を下す事は出来ん…ある理由がない限りな?」
「理由?」
「バアルの介入があれば即座に動くと言う意味ですよ。」
「ファウヌス様がそうおっしゃるのなら…」
国連直属の連合軍の解散。
これはある意味で世界が一つになった証でもあった。
だが、破界の王の出現によってそれは瓦解。
文字通り、戦乱の世に戻ったのである。
再び戦乱によって各国で混乱は続くだろう。
同時に睨みを聞かせていたテロ組織も決起しより一層の混乱が蔓延する。
「警備担当、国内のイノベイトの様子はどうですか?」
「以前、動きを見せていません…民間イノベイトへのマークと政庁に勤務するイノベイトも全て総入れ替えを行いましたので。」
「これで奴らの監視は一先ず落ち着くか…」
「おっしゃられた通り、国外と国内を繋ぐネットワークにもフィルターを設置し監視を続けています。」
「そのまま継続で監視を続けてください。」
「了解しました。」
ハスミは公安担当と警備担当に外部への情報流出が行われない様に徹底した。
外部からの物資や映像の類に郵便物を含めて全てである。
元リゾート地と言う事もあり修復を兼ねて監視用の機材を隠蔽して潜ませてある。
見た目は只の飾りだが、異世界の技術で偽装しているので見分けは付かないだろう。
「ハスミ、ZEXISへの説明は?」
「次元獣は破界の王が出現させている事と止めなければ世界は終わるとだけ説明して置きました。」
「そして国を去ったか…」
「元仲間に説明と彼らからZEXISへの説得でスムーズとは行きませんが早々にご退場はして貰いました。」
「インぺリウムも滅ぼした筈のリモネシア共和国が健在でハルネス連邦の人々も無事だったと知れば大目玉でしょう。」
ハスミは事前にスフィアで狙われる国を検索し先んじて救助を行っていた。
その為、ハリボテの様な国と戦う羽目になったインぺリウム。
世界にはハルネス連邦が滅んだと報道されているだろう。
結果として連邦が滅んだ事に落胆するリモード大統領だが、ハスミはある言葉を告げた。
「ですが、国が…」
「大統領、国民が居るからこそ国であり国に国民が居なければ…それは只の飾りです。」
「…」
「国は国民が居れば何度でも再建出来ます。ですが、失った命はどんな事をしても戻らないのですよ?」
「そうでしたな、弱気な失言をしてしまい申し訳ない。」
「いえ、その命があれば…やり直しは何度でも出来ますから。」
同時にハスミはある事に気づく。
「!?」
「ハスミ、どうした?」
「先程、インぺリウム側で破界の王の名が決まりました。」
「名は?」
「破界の王ガイオウ、座する玉座型次元獣はゲールティランとの事です。」
「…そうか。」
「彼らの目的は闘争…進行先の障害全てを根絶やしにすると宣言しました。」
「…」
「ZEXISの動きですが…」
ハスミはスフィアを通してマクロスクォーターで開かれているグリーフィングの様子を伺う。
WLF打倒が成された事で黒の騎士団が離脱宣言。
本来の目的であるブリタニア・ユニオンによるエリア11の開放の為に潜伏するとゼロは答える。
ソレスタルビーイングも本来の目的である紛争根絶への活動に戻ると答えた。
今は敵勢力から身を隠す為に宇宙に上がるとスメラギはジェフリーに伝えたが…
マクロスクォーターも船団からの指示を仰ぐ為に共に宇宙へ上がると答えた。
この事からZEXISは三つのグループに分かれる事となった。
~マクロスクォーター・グリーフィングルーム~
代表でゼロが話を一通りに纏めて説明を行った。
「では、こうなるな…」
一つは、引き続き地上で国連の平和維持理事会に協力するグループ。
Zチーム、ゲッターチーム、クラッシャー隊、21世紀警備保障、竹尾ゼネラルカンパニー、保護下にグレン団、月光号のクルーである。
二つは、宇宙に上がるグループ。
S.M.S、ソレスタルビーイング、チームD。
三つは、エリア11へ戻るグループ。
黒の騎士団、キリコ、コロニーのガンダムチーム。
「クロウ、貴方はどうするの?」
「俺は…」
「貴方は元々フリーランスだし強制はしないわ。出来ればこっちに残ってくれると助かるのだけど…」
部隊が分散する中、スメラギから行き先の選択を尋ねられるクロウ。
戦力が乏しい事もありスメラギからの誘いも含まれていた。
所が…
「艦長、リモネシア共和国からメールの入電です!」
「共和国からだと?」
「はい、内容を読み上げます。」
クォーター宛に届いた電子メール。
差出人はリモネシア共和国の大統領からである。
しかも、ZEXISから代表となるメッセンジャーを一名寄越して欲しいと言う内容だった。
「スメラギさん、これで四つ目だな。」
「…その様ね。」
「そのリモネシア共和国の申し出は俺が行こう。」
「だけど…」
「俺はフリーランスだ。自由に動ける以上は適任だと思うぜ?」
「判ったわ、四つ目の申し出にはクロウに任せるわ。」
先の分散に続いて新たに発生した四つ目のグループはクロウが単独で行う事となった。
クロウは元軍人であり、この手の交渉に慣れている事が選ばれた理由であり適任だった。
他のグループはどうしても動かせない事情もあり、流れ的に決まった様なものである。
グリーフィング解散後、クロウはプトレマイオスの個室に戻ってトライアと通信を行っていた。
~プトレマイオス・個室~
「成程ね、インぺリウムが動き始めたか…」
「ああ、リモネシア共和国にはサイデリアル…いやイグジスタンスが居座って国を再建してるしな。」
「リモネシア共和国か…あそこには。」
「例の遺跡があったんだろ?その事はハスミから厳重に保管してあるって連絡が来たぜ。」
「そうかい、出来る事ならもう一度調査したいもんさね。」
前の世界でリモネシア共和国跡地から出現した古代遺跡を調査したトライア。
もう一度と言う願いがポロっと出ていた。
「それよりも…ハスミって子から受け取ったデータは宝の山と厄介事の山だね。」
「どういう事だ?」
「この世界に前回の私達が戦った事の無い連中が介入してる。」
「マジか?」
「流石の私も魔法やら錬金術やら…ファンタジー系の物質に触れる日が来るなんてね?」
トライアはニヤリ顔をしつつ舞い込んだ報酬に喜んでいた。
「特にルーンゴーレムの残骸なんて面白いもの提供してくれるんだから、有難いよ。」
「で、成果は?」
「ブラスタの改造調整もあるしラマリス対応の武装も加えたからそれを差し引いて…」
今回の返済額は39万G。
残りの借金額は50万G。
「うげっ、借金が増えてやがる。」
「文句ならラマリスってバケモンに言うんだね?」
新たな厄介事と共にクロウの借金地獄はまだまだ続くのだった。
=続=
暗躍する者。
対話を望む者。
次回、幻影のエトランゼ・第百六話『遂行《スイコウ》』
ねじ曲がった世界。
彼らもまた変革を望む者。
<余談>
※リモード・モブックス
初老の男性、リモネシア共和国の大統領。
名前が不明だったので勝手に名付け。
原作では全く活躍がないが、こちら側ではシオニーへの贖罪を兼ねてフル活用の予定。