彼らは認識する。
強大な力を晒しつつも。
戦うべき標的は見定めている。
この声は世界へ向けられる。
ZEXISにリモネシア共和国がWLFの隠れ蓑となっている情報が舞い込んだ。
エルガン代表からの依頼でテロの温床となっているリモネシア共和国へ向かう事となった。
ZEXISは表部隊と裏部隊が合流後、三大国家によって同盟が組まれた連合軍に追撃されながら…
目的の地であるリモネシア共和国へと到着。
一方で国連本部では連合軍をリモネシア共和国の領海付近で待機させ、ZEXISとリモネシア共和国の出方を静観する構えを取った。
何かが起こるか、若しくは起これば…双方への介入手段となり得るからだ。
国連に加盟する各国の大使達が繰り出した漁夫の利。
だが、その考えは浅はかで愚かな上に余りにも遅すぎたのだ。
理由とすれば、それ以上の脅威が現れる事を…
その事実を知るトレーズだけは、ただ思惑を張り巡らせる周囲を静観し口を閉ざした。
******
引き続き、ターミナルベースにて。
リモネシア共和国への介入の件でイグジスタンスは鋼龍戦隊と話し合いを行う予定だったが…
イグジスタンス代表のアウストラリスが既に出撃したという事件が発生していた。
それも単独でだ。
話し合いをする所の騒ぎではなくなった以上。
緊急事態体制が取られ、イグジスタンスと同時に鋼龍戦隊にもいつでも出撃出来る様に準備に取り掛かって貰った。
出撃準備が進められる最中、アウストラリス不在の幹部だけで開かれた緊急招集からの会議。
クロウはZEXISで任務中、セツコとランドは別行動中の為にこの場に居ない。
リアクター七名が集まった円卓の間で語られた真実は…
「つまり、アウストラリスはかつての戦友を?」
「ええ、破界の王…ガイオウことヴァイシュラバを止める為に。」
「前の時はクロウ達が倒しちまった後だ…割り切ってはいたんだろうよ。」
「ただ、違うのは…」
「今回はソイツが生きているって事かい?」
「その通りです。」
ハスミからの説明を受けたリアクター達。
理由を知ったヒビキ、ガドライト、エルーナから疑問や返答を述べられた。
「アウストラリスなりのケジメだろうな…」
「ええ、尸空さんの言う通りです。」
「ケジメですか?」
アウストラリスの真意を察し、それを酌んだ尸空の発言と納得するハスミ。
その言葉にヒビキは疑問を告げた。
「あの人は根が素直ですし、せめて最後は自身の手で…と思っているのでしょう。」
「…」
共に居た時間は短くともハスミはスフィアの力を使わずにアウストラリスの心情を読み取っていた。
止められぬのなら自身の手で決着を着けようとしている事も…
「で、向かった先はリモネシア共和国で間違いないんだね?」
「はい、同時にZEXISも到着している頃でしょう。」
「それは…鉢合わせって事にならないかい?」
「念の為、リモネシア共和国に潜入調査を行っているクロウさんにも伝えてあります。」
「問題は何処まで誤魔化せるかって事か?」
バルビエルの質問にアサキムからの警告の後にガドライトから時間の問題であると察して貰っていた。
ZEXISにも前世の記憶に目覚めた者達が少なからず存在する。
クロウには先んじてヒイロやキリコ、この世界で再会した刹那…黒の騎士団の団長ゼロことルルーシュと連携を取っていた。
こちら側の事情は伏せてでの接触は行って貰っている。
理由として…
刹那=ヴェーダ経由でこちらの情報が筒抜けにならない様にする事。
そしてルルーシュに掛けられている皇帝の呪いも否定出来ないからだ。
「偽造IDである程度は誤魔化せると思いますが、直接となるとどうにも…」
「早い所、迎えに行った方が良くねえか?」
「プラン上、もう少し先にしたかったですが…致し方ありませんね。」
ハスミは踏ん切りがついた様子で答えた。
「鋼龍戦隊にも通達し出撃準備は行って貰っています、イグジスタンスも総じて出撃しましょう。」
「ハスミ、殴り込みって事?」
「その通りです、場合によってはガンエデンで奴らを始末する事も視野に入れておりますので。」
ハスミの冷静を通り越した冷徹な声でのガンエデン発言に反応するガドライトとエルーナ。
実際にガンエデンの力を見ているアサキムも同様に答えつつ監視も兼ねて同席させているAGの様子を見る。
そのAGに関してはガタブル状態で隅っこで震えていた。
「…いや、拙くねえか?」
「それ、速攻でケリついちゃうよ?」
「そうだね、空白事件でもジ・エーデルの同一体が手出し出来ずに倒されていたし。」
「もうしません、もうしません、もうしません、あばばばば…」
その様子に実際にガンエデンの力を見ていないヒビキ、尸空、バルビエルも察した様に答えた。
「敵に回してはいけないと言う事は理解出来ました。」
「…否定はしない。」
「そうだね。」
ヘラヘラして他人にストレスを与える様な態度を取るAGの怯え方が尋常ではないからだ。
どれだけの恐怖を与えられたのか想像も出来ないが、察する事は出来る。
ヒビキ達三人は余計な発言を避ける為に他人事の様に答えるしか出来なかった。
「では、出撃準備が整い次第…リモネシア共和国への介入を行います。」
ハスミが話を切り上げると各自離席し出撃準備へと向かった。
円卓の間に残ったハスミは静かに答えた。
「ヴィル、どうか無茶だけは…」
>>>>>>
一方その頃。
リモネシア共和国の本土内。
観光業とDEC産出で成り立っている小さな国。
この国がWLFの隠れ蓑となっていた。
理由として外務大臣シオニー・レジスが他国から自国を守る為に試行錯誤を行ったが…
それから来る不安や緊張の重ね重ねのストレスがある意味で限界を迎えて引き起こした結果だった。
悪魔の囁きとも言える甘言に乗せられた末路。
それが刻々と迫っていた…
「…(この国を守る為にプロジェクトを成功させなければ。」
共和国を見渡せる場所でシオニーは一人誓いを立てていた。
だが、それは他者の思惑が絡んだ偽りの思想。
まるで脆く崩れる砂の城の様に。
シオニーの選択が愚者へと変貌する時は刻々と迫っていた。
~共和国内・市街地~
「な、な、な、な…!?!?!」
ZEXISの偵察任務でロックオンと共に市街へ出ていたクロウ。
WLFに在籍する元テロ集団のリアルIRAとラ・イデンラの構成員。
ヴェーダの照合で構成員データが合致。
先の二つの組織は国際テロ組織でありどちらもソレスタルビーイングによって壊滅していた。
僅かな生き残りが巡り巡ってWLFに下ったらしい。
接触したクロウ達をICPOの関係者と勘違いしたが、クロウ達は文字通りの言葉…
『ぶっ潰しに来た。』
続けて…
『良心があるのなら市街地の外で迎え撃て。』
更に…
『民間人を盾にするような真似をすれば、それ以上の地獄を見せる。』
と、答えた。
「わ、判った。」
「必ず、伝える…」
構成員達は身震いしつつ上層部に伝えると答えて逃げて行った。
無差別テロを憎むロックオンとその心情を察して入り込み過ぎない様に距離を取るクロウ。
クロウは野暮用と言ってロックオンと別行動を取ると話した。
「WLFに知り合いでもいるのか?」
「いや、そうじゃねえ……どうもアイツの気配を感じたんでな。」
「アイツ?」
「気のせい…と思いたいが念の為だ。」
「判った、スメラギさんには俺から言って置く。」
「済まねえ。」
その後、ロックオンに告げて別行動を取っていたクロウだったが…
散策中の市街地でとある人物の姿を発見する。
それはこの場に居る筈のない存在だった…
「久しいな、クロウ・ブルースト。」
クロウは光速で周囲を確認すると速攻で路地裏に彼を引き入れ、小声で会話を開始した。
スフィアによる共振では潜伏中のアイムに感づかれる可能性がある為だ。
(おい!何でここに居るんだ!?)
(理由は察しているだろう。)
(…ガイオウの事か?)
(その通りだ。)
クロウは手身近なBARに入り、店の隅で話を始めた。
「で、単独でここに来たって事か?」
「その通りだ。」
「ケイロン・ケシェット…アンタの偽造IDは出来がいいな?」
「ああ、優秀な片腕がいる。」
「成程、察しはついた。」
クロウは店内にWLFの構成員や民間人に紛れ込んでいるイノベイトの姿がない事を確認してから本題に入った。
「これからどうするつもりなんだ?」
「破界の王を止める事に変わりはないが、今のお前達に協力する気はない。」
「品定めって事か?」
「その通りだ、あの時の様な力を持つには記憶を持たぬ者達にも試練が必要だ。」
「ルルーシュの奴が聞いたらヒステリーを起こしそうだぜ。」
ウンザリした表情でクロウは答えた。
これまでの行動とヒイロから聞かされたサイデリアルの早期侵攻。
その事情を知らない素振りを続けるクロウも…
彼らが真実を知った時、確実に貧乏くじの結末を辿るだろう。
「クロウ、お前に伝えねばならん事がある。」
「伝える事?」
「ゼロにルーンゴーレムを知っているか?と尋ねろ。」
「そいつは一体?」
「ある者が嗾けた岩人形がこの世界にも現れた。」
「…ゼロなら知っている案件って事か?」
「事情はゼロから聴け、おおよその結末は理解するだろう。」
偽名ケイロンで通しているアウストラリスは更なる脅威がこの世界に転移していると告げた。
恐らくはこれからの行動を捻じ曲げる故の結果だろう。
「どう伝えるかはお前に任せる。」
「判った、悪いが…俺からも頼みがある。」
「何だ?」
「破界の王が現れた後、この国の人間をどうする気だ?」
「その件は既に準備を進めている…安心しろ。」
「悪い様にしねぇなら俺は構わねえ。」
かつて皇帝として支配した者達への安全保証は確実にやり遂げたアンタだ。
今回も任せるぜ。
「クロウ、お前は引き続きあの者達と共に行動しろ……恐らくは。」
「ああ、判っている。」
流れは変わりつつも立ち位置はそのままに。
新たに現れた可能性に対応する為に。
「…そろそろここを出た方が良い。」
「ああ、次は戦場でな。」
「どう転がるかは状況次第って事か。」
クロウは話を切り上げるとBARで彼と別れた。
「…(そうならない事を祈るしかない、か。」
クロウは待たせているロックオンと合流しプトレマイオスが待機しているエリアへと戻って行った。
>>>>>
翌日、夜明けと共にWLFとの決戦が始まった。
都市部の外で部隊を展開するWLF。
数からして本隊でありWLFの最大戦力がそこで陣形を組んでいた。
後方で待機している特機らしい起動兵器の中でWLFを纏めるリーダーと部下が最後の話し合いを行っていった。
「宜しかったのですか?」
「何をだ?」
「都市部内で構えていれば、ZEXISでさえ手出しは出来にくくなると思ったのですか?」
「不服か?」
「いえ、そう言う訳では…」
戦略的に負けに行くような陣形を取ったリーダーに異議を申し立てた部下。
リーダーは部下に答えた。
「別にメッセンジャーの言葉を恐れた訳ではない。」
「では、一体。」
「我々は遊戯版の駒の様に振り回されていたにすぎん…アクシオンとリモネシア共和国と言うプレイヤーによってな?」
「何故、そうだと?」
「アクシオンとリモネシア共和国が何を考えてスポンサーとなり拠点を譲渡したと思う?」
「紛争が彼らにとって利益と成り得るからでは?」
「いや、それが彼らの表向きの考えだったら?」
「裏があると?」
「今となっては判らん事だ、今出来るのは潔く戦い散る事だけだろう。」
「…」
「戦えぬなら投降も許可するが?」
「いえ、最後までお供させてください。」
リーダーの考えを察した部下も共に逝く事を願い出てその場に残った。
世界に混乱を撒き散らしたWLFと言うハリボテの組織を終わらせる為に。
何処で信念を捻じ曲げてしまったのだろう。
何処で愚かな暴挙へと転じてしまったのだろう。
それも過ぎた事…
過去は変えられない、そう…変えられないのだ。
「隊長、ZEXISが現れました!」
「了解した、各員攻撃準備を!」
「了解。」
リモネシア共和国の外側の海岸線より現れたZEXIS。
主力戦艦としてプトレマイオス、月光号、マクロス・クォーターの三隻。
表部隊と裏部隊の混成部隊。
ここにZEXISの総戦力が集っていた。
「各員、都市部への攻撃は極力避けてWLFを叩き潰すぞ。」
「WLFの最後となればいいのだけど…」
各艦の艦長であるジェフリーとスメラギが口々に答えた。
「…(ホランド。」
「…(ああ、判ってる。」
「…(こっちは任せて置いて。」
ただ、月光号のクルーらだけは静観して戦闘準備へと移って行った。
各艦より出撃するZEXISのメンバー達。
「…(兄さんを攫って行ったのは一体?」
「タケル君、戦えるのか?」
「任せてください、兄さんと誓った願いの為にも。」
ギシン星人との戦いで諍いがあったマーズことタケルだったが信念を新たに戦う事を改めて誓った。
それを表部隊の戦術アドバイザーである城田は心配無用だったと捉えた。
「WLF!お前らとの縁はここまでだ…片を付けさせて貰うぜ!!」
出撃したブラスタの中でクロウもまた決意を新たに答えた。
「…(これからテメェら以上の奴とケリを付けねえといけないからな!」
WLFとZEXISに戦闘が始まった頃。
その戦いを監視する者達がいた。
「…」
「派手に始まったね。」
「ハスミ、アウストラリスは何だって?」
「エルーナさん、現状維持のまま待機せよ…との事です。」
「はいよ。」
「俺らの出番はもう少し先って事か?」
「はい、私は私の仕事を行いますので皆さんは傍観しつつお待ちください。」
「…見張りはして置く。」
「では、尸空さん…後はお願いします。」
彼らもまたZEXISの戦闘が終わるまで静観し続けた。
そして、時は訪れた。
DECを使用した次元歪曲による大時空振動が始まったのである。
それは大規模なエネルギーを生み出し、この世界に顕現したのだ。
破界の王と呼ばれる存在が…
=続=
在るべきはずのない集結。
それは圧倒的な力と真実と共に。
次回、幻影のエトランゼ・第百四話『声明《セイメイ》後編』
世界を満たす虚偽を覆れ。
真実は目処前にあるのだ。