ほんの少しのやり取り。
それが一つの伏線へと繋がる。
前回、ZEXISの前に現れクロウへ揺さぶりを掛けようとするものの…
乱入者たるファウヌスによってMDを奪われ敗走を余儀なくされたアイム。
彼は任務失敗の件を上司たる破界の王へと告げた。
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次元震を生み出す歪曲の隙間。
そこに生み出された異空間で彼らは話し合いを行っていた。
「随分と派手にやられた様じゃねえか、アイム?」
「お恥ずかしい限りです。」
破界の王と呼称される人物。
かつて、聖インサラウム王国を蹂躙し壊滅へと追い込んだ存在。
そして彼らの存在する世界への扉を開こうと今か今かと待ち望んでいた。
だが、扉を開く為の準備を行うアイムが失態を犯した。
それは責められるべき事だが、破界の王はその失態に追い込んだ相手に興味を示していた。
「破界の王よ、その話は本当なのですか?」
「ああ、あの次元獣は例の鎧野郎の結界で気配が完全に遮断されちまっている。」
当人も面倒くさそうな表情で悪態ついていた。
使役していた次元獣を奪われた上に気配すら辿れないのだ。
明らかに鎧野郎ことファウヌスが一枚上手である事を示している。
「本来の使役者である王でも気配を辿れないとは…」
「そんだけ鎧野郎は用意周到ってだけだ。」
「…鎧の者は名をファウヌスと名乗っておりました。」
「ファウヌス……アイツ、改名したのか?」
「は?」
破界の王はファウヌスが改名したと答えた。
その言葉にアイムは混乱した。
「王よ、それはどういう事ですか?」
「テメェ、アイツと戦って何も気づかなかったのか?」
破界の王はアイムに貸し与えた次元獣達を通してファウヌスとの戦闘を見物していた。
機体や使用する得物は違っているものの破界の王はファウヌスの正体を察したのである。
それも僅かな動きや癖だけでだ。
「まさか、ファウヌスの正体が私が出会っている人物だと?」
「そう言うこった。」
破界の王はニヤニヤと楽しみが増えた様な気分で答えた。
「あの国で俺達に手傷を負わせた連中と再会するなんてな……!」
「!?」
アイムは破界の王の言葉で全てを察した。
ファウヌスの正体が誰なのかを。
「一度目だけではなく二度目も屈辱を……次に会った時は容赦しませんよ。」
アイムは憎しみの声でファウヌスの正体である人物の名を告げた。
「ハスミ・クジョウ……クロウ・ブルーストと共に貴方の命も私が頂きましょう。」
この時、アイムは知らなかった…知る筈もなかった。
命を狙った相手がどんな存在であるかを?
それは属する世界で機械仕掛けの女神の依代たる存在。
紛れもなく相手が悪いと言う事を…
>>>>>>
一方その頃。
アイムの襲撃を受けた日から数週間後のADWは既に丑三つ時を迎えていた。
アイムの襲撃の日から既にアザディスタン王国でのテロ、タクラマカン砂漠での戦い、ギシン星人による暗躍と言う三つの事件が起こった。
一方で回収したMDの次元獣化をスフィアの力で解いたもののパイロットは重症の為に現在も意識不明の状態が続いている。
機体も動かせる状態ではないので修復は行うが、乗り手が使うかは目覚めてからになるだろう。
ラマリスや次元獣の対応で連戦を続けている彼らも疲弊は蓄積する。
無理のないローテーションでターミナルベースの警備が行われる中。
鋼龍戦隊やイグジスタンスの実働部隊は強制的に休息を取っていた。
常に敵に狙われると言う状態ではないのでほぼ半休に近くなっている。
元の世界での最終決戦から連戦が続いていた彼らには丁度良い気休めだろう。
寝静まったターミナルベースの居住区の一室にて、ある二人の会話が続いていた。
「どうやらこちらの正体が判明された様です。」
「そうか…」
「驚かないのですね?」
「破界の王…いや、ヴァイシュラバは見極める事に関しては鋭かった。」
「…」
褥で語り合うハスミとアウストラリス。
当主への癒しも彼女の仕事の一つである。
ハスミの知りたがる山羊の力で破界の王達の動向を探っていた所…
ファウヌスの正体を相手に悟られた事が判明した。
「アウストラリス、申し訳ありません。」
「…お前の失態を責めている訳ではない。」
「いえ、私自身も目的の為に少々お遊びが過ぎました。」
MD回収の為に油断した事へアウストラリスに謝罪するハスミ。
「お前は相変わらず律儀だな。」
「…」
目を伏せたままのハスミの顔に触れるアウストラリス。
「ヴィル?」
「承知しているとは思うが、ガンエデンの力を開放する必要があるやもしれん。」
「はい…人類の敵と言う認識がある以上はガンエデンも力を振るう事は出来ます。」
「済まぬ、だが…ガンエデンと言う名はバアルにとっても脅威だ。」
その名が世に知らしめる時、奴らはどの様な顔をするだろうな?
神話の中で語られるだけの存在が現実に復活しているのだ。
「名の開示はお前を危険に晒す行為でもある……許してくれ。」
「ヴィル、私は決闘の時に決めた契約の際に約束しました。」
貴方との決闘の末に敗北し貴方の軍門に下った。
この選択に後悔はありません。
「心配ご無用ですよ。」
「そうか。」
顔に寄せられた手は背を支えて彼の元へ引き寄せられた。
眠れる時は眠る。
僅かな疲れが鈍らせてしまうから…
「もう休むぞ。予定通り…後日、リモネシア共和国への戦闘介入を行う。」
「了解しました。」
「…(ヴァイシュラバ、お前が記憶を取り戻さず悪鬼羅刹であり続けるのなら…俺はお前を討たねばならん。」
微睡の中で決意を新たに。
イグジスタンスとして戦う事を。
それが元皇帝として起こしてしまった惨劇への償い。
これは束縛から自由を得る為の戦いなのだ。
=続=