星座は星群と共にある。
彼らもなくてはならない。
人は一人では生きていけないから。
これは、各地で紛争やテロが横行する中。
国連による平和維持対策チームことZEXISに黒の騎士団が加入してから起こった出来事。
ターミナルベースに滞在中のイグジスタンスでは副官による話し合いが行われていた。
~ターミナルベース・グリーフィングルーム~
「新たな次元湾曲現象?」
「ええ、それも我々が遭遇した事もない反応でしてね。」
ハイアデス隊のダバラーンの反応を皮切りにアンタレス隊のサルディアスが説明を続けた。
「私達で調査を…と指示を受けました。」
「だが、調査人員は最小限に収める様にと言付かっている。」
「はい。」
鬼宿の尸刻とジェミニス隊のアンナロッタにアルシャト隊代理副官のロサが頷いた。
「本当ならギルターさんらに任せようと思いましたけど、私自身興味がありまして…それに直接指示を受けましたし。」
「しかし、副官全員が出撃する理由は…」
サルディアスは乗り気だったが拠点防衛に携わるダバラーンとしては複雑だった。
事の理由を聞いてきたロサが補足話をした。
「ハスミからアウストラリスさんにお伺いした話だと『それぞれが副官の座に居る以上はそれなりの実力を有して貰わなければならん。』と言ってました。」
要は何が起こっても指定した人員のみで対処しろと言う事である。
「元陛下…いえ、当主には困ったものですな。」
「だが、力試しと言われた以上は応じなければならない。」
「…」
「所でロサ、ツィーネはどうした?」
「別件で不在ですけど、後で合流するそうです。」
他の四人は前世上の記憶があるので難無く連携は取りやすい。
ロサだけは初回なので不安要素もある程度予想は出来たが、特に問題は無い様子である。
「…」
「尸刻さん?」
「…」
「ナデナデしますか?」
この様な形でロサはイグジスタンスでも癒しマスコット化になっていた。
かつてミスリルでソースケが勝手にマスコットキャラとして進めていたボン太くんの件もあるので動揺はないだろう。
ボン太くんを用いた戦術は前世上でもアンナロッタ達が身を持って経験している。
その有能性は言うまでもないだろう。
「…(以前、ツィーネがロサの事を苦手だと話してたが。」
アンナロッタは尸刻によってナデナデされているロサを見ながらある事を思い出していた。
空白事件の終盤、ジ・エーデルの元でカイメラ隊に属していたツィーネ。
彼らによるノードゥスの内部分裂の工作を看破したのは別行動中だったハスミとロサの二名だった。
この頃、前世で同一の事件の詳細を知っていたメンバーは次元転移で行方不明だった。
その事もあって再び内部分裂を引き起こされそうになったが、二人の活動でそれは防がれた。
その後、ランドとセツコのスフィア覚醒を伴ってカイメラ隊は手痛い反撃を喰らい壊滅した。
この戦闘のショックで記憶を取り戻したアサキムとツィーネはハスミからの秘密裏の説得を受けて協力体制を取る様になったのである。
ツィーネがロサと戦ったのはその時だけであり、二度と再戦したくないと青褪めた表情で愚痴を漏らしていた。
「さて、皆さん…話し合いはここまで。各自の準備が整い次第、調査地への出撃をしましよう。」
>>>>>>
数時間後、出撃準備を整えた副官らは指定ポイントへ出撃。
道中でツィーネのエリファスと合流し調査地点へと到着した。
その場所はソレスタルビーイングのヴェーダですら監視が不能な領域だった。
~多元地球近海・Cエリア~
「ここが…」
「見た所、只の宙域の様ですね。」
ダバラーンとサルディアスが宙域の様子を目視で確認するものの…
特に異常は見られなかった。
「…ですが、気配を感じます。」
「恐らくはバアルの眷属達の気配だろう。」
「はい、間違いないです。」
だが、気配を感じ取れる尸刻達は静けさだらけの領域の違和感を見透かした。
その言葉と同時に出現する青銅の装甲を纏った異形の存在。
「調査とは言え、本来の機体での出撃は間違いなかったみたいね。」
ツィーネは出現した存在に対して戦力配分に間違いはない事を答えた。
「あの機体……確か、どこかで?」
ロサは出現した異形の存在の姿に見覚えがあると答える。
その言葉に反応するアンナロッタ。
「ロサ、それは本当か?」
「はい、あれは……ルーン・ゴーレム、ゴーレムの一種です。」
「ゴーレム?」
「解りやすく言うと魔法で生成された岩人形です。」
「魔法…まさかセフィーロから転移してきたというの?」
魔法と言う言葉でツィーネも多々事ではないと判断した。
だが、ロサはセフィーロからの転移ではないと答えた。
「セフィーロからじゃないです、生成に使用されている魔素の気配が違う。」
「では、一体?」
「サルディアスさん、データ収集をお願い出来ますか?」
「…判りましたよ。ロサさん、何か理由があるんですね?」
「はい、もしかしたらハスミが危惧している事に関係あると思ったので。」
サルディアスにデータ収集を依頼するロサ。
これは化学面と非科学面の両面でのデータ収集を行う為である。
多元世界でその考えが必要な状況である事は確かだ。
様々な側面から調査する事で答えは明白になるだろう。
「では、あのルーン・ゴーレムの殲滅で構わないか?」
「ええ、一部でも持ち帰れば調査は出来ます。ですよね、ロサさん?」
「はい、残りは木っ端微塵にしちゃってください。」
お掃除らんらん気分に発言するロサ。
本人無自覚の天然オーラが凄まじく醸し出されている。
「ああ、判ったよ…(この子、本当に苦手。」
「後、金色のルーン・ゴーレムを倒す時は気を付けてください。」
「と、いいますと?」
ツィーネは天然オーラに押されて引き気味状態で答えた。
同時にロサが注意を促し、それに対してサルディアスが返答を求めた。
「あのルーン・ゴーレムは金鉱石…つまり金の塊なので資金調達が出来ます。」
「成程、それならば…なるべく形を残して倒しませんとね。」
「うむ、ならば…周囲の雑魚は此方で仕留める。」
「なら、細かい作業は此方でやろう。」
「…」
「調査のつもりがまさかのお宝発掘になるなんてね。」
「適材適所。皆さん、頑張りましょうです!」
戦術はダバラーンで展開しているルーン・ゴーレムに波状攻撃を仕掛けて分散。
被弾したルーン・ゴーレムをアンナロッタらが対応。
被弾せずに回避したルーン・ゴーレムを対魔力戦術を持つロサが対応する事となった。
「これはこれで良かったのかもしれませんね。」
「うむ…」
「…」
「あの借金持ちの言葉を借りるつもりはないが…」
「人の事はいえないわね。」
「節約も大事ですよ。」
現在のイグジスタンスは資材並びに金銭的に余裕がない。
サイデリアルだった頃はそれなりに供給に困る事は無かったが…
今は御使いから放逐を受け、纏め上げていたサイデリアルの部隊はこちら側の本隊を除いて別世界へバラバラに転移し動けずにいた。
その動けない部隊が物資から資材の供給に携わる者達だった。
これによりハスミが現在も帳簿とにらめっこしながら手元にある物資やり繰りを行っている。
またアルシャト隊が物資供給の為に各地に潜伏し供給可能なプラントを捜索していた。
元の世界の天鳥船島に蓄積されている物資を供給する事が出来れば、ここまでの節制は行わない。
現在もクロスゲートが使用できない以上は節約に勤しむしかない。
世知辛いとは良く言ったモノだ。
「これは…銀と白金ですかね?」
「色々混じっている様だ。」
「これも全部回収でいいのだろう?」
「はい、見分はこちらでします。」
「これ、まさか宝石?」
「…」
一行はルーン・ゴーレムの集団を殲滅し残骸から金塊などを選別しバン・アルデバルへと搬入していた。
中には銀、白金、宝石の類も含まれていたので暫く金銭面に困らないだろう。
「クロウさんがこの場にいたら泣いて喜んだでしょうね。」
「…そうなんですか?」
「ええ、そりゃあもうね。」
ロサはまだ会った事がないのでクロウがどう言う人物か不明であるが、サルディアスの困り顔を見ると金銭面で容赦ない人物であると認識した。
「お金にがめつくて、貧乏性で、元軍人…どんな人なんだろう?」
「こういう時、天然は便利よね。」
「…そうね。」
「…」
本人がどの様な言われ方をするのか察したツィーネとアンナロッタ、変わらずロサの?を可愛いと思う尸刻。
天然無自覚の発言がクロウにグッサリと刺さる事だろう。
「私、経過報告してきますね。」
「ええ、残りはこちらで搬入して置きますよ。」
「お願いします。」
ロサはその場を後にし通信を行った。
場所はターミナルベースである。
「そう、ルーン・ゴーレムが。」
『うん、ハスミが言ってた通りだったよ。』
「判ったわ、戻り次第…詳しく聞くわね?」
『うん。』
ハスミへ経過報告を行うロサ。
調査任務を終えて戻ると告げた。
「魔従教団…エンデの下僕達、来るなら遠慮なく仕留めさせて貰うわ。」
ハスミは静かに答えた。
******
後日、ルーン・ゴーレムから採取した金塊を元手にイグジスタンスは滞っていた物資供給を行った。
だが、それも一時しのぎに過ぎない。
改めてターミナルベースに続くセントラルベースの候補地の確保。
建設を急ぐ事となった。
全ては破界と再世の戦乱を鎮める為に。
=続=
とある場所では。
「なんでしょう、急に寒気が…?」
『私は嘘つき』と呼称する人物が南国の地で寒気に身震いした。
彼はまだ知らない。
途轍もない恨みが忍び寄っている事に…