幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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名を変える。

それは首輪からの脱却。

自由を求め開放する為に。




第百一話 『名変《ナガエ》』

 

各地のスタンピードを収めてから数日後。

 

メディアは私設武装組織ソレスタルビーイングのビデオレターやそれらに該当するニュースで持ちきりだった。

 

ここターミナルベース内でも、そのニュース類は自由に閲覧出来る。

 

鋼龍戦隊とサイデリアルの休憩中や非番のメンバーが入り混じり情報収集がてらフリースペースでニュースを見ていた。

 

 

******

 

 

「ソレスタルビーイング…か。」

 

 

フリースペースに置かれたソファーでリューネが呟いた。

 

武力による紛争根絶、最終目的は恒久的平和を掲げる組織。

 

成り立ちに関して自身の父親であるビアン・ゾルダークが起こそうとした戦いにどことなく似ている事に痛感していた。

 

今回はその戦乱がホルトゥスの介入によって未然に阻止されたので痛い所は無いが…

 

ハスミから実際にそれが起こってしまった並行世界もあると告げられた。

 

結果的に人類は纏まったがビアン率いる組織は壊滅し、その思想を捻じ曲げた末にテロを引き起こす組織へと成り下がってしまった。

 

他に聞こうとしたものの…

 

主にエクセレンが他のメンバーの黒歴史に該当する話を聞きたいと、てんやわんやした事で有耶無耶となったのである。

 

 

「リューネ、どうしたんだよ。」

「マサキ、あのソレスタルビーイング…ってさ。」

 

 

リューネはフリースペースにやって来たマサキに話しかけた。

 

父親が目指そうとした思想と複雑な思いと共に。

 

 

「確かにこのやり方じゃ、拙いだろうな。」

「…だよね。」

 

 

現実にマサキは前世の世界でDCとして蜂起したリューネの父親をその手に掛けている。

 

今世ではそれが起きていないが、知る以上。

 

同じ過ちが起きない様に伝えなければならないのだ。

 

 

「ソレスタルビーイングの内情も一筋縄って訳でもなけりゃアードラみてぇな連中が居たって可笑しくねえよ。」

「うん。」

「俺らが介入するかは様子見するしかねえよ、俺らは人様の情勢に軽く頸を突っ込める立場でもねえ。」

「…そうだね。」

「ただ言える事は間違った行動をしたら俺らで止めればいいって事だけだ。」

「マサキらしいね。」

 

 

ハスミは二人のやり取りに静観をしていたが、特に問題はなかったのでそのままにしておいた。

 

フォローすべき所は出来得る人達が行っているからだ。

 

自身が全部に頸を突っ込む事はしない。

 

 

「ふぅ…」

 

 

そんな状況の中でハスミはプレートタイプの電子機器から纏めた資料とにらめっこしていた。

 

 

「…(向こう側の状況がほぼ解るとは言え、バアル側に協力している連中が曲者揃い。」

 

 

梁山泊の最下層牢獄に投獄されていた罪人の殆どがバラオに霊子を喰われた。

 

表向きは衰弱死と老衰で処理された。

 

 

「…(連合の方もキナ臭いを通り越して危険な感じだったし、曲者リストをピックアップして光龍父さん達に情報を渡して置いて正解だった。」

 

 

ハスミはその組織の名を見た後、片手を握りしめた。

 

 

「…(NT教団、マフティー設立を阻止した事で出来てしまった狂信者の集団。」

 

 

文字通りNTを捻じ曲がった思想で崇拝する連中でありスポンサーがクロノと言うややこしさ。

 

構成員の多くはNT能力者でないもののNTの素養を持つ者や強化人間を秘密裏に拉致洗脳を施そうとしている。

 

下手をすれば、向こう側に居るジュドー達も危険であると言う事だ。

 

 

「…(早い所、山羊座のスフィアのレベルを上げてアビスの呪いを無効化しないとどうしようもない。」

 

 

いっその事、リモネシアに単独潜入してアイムをフルボッコって手もあるんだけど…

 

うーん、それだとガイオウの動きが余計に収拾付かなくなるし…

 

いや、ガイオウを捻じ伏せた方が早いかも?

 

とは言うものの…ガイオウの耐久性がヴィルと同じと考えると貫通ダメージを考えないと。

 

前の特訓で全力の念動フィールド張った拳で殴ってもヴィルってば軽い感じで『痛い。』だったし。

 

遭遇しても腹パンは無理でも顎パンはワンチャンあると思いたい。

 

え?説得しないんかって?

 

脳筋への説得=物理が相場と思いますが、何か?

 

うん、銀鈴さん達もそう言ってましたし。

 

 

要約<分からず屋の野郎共は拳で黙らせる。>→注:梁山泊&国際警察機構の女性エキスパート達だけの常識です。

 

 

と、言う事をハスミは一般常識として間違って学んでしまっていたのであった。

 

 

「…」

 

 

色々と問題点を纏めてハスミの思考はオーバーヒートの末に…

 

 

「…何だろう、無性にアイム・ライアードをボコボコにしたい気分。」

 

 

本人が居れば、慈悲深い常識人達によって全力で踵を返せと叫ばれるだろう。

 

 

「ハスミ、大丈夫?」

「大丈夫と言えないかも…ここ最近は資料とにらめっこしてたし。」

「そう、ならコレを飲んで元気出してね。」

 

 

衛生管理の手伝いを終わらせたクスハがハスミを訪ねて話しかけた。

 

しかし、彼女が持って来たのは例のアレであった。

 

 

そう鋼龍戦隊の裏名物クスハドリンクである。

 

 

「あ、ありがとう…(暫く飲んでなかったしヤバイかも。」

 

 

相変わらず薄紫色の液体にボコボコと泡立つ栄養ドリンク。

 

ハスミは静かに唾を飲み込んだ。

 

ドリンクの威力を知るマサキとリューネは顔を青褪めさせ、クロとシロに至っては尻尾を巻いて隅っこに蹲っている。

 

何も知らないのはサイデリアル側の人々のみだ。

 

その彼らも?マークを浮かべながら恐る恐る見ている。

 

クスハドリンクの恐怖を改めて知って貰うにはいい機会と思う。

 

体力回復には問題ないが、暫く気絶するのと味が問題と言う点である。

 

 

「…ご、ご馳…走さ、ま。」

 

 

舌触りがメッチャザリザリしてグミっぽくてううっ…

 

コレ呑み込むのがキツイ。

 

 

「どう?」

「舌触りに違和感…あるからもっとなめらかが良いかも?」

「やっぱり…ごめんね、漢方の百足を入れすぎちゃったかもしれない。」

「…(クスハー!!それ言ったらアカンって!?」

 

 

ハスミの心の声も空しく。

 

 

「む、ムカデって…」

「マジでヤベェって。」

「やっぱりニャね。」

「あのクスハドリンクに耐えきれるのはハスミや少佐達位ニャ。」

 

 

クスハの発言で戦慄し小声で話し合うマサキ達。

 

 

「そうそう、さっきアウストラリスさんにも持って行ったの。」

「え?」

「前に出したのは効力が薄かったみたいだから、今回は十倍の濃さで。」

 

 

「「「「…」」」」」

 

 

「念の為に言うけど…そこの二名と二匹、アウストラリスなら大丈夫だから。」

 

 

寧ろ本人も耐久訓練がてらに呑んでたし。

 

次元将の胃袋ってどうなっているの?って思ったわ。

 

ジャンクフード食べまくっても平気な脳筋もいるしアレが普通なのかな?

 

まあ、ヴィルは和食に慣れさせちゃったからそっちが好みになっちゃったけど。

 

試しに作ったエルザム少佐直伝の焼きおにぎり(醤油&味噌)で興奮してたし。

 

そのせいかお酒も清酒系とか好みっぽいね。

 

 

「ん、招集か…」

「ハスミ、どうしたの?」

 

 

ハスミはスフィアの力で共振が起こっているのを感じた。

 

これはリアクターだけでの会議を行うと言う知らせである。

 

 

「アウストラリスが招集をね、何かあったみたい。」

「戦闘?」

「そうじゃないよ、各地に情報収集に入っていた人員からの定期報告を纏めるだけだから。」

「ならいいけど…最近、疲れ気味みたいだったから。」

「暫くは大丈夫と思う…クスハのドリンク飲んだし。」

 

 

あれ以上に強力なアイテムってEFにあったファッティ・ヘンゼルのお菓子位かな。

 

ゲームと違って実際に食べられたし……本当に体重計が不味かった。

 

暫く会ってないけど、他のEFの皆も元気にしてるみたいだし。

 

ヴェルドバオム&スヴァイサーの封印も解かれてないから暫くは平和かな。

 

 

「要点が纏まったらマイルズ司令官達の方にも連絡に行くよ。」

「無理はしないでね。」

「ありがとう。」

 

 

ハスミはそれだけ答えるとプレート機器を仕舞い、室内を去って行った。

 

ベース内の玉座の間の奥へと移動すると既に他のリアクター達は全員集合していた。

 

入室しアウストラリスから声を掛けられたハスミは応対する。

 

 

「ハスミ、済まなかったな。」

「いえ、遅れましたか?」

「…これから行う所だ。」

 

 

議題は各地に潜伏しているサイデリアルの人員達からの情報整理。

 

ハスミが居る以上は嘘偽りは出来ない状況なので解りやすく配分するだけだ。

 

現在、起こっている事は…

 

・変わらずの世界解放前線「WLF」によるテロ行為。

・人類全体の敵である次元獣、インベーダー、イマージュが地球に襲撃中。

・私設武装組織ソレスタルビーイングが世界中から武力を根絶するべく行動を開始。

・ドクターヘルとヘテロダインの活動が活発化。

 

大雑把に纏めるとこんな感じである。

 

ある程度の情報整理が終わったので次の議題に入った。

 

 

「名を変える…ですか?」

「その通りだ。」

 

 

アウストラリスからの提案で組織名を改名する話が出ていた。

 

 

「流石に連中に付けられた名前のままってのもな…」

「新しいネーミングにしようってのもいいね。」

「…」

「名前を変えるにしてもネーミングにインスピレーションがなくてさ。」

「君にも一案を出して欲しいって事になったんだ。」

「済みません、俺達も頑張ったんですけど…」

 

 

ガドライトら他の六人も思いつかないの体でハスミに名付けに関して振られた。

 

 

「…ああ、成程。」

 

 

こんだけ揃って案がないって…どっかで見た事あるデジャヴ。

 

サイデリアルと似た意味合いだとトロピカルになっちゃうし…

 

かといって星座に関した名前だとネタバレに陥いる。

 

なら、シンプルな意味合いの方が良いかもしれない。

 

 

「イグジスタンス…地球の言葉で『存在』と言う意味でどうでしょうか?」

「存在?何故それを…?」

「私達が存在となる事…それはこれからの戦い次第で移り変わります。」

 

 

どんな時でも変化する存在になる様な意味合いを持たせた。

 

私達は常に存在し、ここに居るのだと知らしめる為に。

 

 

「認識の意味合いか…成程な。」

「他に異論はありますか?」

 

 

ハスミの名付けに関して特に反論は無かった。

 

意義の申し立てが無いのでハスミの提案が認可。

 

この時を持ってサイデリアルは改名しイグジスタンスと名乗る事を決定。

 

後日、その一件は鋼龍戦隊にも伝わり。

 

志を新たに活動を継続するのだった。

 

 

=続=

 





世界は戦乱に晒されている。

各地で芽吹く反逆の意思。

志を新たに彼らも暗躍する。


次回、幻影のエトランゼ・第百二話『覆影《オオウカゲ》』


世界の影を生み出す元凶を見定めよ。

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