幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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天秤は揺れる。

新たな波乱と共に。

悪意は更なる脅威となって…


第九十九話 『天秤《ライブラ》』

 

真実を知った鋼龍戦隊がサイデリアルとの同盟を結んでから数日が経った。

 

依然と世界の内情は変わらず、三大国家による介入で世界各所で紛争が起こっていた。

 

特に紛争地帯や小国同士を衝突させて潰し合いをさせている。

 

あわよくば、疲弊させ自身らの陣営に取り込み勢力を拡大しようとしているのだろう。

 

そして、最近になって出現した一切の攻撃を受け付けない悪霊の存在。

 

こちらの世界でも名称をラマリスと呼称し対応に追われている。

 

次元獣よりも質が悪く、出現した場合…遭遇した人間の命の保証はない。

 

文字通り、この世界では奴らに対して戦う術がない状況だった。

 

そう、あの日までは…

 

 

*****

 

 

~更に数日後~

 

 

ブリタニア・ユニオン領。

 

シカゴ郊外にて行動する五名の姿があった。

 

 

「ここにあの人がいるの?」

「ハスミさんの話では、あの人が身辺整理で金無し宿無し無職状態で借金取りに追われているって事ですけど…」

「想像したくもねえ話だな。」

「…そうね。」

「実際、そう言う状況だったんですよ…アカシックレコードで様子を視た時はドン引きしましたけど。」

 

 

ハスミの魔法で一般の白人に見える様に姿を偽装したヒビキ、スズネ、ハスミ、ガドライト、アンナロッタが行動を共にしていた。

 

特にアジア系のヒビキらがブリタニア・ユニオン国内で動くには少々問題がある為、先程の偽装魔法はその措置である。

 

周囲には白人に見えているが、互いの姿は何時もの姿に見える様にハスミが調節していた。

 

 

「確か、この辺りの筈…」

 

 

ハスミは例の存在が借金取りと借金返済の話を交わしていた広場へ辿り着いたがそれらしい人物は見当たらない。

 

 

「姿がありませんね。」

「やっぱりすれ違ったのかしら?」

 

 

ヒビキとスズネの不安を余所にハスミはある手段を講じる事にした。

 

 

「この手は余り使いたくなったのですが…致し方ないですね。」

「どうするんだ?」

 

 

ハスミはため息を付いた後に静かに告げた。

 

 

「文字通り、餌で釣る作戦です。」

 

 

その発言に対して四人は納得した表情で無言状態となった。

 

 

「「「「…(そうきたか。」」」」

 

 

釣りの生き餌に丁度いい物として…

 

それは広場に店を開いた移動販売車で売られていた。

 

シカゴ名物の一つ、シカゴ風ホットドッグである。

 

 

「正直言うと…これで釣れそうですね。」

「マジで言ってんのか?」

「えーと、あの人の事だから背に腹は代えられないって感じで寄ってくると思うわ。」

「元軍人と聞いていたが呆れるわ。」

「右に同じく。」

 

 

アメリカンサイズのホットドックを人数分+三つに飲み物を購入し目的の人物が現れるまで近くのベンチで待機していた。

 

ヒビキの答えに対してガドライトは引き顔。

 

スズネが苦笑いでフォローしアンナロッタとハスミが呆れた顔を見せている。

 

早めの昼を済ませる事も考慮しているので黙々と昼時タイムに突入した。

 

 

「…来たみたいですね。」

 

 

暫く経過しホットドックが三つ残った状態になった時、それは現れた。

 

 

「腹減った…」

 

 

その人物は見事にホットドックの匂いに釣られて目処前で倒れてくれた。

 

まるで某か○うまゾンビの様である。

 

 

「「「「…(本当に釣れた。」」」」

 

 

余りにも情けない有様にヒビキら四人は遠い眼をし…

 

事の結末を知っていたハスミはモグモグと静かに自分の分のホットドックを食べ終えた。

 

 

~数十分後~

 

 

「ごっそさんでした。」

 

 

先程購入したホットドック三つに更に二つ追加し完食した先程の男性。

 

 

「二週間ぶりのマトモな飯だ~生き返る。」

「に、二週間!?」

「それまでは!?」

「金もねえし水だけだ。」

 

 

偽装魔法で一般の白人の姿をしたヒビキらと話している状態の男性。

 

 

「つか…どんだけ金がねえんだよ。」

「最小限でも働く事は出来ただろう?」

「軍を退役して退職金は全部亡くなった親父の借金返済に回しちまったんだよ。」

「返済プランが悪徳すぎると言いたいけど…親族間でも支払いは免除されるのでは?」

「悲しいかな、俺が知った時は既に返済日当日だったのさ。」

 

 

男性は自身の父親の事業失敗の折…

 

給料未払いで困窮していた従業員らを救う為に致し方なかったと答えた。

 

 

「…成程、そう言う事でしたか。」

「そんな訳でさっきのホットドックの支払いは今は出来ない…すまん。」

「では、そのホットドック代の代わりとして…私達と話をしましょう。」

「話?」

「こう言えば解りますか…揺れる天秤?」

 

 

ハスミは男性にスフィアを知る者であれば解るキーワードを答えた。

 

 

「!?」

 

 

顔色を変える男性。

 

その視線は腐っても元軍人である事を示した。

 

 

「お前ら何モンだ?」

「少々お待ちを。」

 

 

ハスミは自分達の周囲に隠蔽と防音結界を張り巡らせると元の姿へと戻った。

 

 

「ヒビキとガドライト!?」

「お久しぶりです、クロウさん。」

「よう、また会ったな?」

 

 

二人の両隣で軽く会釈するスズネとアンナロッタ。

 

本来であれば、この場に存在しない筈の者達。

 

その理由は言わずとも答えは出ている。

 

 

「お前らも記憶を?」

「はい。」

「んで、ハスミの力でお前ん所に来た訳だ。」

「…何があった?」

「それもご説明します。」

 

 

〜斯々然々の説明後〜

 

 

自己紹介を含めて一通りの説明を終えた後、男性改めクロウ・ブルーストはハスミに質問した。

 

 

「じゃあ、尸空達もこっちに来ているのか?」

「ええ、尸空さんとバルビエルはセツコ、アサキムとエルーナさんはランドさん達に接触している頃です。」

「後者のペアが物凄く不安なんだが?」

「そこは割り切って貰ってますので大丈夫かと。」

「あ…そう。」

 

 

ハスミは逆にクロウの近状を聞くと少し考えてから答えた。

 

 

「クロウさん、ホットドッグ代金二つ目として貴方にやって貰いたい事があります。」

「やっぱり五個分の支払額が出てきたか、タダより安いものは信用出来ねぇな。」

 

 

流れとして代金分の依頼はこなそうと思ったクロウ。

 

それは前世で経験した戦いの再現だった。

 

これから世界解放戦線・WLFがこの街でテロ活動を行う。

 

そのターゲットは同じくこの地にあるスコート・ラボだ。

 

 

「このままWLFの仕掛けるテロの混乱に乗じてスコート・ラボでブラスタを入手してください。」

「ブラスタの件は俺も同意するがその後は?」

「こちらの事情を伏せてソレスタルビーイングと接触を。」

「まさか?」

「貴方が察する通りニール・ディランディ達を救う為に。」

「…ああ、出来る事ならな。」

「この戦乱で死亡したメンバーを救う、それが三つ目の依頼であり代金の代替です。」

「残りは?」

「今は三つ目の代金までで結構、残り二つは後にお話させて頂きます。」

「嫌な予感しかしねえが、悪い様にはしてくれるなよ?」

「善処はします。」

 

 

私達は用件だけ告げるとクロウさんと離れた。

 

これから彼は借金取りのゼニトリー・マッセに追いかけられる。

 

借金返済の為にPMCへの就職の話をする最中、WLFの襲撃を受けるのだ。

 

そして天秤は揺るがぬ支柱となって戦場に現れる。

 

 

~約一時間後~

 

 

シカゴ郊外に展開した世界解放戦線・WLFのテロ部隊。

 

機体は敵対する財団がシェアをしている機体…アクシオである。

 

元々、WLFへ秘密裏に機体供給を行っているのが…とある小国と敵対している財団なのだから何とも言えない。

 

彼らが掲げる『理想も信念も打ち砕かれた者が世界を変える下で集った』と言う理念を守っているのなら手助けする理由もあったが…

 

ただ単に民間人への被害と戦乱を広げている彼らに慈悲は無い。

 

性根を叩き潰すのみである。

 

 

「やっこさんら出て来たぜ?」

「敵は三体…あの位ならクロウさんでも大丈夫そうですね。」

「この後に次元獣が出現するが、問題は…」

「ハスミが話していたラマリスね?」

「ええ、クロウさんがこのままスフィアを起動させるのは不味いので援軍に入ります。」

「何時もの機体じゃないのはキツイですけどね。」

「確かにな。」

「姿を隠す事も考慮しているので暫くはそのままでお願いします。」

 

 

シカゴ郊外の更に外側。

 

ハスミの隠蔽結界で待機しているヒビキら。

 

彼らの言葉通り、本来の機体に搭乗していない。

 

理由は早期にスフィアリアクター機やサイデリアル側の機体での戦闘を控える為である。

 

ヒビキらの戦闘スタイルが似ている機体をチョイスし現在に至る。

 

ヒビキ&スズネは量産型アルブレード、ガドライトは量産型ゲシュペンストmk-Ⅱ、アンナロッタは量産型ヒュッケバインmk-Ⅱ、ハスミはガーリオン・カスタムの四機である。

 

ちなみに量産型アルブレードはシャドウミラーが使用していたエルアインスの逆輸入版。

 

これを複座式に改装した上でヒビキは操縦を担当し砲撃武装はスズネが担当している。

 

問題の機体の出処は封印戦争時にハスミがガイアセイバーズに加担していたテロリストへ下げ卸しされる前に補給物資運搬中の部隊を襲撃し奪った形だ。

 

人道的に相手人員の被害は出していない。

 

 

「そろそろ頃合いの様です。」

 

 

スコート・ラボから出撃したブラスタ。

 

たった一機によってWLFのアクシオは撃破された。

 

その後、次元獣の出現と同時に現れたシェンロンガンダム。

 

どちらも初対面同士なのだが、倒すべき敵は理解しているので諍いはなく…

 

二機の協力で次元獣も駆逐されたが、問題の相手が新手で現れた。

 

 

「ちっ、今度は幽霊もどきか!?」

「…(今の武装だけではラマリスを倒す事は!」

 

 

街へ襲撃を開始するラマリス。

 

だが、その襲撃はたった四機の増援によって退けられた。

 

 

「あの機体は…!」

「…(まさか!?」

 

 

クロウらが動揺する中でラマリスは全滅。

 

ラマリスの残りが確認されないと解ると即座に撤退。

 

幻影の様に消えて行った。

 

 

~シカゴ騒動から数日後~

 

 

シカゴ郊外で発生した戦闘で出現したラマリスが駆逐された。

 

それは各国に途轍もない衝撃を与えた。

 

理由として今まで対処方法が無かったラマリスを迎撃した存在。

 

各国はその機体とパイロットを確保する為に行動を開始。

 

同じ様に各国や紛争地帯に潜むゲリラ組織やテロ組織らも同じ考えであり…

 

彼らもまたラマリスを倒した存在らの追跡を開始するのだった。

 

だが、彼らの中に潜む一部の次元漂流者達は違った。

 

それを行える存在を知っているが為に…

 

出現したPTとAMを扱う者達が『鋼龍戦隊』の関係者である事を察したのだった。

 

 

=続=





それは世界を変える為に降り立った。

白き衣を纏った四天使達はそれぞれの想いの先に何を思う?


次回、幻影のエトランゼ・第百話『天使《ソレスタルビーイング》』


負念の悪霊と共に彼らもまた現れる。

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