幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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役割は果たす。

約束の為に。

契約の果てに。

私は真実を告げた。

そして繋がりは結ばれた。


結の付箋

 

前回の会談から数日が過ぎた。

 

元の世界へ戻る為には次元転移装置が必須。

 

そしてアビスと呼ばれる宇宙の影響で元の世界への道は閉ざされたまま。

 

再び道が開かれるにはこちらの時間で約一年後を要するとの事。

 

共に行動をするのを避けるのであれば、このターミナルベースを離れなければならない。

 

拠点もない右も左も不明な世界で行動を起こすにはリスクが多すぎた。

 

鋼龍戦隊はサイデリアルの申し出を受けて行動を共にする事を決定した。

 

元々、サイデリアルも自身らを纏める御使いから切り捨てされているので利害は一致している。

 

元の世界で暗躍するバアルや御使いに毒されたクロノの暗躍もまた放置出来ない。

 

彼らもまた共に帰還し脅威に立ち向かおうとしていた。

 

 

******

 

 

この数日間、サイデリアル側は拠点の防衛とこの世界の情勢を含め多方面の情報収集に呈していた。

 

鋼龍戦隊側からもギリアム少佐とヨン少尉が情報収集に協力している。

 

その為、嘘偽りはない。

 

 

鋼龍戦隊側並びにサイデリアル側の主要者らはターミナルベース内のグリーフィングルームへと集合。

 

理由はこの世界の状況…世界情勢が判明した為である。

 

 

「では、この世界に関する情報が纏まったのでご説明に入ります。」

「なぜなにナデシコならぬ、なぜなにハスミちゃんのお時間ね。」

「エクセレン少尉、毎度の事ですが…真面目に聞いて下さい。(やっぱり言うと思った。」

 

 

久しぶりのエクセレンのボケを聞くハスミ。

 

途中参加のヒビキ達とサイデリアル側は『何それ?』的な顔をしていた。

 

毎度の事なのでさらりと受け流したハスミである。

 

 

「改めまして、こちら側の世界情勢ですが……かなり深刻です。」

 

 

ハスミは続けて告げた。

 

この世界も次元振動弾によって生まれた多元世界の一つ。

 

こちら側の世界では既に誕生から二十年が経過している。

 

繋ぎ合わさった世界同士で政府が作られているが、状況は余り良くはない。

 

 

「深刻とは?」

「この多元地球の誕生後に三つの国家に別れ対立し今も戦乱が起こっています。」

 

 

マイルズの質問に対して答えた後にハスミはスクリーンにこの地球の世界地図と地球近海の状況を図面で映し出した。

 

 

「おいおい、月と日本列島が二つあるぜ!?」

「恐らくは多元世界の影響じゃないかしら?」

 

 

地図を見て驚くタスクとレオナ。

 

ハスミは続けてそれぞれの国家群に支配された地域を色付けして公開。

 

 

「成立した国家群は大きく分けて三つあります。」

 

 

青は北米を中心とし連合国ユニオンと神聖ブリタニア帝国と合併したブリタニア・ユニオン。

 

赤は中華連邦を中心にアジア各国とロシアが連合を結んだ人類革新連盟、通称人革盟。

 

緑はヨーロッパ各国の連合であるAEU。

 

以上の三国は三大国家と呼ばれ、現在も世界の覇を握る為に睨み合いが続いている。

 

国際的な意思決定機関である国際機関も存在しますが…

 

事実上、世界は三大国家に統治されており、スペースコロニーも三大国家によるコロニー宗主国連合…

 

通称CMCに管理の名の元に支配されています。

 

無色はどの国家間にも所属していない紛争地帯。

 

近年ではアストラギウス銀河の軍隊が転移し傭兵として利用されており紛争に拍車を掛けています。

 

 

「文字通りこれらも深刻な理由の一つであります。」

 

 

ハスミは大体の国家間の説明と無所属のエリアの説明を続けた。

 

キョウスケが黒に着色されたエリアに気づき質問する。

 

 

「ハスミ、黒い部分は?」

「黒のエリアは暗黒大陸と呼ばれており、この世界が生み出されてから二十年間誰も立ち入る事が出来ないとされている未開の地です。」

 

 

また、現在のこちら側の世界の科学力では到達が困難である事も告げた。

 

エクセレンはハスミに対して『状況判別は終わっているのでしょ?』と質問した。

 

 

「でも、どう言う所かは山羊座のスフィアちゃんで判っているんでしょ?」

「はい、暗黒大陸は獣人と呼ばれる存在によって人の生存圏が地下に追いやられた世界で構築されている場所です。」

「て、事は…」

「世界観からすれば、ランドさん達やジロン達ブレーカーやガロード達バルチャーの居た世界に近いですね。」

「つまり、アウトローヨロシクな荒廃した世界って事ね?」

「成程、それならハーケンさん達向きの世界かもな?」

「もしも偵察に行くなら俺らは構わないぜ。」

「任せてくれでやんす。」

 

 

エンドレスフロンティアで行動していたコウタやハーケンらにはお誂え向きのエリアでもあった。

 

 

「威力偵察をするかは今後の活動次第なので今は様子見だけで十分でしょう。」

 

 

ハスミは下手に戦力晒しをするのは得策ではない事を視野に答えた。

 

その発言にゼンガーとエルザムが質問した。

 

 

「何故だ?」

「この世界にもクロノの監視、もう一つヴェーダと呼ばれる広範囲監視施設があるからです。」

「そのヴェーダとは?」

「まだ行動を起こしていませんが、ソレスタルビーイングと呼ばれる組織が用いている量子型演算処理システムの事です。」

 

 

このシステムによって世界中のコンピューターは監視され下手にアクセスすれば、瞬く間にソレスタルビーイングへ情報が入ってしまいます。

 

 

「このシステムの欠点はネットワークに繋がっていないスタンドアローンの端末には干渉不能と言う点です。」

「ターミナルベースはそのネットワークから外れている、後者と見ても?」

「はい、そしてこの欠点を解決する為の策がイノベイトと呼ばれる生体端末です。」

「生体端末だと?」

 

 

生体端末の言葉に反応するラミア。

 

 

「彼らを介してヴェーダはネットワークが配備されていない地域の情報収集を可能としています。」

「成程、下手をすれば地下にスラムと言った紛争地域の情報も筒抜けと言う訳か?」

「はい、この事もありますので各自の行動…特に偵察に出る際は言動などにも注意してください。」

 

 

ハスミの言葉を推測したアクセルは目を伏せて答えた。

 

 

「話を戻すが、ソレスタルビーイングとは?」

「武力による紛争根絶を掲げる私設武装組織……真の目的は恒久的平和を目的とした組織です。」

「まるで矛と盾だな?」

「そうですね、詳しい内情は後でレポートに纏めて置きますし随時私がご連絡します。」

 

 

ハスミはキリが良い所で話を纏め上げた。

 

 

「以上の事からこの世界は三大国家による冷戦が続いており…現在も各地の小競り合い、小国同士の争い、政府軍とレジスタンスの対立、テロの横行が続いています。」

 

 

同時に戦乱によって難民、支配、差別が発生している状況も引き起こされていた。

 

 

「最後にこの世界の人類共通の敵…次元獣と呼ばれる存在です。」

 

 

この世界ではイマージュ=スカブコーラルの襲撃が減少する一方で増加傾向にあります。

 

 

「この次元獣に関してですが…」

「ハスミ、その先の説明は俺が話す。」

「アウストラリス…」

「次元獣に関しては俺の責務でもある。」

 

 

口ごもったハスミに対してアウストラリスは言葉を告げた。

 

それが自身と関連した事であり、己の犯した所業でもあると…

 

 

「次元獣とは次元将のリヴァイブ・セルによって生み出されたものだ。」

 

 

それは人機一体を行う為の人為的な措置であり、その力を持ってしても御使いに敗北したとアウストラリスは答えた。

 

リヴァイブ・セルは人機一体を行えない人と機体を強制的に次元獣へと変貌させた。

 

滅びを前にして事を急かしたアウストラリス達の文明は結果的に滅んだ。

 

四人存在した次元将は二名が散り、一名が行方不明…そして自身を残すだけとなった。

 

 

「恐らく、こちら側へ出現しているのは生き残った者が嗾けているのだろう。」

「アウストラリス殿、貴方もその力を?」

「持ってはいるが、俺自身使う事を禁じた……同胞を否定する事になるが考えを改めなければならんと思った次第だ。」

 

 

強制的に次元獣へと変貌させてしまう力はある意味でバアルと変わらない。

 

共存共栄の道を外れてしまっていると悟ったアウストラリスはその力を使う事を禁じた。

 

 

「アウストラリス殿、逆に出現している次元獣を貴方自身が止める事が出来るのか?」

「次元獣はその次元獣を生み出した次元将が管理している、同じ力でも他の次元将の持つ次元獣への介入は出来ぬが…」

 

 

アウストラリスは目配せしてハスミに対策案を答えさせた。

 

 

「解決策はあります、相性の良いスフィア同士の同調による次元力の行使です。」

 

 

相性の良いスフィア同士の同調により、次元力で次元獣を元の人と機体に分離させる方法。

 

但し、次元獣になって時間が経ったり、次元獣化の際に死亡や破壊されている場合は助からない。

 

単に分離させるだけの方法だった。

 

 

「次元獣への対処手段は出来たが、問題はこの世界情勢にどう対応するかでしょう。」

 

 

ギント艦長の言葉も最もだ。

 

一刻も早くスフィアリアクターと接触し協力を仰がなければならない。

 

約二名ほど戦闘を繰り広げる結果になるが致し方ない。

 

 

「だが、やらねばならん……大崩壊を迎える前に人類は共存共栄の道を辿らなければならない。」

 

 

アウストラリスは告げた。

 

全てのスフィアリアクター達と共に世界崩壊の末路を阻止する事。

 

その為に手を取り合ったのだと。

 

 

「問題は次元獣だけではありません、こちら側に出現したラマリスの対処もしなければ…」

 

 

ハスミも続けて答えた。

 

負念の意思を増長させているこの世界情勢はラマリスの恰好の餌食であると…

 

 

「バアルの野望を食い止める事も私達にしか出来ない事です。」

 

 

いずれ転移して来るだろうZEUTHのメンバーや飛ばされたノードゥスの仲間達と再会する時に共存共栄の道への答えが出る様に。

 

出来る事をやるしかないのだから…

 

 

=続=


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