幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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告げる真実。

戻れない真意。

世界は監視されていた。

月の境界線を越えたが故に。

人類は…


巡界ノ詩篇
第九十八話 『告白《コクハク》』


 

サイデリアルの協力の元、XN-Lを沈黙させた鋼龍戦隊。

 

だが、その後のクロスゲート破壊と同時に発生した次元震…時空振動により部隊は引き裂かれた。

 

在るべき形を変化させた為に彼らは導かれた。

 

深淵の果てに存在する継接ぎの世界へ。

 

 

******

 

 

強制転移が終了し周囲状況を確認する鋼龍戦隊とサイデリアル艦隊。

 

サイデリアル艦隊からの通達で、この場所が自身らが居た地球ではない事が発覚した。

 

この世界は並行世界に存在する地球の一つであり、アビスと呼ばれる空間の先に繋げられた多元地球である事が伝えられた。

 

そして状況整理の為に話し合いの場を持ちたいとサイデリアル艦隊より通信が続けられ、鋼龍戦隊もまたその申し出を了承した。

 

 

~数時間後~

 

 

多元地球のとある無人島。

 

その島は元の世界でイティイティ島があった場所と同じ緯度に存在していた。

 

手付かずかつ未開発だった為に先遣隊であるアサキムの部隊が転移し島の要塞化を進めていた。

 

ここもまたサイデリアルの所有するターミナルベースである事は変わりない。

 

 

「こちらの申し出並びに会談への参加、感謝する。」

「いえ、此方の艦の修理と補給の手配、物資配備の援助…有難うございます。」

「話し合いの条件の一つを果たしただけに過ぎない。」

 

 

島の施設の一室に集められた部隊の司令官達。

 

信用されていないのもあり、室内の外では警備&護衛のメンバーが待機している。

 

潤滑に話し合いの場を設ける為にアウストラリスが許可した形だ。

 

最もそんな事をしても無意味なのだが…

 

 

「では…そちらの事情を含め真実を語る約束は守って頂きたい。」

 

 

話し合いの場にはサイデリアル側より当主アウストラリスと総司令官ストラウス、ハスミ。

 

鋼龍戦隊からはマイルズ司令、ギント艦長、レフィーナ艦長、テツヤ副長、ショーン副長の五名。

 

レフィーナから礼の言葉を受け取り応対するアウストラリス。

 

マイルズからは話し合いの条件を守る様にと念を押された。

 

 

「そのつもりだ、秘匿する必要も無い…寧ろ急を要する事態へと発展しつつある。」

「急を要するだと?」

 

 

アウストラリスは目を伏せて答えた。

 

 

「我らサイデリアルは…奴らによって頸を斬られた。」

「つまり、捨て駒にされたと?」

「言葉通りだ。」

「何故、捨て駒に?」

「我々が奴らに対して反逆を行う事が悟られたからだ。」

「反逆?何故反逆する必要が?」

 

 

アウストラリスが答える奴らと奴らに対する反逆行為。

 

鋼龍戦隊側はサイデリアルの内情が一枚皮ではないと判断した。

 

 

「アタシらは訳アリでサイデリアルに首輪を付けられてたのさ。」

「えっ!?」

 

 

ストラウスから出た女性の声色、その姿とは裏腹の状況にレフィーナは驚きの声を上げた。

 

 

「アウストラリス、全部話す気なったんだし…この鎧は今の所必要ないよね?」

「ああ、今まで済まなかったな。」

「しょうがないじゃん、相手を油断させる為にはさ。」

 

 

ストラウスはフルフェイスの鎧兜を外した。

 

ふいーと自慢の金髪を掻き上げたストラウス改めエルーナルーナ。

 

 

「漸く、このクソ重たい鎧とオサラバ出来るわ。」

「…」

「んじゃ改めて…アタシはエルーナルーナ・バーンストラウス、サイデリアルの総司令官ストラウスの本当の姿だよ。」

 

 

彼女の余りにも軽いノリに鋼龍戦隊側は唖然としていた。

 

その空気を霧散させる意味でハスミは静かに息を吐いた。

 

 

「エルーナさん、皆さん驚いてますよ?」

「だよね、まあ…こういう事のがあるから正体隠すのも案外悪くないかもね?」

「ハスミ少尉、これは一体?」

「マイルズ司令、私はもう少尉では…」

 

 

マイルスの質問に対してハスミは訂正を言いかけるが…

 

 

「ハスミ少尉、君が所属していたSTXチームは元帥閣下より直接極秘任務を与えられている形を取っている。」

「えっ?」

「それは君がホルトゥス…ガンエデンとして成した功績に対する元帥閣下自ら下された措置だ。」

「司令…私達は現在も極秘任務中と言う形のままで連合軍に在籍しているのですか?」

「その通りだ、この件は君が戻り次第話す予定だったが…」

「いえ、寛大な処置…ありがとうございます。」

 

 

裏切り続けた自分が今更戻る事なんて出来ないと考えていたハスミだったが…

 

今まで遠回しに築き上げた縁がそれを繋いでいたと感じ取った。

 

ハスミはその想いに答える為に真実を告げる覚悟を決めた。

 

もう言葉を遮り隔てるモノは無い。

 

 

「では、お話しします…何が起こっているのか?を。」

 

 

ハスミは告げた。

 

事の始まりは今から先史文明期が始まる前の宇宙から起こっていた事。

 

宇宙は一万と二千年の周期で生まれて滅び、その境目となる一億と二万年目に大災害が起こる流れに陥っていた。

 

それを『真戦』と呼び高次元生命体同士による戦いを指す。

 

高次元生命体とバアルによる『神と悪魔の果てしなき闘争』を意味しています。

 

以前、お話ししたシンカはこの真化に該当します。

 

真化に至るための五階梯である『獣の血』、『水の交わり』、『風の行き先』、『火の文明』、『太陽の輝き』を経て、高次元生命体は自ら神を名乗るが、神であるが故に他の神の存在を許さず…滅ぼそうとする。

 

その戦いを『真化を遂げた神同士の戦い』を『真戦』と呼ぶそうです。

 

ですが、自らを神と名乗る者達は総じて『歪んだ真化を遂げた者』で『正しい真化を遂げた者』は真化の真理たる『相互理解』と『共存共栄』を理解した存在である為、正しい真化を遂げた者同士が争う事はない。

 

ある宇宙の一万二千年…いえ一億二千万年前にも一度真戦が発生しており、この戦いでは『根源的な災厄』と『バアル』それに立ち向かう並行世界の戦士達が戦いました。

 

しかし、各並行世界の戦士達は根本的災厄の圧倒的な力やバアルの大物量の前に敗北しました。

 

 

「まず、この根本的災厄の正体をご説明します。」

 

 

ある惑星が滅亡の危機に瀕した時、その星の生命は四体の存在となる事で滅亡の危機から脱した。

 

彼らは『御使い』と呼称しそれぞれが喜、怒、哀、楽の感情を司っている。

 

シンカの先に待つ高次元生命体と呼ばれる存在へと変貌した。

 

彼らはその力を持って銀河の安定を行っていたが、何時しか彼らは『神』を自称する様になった。

 

その最中で滅ぼされた銀河は数知れず…

 

滅ぼされかけた銀河の中に私達の祖先…先史文明期の地球もまた奴らによって滅亡の危機に陥った。

 

滅びに反逆し立ち上がったガンエデンと同一の意思を持ったそれぞれの高度文明の一族ら。

 

戦いは日に日に激しさを増し、戦いの最中で滅んだ文明も存在しました。

 

当時の結末として御使いが生み出した『至高神』が自らを否定し崩壊した事でガンエデンらは御使いと引き分ける形で滅びの結末を退けた。

 

力を失った四人のガンエデンらは何時しか復活を果たす『御使い』や『バアル』に対して対策を行う為に様々な文明に危機を知らせる為に様々な並行世界へと去りました。

 

この御使いが先程話した『根本的災厄』の正体にして私達が対立している存在です。

 

 

「そして奴らはスフィアを求めていました。」

 

 

スフィアとは空白事件でその名が広まり、独自の力を行使する為のアーティファクトの扱いを受けていました。

 

実際は違い『根本的災厄』が生み出し、自我を持ち自壊した『至高神』の心の欠片がスフィアです。

 

人造神である『至高神』は自分を生み出した御使いを『根本的災厄』と認識し崩壊した時に生み出されたモノがあります。

 

『心の欠片』であるスフィア。

 

『記憶の欠片』である黒の英知。

 

そして『コア』、『残り火』、『抜け殻』の五つに別れました。

 

 

「ネタバレしますが、この至高神いえ至高神ソルこそジ・エーデル達が話していた『太極』の存在でもあります。」

 

 

その中で陰陽の概念からなる至高神ソルのあり方は、矛盾を孕みながら生きていく人間そのもの。

 

スフィアのうち「いがみ合う双子」はその側面を持ち、スフィアの中心を担っています。

 

今はその巨大すぎる力を維持する為に二つに分かれていますが…

 

 

「全てのスフィアを手に入れ、再び至高神ソルを復活させる事が奴らの目的だったのですが…」

 

 

奴らはある日突然…至高神ソルの復活を取り止めた。

 

そして手駒としていたサイデリアルを認識しているスフィアリアクターごと滅ぼし始めた。

 

少々遅くではありましたが、私は協力者に成り得るサイデリアルの崩壊を止める為に別の並行世界へ逃がす算段を立てました。

 

また、植民地化された文明の人々や戦えない人々も被害を受けていない銀河に居住させ…暫くの安全確保は行いました。

 

それも周期化された大災害からの大崩壊を防ぐことは出来ず持たないでしょう。

 

 

「奴らの方向転換に関しては…一つだけ心当りがあります。」

 

 

その目的は『弱った高次元生命体を取り込む事で力を増す』だったのです。

 

時代は違えど、幾多の銀河で鋼龍戦隊と同じく滅ぼす存在に抗い立ち向かった並行世界の人々の手でバアルの眷属と化した『高次元生命体』は倒された。

 

そこを狙ったのでしょう。

 

弱った高次元生命体は云わば次元力の残りカス…

 

塵も積もれば山となる…なのでしょうか、奴らによって数多くのバアルがその存在を失いました。

 

ですが、彼らも餌の様なモノです。

 

 

「バアルの存在の一つ、魔獣神エンデ…と呼ばれる存在が裏で糸を引いている事が発覚しました。」

 

 

奴はある世界で神として信仰されていますが、その世界と関りを持つには情報が少なすぎます。

 

今はサイデリアルの別動隊の方達が情報収集の為に行動していますので後に判明するでしょう。

 

 

「今の私達が行うべき事はスフィアリアクターを集める事が最優先事項です。」

 

 

御使いの影響を受ける前に最後の希望を絶やさない様に。

 

そして、スフィアの反作用に藻掻き苦しむ彼らを救う為に。

 

 

「ですが、鋼龍戦隊の皆さんが今後どう動くかはそちらの判断に委ねるべきと思います。」

 

 

サイデリアルはサイデリアルとして…

 

鋼龍戦隊は鋼龍戦隊として…

 

 

「アビスの影響で向こう側…特に統合参謀本部と連絡が取れないこの状況で下手に動くのは危険と判断します。」

「確かに向こう側がどうなったかを知る術もない以上は…」

「それに関してはお教えする事は可能です。」

「…ハスミ少尉、貴方のアカシックレコードを読み解く力ですか?」

「はい。」

 

 

向こう側の状況。

 

化神艦グランドレッド・フェノッサが出現したクロスゲートはグランティード・ドラゴデウスによって破壊に成功。

 

化神艦はいずこかへと姿を消し、行方不明。

 

フューリーのガウ=ラ・フューリアとガディソードのラブルバイラは引き続き火星で待機。

 

その後の処遇は地球連合政府との会談で内乱の早期終結もあり、風当たりは少ない。

 

主無きダークアイアンキャッスルは悪用を防ぐ為にホルトゥスが監視。

 

サイデリアルの不可解な行動に関しては未だ不明のままとされている。

 

月のターミナルベースも消失し月の覇権は地球連合政府へと戻っていた。

 

向こう側に残された鋼龍戦隊のメンバーであるアシュアリー・クロイツェル、最上重工、クロガネクルー、アリエイルとドゥバン。

 

緊急ではあったが、光龍らにも状況を念話で伝えてあるので例の襲撃の理由と事後処理に影響はない。

 

急遽共闘したスカルナイトやラマリスもあの浄化の光で消失し姿は見えていない。

 

 

「例え、再度発生したとしてもホルトゥスのメンバーが網を張っていますのでご心配なく。」

 

 

ホルトゥスはシンカの目覚めを迎えたにも関わらず、根源的災厄の手によって属する世界を奪われ失った人達を保護する組織。

 

それでも彼らは希望を絶やさず諦めない意思を秘めている。

 

彼らもまた鋼龍戦隊…ノードゥスと同じ在り方を持つから。

 

 

「これが私が独自で動き、知り得た情報です。」

「…」

 

 

ハスミは知り得た情報を艦長らと鋼龍戦隊に告げた。

 

それはこの場の言葉だけではなく、ある力を垣間見せたのもある。

 

 

「あの、ハスミ少尉。貴方が話した事以外の情報もあるのですが…これは一体?」

「それも私が手に入れたスフィアの力の一端です。」

「えっ!?」

「それが私がサイデリアルへ転じた理由で在り、今まで秘匿していた事情です。」

 

 

知りたがる山羊のスフィアリアクターとなれば、全てを曝け出す情報の暴露が反作用として発生する。

 

それは鋼龍戦隊…いや全ての人々の内情を晒してしまう危険性があった。

 

空白事件の最中、反作用が起こる前にそれらを遮断するフィルターを使ったが限度がある。

 

自身の念動力の多くをフィルターへ流して抑えなければならない、ここぞと言う時に念動力を使えなかった理由だ。

 

だから、デビルウルタリア事件解決後に譲渡された念動力を蓄積できる念晶石の存在は有難かった。

 

それから、このスフィアと対話をしつつサードステージへと登り詰めた。

 

今だからこそ力の加減が出来る様になった。

 

 

「特に修羅の乱の頃は不安定で…力の暴発が起こりそうになった時はアウストラリスの持つスフィアで抑えて貰っていた位です。」

「では、事前に解っていた事態を防ぐ為に?」

「それもありますが、クロノの監視が強くなったのも理由の一つです。」

 

 

かつてサイデリアルが保守派を支援していたが、ある日突然バアルに毒されてしまい機能しなくなってしまった。

 

そこで第三のクロノとしてツィーネを派遣しバアルに毒されていない数名を救助し今に至る。

 

現在の保守派はバアルの意思に従って暴走の限りを尽くしている。

 

改革派に関してはエルガン・ローディックが死亡していないしアドヴェントの加入がまだないので今後次第である。

 

クロノはこの大戦で壊滅する末路は変えられないので時期を見て解体するしかない。

 

元々は各並行世界の人類を監視する役割を持っていた組織。

 

これから共存共栄の道を歩む人類の足枷になって貰う必要もない。

 

 

「以上、これが皆さんの知りたがっていた真実です……何か質問は?」

 

 

 

「「「「…」」」」

 

 

 

「…流石に暴露し過ぎました。」

「ハスミ、説明しすぎて全員動揺してるよ?」

 

 

~数分後~

 

 

気を取り直して…

 

 

「では、我々の方で今後の方針を決めてから其方との活動に関して会談したい。」

「判った、猶予は設けないが…此方は此方で行動を開始する。」

 

 

話し合いの後、マイルズ司令はサイデリアルとの共闘の申し出に他のクルーとの話し合いをしたい旨を告げた。

 

アウストラリスもそれを了承し、サイデリアル側は目的の為にこの世界の情勢を知る為に行動を開始すると話した。

 

サイデリアルはこの世界に存在するスフィアリアクターの捜索と次元獣…そしてこちら側でも発生しているラマリスの討伐を開始する事となった。

 

 

=続=

 






継接ぎの世界で引き起こる紛争、戦乱、内乱、侵略、支配、差別。

それらを決して許しはしない。

私達はサイデリアルとして介入する。


幻影のエトランゼ・第九十九話『天秤《ライブラ》』


天秤の目覚めと接触。

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