揺るがぬ反抗心。
それは一直線に放たれた矢の様に。
確固たる意志の矢が落ちる事は無い。
前回、ヒンダン基地での戦闘後。
ヒリュウ改に降り立った白いPTことエクスバイン・アミュレット。
調査の結果、イルイに合わせて調整された機体であり対負念特化武装を装備したワンオフ機体である事が判明した。
出所に関してはアラビア半島のナフード砂漠にあるバラルの園。
一段落付いたレフィーナ支隊は現バラルの園の管理者となった泰北より連絡を受ける事となった。
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ヒリュウ改のブリッジのモニターにて泰北より事情説明を受けるレフィーナ達。
「では、あの機体はイルイちゃんの為の機体なのですね?」
『うむ、アシュラヤー様がもしもの為に自衛を兼ねて製造されナシム様の手により封印しておられたのですが…』
少々困った表情で答える泰北。
その姿は以前の様な隙を見せない様子ではなく孫の悪戯に悪戦苦闘する様である。
余談だが、一時期…イルイにその蓄えられた白髭をモフモフの餌食にされて間も無かった。
『先の通り、イルイ様の強い呼び掛けで封印が解かれた様です。』
「突然の事だと思いますし仕方がありません。」
『…重ね重ねご迷惑を掛けた。』
泰北より機体の方は自衛を兼ねてイルイの元にあった方が良いとレフィーナ達ヒリュウ隊で管理する事となった。
機体自体がラマリスの様な負念の存在に対する兵装を持ち合わせていた事もあり、軍で研究もされる可能性も視野に入れられている。
これに関しては今後の事を踏まえた技術提供の形であると説明された。
「お預かりの件は兎も角、本当に良いのですか?」
『はい、こちらの事情として…この地へ不届き者が入り込む様になったのが主な理由。』
「侵入者…と言う事で宜しいですかな?」
レフィーナと泰北の話し合いに助言する副官のショーン。
『うむ、イルイ様を狙う輩が現れた事も含めてイルイ様自身にもご自身で身を守って貰う必要が出てきた次第。』
「では、ガンエデンとクロスゲートはどうされるおつもりですか?」
『御神体と転移門は我々が命を懸けて死守する所存、それ故にイルイ様はアシュラヤー様とナシム様がお認めになられた新たな剣たる貴方達に託したいと思っておる。』
「判りました、統合参謀本部にも今回の件はお伝えしておきますので…皆さんはバラルの園の警護を強めてください。」
『では、早々に失礼致します。』
泰北は礼を伝えると通信を切った。
バラルの園の一室にて通信を終えた泰北は弟子である蓬瓜尊と話し合いを続けた。
「師父、よろしかったのでしょうか?」
「うむ、イルイ様も自ら戦う意思を決められた…この時に封印が解かれたのもハスミ様が手を加えられたからだろう。」
「…」
泰北は先程の人の良い表情とは裏腹に険しい気配を出しながら蓬に告げた。
「蓬よ、引き続き…この地の守護を強めるぞ?」
「はい、既に符による結界の強化を進めております。」
「光龍もホルトゥスから護衛を選出すると話を伺った…ハスミ様が予期された戦いが近づいているやもしれん。」
「…師父。」
「…(ハスミ様、貴方が目指す可能性の未来…共に見られる事は無いのやもしれませぬが、この命に代えても全身全霊で尽くしましょう。」
泰北は蓬に指示を出し、新たに入り込んだ曲者の始末に専念するのだった。
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ヒンダン基地での一戦を終えたレフィーナ支隊。
改めてヒンダン基地からパキスタン・カラチへと移動を開始した。
前回の一件もありパリへ航行中のギント支隊にもダークブレイン軍団の襲撃があった事が伝えられた。
そしてここでも鋼龍戦隊の動きを監視する者達の姿があった。
「…」
サイデリアル所属艦・アドラティオのブリッジにて。
「アウストラリス様、鋼龍戦隊のヒリュウ隊が動き始めました。」
「判った、奴らに気配を悟られずに跡を追え。」
「了解。」
艦長席に隣接するゲスト席に座するアウストラリス。
艦長に指示を出し、追跡航行を続けさせた。
「…何か言いたそうだな、ティグリス?」
アウストラリスは控えていた統率用の自立型AIを搭載された機械兵の名を告げた。
彼を守護するのに相応しく紅の甲冑を纏った武人と捉えられる姿をしていた。
「…座に戻っていないとはいえ、大将自ら敵地に出向くとは。」
「不服か?」
「少しは皇帝の自覚を持って欲しいと思う。」
「傀儡の皇帝に戻るまで暫く時間がある……少しの余興だ。」
「その余興を通り越して楽しんでいるのは何処の誰だ?」
ティグリスと名付けられた機械兵はアウストラリスに対して答える。
それはアウストラリスが戻るべき立ち位置関係なく話を進めていた。
本来であれば、不敬罪で処理されても可笑しくない程に…
これに関してはアウストラリスが許している事なのでタメ口な発言が続いている。
「これでも抑えているのだが?」
「全く抑えていないぞ、少しはファウヌスの心労も考えたらどうだ?」
「…」
アウストラリスとティグリスのやり取りを聞き、何とも言えない恐怖感を覚えるサイデリアル兵達。
逃走不可の場に居る彼らの身中は余り良いものではない。
「しかし、追跡を始める前に立ち寄ったギアナ高地だったか…あの地で修行する者らをほぼ壊滅させた上に挑発めいた伝言を残して良かったのか?」
「奴らなら来る、あの者らはそう言う者達だ……封印戦争の終わりに最もシンカの覚醒に近づいた者達。」
「…」
「新たな力を得たあの者らと拳を交える事が楽しみで仕方がない。」
アウストラリスは獲物を得た獰猛で獣の様な視線で笑みを浮かべた。
その様子に溜息を付きたい様子でティグリスは答えた。
「程々にして置け、後に閊えるぞ?」
「…善処はする。」
ティグリスはファウヌスが製造した自立型AIの一体。
その思考はアウストラリスがとある平行世界で知り合った戦友の思考パターンを転写されている。
故にアウストラリスへのタメ口発言が出来るのはこの為だ。
彼に二度と会う事も叶わない戦友の名残を感じ取っていたのも理由の一つである。
「艦長、追尾の方はどうなっている?」
「今の所、次元航路の支流の利用で向こう側には察知されておりません。」
「判った、奴らの向かった先へ到着する前に各自機体への機乗配備を。」
「了解しました。」
アウストラリスは艦長らに指示を出し、戦闘準備を急がせる。
ファウヌスの情報ではラマリスの密集地帯である事もあり、油断は出来ない。
先手必勝、そして鋼龍戦隊…ヒリュウ隊と戦う為にも邪魔者の排除を優先する決断を下した。
「ティグリス、艦の指揮を任せるぞ。」
「到着と同時に出るのか?」
「ああ、サイデリアルを纏める者として顔出し位はしないとな?」
「判った…(接触と同時に戦うの間違いだろう?」
「なるべく控える様にはする、ここで潰れてしまっては元も子もない。」
ティグリスはアウストラリスの様子から『駄目だ此奴早く何とかしないと。』と言う思考になりつつあった。
が、止めようがない事も察していたので暴走しない様にフォローする事にした。
=続=
放たれた矢。
飛び交うは一迅の雷撃。
蒼き雷撃は一直線に。
次回、幻影のエトランゼ・第九十五話『射手《シャシュ》後編』